8月ごろの夢の事でしょう。
8月ごろの夢の事でしょう。
暗い、陽の光の届かない海底で、沈んだ塔の中で見たものを覚えていますか?
私が見たものはおそらく、石だったのでしょう。
その石に描かれていたものを思い出した事でしょう。
私が海底に沈んだ塔の中、昔は素晴らしい景色が見えたであろう場所で見たものを覚えていますか?
その石には少し気狂いじみた紋様が刻まれていたのでしょう。
その紋様を一言で表すとすれば「蛸」なのでしょう。
光の届かない海中の塔の中で見たものはなんだったのでしょうか。
それは少なくとも人類が長い間忘れていたものだったのでしょう。
海中の塔は真っ暗で、外に見えるのは真夜中のような暗闇でした。
石に描かれた蛸の紋様はグロテスクで、明らかに人の正気を抉りとっていました。
でもそれが私の正気を抉り取ることはなかったという事を覚えていますか?
グロテスクな蛸の紋様は悍ましいものであると同時に素晴らしいものであった事を覚えていますか?
その時、確かに声が聞こえた気がしました。
この塔から少し離れた場所、古代の儀式場で魚人達が彼の神を讃える声が聞こえた気がしました。
その声は私の頭の中で反響し、私の頭を掻き回すのです。
それと同時に、私の視線はどうしても蛸の紋様に引き摺り込まれるのです。
その蛸の紋様に見入っていると、私しかいないはずの塔の階下から足音が聞こえるのです。
私にはそれが何かわかっているのです。
彼らは、一言で言えば魚です。
しかし、彼らは人に人ほど大きく、水掻きの着いた手足を持ち合わせています。
皮膚はグロテスクで、石に描かれた蛸の紋様を思い起こさせました。
彼らは飛び跳ねるように近づいてきました。
彼らと交わした挨拶を覚えていますか?
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
こんな挨拶を交わしたのではないですか?
どんな意味か覚えていますか?
覚えているはずです。
私の頭に染み付いているはずです。
恐れはありますか?
ないでしょうね。
狂気こそが人類の正しき姿なのですから。
彼らと話した事を覚えていますか?
またいつか、あの塔に行こうではありませんか。
沈んだルルイエの都の尖塔、クトゥルーの都にある尖塔に。