09-狂いだす歯車-
「死体に触る・・・?」
「はい」
「そんな事は、絶対に許されない」
「だからこうしてお願いしています」
「・・・・・・・・・俺の権限じゃ無理だ」
「触れば真相が見えるんです」
警察署内までの車での走行中での話だった。
俺は、すぐにでも解決の必要があった。
だから、「木好さんに虎郷の心当たりを聞いてみる」と隼人に言った。
彼も「それで事件は解決するね」といって別れたのだ。
そして、俺はパトカー内で龍兵衛さんに頭を下げた。
「死体に触れさせて下さい」
と。
「だいだい、そんな事してなんになるって言うんだ」
「それは・・・」
「とにかくそんな事は無理だ。もしばれたら、俺の人生に支障をきたす」
「隼人の功績を盾に上に掛け合うことはできませんか?」
「無理だろうな」
「・・・・・・・・・では、手柄は全て龍兵衛さんの物にするというのはどうでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
あ、ゆれてる。今が畳み掛けるチャンスだな。
俺は隼人に連絡した。
答えは
『いいよー。僕らの手柄なんだし、それをどうしようと一緒さ。僕も君が確かめればその考えに合点がいくしね』
「てことは、虎郷がどこにいるか分かっているのか?」
ツー・・・ツー・・・ツー・・・。
返事しろよ。
「今、隼人の許可を得ました」
「・・・いいだろう。乗ろう」
「ありがとうございます」
安置室に入った。俺と龍兵衛さんはその死体に出会った。3度目の出会いを果たしたのであった。
「・・・触れたら何が分かるってんだよ」
「心配しないで下さい」
右手で、彼に触れた。
「そんな・・・」
全てを見た俺の最初の言葉は驚きだった。
「どうかしたのか?」
そんな龍兵衛さんの問いかけに、俺は答えず、
「すみません。ありがとうございました。約束は守るのでご心配なく」
早口でそう言って走る。
俺は携帯を手にして、署の外に出た。
「隼人!!」
『真相にはたどり着けたか?』
「・・・あぁ」
『じゃぁ、僕は引き続き彼女を捜索するよ』
「分かってなかったのか・・・」
『分かったなんて言ってないよ』
「じゃあ、見つけたらお互い報告で」
『了解』
その後、すぐの事だった。
虎郷を見つけた。例の図書館だった。
「虎郷!」
「・・・・・・・・・ソウメイ君」
「何してんだよ・・・!」
俺は、食いかかっていくような勢いだった。客観的に見てそう思う。
「・・・・・・・・・犯人が分かってしまったの」
「俺も犯人が誰かは気づいている」
「・・・今から犯人に会いに行く」
「止めるつもりは無いさ。だけど俺も同行する」
「・・・そう」
冷静に、淡白にそう答えた。
「じゃあ、今から隼人に連絡するから」
「分かったわ」
俺は携帯電話を取り出し、
電話番号を押して、
発信ボタンを押して、
ドガ!
そして、俺の意識は消えていく。
その時に、俺が気付いた事は、2つ。
東先輩を殴った犯人は虎郷だったのか、ということ。1人で行動するためには東先輩が邪魔だったのだ。
もう1つは、彼女は本来淡白な性格ではないのではないか?という疑問。
犯人に対しての自分の感情を抑え切れていない。
それが怒りなのか恨みなのか――いや。
そんなはずが無い。
そんな簡単なものじゃない。犯人に対しての彼女の感情は。
だって、彼女は木好さんを本気で愛していたのだから。