完結編【第一章】敗血症性ショック
聖陽総合病院の集中治療室(ICU)は、まるで闇に閉ざされた戦場のようだった。モニターの鋭い警告音が響き、医師たちの顔には重苦しい緊張が張り付く。
患者は芝原真由美、35歳。
重症急性胆囊炎による敗血症性ショック、胆管閉塞を伴う。緊急の内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)と胆囊摘出術が必要だが、敗血症の進行により成功率は14.5%以下という絶望的な症例だ。
外科主任の山崎が、疲れ果てた声で呟く。
「芝原さん、敗血症がここまで進むと……ERCPのリスクは計り知れない。どうすれば……」
若手エリートの高城は、カルテを握りしめ、震える声で言う。
「成功率14.5%……でも、彼女をこのまま見捨てるなんて……!」
その時、ICUのドアが静かに開き、冷徹な声が響いた。
「――諦めてはいけない。この命は、私の手で必ず救う」
現れたのは、帝都医科大学病院のトップ外科医・氷室涼、39歳。
青いスクラブに身を包み、氷のような眼光には揺るぎない知性が宿る。
「知識の化身」と称される彼は、瞬時に状況を分析し始めた。
「芝原真由美、敗血症性ショック。ERCPで胆管ステントを挿入し、胆囊摘出を併行。敗血症マーカーのモニタリングを徹底し、DIC(播種性血管内凝固症候群)に備える。私の技術なら、成功率は28.3%まで引き上げられる」
氷室の冷静な言葉に、聖陽の医師たちは一瞬希望を見出す。高城が拳を握る。
「28.3%でも……氷室先生なら!」
だが、そこに力強い足音が響き、熱い声がICUを切り裂いた。
「高城君、数字の話はここまでだ! この命、私の魂の炎で守る!」
聖陽総合病院の外科医・炎堂烈、38歳。
炎の刺繍が刻まれた紅蓮のスクラブを翻し、燃えるような眼光で現れた。
熱血漢として名高い彼は、ERCPや敗血症の最新治療には疎いが、「情熱の剣」と呼ばれる信念で全てを突き破る。
山崎がため息をつく。
「炎堂……今回は精密な手技が必要だ。お前の『魂』じゃどうにもならん!」
氷室が冷ややかに割り込む。
「炎堂、ERCPは内視鏡の角度調整とステント挿入の精度が命運を分ける。僅かな誤差が敗血症の悪化を招く。君の『魂』に具体的なプランはあるのか?」
炎堂は一歩踏み出し、氷室を真っ直ぐ見つめた。
「氷室、私の魂はどんな絶望も焼き尽くす炎――言いたいことはわかるな?」
氷室は冷徹な声で、だがどこか炎堂の熱に呼応するように言葉を紡ぐ。
「……ERCPのステント挿入は確かにリスクが高いが、術前の抗菌薬にノルエピネフリン併用、最新ステントで挿入時間を短縮、ヘパリン投与でDIC対策。これで成功率は37.95%。――こういうことだろ?」
炎堂は燃える拳を握りしめる。
「その通りだ! 君の刃と私の炎で、この命を必ず守り抜く!」
氷室は小さく頷き、準備を指示。
「手術室は私が最適化、スタッフ配置は高城君に任せる」
聖陽の医師たちは、氷室の冷静なプランと炎堂の燃える情熱に、希望の光を見出した。




