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「まさか、ここまで突っ込んで来られるとはなぁ」
男は随分余裕があるか・・・?
「まあ、所詮その辺のくすぶった連中だもの。仕方がないわよ」
女のほうは葡萄みたいな果物を一粒口に放り込んで笑った。
こいつらが例の転移者か。
見た目は三十代後半か、四十代になったかどうかくらいか?
若いこた若いが、子供が一人いてもおかしくはない年齢だろう。
それはまあ一旦置いておくとして、喋った言葉が分かるってことは、こいつら日本人か・・・?
パッと見は確かに日本人に見える。
だが、どういうわけか、ヴェロニカたちの言葉が分かるようになっているし、別の言語であっても分かるようになっている可能性もある。
だとしたら、日本人じゃないことも考えられるが・・・
「・・・あんたら、一体ナニモンだ?」
今のところ、危険感知も赤が点滅している状態。敵対意思はあるようだが、すぐさま仕掛けようって腹じゃあないってところか?
ちょっと探りを入れてみるか・・・
「お前こそ何者だ・・・?」
男のほうが立ち上がって一歩前に出てきた。
若干ピリついたか?危険感知の赤信号の点滅ピッチが速くなった。
「まあまあ、落ち着きなって」
女がそれを宥めた。
こっちはこっちで余裕があるな。信号は黄色のままだから、すぐさま攻撃してくることはないんだろうが・・・
「あんた、結構若いわよね。高校生か・・・大学生くらいじゃない?」
・・・やっぱり転移者だったか。
こっちじゃあ高校生とか大学生とか、聞かないしな。そりゃすぐ分かる。
「ああ、こっちの子だったらそういう言葉も分からないのか。十八くらいって聞けば分かる?」
同じやり取りをそれなりにしてきてるな、この感じ。
ここまでのことをやってるわけだし、ある意味バカってわけじゃあないんだろう。こっちが地球と一緒じゃないってことは学習済だな。
「・・・まあ、もうちょっと若いかな」
ちょっと向こうに乗ってやろう。
これで何か分かるかもしれない。
「案外やるわねぇ。素人レベルではあっても人数だけは揃えてるから、それなりにやれるとは思っていたんだけど」
「怪我を負いながらも動けるのも驚くけどな」
「褒めてくれてありがとうよ。割と痛いんだ。あんたもどうだい?」
「皮肉も言えるなんて、可愛いじゃない」
連中が上手いのか、俺が下手なのか分からんが、話が割とスルスル進んでいってる感じがする。
「そういうあんたたちの歳はいくつ?少なくとも、俺よりは上だよな?」
ここでボロを出すわけにはいかないが、恐れて話をしないわけにもいかない。問答無用でしばくのは展開として無理矢理すぎる。
少なくとも地球人だってことは分かったくらいじゃあ、対策の立てようがない。
もうちょい何かを引き出したい。引き出せるか?
「あんたたち、こんなとこで何やってんだい?」
とりあえず、会話を続けるか。
「何、とは?」
「どうもここは生活するのに向いてないかなと思ってね。そのベッドも固いだろ?」
皮肉が言えると評価してくれているし、それなりに会話ができそうな気はするが、
「まあ、悪くはないわよ?」
「俺は固いほうが好みでね」
こいつらが戦えるのかだけでも知りたいな。
何かしらスキルがあるのは確定なんだろうが・・・
「俺たちから情報を引き出そうとしても無駄だぞ?」
「・・・あ?」
「戦えるかどうか、知りたいんでしょ?」
・・・何で分かる?
何で見透かされた?
無意識に何かしたか?
目が泳いだとか、言葉が怪しかったか?
「あはは。必死に考えてる」
女のほうが面白そうに笑ってる。マジで面白そうに。
「あんたなら分かるんじゃない?」
「・・・あんたなら、だ?」
「あんたも転移してきたんでしょ」
やたらと俺を転移者にしたいように聞こえるが、言い切るだけの理由がある・・・?
「したいんじゃないの。そうなのよ」
「・・・こいつ」
テレパシー持ちか・・・!
なるほどな。だとしたら納得だわ。
俺の考え事を的確に見抜いている。近いとかそういうレベルじゃなく、俺が考えていることを把握している。
「まあ、そんな驚くことでもないでしょ?これがあれば誰でも取得できるわけだし」
女は上着のポケットからパスポートを取り出して見せびらかして、
「・・・そりゃあ、そういうことだな」
これ以上隠す必要はない。
どこまで読まれるかは定かじゃないにしても、読まれる以上、無駄な抵抗だ。そこにカロリー使ってもしょうがないしな・・・
「んで、さっきの俺の質問なんだけど」
「お前、マジでいい度胸してるな」
男のほうの余裕がなくなってきてる・・・?
態度がどんどん悪くなってきてるように見えるんだが・・・
「相手は高校生よ。ちょっとは大目に見なさいよ」
女のほうは相変わらず余裕があるんだが、これはどう見ればいいんだ・・・?
「ああ、気にしなくてもいいわよ。こいつ、ちょっと短気なだけだから」
「誰が短気だよ」
「そういうところなんじゃないの?」
「そうそう、なかなか話が分かる子じゃない」
シンプルツッコミのつもりだったが、何故か褒められてしまった。割と悪い気はしない。
「俺はああいう生意気なガキが嫌いなんだよ」
あんたも大概だろ・・・などと思ったら、女のほうがクスクス笑った。
これも読んだのか。ってか、読みすぎなんだよ。ずっと読んでるだろ。
「・・・話を戻そう」
これ以上このやり取りは面倒だ。さっさとやることをやりたい。
「あんたらも転移者ってことは、なんとなく噂を聞いて把握していた。だから特に不思議にも思っちゃあいない」
「・・・だから?」
「ちょいと話をさせてもらおうかと思ってさ」
「話・・・?」
「さっきも言ったろ。話だよ、話」
「時間稼ぎかしら?」
「いや、そうじゃない」
軽く左手を振って否定する。
「お互いを知るってつもりじゃないが、あんたらがこの村で何をやってるのかと思ってね。ある程度は向こうで聞いてきちゃいるが、お互い主張があるだろ?」
「・・・なるほどね」
村の連中の主張とこいつらの主張・・・お互い、思っていることがあって、すれ違っている可能性もあるはず。
村の連中が過剰なことを言っているなら、こいつらをしばく必要はない。逆ならしばくのがこいつらになるだけだが、
「主張も何も、あたしたちはあたしたちのやりたいようにやっているだけよ」
女は笑ったまま答えてくる。
「一応、自己紹介でもしておこうか?」
「ああ、ずっと女だの男だので考えるのもしんどくてね」
「何の事情?まあいいわ。あたしは久米 麗香。そっちは真田 伸二。まあ、一応男女の関係かな」
夫婦ではないってことか。そこまでは聞いていたとおりだが。
「一応って何だよ、一応って」
・・・真田とか言ったっけ?なんか不満なのか?
いや、逆に久米のほうが不満なのか?
最早どっちでもいいが・・・
「歳はお互い三十五でね。商社勤めなのよ」
そんなに歳はいってないと思ってたが、二回り近く年上だった・・・
「あたしたち、飲んだ帰りにトラックに轢かれそうになってね」
「お、おお」
俺より酷いヤツじゃないの?それ・・・
「そしたらいつの間にかこっちにいた・・・って感じかな。それはあんたも一緒でしょ?」
「・・・まあ、近いもんだったな」
「それからまあ、結構歩いたわよね。一週間くらいは歩いたっけ?」
一週間は相当だな。
しかも着の身着のままだ。野営できる装備を持ったままならそれなりに耐えられるだろうが、どっちにしても飲まず食わずだし、キツイことは変わりない。
「そしたらバケモノも出るじゃない?もう最後は笑ったわ」
危機的状況になると笑うこともあるが、久米も大概修羅場を潜ったみたいだな。
俺の場合は大したことはなかったが、こういうケースもあり得る・・・いや、大抵がこういう状況に放り込まれると考えると、あんまり笑えんな・・・
「あんたは?」
「俺が思ってることが分かるなら、当ててみな」
「・・・そう、あんたはそんなにキツくなかったんだね」
どこまで読まれるか分からないから怖かったが、割と思ったことがそのまま読み取られている。
精度は割と良くはないかもな・・・
ヴェロニカがすごいのか、久米がイマイチなのか分からんが、この場合は後者かな?
「本当にズルいわね」
「マジでな。持ってるヤツは許せねぇ」
今まで黙っていた真田の信号がとうとう点灯した。
やる気満々か。動機が良くはないけどな。
「まあまあ、待て待て」
戦うのも大概嫌だが、
「あんたらがこっちでエライ目に遭ったのは分かるし、俺が辛い目に遭ってなくて妬むのも分かってやれるが、こっちで何しようってんだ?」
こいつらの目的が何なのか。それを知らなきゃ話を進められない。
「何しようって、さっきも言ったろ」
「あたしたちはやりたいようにやるだけよ」
・・・ダメだこりゃ。