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第三部【第一章】進行性膵臓がん

 聖陽総合病院の会議室は、まるで嵐の前の静けさに包まれていた。

 モニターに映るCT画像とカルテが、患者の絶望的な状況を突きつける。


 患者は藤井誠(ふじいまこと)、52歳。

 進行性膵臓(すいぞう)がん、ステージIV。腫瘍が門脈に浸潤し、肝転移を伴う。


 数日後の膵頭十二指腸切除術(ウィップル手術)が予定されているが、成功率は10%以下という極めて厳しい症例だ。


 会議室の中心には、聖陽総合病院の外科医・炎堂烈(えんどうレツ)、38歳。

 赤いスクラブに身を包み、鋭い眼光には揺るぎない決意が宿る。


 熱血漢として名高い彼は、膵臓がんの基本知識は持つが、最新の術式や分子標的薬の理論には疎い。「情熱の(メス)」と呼ばれる神のような存在だ。


 対するは、帝都医科大学病院より派遣されたトップ外科医・氷室涼(ひむろりょう)

「知識の化身」と称される彼が、冷静にデータを分析する。

 

「藤井誠、膵臓がんステージIV。門脈浸潤と肝転移により、ウィップル手術のリスクは極めて高い。術中の血管再建と化学療法の併用を考慮しても、成功率は20%が限界だ」


 氷室の冷徹な声に、若手医師の高城が肩を落とす。

 

「20%……手術まで数日しかないのに、どうすれば……」


 炎堂が立ち上がり、力強く拳を握った。

 

「氷室、高城君、細かな数字に意味などはない。惑わされるな。癌だろうと何だろうと、この患者の命は我々の熱い信念が守る!」


 高城が不安げに口を開く。

 

「炎堂先生、ウィップル手術の門脈再建や術後合併症の管理をどうするんです? 計画が……」


 炎堂は高城を真っ直ぐ見据え、燃えるような声で答えた。

 

「高城君、何度言わせる気だ! 命を救うのは、患者の心に寄り添い、希望を灯す魂だ!」


 氷室が冷ややかに割り込む。

 

「炎堂。ウィップル手術は、門脈再建の精度と術後の膵液瘻(すいえきろう)管理が鍵だ。繊細かつ高度な技術が求められるが……また君の『魂』で可能にするのか? 考えを詳しく聞かせてくれ」


 炎堂は一歩踏み出し、氷室を真っ直ぐ見つめた。

 

「氷室、私の言いたいことは……わかるな?」


 氷室は一瞬目を細め、炎堂の熱い視線を受け止めた。

 静かな沈黙の後、彼は小さく頷き、口元に僅かな笑みを浮かべた

 

「フッ、なるほど……門脈再建は3D-CTで血管走行を把握し、マイクロサージャリー(微小外科)で精度を極限まで高める。術後の膵液瘻はステントとオクトレオチドで管理、フォルフィリノックスで肝転移を抑制。そういうことだな?」


 炎堂の顔に、満足げな笑みが広がった。

 彼は氷室の肩に力強く手を置き、バシンと叩いた。


「それでこそ氷室涼だ! 君と私の力で、この命を必ず救う!」


 氷室は一瞬だけ肩を揺らし、静かに頷いた。

 高城や周囲のスタッフは、二人のやり取りに息を呑み、会議室に新たな決意の空気が満ちた。


「共に戦おう、氷室! 藤井さんの命を、私たちの魂の炎で守り抜くぞ!」

 

「私の魂の炎、全て患者の魂に注ぎ込む! 我々は必ず勝つ!」


 炎堂は熱く笑い、拳を握った。

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