氷室編【第一章】急性心筋梗塞
聖陽総合病院のオペ室前は、凍りつく静寂に包まれていた。
モニターの警告音が響き、医師たちの顔に緊張が走る。
患者は中村里奈子、42歳。
急性心筋梗塞に伴う左冠動脈完全閉塞、心原性ショック状態。緊急の経皮的冠動脈形成術(PCI)と補助循環装置(ECMO)が必要だが、成功率は12%以下という絶望的な症例だ。
「この状態でPCIは無謀だ。ショック状態での血行動態管理はほぼ不可能」
外科主任の山崎が疲弊した声で呟く。
若手エリート・高城はカルテを握りしめ、唇を噛んだ。
「でも、このままじゃ中村さんは……くっ、どうすればいいんだ!」
その時、廊下の奥から冷徹な声が響いた。
「――この命は、私が預かる」
現れたのは、帝都医科大学病院のトップ外科医・氷室涼、39歳。
青いスクラブに身を包み、鋭い眼光には揺るぎない知性が宿る。
医学界の「知識の化身」と称される彼は、膨大な論文とデータに裏打ちされた手術で知られる。
氷室はカルテを一瞥し、スーパーコンピュータの如く状況を分析した。
「左冠動脈完全閉塞、心原性ショック。PCIでステント留置を行うが、ECMO導入で血行動態を安定化させる。術中の抗凝固療法はヘパリン5000単位、血圧低下に備えノルアドレナリン投与を0.05ガンマで調整。心筋保護のため、術前にアイススラリーで心臓冷却を徹底。成功率は我々の技術で27%が限界だ」
氷室の言葉に、聖陽の医師たちは息を呑んだ。
27%でも、帝都医科のエースの技術がなければ夢のまた夢だ。
高城が拳を握る。
「27%でも、中村さんが救えるなら……!」
氷室は冷静に頷く。
「準備を急げ。ショック状態が進めば、彼女は助からない。私の知識と技術……あの男の信念で、この命を救う」




