雑文
せっかくの休みだったのに、何も出来なかった。もったいねえな、こんちくしょう。時刻は16時の半ばを過ぎ、夏の盛りだったらまだまだ明るかっただろうに、11月にもなると夜支度が随分と早い。
俺は日が沈みかけの空を見上げて、ため息をわざとらしく吐き出した。頭の中では、深く自分に失望していた。
線路沿いの細道を、駅の方向に向かって歩く人影は前方にはいなかった。駅から帰路に就く者たちのどこか開放的な表情を見て取って、まだ何も出来てない自分が殊更に恥ずかしく感じられた。
見たい映画もあるし、読みたい本もある、行きたい所だってあるし、買いたい服もある。休みを楽しむための手立ては、いっぱいあったのだ。でも、そのどれも手につけられなかった。
書きたい小説が、いつまで経っても書けない。そのことが、自分の人生のあらゆる進行を停滞させていた。
別に大それた話じゃないし、とっとと書いてとっとと完成させれば良い。文学賞に出すも良し、ネットに投稿するも良し。好きにすれば良いんだ。
なのにどうしてもこうしても手が止まってしまう。書いてみても、もっと良い表現があるんだろう、もっと良い筋書きがあるんだろうと、途端に疑心暗鬼に駆られてしまう。
いつかはこの独りよがりな迷走に、踏ん切りを付けなければならないのは分かっているんだが。俺はもしかしたら、書けない日々を引き延ばして、才能の無さや自分の小説が取るに足らない物だったと気づくことない、自身が夢の途中にある事に耽溺しているのかも知れない。
考えることが嫌になって、高架線と雑居ビルの間に切り取られた空を見る。青一面の頭上から、景色の切れ目に向かって段々と橙色が混ざっていく。綺麗だと思った。そして、綺麗だと思う気持ちを素直に文字にしたいと思った。
夕日そのものは建物に遮られて見えないが、まだもう少しだけ諦め悪く居残っているんだろう。そして夜の帳が下りるまで、彼は夕焼けを主張するんだろう。
書けないなりに、やるしかないな。めんどくせえな、こんちくしょう。俺はまたため息をついて、下を向いてわざとらしく首を振る。コイツは一体なんなんだとばかりに、そんな俺を見咎めるような視線を感じた。それはすれ違う人達のものかも知れないし、待ちくたびれていた夢の飼い主のものかも知れなかった。




