表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/27

新生アルサンディア



 いくら私とシェイド様でも、倒れている人々を一度にたくさん運ぶことはできない。

 私たちから遅れて到着したフィエル様とオリヴァー様の率いるクイールちゃん兵士団が(皆とても、クイールちゃんの扱いに慣れてきている)投獄されている人々の顔を確認しながら、クイールちゃんに乗せて一人ずつ助けた。

 エレノア様は私と一緒のクイールちゃんに乗ってもらった。


 あとから聞いた話では、投獄されていたのは国の要人ばかりだったそうだ。

 宰相閣下や、文官長や、その部下たちなど。

 城の内部を取り仕切っている方々で、ルディク様に意見をし、マチルダたちを城から追い出すべきだと主張して――そして、牢にいれられたらしい。


 塔の内部にある医務室で、長くひどい状況で投獄されていた人々の体を癒やした。

 私のつくった万能薬や、活力剤などを使用すると、数日で皆元気を取り戻して――そして塔は、もともとお城みたいだったけれど、さらにお城みたいになった。


 そしてシェイド様は、新生アルサンディア王国の王となった。

 正式に、エレノア様によって戴冠と即位が行われたのだ。

 エレノア様や、投獄されていた貴族や要職の方々の後ろ盾、それからオーランドとの同盟も結び、その地位は盤石となった。


 あれよあれよという間に幽閉されていた呪われた王子様から、皆から頼られる国王陛下になってしまったシェイド様の隣で、私は少し寂しい気持ちになっていた。


「あの、シェイド様」

「どうした、キャス」


 私たちは最上階のお部屋のベッドで一緒に寝ている。

 シェイド様の呪いはいまだとけていないので、もちろん清い関係のままだ。

 シェイド様は私に触れないように、距離を保っていてくれている。

 私は寝返りをうつと、ベッドの端にいるシェイド様をじっと見つめた。


「あまり、見ないでくれるか?」

「どうしてですか?」

「……目の毒だ」

「毒……?」

「あぁ。……キャス、お前は――駄目だな、長年一人でいた癖で。乱暴な話しかたになってしまうな」

「乱暴と思ったことは一度もありませんよ」

「そうか? だが……君は、……このほうがいいな。キャス、君は」

「……くすぐったいです、少し」

「……やはり、毒だな。……君は、魅力的な女性だ。そのように、無防備な姿で横にいるのを見てしまうと、私も男だから、どうしようもない気持ちになる」

「どうしようもない気持ち?」

「あぁ。……触れたい。君の肌は、その唇は、可愛らしい小さな舌は、柔らかいのだろうな。甘いのだろうなと、考えてしまう」

「……あぅ」


 その声に、視線に、肌を撫でられているような妙なさざめきが体におこる。

 私は小さく声をあげて、俯いた。

 胸が、きゅっとする。

 愛されているのだとわかる。でも、私は――。


「シェイド様。……シェイド様は、立派な国王陛下になられました」

「そうだろうか。あまり実感はない。人が増え、賑やかになったが。私はあいかわらず、ここにいる」

「皆が、シェイド様に判断を仰ぎにくるでしょう? お忙しくなりました」

「やることといえば、話を聞くことと、書類に目を通すことぐらいだ。誰にでもできる。フィエルやオリヴァーたちは有能で、フィエルは血の気が多く、オリヴァーは温厚だ。アベルは金の稼ぎ方がうまいな。他にもたくさん、有能な者たちがいる。私は彼らにほとんどすべてを任せている。私がするのは最後の確認ぐらいだ。それが王といえるのか、よくわからないな」


 シェイド様は本当にそう思っているのだろう。

 立場が変わっても、シェイド様は変わらない。謙虚で、穏やかで、優しくて――好き。

 好きだと思った瞬間に、胸が鋭いナイフで刺されたように痛んだ。


 今までは、あなたのキャスですよ、なんて。

 平気で言えていたのに。

 私は――シェイド様のキャストリンでいたい。それは、変わらない。でも。


「皆を信じ、任せることができる。それも王としての大切な、才能だと私は思います」

「ありがとう、キャス。そういう考え方もあるのかと、君と話していると驚くことばかりだ」

「私は……そんなに驚くようなことは言っていませんよ」

「一人でいるのと、君と話をするのは違うという話だ。自分以外の考えを聞くことができるのは、いい。自分の話をして、気持ちを伝えると、悩みが悩みでなくなるような気がする」

「私はルディク様に命令されて、シェイド様の花嫁になりにここに来ました。シェイド様は私を押し付けられたようなものです。だから」

「それは、何の話だ?」


 シェイド様の眉が僅かによった。

 私が言おうとしていることが伝わったのかもしれない。


「……私、シェイド様の呪いを必ずときますね。それは私の母の罪です。呪いが解けて自由になったら、シェイド様は好きな相手と結婚をしてください。私は、ちゃんとわきまえていますから」

「わきまえる? 何を」

「私は魔女の娘です」

「それがどうした」

「シェイド様にとって、ジョセフィーヌは憎むべき相手でしょう。私は、娘だった。だから」

「そんなことはどうでもいい。君が誰であろうと。どんな立場であろうと」

「それは、シェイド様の傍にはいままで誰もいなかったからで。私が、無理やり傍にいるようになったから……もっとたくさん、魅力的な女性がこの国にはいるのですよ」


 シェイド様は目を見開いたあと、起き上がった。

 寝ころぶ私の顔の横に、私に触れないように慎重に片手を置いた。


「動くな、キャス。もし動いて私に触れると、君は傷つく。私に君を傷つけさせないでくれ」

「……っ、あの」

「ここに来たとき君は言った。あなたのキャスだと。君は、私のものだ」

「そ、それは……」

「もし今呪いがとかれていたら、私は君を無理やりにでも抱いていた。強引に犯して、君が私から離れていかないように――ひどいことを、していただろう」

「……シェイド様」

「キャス。それとも――はじめから私など、君は好きではなかったか。君が好きなのは私の呪いであって、私自身ではないと」

「そ、それは、それは、違います……」


 私は首をふろうとして、唇を噛んで我慢した。

 体を動かせば、顔がシェイド様の手に触れる。

 そうしたら私の顔は、切り裂かれてしまう。――私は大丈夫だ。でも、シェイド様が傷つく。


「私は……あなたが」


 そこまで言いかけたところで、扉が激しく叩かれた。

 もう、夜なのに。

 シェイド様は私から離れる。扉を開くと、そこにはフィエル様とオリヴァー様が立っていた。



お読みくださりありがとうございました!

評価、ブクマ、などしていただけると、とても励みになります、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ