魔女と伝説の宝剣
「こんなの貰っちゃった」
充希が夜の仕事から帰ってくるなり、美しい装飾のついた短剣をテーブルの上に置いた
「それ、抜いてみてくれる」
言われて、手に取ってみると、意外と重い
握りの頭の部分にはサファイヤの様な石がついて、鞘にはルビーやエメラルドを思わせる石が散りばめられている
剣を抜こうとしたが、抜けなかった
「玩具?」
「いいえ、本物よ」
「抜けないけど」
「そう、変だね、あたしには抜けるのに」
充希が持つと簡単に抜けて、輝く氷のような鋭利な刃先が現れた
恐ろしいほど切れそうな感じがする
「その石は、もちろんイミテーションだよね」
「本物だと思う。石の持ってる力が凄いから」
「嘘だろ? だったら、何千万とかしそうだ」
「本当。本物。何億とか、するね、きっと」
「そんなのどうして?」
ぼくは充希に揶揄われているのだろうと思っていた
二人とも、そんな高価なものには縁が無いはずなのだ
「だから、貰ったの。こんなの買えるわけがない」
「しかし、くれるわけもないだろう」
「それが、くれたの。九時ごろかな、薄汚いおばさんがあたしの前に座って、テーブルの上にこの短剣を乗せてね
『受け取って下さい。あなたのものです』って
あたしもね、手に取ってみて、高いものだとわかったから
『受け取れないわ』て答えた
でも、相手は納得しなくて
『抜いてみて下さい。その剣は正当な持ち主にしか抜けないから、剣を抜けたらそれはあなたが正当な持ち主である証明になります』
と言うの
言うから抜いたら簡単に抜けた
『あなたのものです。あなたを探して、千年旅しました。もう疲れた。あなたに渡せて本当によかった』
そう言って、消えたの
本当に消えたの。パッと。吃驚した。魔女って本当にいるのね」
「本当にいるのねって、あなた、君が魔女なんだろ」
「それはそうだけど・・・」
充希は自称魔女である。その特性を活かして、「占いの館」でタロット占いをしている。昼過ぎから10時まで。だから帰ってくるのはかなり遅い。普通の勤め人であるぼくが食事を作って一緒に食べる。朝は充希がパンを焼いてくれるがのだが、此方の方が手間だなと思っている。まあ、いいけど
「でも、パッと消えるなんて、あたしの考える魔法の限界を超えてる。あれが魔法ならあたしには無理。本物の魔女って凄いと思った」
「その本物の魔女が高価過ぎる短剣を君にくれた。どういう事だろう?」
「わからない。想像もつかない。千年も旅したって、理解できない。パッと消えたんじゃなければ、もっと現実的な考えも浮かぶんだけどねえ」
その日から、充希は変わった
時々、帰らない日があり、それが長くなって、何日も家を開けるようになった
洋服ダンスを見ると、服も少し減っているようだ
どうしたのか訊いても、適当にはぐらかすか、不機嫌に黙り込むばかりだった
そんな日がひと月あまりあって、ある夜、充希は裸でぼくのベッドに潜り込んできた
終わったあと、充希は言った
「恋人ができたの。愛し合ってる。彼が一緒に暮らさないかというの。それで、お願いがある。勝手なお願いだけど・・・」
わかっている。家を出て行くと云うのだろう。ずっと、そんな気がしていた
「勝手なお願いだけど、今まで通り、もう暫くここに居させて欲しい」
えっ、と驚く
「別れ話と思っていたけど。ずっと君は変だったから」
「別れ話よ。もうあなたのことを愛してない。彼のこと好きなんだけど、まだ一緒に暮らしたくなくて。他に行く処もないし」
勝手な言い草である。しかし、我がマンションは1LDKで、寝室を分けることができない。
「構わないわ。ベッドは別だし」
こうして愛のない同棲生活が始まった
もう充希の食事を作るのはやめたが、それ以外はあまり変わらない
風呂上がりなんかに、薄いネグリジェ姿の美女にうろうろされるのは迷惑に思えたが、時々、ぼくのベッドに裸で潜り込んでくるので、もやもや感は溜まらずに済んだ
「いいのか」
「居候させてもらってるからね、たまにはご奉仕しなくては」
と充希は言うのだが
それから半年ほども経ったある夜、飲んでフラフラ歩いていると、つばひろ帽にサングラスをした女に声をかけられた
「お兄さん、遊ばない?」
「いいよ。幾ら?」
「二万円」
「うん」
とホテルに入った
二万円わたすと、女が帽子を脱ぎ、サングラスを外して、吃驚⁉️
角が生えてて、目が真っ赤なのである
「うわっ」
手を伸ばして、ツノに触ってみる
ハロウィンの衣装かと思ったのだが、本物だった
「鬼なんだ。鬼も最近は生活苦なのか?」
「まさか! 話したいことがあるの。ここなら密談にピッタリ」
「二万円は?」
「それは話が済んでから」
「鬼がぼくになんの話が」
「あなたの同居人のことなのだけど、伝説の短剣を手に入れたと云うのに、使い方も分からないままに振り回されてるだけ。魔女とあの短剣が組み合わされると、凄い力が出るんだけど、あの女は変な男にとち狂ってやりまくってるばかり。短剣の影響もあるけどね。それでね、力はあるけど使い方を知らない魔女を狙って、支那の魔人が日本にやって来てるの。洗脳して、子分にして、力を悪用しようとしてる。魔人だけでも手に負えないのに、魔女の力まで加わったたら、私達でも対抗できない。外国の魔物にこの国で勝手をさせる訳にはいかないの」
成程と、今一分からぬ話だが、一応納得して
「それで、ぼくにどうせよ、と」ときいた
鬼女はバックから、木の剣と小さな木の盾と木の文殊からなる数珠を出して
「これあげるから、彼女を支那の魔人から守ってあげて。ややこしいけど、剣が防具で盾が武器、数珠は首から掛けておいて」と言う
「うんにゃか。ぼくに、その支那の魔人と戦えってか」
「剣は持ってるだけでいい。盾は相手に向けて、エイッとか気合を入れたら何か出る。あなたはまるで使えてないけど、凄い霊力持ってるから、この子供騙しの武器でもそこそこ戦えるはずなの」
「凄い霊力?」
嘘だろって感じである
「あなたがその霊力を使いこなすにはもう二、三度生まれ変わる必要がありそうだけど、とりあえず今回はそれで誤魔化せると思う」
訳の分からない話だが、同居人に危機が迫っているのなら、助けねばならないだろう
「で、どうすれば?」
「終わったら、電話して迎えに行きましょう」
「終わったら?」
「二万円の分ね」
詳しくは述べないが、鬼女のアソコはよかった。ただ、嗚呼っとか言って強く抱かれた拍子に背骨が折れそうになって、ショックでいってしまった
「早いのね」
「いや、背骨が」
「まあいいわ、電話しましょう」
と言われて電話する
「珍しいわね、なに?」
これこれこう云う事情で迎えに行くよ、と伝える
「いいけど、いま裸で彼が風呂から出て来るのを待ってるの。終わってからでいいよね」
「うん、マンションの前に車止めて待ってる。着いたらメールで知らせる」
鬼女の車で充希のいるマンションに向かった
着いてすぐショートメールを送る
やってる最中なのか、返事はない
暫く待ってあと、「拙い」と鬼女が呟いた
「魔人が部屋に入ったみたい。行こう」
と鬼女が駆け出した
鬼女は早い、やっと追いついた時には、どうやったのか、自動ロックのドアが開いていた
エレベーターに乗り、八階にのぼる
部屋の前にキョンシーみたいなのが二体立っていて、鬼女と戦いになった
一体がこちらに向かってくる
盾をかざして「うわっ」と言うと、キョンシーがぶっ飛んだ
もう一体は鬼女がぶっ飛ばした
部屋に入ると、床に裸の男が倒れている。
その向こうのベッドでは、充希が男に抱かれて悶えている
「ガハハ」と男が笑う「この魔女は俺のものだ」
これが支那の魔人なのだろう。猿に似た二百歳くらいの男である
こんなのの何処がいいのか、充希は仰け反るようにして、喘いでいる
男は顔じゃないと云うけれど・・・
しかし、同居人が支那の魔人に犯されるのを放っておく訳にはいかない
盾をかざして「えいっ」とやると空気が揺らぐ感じあって、それだけである
鬼女が近づこうとするが押し戻される
魔力が飛び交っているのか、辺りが滅多矢鱈揺らいでいる
「待って。いいの」と充希が言う「この人凄くいいの。終わるまでまって」
「いやしかし、終わるまでって、こんなのの子供でも孕んだらどうする! 化け物みたいのができるぞ」
「そうか、やっちゃって」
盾を魔神に向けて、「えい、えい、えい」と気合を入れる
鬼女も飛び掛かろうとするが、空気が揺らぐばかりで進めない
魔神が気を取られている隙に、何処から取り出したのか、充希が短剣を手に取って鞘から抜き、魔人の背に突き刺した
「ぎゃぁあ」と魔人が仰け反り、そのまま突っ伏した
ベッドに上がり、魔人の身体を下に落とす
充希が改めて見て
「気持ち悪い。こんなのとやってたなんて」と身震いする
「凄くいいから、邪魔しないで、とか言ってたぞ」
「うん。凄くよくて、あなた達が来てくれなかったら、あのままこいつの性の奴隷になってたかも」と再び身震いする「助かった。ありがとう」
鬼女が、魔人になにか液体を振り掛けて呪文を唱えると、魔人はミイラ化して、埃となって消え失せた
「あなた、せっかく短剣を手に入れたのだから、修行しなければ」
と鬼女が言う
「修行のやり方が分からない」
「座禅を組んで、両手で持ってるだけでいい。あとは短剣が導いてくれるはず」
「やってみる」
「仕事も辞めて専念することね。失業手当は我々が出してあげるから」
「そうなの? 助かるわ。時に、この人大丈夫かしら?」
ああ、と思い出して、充希の彼氏をベッドにあげる。気絶してるだけで問題はなさそうである
「私達は帰る。魔神を倒したから、当分は襲われないはずだから」
鬼女が言い、充希を残してマンションを後にした
帰りにもう一度ホテルに寄ったのは言うまでもない
翌る日、充希が帰ってきた
仕事を当分休み、彼とは別れてきたと言う
もうあんな目には会わせられないから、と
夜、例によって、裸でぼくのベッドに潜り込んでくる
ソッポを向いていると「どうしたの? 抱いてよ」と言う
「昨日みたいな君を見てると、ぼくなんかとじゃ詰まらないんじゃないかと思って」
「ふふ、気にしてるのね。でもね、あなたに抱かれていると、なにか落ち着くの」
と言ってキスする
「それにね、あなたとだって、偶にはいく時もあるのよ。だから自信を持ってね」




