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攻略法が分かったら、そこを突いていくだけよな。
「んじゃま、早速行かせてもらうぞ!」
することは簡単。
「とにかくしばく!」
そう、仕掛けていくだけ!
「仕掛けてくるわよ!」
「分かってる!」
そう、仕掛ける。
だが、単純に仕掛けるだけじゃない。
「そうら、食らいな!!」
スピードウィップで真田を狙う!
「はやっ、うがっ!?」
バチィッ!!
革紐が真田にクリーンヒットする!
「伸二・・・!?」
「いってえぇぇぇぇ!!」
革紐が真田の上着を引き裂いて、体も痛めつけている。
確実にダメージはある!
「まだまだ行くぜ!」
続けてスピードウィップを繰り出す!
「右、次は左!」
久米が指示をするものの、
「う!!」
真田は避けきれずに俺の攻撃を食らってしまう。
「どうして急に・・・!?」
「さあ、どうしてだろうな?俺の考え、読んでみなよ」
ジェシカの攻撃が当たらないのに、俺の攻撃は当たる理由。
単純な話、速さがあるからだ。
スピードウィップは威力はそこそこだが、技の出が速いスキルだ。先制攻撃を取りやすい。
久米は俺の思考を的確に読んで真田に伝える。
テレパシーで読むことにロスはないんだろうが、口頭で伝える、指示を聞く、理解して動く・・・この三段階はロスになる。
仮に口頭で伝える工程をテレパシーに置き換えたとしても、指示を聞いて理解して動くのは時間が必要になる。
それに加えて、人はどうしても目で見てしまう。
いくら情報を知っていたとしても、どれくらい対応すればいいのかを把握するために目で見る。それもロスになってくる。
そして更に、指示を受けて動く奴の運動能力の問題もある。
指示を聞いて理解して動くのを、瞬間的に実行できる身体能力があるのかどうか?
真田がどれくらいできるヤツなのかは知らないが、仮にトップアスリートだったとしても、指示を聞いた瞬間に動くことはできないだろう。ああいうのは相当訓練しないと身につかないはずだ。
二人のコンビネーションは上手くできてる。
できちゃいるが、もっと上手く使いたいなら、テレパシーを覚えるべきは久米じゃなく、真田だったのかもしれない。
このタイムロスと真田の身体能力の差を利用する。
シンプルにスピードがある攻撃で攻めてやればいいわけだ。
「うっし・・・!動ける!」
ナイフを数本、ダークアローを受けて大ダメージを受けていたジェシカだが、回復魔法を掛けて復帰した。
「ジェシカ、俺がこいつを叩く!奥の女のほうをやれ!」
「あたしがあっちかよ。やりがいねぇな」
「言っとる場合か!」
遠距離である上にスピードで負けて攻撃が当たらないんじゃあしょうがない。
無手にもスピードパンチっていう、スピードウィップと同じような性質のスキルがある。無手の場合、使い続ければ速度が上がっていくっていう効果になるらしいが、これを覚えてくれていたらまだやりようがあったかもしれない。
でもまあ、こいつの場合は攻撃力重視だからなぁ・・・考え方が変わらん限りはどうしようもない。
とまあ、それは一旦置いといて、
「意外とやるみたいね・・・キリヤくん」
「案外やるだろ?」
「こいつっ、いでっ!」
スピードウィップで仕掛け続ける!
「・・・なるほど。あんたも状態異常持ちだったのね」
ランドウィップの効果を今更把握したらしいが、
「結構叩いたからな。そろそろ効いてくる頃合いだぞ?」
避けられることもあるが、それでも五、六発は入った。
「複製する隙がなっ、うぐっ!?」
真田が片膝を突いた・・・!
「うげぇっ・・・!!」
その場で嘔吐している。
毒が回ってくれたらしいな。
「・・・えぐいわね、あんた」
「それは俺も思ってるけど、こればっかりはしょうがないだろ」
毒が回って動けなくなってくれたのはいい。
ただ、かなり強烈な毒だ。村でしばいたチンピラみたいにすぐに回ってしまうだろう。
毒で殺さないように気を付けとかないといけない。
できれば麻痺がよかったんだが、セット運用だから仕方がない。
「ぐうぅっ、げぇぇぇぇっ!!」
もがいているが、動けば動くほど毒の回りは早くなるだろう。
「大人しくしてろ。死ぬぞ」
まともに動ける状況じゃないのは分かっているはず。
それでも動こうとするのは何でだ?
捕まりたくない?それとも年下のガキに負けるのが嫌?
まあ、何でもいいけどな。
「おら、大人しく殴られろ」
踏み込んだらすぐに久米に届きそうな距離にジェシカがいる。
「・・・あんた、エルフのくせして闘争心がすごいわね」
「うるせぇよ。とりあえず殴らせろ。な?」
「こうなってくると闘争心じゃなくて、別の何かね・・・」
「それは俺も思ってた」
真田をロープで拘束して、俺も久米に攻撃が届く距離まで詰める。
「相方はもうすぐ死ぬぞ。助けてやってもいいが、条件がある。分かるよな?」
「あたしもバカじゃないからね」
キースは伸びているから、実質二対一。
しかも、距離も詰めている。魔法を撃つより、こっちがしばくほうが早い。
要は降参しろって話になるわけだが。
「ジェシカ、動きがあればすぐ殴っていいぞ」
「動かなくても殴っていいだろ」
「それは最低限ちゃんとしとけ。な?」
どんだけ殴りたいんだ、こいつ・・・ストレスたまり過ぎだろ。
それはともかく、
「リオーネ!!」
外で待機しているリオーネを呼び、
「終わった?」
「ある程度な。下の女の子たちを解放に行ってくれないか?鍵はその辺に放ってある」
「了解!」
リオーネを下に向かわせる。
こいつらの制圧もそうなんだが、女の子たちの救助もクリアしないといけない。
檻の鍵が近くにあるってこともバードアイで把握している。解放することは簡単だ。
「随分、油断してたんだな」
鍵なんか、自分が持っているのが当たり前だと思うが、檻の近くに放っておく辺り、相当警戒が薄いんだろう。
「まあ、村の連中は抵抗する気がほとんどないからね」
「・・・ほう?」
こういうことになっても行動することがない辺り、抵抗する気がないってことにもなるのか。
「戦うスキルを持っている人が少ないのもあるけど」
「・・・話をする手間が省けるな」
的確にテレパシーで読んでくれるから、話がスムーズで助かる。
ただ、やっぱりプライバシーってのが気になるから、無しは無しだな。
「戻ったわ」
リオーネが人質たちと一緒に戻ってきた。
思いの外、疲弊している様子はない。てっきり酷いことの一つや二つされているもんだと思っていたが、身なりはまともに見える。
とりあえず、救助はできた。目的の一つはクリアだな。
「あなた方が村長から依頼を受けた方々ですか」
人質のうちの一人が話しかけてきた。
「あんた・・・もしかして協会の?」
制服っぽい、小綺麗な衣装を着ている。
「はい。私がこの村の協会受付です」
どうやらそうらしい。
「救助いただき、ありがとうございます。事情を理解できていませんので、後ほどご説明をお願いできればと思うのですが」
結構キッチリしてるタイプだな。表情がキリっとしてるところを見ても、それっぽい。
「ああ、後でな。今はこいつらを片付ける」
「片付けるって・・・殺すおつもりですか?」
「いやいや、飛躍し過ぎだ。俺はそんなキャラじゃねぇよ」
口調を強めるなよ・・・マジでそう思われたなら結構ショックなんだけど・・・
「こいつらが主犯なんだろ?だったら、大なり小なり対処が必要だ」
拘束するなり、事情聴取するなり、色々ある。
こっちの世界はどういう対応をするのか分からないから、その辺りはお任せしたいが。
「さて、観念してもらってもいいかな?」
意識を久米に戻す。
「キリヤ、こいつそろそろ死にそうだから解毒するぞ?」
そういえば、真田は放ったらかしにしてたな・・・
「ホント、もう死にそうね」
「ああ、素人が見ても分かるレベルだ」
口から泡を吹いてるし、もうピクリとも動いてない。だいぶ毒が回ったな、これは・・・
村でしばいたヤツもそうだったが、元々モンスターをしばく用の鞭なわけで、そんなものの追加効果なんかキツイのが目に見えてる。
やらかしてるとしても、この様を見ると気の毒に思えてくるのが不思議だ・・・
「さて、観念してもらえるとありがたいんだけど」
そろそろ決着をつけよう!マジで!
もう腹いっぱいだ!
それに怪我したままだし、いい加減回復魔法が欲しい!割と痛いから本気で治癒してほしい!
「・・・そうね」
久米はあっさりしていた。
まあ、俺とジェシカが目の前にいるわけだし、魔法を撃つ前に詰め寄られてしばかれるのが関の山。これ以上続けても、自分が痛い目に遭うだけで、旨味はない。
「よし、表に出よう」
「ただ」
「・・・あ?」
ただ・・・何?
「このまま引き下がるのも悔しいから」
久米が静かに立ち上がって、右手を前に出す。
「大きいの、撃たせてもらうわ」
・・・何で!?