合唱コンクール
合唱なんて、正直、苦手だった。
声は小さいし、音も外す。
ただの苦行。そう思ってた。
でも——君の歌を聴いた日、全部が変わった。
放課後の教室。
夕暮れの光に包まれて、
君は、ひとりで歌っていた。
伴奏もないのに、教室に響いていたその声は、
空気が澄んだみたいに、綺麗だった。
たった一度の偶然。
でも、一瞬で心を奪われた。
上手いだけじゃない。
本気で歌と向き合ってるのが、伝わってきた。
それから毎日、君の姿を見かけた。
放課後、教室でひとり、何度も練習していた。
俺はこっそり、家で練習を始めた。
誰にも聞かれないように、小さな声で。
音程はズレていたけど、やめたくなかった。
少しでも、君に近づきたかったから。
そして迎えた、本番のステージ。
君の歌声がホールいっぱいに響いた。
張り詰めた空気が、ふっとほどけた。
気付けば、俺の声も出ていた。
緊張していたはずなのに、
君の歌に背中を押された気がした。
あんなふうに歌えたのは、初めてだった。
終わったあと、君はふっと笑って、
「おつかれさま」って言った。
たったそれだけの言葉が、
ずっと、心に残ってる。
そのあと、クラスが変わって、
話すこともなくなって、
連絡先も知らないまま、卒業した。
それきり、会うことはなかったけれど——
秋になると、思い出す。
木の葉が揺れる音にまぎれて、
君の歌声が、よみがえる。
君の横顔も、あの笑顔も、
今でも、はっきり覚えてる。
俺はいくつもの季節を越えて、大人になった。
出会いも別れも、たくさんあった。
でも——
立ち止まりそうなとき、思い出すんだ。
あの頃の自分と、君の歌声を。
思えば、あれが俺の初恋だったのかもしれない。
今も、君は歌っているだろうか。
それとも、もう忘れてしまっただろうか。
……いや、それでいい。
君がどうであれ、かまわない。
君の声は、俺の中に、ちゃんと生きてる。
今もこうして、そっと背中を押してくれる。
——だから、今日も前を向けるんだ




