第七章 保身
セリアがその基地を発ったのは、翌日の早朝だった。
物資は王都までの行軍に必要な分だけが持ち出され、残りは処分しなければならなかった。
といっても、焼き払う、土に埋める、川に流す――といった方法で処理されたのはほんの一部。大部分は住民たちに分配されることになる。
――せめて、これくらいは。
セリアの良心が求めた、最後のわがままだった。分配の手間を省く為に、村落に兵による通達を行っただけだが、トリアの国民は抜け目なく、基地の倉庫から物資を持ち出してくれるだろう。彼らとて、軍の敗北はもう耳にしているはず。不安定な今後に備えて、少しでも蓄えを増やそうとするに違いない。
「物資で肥えた住民を、ガレーナ兵が略奪してくれれば良いのですが」
「……ジェイク」
馬上から、セリアはたしなめるように言った。力なく、呟きに近い声量であった為、他人には聞き取れなかったであろう。
それを知ってか知らずか、ジェイクはさらに理論を展開させる。
「そうすれば、少なくとも彼らは敵軍を憎悪してくれる。守ってくれなかった我々への恨みと、財産を奪った敵への恨み。どちらを優先してくれるかは、さて。五分五分といったところでしょうか」
セリアは何も、そんな腹黒い考えを持って、行動したわけではない。純粋な善意でやったことを、謀略のように見なされるのは、不本意であった。
しかし、同時に理解する。だからこそ、ジェイクは反対しなかったのだと。この男は軍人として、有益なことのみを評価するのだ。
「嫌味な言い方ね。不愉快よ」
「こいつは失敬。まあ、結果がどうなるかなんて、わかりゃあしません。案外連中は追撃を諦めて退き、国境辺りに腰を据えるかもしれない。しんがりの軍……あのシュウ隊長が、ガレーナ軍を散々に打ち破って、奴らの動きを鈍らせてくれるかもしれない。そうなったら、再度こちらが体勢を整えるまで、誰も死なずに済みますよ」
「希望的観測は、私も貴方も嫌いな方だと思っていたけど? 下手な慰めは、勘弁してくださらない?」
「左様で。――いやはやお恥ずかしい。やはり自分でも信じかねることを、人に信じさせようとしてはいけませんな。すぐにボロが出る」
頭をかきながら、ジェイクは答える。不器用な笑顔に、軽い物言い。主君であるセリアへの態度も含めて、およそ士官として相応しい器には見えない。だがそれでも彼女は彼を信頼しようと思ったし、以後も護衛隊長として辣腕を振るってもらおうと考えていた。
「まったくね。その不遜な態度。私でなければ、とっくに処分の対象になっているわ。寛大な私に、感謝して欲しいものね」
「ありがたく、思っておりますとも。こうも好き放題にいわせていただける上司は、自分にとっても貴重でありますから」
セリアは、彼がただの皮肉屋だとか、楽天家などとは思いはしない。笑顔を浮かべ、声を弾ませながら、脳裏に冷たい論理を働かせられる男。それでも話をしてみれば、遠慮のない暴言への嫌悪感は小さく、傍に置けばむしろ安心感が沸いて来る男。
――不愉快なのか愉快なのか。好きなのか嫌いなのか。……良くわからない人ね、まったく。醜男か美男か、と聞かれれば、間違いなく不細工だと答えられるのだけど。
ともかく、彼が有能な男で、頭のきれる士官であることは、良くわかった。
それに、セリアでは顔も覚えきれないほど多くの人員を、彼とサーレントはまとめてくれている。文句をつけるどころか、礼を言ってしかるべきであろう。彼らは皆、いざとなれば己の命より、セリアの命を優先させねばならない立場にあるのだから。
「申し訳ありません。今思えば、気安く声を掛けすぎました。以後は自重いたしましょう」
「謝罪はいらない。何だか知らないけど、私は貴方を憎めないみたいだし。……だから、以後は遠慮も配慮も無用よ」
「色々と解釈に余地がある言い方ですな、それは」
「最大限好意的に受け取ってもらって構わないわ。――意味、わかる?」
「……なるほど。確かに拝命いたしました、殿下。期待された分は、働いて見せますよ」
無骨な髭面が、笑顔の形へと歪む。ジェイクは、セリアの意思を正しく把握した。
今なら軍の意思を無視した独断専行さえ、彼女は許すであろう。もちろん、彼はそこまで逸脱した行動を取るつもりはないが、上位者からお墨付きを得たことはやはり大きい。
この件といい、シュウのことといい、セリアは他人に仕事を任せ、やりたいようにさせる傾向が強いらしい。本人の資質を最大限に活かそうとする……といえば、聞こえが良かろうか。だが実際には、配下を抑圧し、己の型に従わせる力量がないだけだ、とも表現できよう。
「期待しているわ。何と言っても、今の私は、守られることが仕事だもの」
この威厳の欠如は、トリア王家の中では異端であった。祖父にしても父にしても、またそれ以前の歴代の王にしても、自身の強烈な個性と資質によって、国を導いてきたのだから。
――私が守られること。守るべき権威が、いまだ存在するのだということを、兵にも将にも見せ続けなければならない。そして、庇護の対象は、むやみに口出ししたりしないものよ。
己の分をわきまえ、出来ないことは出来ないと割り切る性質と、誰かを頼ることを厭わない人間性。これは、仕事を肩代わりする人間が存在し、権威か人望だけで人を動かせる者にとって、得がたい素質であった。
セリアは嫉妬から、部下を逆恨みしたり、過ぎた羨望を感じたりはしない。だから後は人を見る目さえ磨けば、人事権の行使だけで王者の地位を維持できるだろう。問題は今ここで、彼女の資質を活かす場面が少なすぎる、という部分にある。
「戦争が終わったら、隊の連中にたんまり褒美をくれてやってください。期待に応えたことへの、当然の報酬として」
「わかっているわ。……それにしても、案外頼もしいことを言うのね、貴方。現時点で戦後のことまで考えられるなんて、余裕がある証拠よ?」
「なぁに、単なる虚勢ですとも。――帰ったら、また軍を編成して、進発することになるんでしょう? その時、また我々が殿下の護衛に付くことになるとしたら、二重の苦労を背負うことになりますからな。今からおねだりしても、バチはあたりますまい?」
セリアが再度軍をともなって、ガレーナ軍に対するなど。この敗走の中にあっては、現実味のない話である。
しかし、ジェイクはまるで、それがすでに決定したことであるかのように言った。流石にこれには、セリアも面食らう。
「反攻はありえるとしても、私が再び戦場に出られるとは、限らないわよ? ……というか、私のような足手まといを抱えていく理由なんて、ないと思うけど。士気高揚を狙ったところで、もう焼け石に水をかけるようなものでしょうし」
「かもしれません……が、王都に留まり、行儀を良くしていられるほど、殿下がおとなしい方であるとも思えませんな。ま、自覚がないなら、それもいいでしょう。時が来れば、わかることです」
ジェイクなりに褒めているのだろう。確かに、セリアの意識は変わりつつある。自身の無力さを憎むことも多かったが、個人的な感情でなせることは何もないと、理解している。
己の地位と、それに付随する権威。己が何かを為したいなら、これを利用していくしかないのだ。
今、必要なのは強い統率者。外敵を退け、国内を纏め上げられる偉大な王。セリアにこれを求める者は少ないとしても、出来るだけの努力をしたい。そう、彼女は思っていた。
「自覚なら、あるわ。……ええ、貴方の言うとおり。きっと、私は必死になって、自分に出来ることを探すでしょうね。これまでの失態から目をそむける為に」
無理にでも仕事を引き受けて、それに集中していれば、少なくとも一区切りが付くまで、嫌な思い出に浸ることもないだろう。もしかしたらセリアが今感じている使命感よりも、この後ろ向きな想いは強いのかもしれない。
「……付き合わされる臣下にとっては、迷惑かもしれないけど。私がいつまでも、無能で居て良いわけじゃない。対象が戦でも政治でも、常人以上にこなせるようにならねばならない。それが、王族の義務という物ではなくて?」
これも敗北の副産物、といえようか。今セリアは、義務やら責務やらを特別に意識している。まるで、己の宿命に目覚めたかのように、彼女は活動的になろうとしていた。
――実際に動くなら。……そうね。私が軍を主導するのは無理があるとしても、『前に出る』ことくらいなら、許されるでしょう。負けを重ねて、王都が落ちたら、きっと国は滅びる。それを防ぐ為なら、あらゆる行為は正当化されてしかるべきじゃないかしら。
行動すること自体は、悪いとはいわないが、それで急に有能になれるわけでもない。ことさらに義務を強調し、自身を危険の中に放り込もうと、セリアが急激に成長できる余地はなかった。
彼女は天才型の人間ではない。死線を一度越えたくらいで、強くはなれない。何度も積み重ねて、それでようやく大成できるかどうか、という程度だろう。
さりとて、セリアの言は正論といえば正論でもある。全てが不足のままでも、戦いは目前にあった。ならば無謀を承知で、活路を見出していくしかないのだ。ジェイクはこれを踏まえ、年長者らしい助言を口にする。
「まさに。しかし、気負い過ぎないことです。適度の緊張は、人の成長には不可欠なものですが、過剰に与えても良いことはありません。……義務は、他人に分け与えることが出来ない物ですが、責任は分かち合うことが出来ます。団結して仕事することを、覚えても良い年頃ですよ? 殿下は」
「それくらいわかってる。あくまで、私個人の問題を言っただけよ」
「あくまでも、確認の為に申し上げました。もしもの時に頼れる人物が、少なくとも一人、ここにいる。それだけは、お忘れなきよう――」
言いたいことだけを言って、ジェイクは黙った。セリアはわかっている、と答えたが、それは反射的な返し言葉に過ぎない。本当の意味での団結、というものを、彼女は身に染みて理解しているわけではないのだから。
ただ、ジェイクはすでに決意していた。それが必要になったとき、無言で彼女に付き従い、模範的な教師として振舞うことを。出来れば、サーレントも巻き込んで、まとめて教育してやるのもいいかもしれないと、彼は考えている。
「その時が来たら……いえ、来ない可能性の方が、遥かに高い、と思うけれど。――ええ、貴方のことは、常に念頭に置いておきましょう。もしもの時は、必ず」
ジェイクの想いを知ってか知らずか、セリアはその時が来たら、彼を用いると言い切った。
迂遠な言い方だが、もうこれは明言した、と受け取ってよい。この点、最大限好意的に――受け取ることで、ジェイクは彼女の信頼に応えねばならなかった。それが、彼の臣下としての義務であったから。
「確かに、拝聴いたしました。お任せを」
「……うん」
セリアは元気なく、首肯した。強気に振舞っても、あらゆる責任を自覚しても、変えられない性根は存在する。このか弱さは、単なる女性ならば何の失点にもなるまいが、指導者としてはどうか。
――昂揚感や虚勢は長続きしない。もちろん、緊張も。……自然体で、何事も受け止められるように成るには、どれだけの経験が必要なんだろう。
王都への道のりを進みながら、セリアは考え続けていた。己の至らなさを、深慮によって、帳消しにするつもりであるかのように。
その彼女の姿を尻目に、ジェイクはサーレントの元へおもむき、話しかけた。
「逃げ帰るも同然だというのに、不満の一つも出てこない。しつけの行き届いた、いい兵どもだな? サーレント」
「お褒めに預かり恐縮です」
「手元においておきたいなら、再編成の時にきちんと申し出ておけ。それくらいの特権は、ゆるしてくださるだろう」
「……了解しました。しかし、悪しき前例になりませんか? それは」
「国が滅びるか持ちこたえるか、その瀬戸際だ。細かいことはいい。……こいつらだって、長く苦労を共にした上官を持ちたいだろうさ。お前さんは、違うのかね?」
ジェイクと、サーレントの声が遠くに聞こえる。セリアはもう、道中に危険など、一つもないと確信していた。何者が自身に襲いかかろうとも、身を挺して守ってくれる騎士たちの存在を、信じていたから。
単純に人を信じることと、現実の行動との間には、幾ばくかの齟齬が生まれる。
よって全てが順調に進むなどとは、セリアも考えては居なかった。だから、多少の事故や障害は、許容しなければならないと理解している。
しかし実際の出来事について、彼女は具体的な解決策まで考えようとはしなかった。
――その時になってみなければわからない事だし、あれこれ思い悩んでも役に立つかどうかは別だし。正直、頭を使うのに疲れたから、特に対策なんて立ててなかったんだけど。
とりあえず、致命的な状況ではない。不可解な現状に対しても、余裕を持って取り組めるうちは、恵まれていると考えるべきだろう。
「それで? 本当に誰一人居なかったの?」
「兵どころか、麦一粒残っていません。施設も破壊されておりますし、この基地も役割を終えたものと、理解すべきでしょう」
サーレントの報告を、セリアは神妙な面持ちで聞いていた。
出立しておよそ丸一日。また別の補給拠点にたどり着いた彼女たちは、あらゆる機能を喪失し、兵も物資も撤収された、跡地だけを確認する。
「ありえないと思うけど、盗賊やら敵軍やらが襲撃したような後はあった?」
「いえ、戦闘の痕跡は見られません。近辺を入念に見回りましたが、敷地内はきちんと整地されたままですし、どの道筋にも整然とした足跡が残るのみです。血の跡や金属の破片も、今のところ発見されておりません」
戦いがあったのなら、地面はどうしても荒れるし、そこ残る足跡は乱れるものだ。
さらに小規模でも戦闘ともなれば、犠牲が皆無であるはずはなく、死人も出れば武具も破損する。
「セリア殿下。これは……」
「痕跡がない以上、敵軍の攻撃を受け、やむなく撤退、という訳ではなさそうね。王都からの命令か、現場の独断かどうかは知らないけど。正式な命令によって、拠点は放棄されたと見るべき。……手間が省けた、と考えていいのかしら?」
それはそれで疑問は残るが、セリアはあえて楽観的な言い方をした。無論、彼女も事態がそう単純ではないことを、なんとなく察している。
ただ、これ以上の面倒は処理しきれない。勘弁して欲しい、という願いが、口を付いて出てきただけに過ぎなかった。
「申し上げにくいことですが、私は今から三日前。殿下と出会う二日前に、王都へ提示報告の使者を出しております。地理的に言って、彼がここを通ったことは疑いなく、もしその時点で何か異変があれば、何かしらこちらに連絡が来たはず。それがなかったということは……」
「使者が通った後で、拠点と前線への連絡さえ放棄しなけれはならないほどの、凶事が起きた。あるいは、我々を無視して、帰還しなければならない何らかの理由が出来た。――その、どちらかかしら? 何にせよ、喜ばしい事態ではないわね」
もっと悲観的に考えることも出来たが、現実的な思考で分析してみると、そのような結論が出てくる。
情報が少なすぎる現時点では、これ、と断定して対策を練ることは出来ない。ゆえに万全を期すなら、柔軟な対応が求められよう。
「その理由にしても、さっぱり見当が付かない以上、あれこれ案じるだけ時間の無駄。当初の予定通り、帰還しましょう。敵軍に備える為にも、ここで時間を浪費したくない」
しかし、ここでは速度が何よりも優先される。
時間をかけて、虱潰しに調査を行なえば、何かしらの収穫はあるかもしれない。だがそんなことをするより、さっさと王都に戻ってしまう方が、より早く状況を把握できるだろう。
緊急性の高い報告があれば、そこで確認すればよいのだ。そうと決まれば、セリアの取るべき行動は一つに絞られる。
「ジェイクを探索から呼び戻して。適当に休息をとったら、すぐに出ましょう。それまで貴方は、兵についてあげなさい。動かせるようになったら、知らせて。……私も、ちょっと休むから」
「了解しました。――では」
休養の加減は彼らにまかせ、セリアもそれまで少し、眠ることにした。乗馬するにも体力は使うが、彼女の疲れは徒歩の兵より少ない。
なのに、セリアはひどく疲労した気持ちになっていた。
――精神にかかる重圧が、以前の比ではなくなってる。人を動かすのって、神経を使うものなのね。
命令をすることに慣れていない、という単純な問題ではない。
これが一過性のものではなく、今後も付いて回ることになるだろうと思うと、より憂鬱になってしまうのだ。
万が一、億が一の可能性だが、もし部隊を率いて、再度戦場に出ることになれば。そして、その戦いで功を立ててしまったなら。おそらく、自分はこの不吉な場所から、永遠に囚われてしまうのではないか――。
そんな、現状では戯言としか受け取れないような妄想を、セリアは胸の内に抱いてしまっていた。
――いっそ、断罪されてみたらどうかしら? 敗戦の責任を私に押し付けてくれるなら、全部投げ出す諦めだって、つくのだけれど。
そこまで考えてから、頭を振る。まともな思考が失われていることを、彼女は認めない訳にはいかなかった。
これを治す為にも、セリアはさっさと仮眠を取ることにした。用意された天幕の中、資材で作られた簡易寝台の上に寝転がり、目をつむる。
思い悩み、人を動かしながら、ようやく得た僅かな間の休息。次に目を開けたとき、自分が行うべき事は、帰還の指示を出すことになるだろうと。そう理解して、セリアは暗い意識の中に落ちていった。
ジェイクは、サーレントから指示を受けた時、素直に感心した。疑問に固執せず、拙速を持って解決に臨むのは、おそらくこの場では最善策であろう。それは、彼も同意見である。
もし気になるから調べろ、と命じられた場合、わざわざ出向いてその非効率性を説かねばならなかった。この一手間を省けたというのは、ジェイクにとっては吉報であったといえよう。
「懸命だな」
「そうですね。あの姫様も、大局的なものの見方という物が出来たようで」
「……大局的? まさかまさか。どうせあれこれ考えて、小難しい理論の後付でもしようとしたんだろうが、そんなのは重要じゃない」
これは、セリアの賢さを示すものではない。ジェイクは、むしろこの判断の中に、彼女の理性と本能の葛藤を見る思いだった。
「大事なのは、ここでもっとも生存率の高い選択を選んだってことだ。全ての理屈は、その理由付けに過ぎんよ」
そして生き延びることを優先した上で、セリアは自分の居場所、自分の使命を探し続けているのだ。
これを一刻も早く得るためにも、彼女は王都へと戻らねばならない。ジェイクはあのお姫様が、何を焦っているのか。どことなく察していた。
――隠しているようで、結構顔と態度に出るからな、あのお嬢ちゃんは。
敗戦の将として、処分を受け入れること。
王族として、善後策を協議すること。
大義名分の下で、軍の率いること。
そのどれもが、今は不可能なのだ。時が過ぎれば過ぎるほど、挽回は難しくなり――失態を重ねれば重ねるほど、自身の発言力は低下する。
「必要に迫られてか。今になって、使命感に駆られたのか。ま、何でもいいさ。……セリア殿下がお望みなら、早々にご希望に添えるようにしようじゃないか」
そういった意味で、セリアがいち早く自己保身の道に気付き、対応したというのであれば、これはむしろ褒めてよいことだ。
今でこそ窮地に立っているが、これを彼女の手で収めることが出来たなら、その政治的影響力はいかほどになるだろう。
少なくとも、セリアが国王として不足ない器であることは、証明できるはずだ。彼女が王冠を被ることを、誰も否定しえないはず。
すると、トリア王家にとっては、二人目の女王が誕生することになる。この歴史的瞬間に、もしかしたら立ち会えるかもしれないと思えば、流石のジェイクも気分が高揚せずにはいられない。
「二時間ばかり兵を休ませたら、出るぞ。夕暮れまでは、まだ時間もある。夜まで休みなしだ。いいな?」
「了解しました。――これくらいの行軍、訓練で慣れております。お気遣いなく」
ジェイクとサーレント。そして彼らが統率する兵は、皆が義務を果たした。
王都へとたどり着く、その瞬間まで、セリアの安全を守り続けた。今度は、彼女の方が使命を果たさねばならぬ。
これより、セリアは試練に立ち向かう。この戦いの果てに、何を失い、何を得るのか。
その予測さえ、今はまだ付かなかった――。
展開が遅いのは仕様です。
私は、どうにもくどい文章を書くのが癖のようで。
……ともかく、ようやく次回から、反撃の準備に移れます。
複線が臭すぎるような気がしますが、これを上手く描写できるかどうか。
少し不安ですが、これまでと変わらず、見守っていてください。