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合唱コンクール

作者: 蜂屋
掲載日:2025/10/18


合唱なんて、正直、苦手だった。


声は小さいし、音も外す。


ただの苦行。そう思ってた。


でも——君の歌を聴いた日、全部が変わった。


放課後の教室。


夕暮れの光に包まれて、


君は、ひとりで歌っていた。


伴奏もないのに、教室に響いていたその声は、


空気が澄んだみたいに、綺麗だった。


たった一度の偶然。


でも、一瞬で心を奪われた。


上手いだけじゃない。


本気で歌と向き合ってるのが、伝わってきた。


それから毎日、君の姿を見かけた。


放課後、教室でひとり、何度も練習していた。


俺はこっそり、家で練習を始めた。


誰にも聞かれないように、小さな声で。


音程はズレていたけど、やめたくなかった。


少しでも、君に近づきたかったから。


そして迎えた、本番のステージ。


君の歌声がホールいっぱいに響いた。

張り詰めた空気が、ふっとほどけた。

気付けば、俺の声も出ていた。


緊張していたはずなのに、


君の歌に背中を押された気がした。


あんなふうに歌えたのは、初めてだった。


終わったあと、君はふっと笑って、


「おつかれさま」って言った。


たったそれだけの言葉が、


ずっと、心に残ってる。


そのあと、クラスが変わって、


話すこともなくなって、


連絡先も知らないまま、卒業した。


それきり、会うことはなかったけれど——


秋になると、思い出す。


木の葉が揺れる音にまぎれて、


君の歌声が、よみがえる。


君の横顔も、あの笑顔も、


今でも、はっきり覚えてる。


俺はいくつもの季節を越えて、大人になった。


出会いも別れも、たくさんあった。


でも——


立ち止まりそうなとき、思い出すんだ。


あの頃の自分と、君の歌声を。


思えば、あれが俺の初恋だったのかもしれない。


今も、君は歌っているだろうか。


それとも、もう忘れてしまっただろうか。


……いや、それでいい。


君がどうであれ、かまわない。


君の声は、俺の中に、ちゃんと生きてる。


今もこうして、そっと背中を押してくれる。


——だから、今日も前を向けるんだ

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