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「おいおいおいおいチョトマテチョトマテ!!」
「あら、懐かしいわね」
「言うとる場合かァ!!」
おいおい、どうなってんの!
ついさっきまで観念しますみたいな雰囲気してたくせに、急にやる気だしてどしたの!?
しかも強い攻撃するってどういうことよ!?
「大きい攻撃ってどういう攻撃!?」
「黙らせりゃあいいだけだろ!!」
リオーネは身構える一方、ジェシカは久米に飛び掛かった!
「遅いわよ」
久米がダークセイバーを発射・・・!
ジェシカは真っ向から受けてしまい、
「ぐはっっっ」
壁に叩きつけられた!
威力が強すぎてか、そのまま伸びてしまっている・・・!
咄嗟に両腕でガードしたおかげで、どうにか真っ二つは避けられたが、これではどうしようも・・・
「・・・ッ!!」
キースは伸びたままだし、ジェシカもノックアウトさせられて、リオーネがピンピンしてるが、火力で打ち勝てるか絶妙なところ・・・
「クソッタレ!!」
こうなったら毒がどうこうとか言ってられねぇ!
撃たれる前にこっちがしばかにゃあ!
「―――あなた」
スピードウィップを繰り出そうとした瞬間。
集会所にヴェロニカを抱えたマーベルさんが入って来た・・・!
「・・・何でぇ???」
何で来た!?表で待機って話じゃなかったっけか!?
こんな時に余計なことを考えたくはないんですけど!
「大きい攻撃、撃たせてあげてください」
「は、はい・・・?」
「私が相手になりますので」
マーベルさんはヴェロニカを抱えたまま、空いた左手を前に出す。
「まあ、相手になるのはわたしだけれどね」
・・・まあ、そうなるよなぁ。
マーベルさんは戦うスキルなんて一つも持ってないだろうし、戦いを避けている。ここは必殺の二人羽織作戦になるよなぁ。
「・・・不思議な感じがしていたけど、あなたたちがそうだったのね」
とまあ、こっちはこっちで気付いていたか。
気を逸らそうと急いで仕掛けてみたものの、テレパシーで読み取るほうが早い。防げなかった。
「何のことだか、さっぱり分かりませんが?」
「この様子だとキリヤくん以外は知らないようね?」
「おっしゃる意味が分かりませんね」
「あくまでも白を切るつもりなのね」
普段は穏やかなマーベルさんの圧が凄い・・・
本気出すとああいう感じになる人なの?
色んな意味ですげぇ怖い。
「それにキリヤくんのことをあなたって言ってたけど・・・そういう関係なの?」
あ、そこも突っ込んでくるのか。
「当然そうなるでしょうね」
「それに子供までいるなんてね」
「愛し合う関係ですから、当然です」
「キリヤくん、まだ高校生とかでしょ?やることやってるのね」
「う、うぅん・・・」
どうせバレてるだろうが、ここで否定すると話がややこしくなる。
かと言ってこういう風に言われると、思うことがないわけでもない。
難しいなぁ、この状況・・・
「魔法が得意なのでしょう?では、私が相手をして差し上げましょう」
煽ってるなぁ。得意でもないのに・・・
「あなたはそういうタイプじゃないでしょ?どちらかと言えば近―――」
「フレアバレット」
ヒュボッッッ!!
ほんの一瞬で生成された炎が、久米の右側頭部を横切っていった。
「・・・へえ」
髪が少し焦げたらしい。指で摘まんだ毛先がチリチリになってる。
俺だったらビビるところだが、久米は真逆。不敵な笑みを浮かべている。
まるで、好敵手を見つけた・・・って感じのソレだ。
「ちょっとおかしいところがあるけど・・・まあ、それはいいわ。今はこの状況を楽しませてもらうだけだし」
「楽しむことなど、何一つありませんが?」
「こういうこと、なかなかなかったからね」
なかなかなかった・・・?
「どんなことを経験してきたのかは知りませんが、他人を傷つけてまで楽しむことなど、ろくなものじゃありませんよ」
「お説教は結構よ。さあ、撃ち合いましょう」
久米の手の前に紫の光が収束されていく。
「・・・いいでしょう」
一方のマーベルさんの手の前は炎が。
・・・こいつはアレだな。
「久々に撃ち合えるねぇ!」
そうそう、ワクワクすっぞ的なアレだ。
テレパシーで感知されてるから、余計なことを思わないでほしいもんだが、もうバレてるんだよな?だったら突っ切っていかないとしょうがないか・・・
ってか、こういうことになるなら、
「おい起きろ!!伸びてる場合じゃねぇ!!逃げっぞ!!」
そう。ヴェロニカが魔法を使うんだ。被害が出ないわけがねぇ。
さっさとこの場から離脱しないとだな!
「リオーネ!!そいつはマーベルさんに任せて、キースを起こしてくれ!!」
「分かった!」
伸びたジェシカとキースを起こして、さっさと離脱する!
「あんたらはさっさとここを出て村へ走れ!!」
「は、はい・・・?」
捕まっていた女の子たちは何を言っているんだみたいな顔をしているが、
「何でもいいから走れ!!さっさと行け!!」
巻き込まれて痛い目見て、文句を垂れられても困る!
「おい、とにかく起きろ!!」
ジェシカを引っ叩いて起こそうとするものの、全く反応がない・・・!
こりゃ完全に気を失ってるぅ!
「いきますよ」
「いや、いかないで!?」
「フレアバレット」
「ダークアロー」
再び炎と闇の魔法が激突・・・!
とうとうおっぱじまった魔法合戦。
転移者対最強赤ん坊。
どっちが最強か今、ここで決めようじゃねぇか?
ってやかましいわ!!!
「なかなかやるじゃない」
ダークセイバーを繰り出すと、
「そちらもやりますね」
「こっちはこうだよ!」
マーベルさん越しにヴェロニカがフレアバレットを三連射。
紫に光る刃に炎の弾丸がバランス良く撃ち込まれ、双方消滅する。
「・・・ダークアロー」
「フレアバレット」
単発の矢と炎が激突。また消滅していく。
「・・・本気、出してないわよね?」
久米は不服な様子で、
「私を舐めてるのかしら?」
マーベルさんとヴェロニカを睨む。
一方のマーベルさんはというと、
「さあ、どうでしょうね?」
と、あっさりかわす。
「気に入らないわね」
そりゃあ、舐められたと思ったらそういう感想の一つや二つ出るよなぁ。
ああ、そんなことより、さっさとジェシカを起こさないと死ぬ!
「本気で来なさいよ。倒してあげるから」
「本気ですか。どうしましょうねぇ」
まあ、そうなるわなぁ。
だって攻撃してるのこっちの人じゃなくて、
「本気がいいなら、やってもいいよ」
そう、抱えた赤ん坊なんだもんなぁ・・・
「後悔しないならね」
するだろうなぁ・・・久米さん。たぶんすると思うんだよ。
「いいでしょう。本気を出します」
「それでいいわ」
「・・・若干私も怖いのですが」
あ、心の声が漏れてる。
「ダークスター」
久米の手の前に再び紫の光が収束していく。
「おっ・・・おお~」
集まっていくにつれて、光が大きくなっていく。ダークアローの比じゃない。
「中級魔法の一つですね」
あれが中級魔法なのか・・・
シンプルに大きい球を作るのか・・・?
「そうよ。あなたはどうするのかしら?」
それだったらヴェロニカもフレアバレットで同じことをしていたような気がするが、それとどう違うんだろう。
いや、違う。少しずつ星形に形が変わってきてる。
なるほど。タイトルどおりの魔法だな。
ってか、それはそれとしてだな・・・忘れがちだが、マジで逃げないと死ぬ!
「私はこうしましょう」
手の前に炎が生まれ、大きくなっていく。
「あら、単純にフレアバレット?中級魔法は覚えてないのかしら?」
いや・・・あの人、そんなことないと思うんですが・・・
だが、それはそうだとしても、動き出しはダークスターとかいうのも、アローと一緒のように見える。最終的に星形とか矢に変化していくだけ。
これはもしかして中級なのでは・・・?
「ご存じないようなので、教えてあげましょう」
大きくなった炎の奥でマーベルさんが鼻で笑って、
「魔法の威力は初級、中級の差ではありません」
「・・・は?」
「扱う者のセンスと潜在魔力量です」
「・・・ご高説ありがとう。腹が立つわ」
腹立つわなぁ・・・
それって”お前、センスねぇ”とか、”魔力の量、少なくない?”と丁寧に言われてるわけだし、そこそこやれてるヤツからすれば腹が立つのも分かる。
しかも、めっちゃ上から言われてるから余計そうだわ。
「これでおしまいにしましょう」
「望むところです」
とうとう撃たれるのか・・・!?
「おい、ジェシカ!!いい加減起きろ!!死ぬぞ、マジでオイ!!」
「キリヤくん、キースが起きない!!」
あっちも起きねぇのかよ!!
「受けなさい!!」
「フレアバレット」
星形に形成された大きな紫の閃光と炎が、それぞれ放たれた・・・
ドギュッ!!!
言葉にならない何とも言えない効果音で、互いが激突する。
闇の星が炎を押そうとしているのは分かるが、
「ふっ、んんん!!」
久米は踏ん張っているように見える。
リオーネもシャインセイバーでモンスターを叩き切ろうとする時、めっちゃ踏ん張っていた時があった。
これもそれと同じか?
ってことはフレアバレットのほうが威力が大きいってことになるが・・・?
「中級魔法でもその程度かぁ」
ヴェロニカががっかりしたような口調で、
「初級で防げるくらいだから大したことないねぇ」
「はあ!?」
久米がすぐさま反応していた。
俺は俺で、やっぱりあれ、シンプルにフレアバレットだったのか・・・などと思っている。
「本当に吹っ飛ばすならね」
ぐんっ!!!
「は?」
突然大きくなった炎に、久米が目を丸くした。
「これくらいやらないとね」
ぐっと踏ん張って魔法を維持しようとしているが、ぐんぐん大きくなっていくフレアバレットに次第に押されていって、
「吹っ飛ばしたってことにならないんだよ」
ぼしゅっ・・・
大きくなったフレアバレットによって、ダークスターが消滅してしまった。
そして炎は久米に迫り、
「・・・負け、た」
その炎に飲み込まれていった・・・