二枚目が希望、
私たちは通報を盗み聞き、身支度を整えている。
(どの公園かわからないとなると、可能性で判断するしかないな)
名前がジョンであり、ジェームスという友人と遊ぶために公園へ向かったということしか情報を得られなかった。
現在、午後七時。トラフィッカーの標的となっていてもおかしくはない。
(あの話し方だと、探そうともしていませんでしたね)
通報してきた母親は呼吸を荒くするでもなく、慌てる様子もなく、とても落ち着いていた。
警察に通報するのが最善ではあるのだが、子どもは親に見つけて欲しくて、家を出るのだ。
自分を見てくれていないと思ってしまえば、親への不信感は募るばかり。その不信感を信じたくないから、最後の望みで家を出る。そこへ現れたのが赤の他人となると、どう思われるだろうか。
考えても答えは出ないが、とにかく、子どもの心は健康であってほしい。
(俺は西の公園から探す。愛は東の公園から探してくれ)
(了解です)
心で情報のやり取りを行う。
私たちは地下で二手に分かれ、目的の場所へ向かう。
東の公園は見晴らしが良く、探しやすい。異変があればすぐに気づく。
ウォーキングを装うため、ジャージに袖を通した私は、視線だけで探す。
私と希望の視野は百八十度まで見えるよう矯正されている。一瞬の隙を見逃さないためと、判断の材料を見つけやすくするためである。二人でいる時は全方位を見ることが可能なため、死角がない。まさに、ベストバディだ。
ジョンを探す中で私は落ち着いた警備員の姿を何人か確認していた。要するに、異変が起きていないということ。
ここにジョンはいないと判断し、次の目的地へ向かう。
(そっちにもいなかったか)
中央公園に着くと、希望も来ていた。
(異変はありませんでした)
(事が起きないうちに探し出すぞ)
そう言い、公園に入った時だった。
「手を上げろ」
背後から声が聞こえ、私たちは手を上げる。
「これ以上、あんたらの邪魔を受けたくないんでね」
(ここで合っているようですね)
背後から忍び寄る存在には気づいていたが、この公園であるという確証を得るため、あえて見つかったのだ。私たち二人に不利な状況は存在しない。
私は眼球を動かし、現状を打破できるものを探す。
落ちる葉が風によって舞い下り、時折、突風が吹いて、地に落ちた葉が舞い上がる……これだ。
希望はその間に公園内の他の異変を探してくれていた。
(少年と揉めている連中を確認した。愛のタイミングで頼む)
(わかりました)
私は待った。突風が吹くのを。
銀色の髪が突風の予兆を察知すると、私はしゃがみ込み、振り返る。
「撃て!!」
奴らは動いた私を狙って発砲するも、突風によって、ほんの少しだけ狙いが逸れ、頬のすぐ横を弾が通る。当たらなかったことに対し焦りを感じさせればもうこっちのもの。しゃがみ込んだ体勢から、弾を避けるのと同時に跳躍し、私に視線を一気に集める。
タイミングを見計らって、希望が走り出す。生物は、突然動いたものに視線を集める習性がある。
私に集まった視線が、希望の方へ移る。その一瞬の隙に、飛び蹴りをかます。残りの奴らも、なんなく倒し、掃討完了。
騒ぎを聞きつけた警備員が集まってくるため、急いで希望の元へ向かう。
着いた頃には、すでにジョンと手を繋いでいた。
(これだけ防いでいれば、この国から撤退するはずなんだけどな)
四年間、子どもという商品を供給できないのであれば、他の国に人員を回した方が得策なはず。
(大丈夫でしょうか……)
(怖い目に遭ったんだ)
希望が"ジョン"と書かれたネームタグを見せてきた。
ジョンの体を細かく震えている。
(急いで親元へ連れて行こう)
そう言うと、ジョンは繋いだ手を強く握り直す。
(大丈夫ですよ。怖かったろうけど、もう安心ですからね)
背の高さまでしゃがんで伝えると、ジョンは諦めたように力を抜く。
家への距離が縮まるにつれ、ジョンの体の震えが大きくなっていく。
相当怖かったのだろう。何度か心で宥めようとするも、ジョンが口を開くことはなかった。
「何やってんの!心配かけて!迷惑もかけて!」
母親はジョンを見ると、すぐに怒鳴りつけてきた。
ジョンの体が震えのピークに達し、立っていられずしゃがみ込んでしまう。
「ほら!立ってちゃんとお礼を……」
ジョンを立たせようとした母親の手を、私よりも先に希望が掴んだ。痣ができるほど強く。
「い、いた……な、何のつもりですか?」
希望は母親を強く睨んだ後、ジョンの頭を撫でて、背を向けた。
私はというと、知らぬ間に握り拳を作っていた。気づいて、後ろに隠しながら脱力する。
まただ。鼓動が速くなっている。私は胸に手を当て、深呼吸をして落ち着かせる。
ここ数ヶ月で子どもを親元へ連れて行くと、心が勝手に動くし、そのせいか、体も応じるように動く。
よくわからない現象に私は目をつむり、希望の後を追う。
希望はどうして母親の手をあんなに強く握ったのだろうか。
私はその足で、気づけばクローバーの里に向かっていた。