呪われ王子シェイド・アルサンディア
呪いの塔の入り口の扉は硬く閉ざされている。
かんぬきを兵士たちが開いて、重たい扉の鉄杭から伸びるロープを引いて、ギギと、扉を外開きにあけた。
「さぁ、行け。罪人め」
「はい……わかりました」
私はしおらしく頷いた。
ここでワクワク感を出してしまったら台無しになってしまう。
何か企んでいるとか、怪しいとか思われてしまったら、呪いの塔に入れなくなってしまうかもしれないもの。
呪いの塔の中に入ると、扉はすぐに閉められた。
呪いの塔、一階。
円形の広いホールには何もなく、瓦礫のようなものがホールの端に積もっているのが僅かに確認できる。
一階には窓がなく、とても薄暗い。
円柱状の内部構造で、上へ上へと壁が伸びている。
最上階に行くにはかなり骨が折れそうなぐらいに高い。
螺旋階段の途中にはいくつかの部屋があり、上階の壁には窓もある。
窓からは光が降り注ぎ、暗い下層を劇場で俳優を目立たせるためのスポットライトのように照らしていた。
「シェイド様は、どこにいるのかしら」
一人きりになった私は、スカートを捲り上げる。
ドレスというのは結構便利なのよね。ある程度の大きさのものでも、ドレスの下に隠すことができるもの。
太ももに巻き付けていた布製の小物入れから『叡智の指輪』を取り出すと、指にはめた。
この国には魔女と呼ばれる魔力を持っている人たちがいて、この魔女たちは魔法や呪いといった、不思議な力を使うことができる。
私には魔力はないけれど、魔道具を使えば魔女と同じように魔法を使うことができる。
特に、この叡智の指輪を使用した収納魔法はとても便利。
「星のカンテラ」
小さく呟くと、私の手の中に星型の中に青い炎が点っているカンテラが現れる。
カンテラの明かりは、辺りをぼんやりと照らした。
カンテラを持った私は、階段を登っていく。
シェイド様とはどんな方なのかしら。
胸がドキドキして、息が苦しい。
不安も緊張も少しあるけれど、これはどちらかというと興奮だろう。
「シェイド様、シェイド様、どちらにいらっしゃいますか」
名前を呼びながら上へ上へと歩いていく。
カツンカツンと、階段に靴底がぶつかる音が、静かな塔の中に響いた。
すると──。
突然、私に向かって塔の壁から真っ黒でぬぼっとした巨大な人の顔のようなものが現れる。
それは巨大な骸骨だった。
壁から突き出た骸骨が私を見下ろして、骨ばった、というか骨の手を、伸ばしてくる。
「わぁ」
私は感嘆のため息をついた。
これはすごい。
呪いとか、お化けとか、そういうのって大抵の場合はインチキだったりただの噂だったりする場合がほとんどだけれど、これは本物。
「すごい、すごい質感。デザインも秀逸。最高!」
骸骨の手には触れられるのかしら。
私を大きな手で払おうとしてくる骸骨の手が、私の前でぴたりと止まった。
敵意は、なさそう。
つまりこれは、私を怯えさせたいだけのもの。
私は骸骨の指の一本を取って、さすさすした。
冷たい。冷たくて、硬い。ちゃんと触ることができる。
ちゃんと触ることができるということは、これは幻ではなくて、実態があるもの。
攻撃なんかにも使えちゃう、優れものだ。
「あなたがシェイド様ですか? 大きな骸骨のシェイド様」
「違う」
骸骨は言った。
違うらしい。
もっと触りたかったのに、骸骨はすぐに消えてしまった。
「あぁ……せっかくの骸骨が」
「帰れ。これ以上恐ろしい思いをしたくなければ、この場から立ち去れ」
骸骨の代わりに私の目の前に現れたのは、全身に蔦のような黒い紋様が浮かんだ、魔性という言葉がピッタリくるそれはそれは美しい男性だった。
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