四枚目が幸運。
「お前たちのバディは今日までとする」
俺と愛はマスターに呼ばれていた。
「様々な任務をこなし、依頼にも応えてくれてきた。だが、二人を組ませたのは私であり、そこには二人の主体性が存在していない」
愛とは、単なる信頼できるバディであり、それまでだ。
マスターに今日までだと言われれば、それに従うだけだ。
「そこで、二人にはとある任務をこなしてほしい」
バディを解消されて、初めての任務となる。
一人になったこと以外は何も変わらない。
「自分に見合ったバディを見つけてくることだ」
マスターの意図が掴めない。しかし、それが任務とあらば、こなすだけだ。
「二年という期間を与える。相応しい相棒を見つけて来なさい」
二年……ただ、命令に従うだけの機械であり、従順なペットであった俺たちが、いきなり野に放たれてどう動けばいいか、まだわからない。
(では、さようなら)
愛が心で伝えてくると、颯爽と部屋を出て行った。俺も遅れて部屋を出ていく。
一人になった。さて、どうしようか……そうだ。
俺は初めて自分の意志でクローバーの里へ向かうことにした。
二人でいるという状況から、一人になった途端、道中の景色や空気でさえ別物に見えてくる。
これが、一人ということか。
十一年もずっと二人でいたから、こうなるのも無理はない。でも、なぜだか、心に穴が空いたように、息がしづらい。
クローバーの里を一望するため、階段を上がって行くと、頂上には愛がいた。
愛はどこか、哀しそうだった。……哀しい?哀しいって、なんだ?
俺は胸に手を当てる。よくわからない。なぜ、そう思ったのかも。
けれど、愛を見た瞬間に、空いていた心の穴が不思議と塞がった。この時、俺は確信した。俺には新たなバディを探す必要がないということを。
俺は愛に何を伝えるでもなく、静かに、心の穴が広がるのを感じながら階段を降りて行く。
***
あれから二年が経過した。やっと、二年が経過したのだ。
ようやく会える。この日を、この時を待っていた。愛に飢えていた二年間が、ようやく終わるんだ。
いつだったか、クローバーの里に足を運ぶと、マスターが立っていた。一人で見たいと思っていた俺は、その場をすぐに去ろうとした。
「まず、興味を持ち、信頼し合い、それから互いを依存し合う。これが、真のバディの在り方だ」
当時五歳の俺には意味がわからなかった。
けれど、今ならわかる。
俺は愛を信頼して、気づけば依存していたのだ。一人になって、愛を失ってから気づいた。
(懐かしい)
辺り一面に広がるクローバーの中を、親子が楽しそうに駆け回っている。
そう言えば、愛と初めて会った時、俺の名前を聞かれたっけか。
楽しそうな親子を見ていると、階段を上がる足音が聞こえてくる。
「俺の名前は希望だよ」
俺がいることを、愛は偶然だと思っているのだろうが、これは必然である。
愛がここを選ぶ理由も、ここへ来る理由も今ならわかる。
同じ牢にいた頃は、同じくらいの身長だったのに、今では少し見下ろすくらいの身長差になっている。愛と正面を向いて、初めて気づいた。
愛は銀色の髪で、顔を少し隠しながら口を開く。
「やっと、教えてくれましたね」
自己紹介は信頼の証。
「私は愛って言います」
俺たちは横に並んで、楽しそうな親子に視線を落とす。笑みが自然と生まれる。
そうか。これが感情というものなのか。
心が弾んで、揺れて、自然と顔や体に表れる。
生まれて十八年、俺は初めて感情を知った。
これは……楽しいという感情だ。
(楽しい)
愛といると、やっぱりどこか景色は明るくて、空気が澄んでいる。
俺に足りなかったのは感情だったんだ。
親の子どもに対する喜びや怒り、哀しみ、楽しみ、愛する気持ち、どれも知らなかった。
ただ、今の俺なら、俺たちなら、心に触れることができる。愛と希望を持って、愛と希望を託していきたい。
この日、俺たちは真のバディとしての新たなスタートラインに立ったのだ。