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「思いの外早く着いたな・・・」


 騎獣たちを飛ばして一時間くらい。

 リグーン村に到着した。


 道中、特に何が起こるわけでもなかった。

 確かにバードアイと踏破を使って安全に進むルートを選びはしたが、モンスターに遭遇することもなく、俺たち自身に何か起こるわけでもなかった。

 ずっとこうだったら助かるんだが、それはそれ。


 問題はこの村だ。


「寂れてるって話だったが・・・」

「思いの外そうでもないねぇ」

 吹っ飛ばされてしまってもう無いが、クーピ村も大概寂れていたが、ここリグーンはまだマシっていう印象だ。

 日中だから仕事をしているエルフとヒト族を見かける。子供をあやしている女性もちらほらいて、子供も広場で遊んでいる。年齢層はバラバラだが、人の行き来はそれなりにあるほうだろう。

 限界集落みたいな村を想像してたんだが、それと比べるとまだ人は多い。

 ただ、ボルドウィンの首都なんかと比べるとだいぶ規模が落ちる。家屋も年季が入っているほうが数が多いし、産業も群を抜いて凄い何かってのがないんだろう。

「あなた。この町で商売を少ししてきます。ドッシュをお願いしますね」

「おう」

 商売を探しにマーベルさんが先行して入っていった。

「あたしたちはどうするんだよ?」

 残った俺たちは特に何をするわけでもないんだが、

「ちょっと周りを見て回るか」

 村の雰囲気を確かめておきたい。

「じゃあ、協会に行かない?モンスターの解体はしなくてもいいけど、現状報告くらいはしてもいいと思うのよ」

 ガノダウラスを含めて、デントオーガが一体ある。デントオーガは大して時間は掛からないだろうが、あの恐竜は解体に時間食うだろうなぁ・・・

 ここで解体を依頼したらどれだけ滞在しなきゃいけなくなるか分からん。それだけは避けるとして、討伐報酬を受け取って生活費を補充して、今後の討伐のためにポイントを得て自分を強化するのはいいことだ。

「おし、行くか」

 俺もいくつか試してみたいスキルがあるし、強化のためにポイントが欲しい。

 それに、協会に行けば何らかの情報を得ることもできるだろう。

 と、思ったが・・・

「あれ?閉まってる?」

 協会に着いたが、扉に営業終了の看板が掛けられていた。


 ・・・こういうとこって閉まるの?


 あれっ?おかしいな。閉店か?

 でも今は日中だぞ?もうランチ営業始めてもいいくらいだぞ?それで閉まってるってことある?

 っていうかそもそも、こういう場所って営業中って表現するの?開庁とかじゃなくて?

「・・・なあ、協会って休みとかあるのか?」

 ツッコミどころが満載な気がするが、

「・・・珍しいわね」

「基本的に開いてるけどな・・・」

 ってことは、年中無休に近いのか。

 だったら今日も開いてないとおかしいだろ。たまたま休日に引っ掛かったのか?

「あれま。協会に用があんのかい?」

 エルフのお婆さんに声を掛けられた。

 お婆さんでもえらく美形だな・・・恐るべし。

「ええ、ちょっと換金をしたかったもので」

「そうかい。残念だけど、しばらく開いてないんだよ」

「・・・しばらく?」

 少なくとも今日だけじゃないのか。

「どうしてです?」

「あんたたち、この村の子じゃないじゃろう?だったら聞かんほうがええよ。悪いことは言わないから早く別の町にお行き」

 お婆さんは立ち去って行った・・・

「なんだ?ありゃあ・・・」

 この村の人間じゃないとマズい何かでもあるのか?

 でも協会って全国共通の組織なんだよな?だったらここだけが例外ってことはないと思うが・・・

「キリさん。ちょっとマズいかもしれないねぇ」

「あなた、皆さん。ここにいらっしゃったんですね」

 ヴェロニカが何か察知したらしいが、同時にマーベルさんが姿を見せた。

 ヴェロニカが何をマズいと言っているのかは気になるが、

「どうした?」

 一旦、マーベルさんのほうを処理しよう。少なくとも、俺とマーベルさんだけにならないと集中して会話ができない。

「この村、武装集団の襲撃を受けているようなんです」


 ・・・え、何?

 あれっ、おかしいな。ここって世紀末みたいな世界だっけ?

 武装集団って何よ?


「こちら、リグーン村の村長さんです」

 何でか連れて来てる。

 村長もエルフだ。こっちはこっちでイケメン・・・

「村長さん、お話を」

 何で俺たちが聞く流れになってんだ?余計なトラブルの種持ってきてんじゃねぇよ。

「ワクワク!」

 ああ・・・こっちの大砲は久しぶりのトラブルにワクワクが止まらねぇ。

「近頃、この村の若い衆が武器を持って集まっておりましてな・・・」

「う、うん・・・」

 話が始まったァ・・・!

「武器を持って集まるだけならまだしも、食糧を奪うだけでなく、若い女子たちを連れて行っておりましての」

 どっかで聞いたことがある展開だよぉ・・・

 割とがっしりした体型でそこそこ強いヤツみたいなのがリーダーで、取り巻きを連れてて、とにかく村を牛耳りたいって腹なんだよなぁ、こういう展開のバカは。

 もっと言うなら、連れてった女の子たちの中に好きなヤツがいるんだよなぁ。気を引きたいか、強引に自分の女にしたいっていう痛い思考なんだよ、大抵は。

「この村は他の町や村と比べると財源が少ない。蓄えを持っていかれると冬場を越えられませぬ。女子たちも怯えておるでしょう」

 蓄えが必要なほど、シルフィの冬は寒いのか?

 ってことは、保存に向く何かを育てているんだろう。パッと見、そこそこ畑はあるように見えるが、村民全員をカバーできるくらいの収穫が望めるのかは分からない。

 それにまあ、無理矢理連れていかれて不安にならない女の子はそうそういないだろうなぁ。

「わたしだったら全員跡形もなく吹き飛ばすのになぁ」

 ・・・うん。うち一名は連れて行かれる前に焼き払ってるわ。怖い。

「あなた方は実力のあるパーティとこちらの商人さんから伺いました」

「・・・オイ」

 余計なことを吹き込んだのはあんたか。

「間違えてはいませんよ?」

 色々間違えとるわ!!

 正式にパーティを組んだ覚えもないし、実力があるかどうかとか知らんわ!!

「どうか、女子たちを救ってはいただけませんか?報酬はお支払いします」

 こういう話になったら、そういう流れになるよなぁ・・・!

「報酬はまあ、いいとしてさ・・・」

 キース、案外乗り気か?

 モテたいのか?別にここで良いことしたからって、特別な展開が始まるかは分からんぞ?

「仮に無法者でも、対人は何か処罰を受けちゃうかもしれないわよね・・・?」

「・・・どういうこった?」


 対人は処罰・・・?


「あ?キリヤは知らねぇのか?協会に黙って対人戦をすると、罰せられるんだぜ?」

 ・・・なんじゃそりゃ。初めて聞いた。

「大体、国を挙げた催しとか、闘技大会みたいな場でしか対人戦はしないんだよな」

「ボルドウィンもそうだけれど、シルフィもそうよ」

 対人戦をしてはいけないってことか・・・

 その理由が定かじゃないが、たぶんパスポートで戦闘系スキルの習得ができて、一般人でも戦う術を手に入れることができるのが大きく占めている気がする。

 パスポートでスキルを取得するだけで、剣圧を飛ばして物を傷つけることができる。それをモンスターに向けてくれるならいいが、人に向けることもあり得る。

 下々の争い程度で済むならまだマシだろうが、最悪国家間の争いに発展することもあるかもしれない。

 安全上、対人を封じるというのは当たり前の話かもしれないな。

「そういうの、警備隊とかに連絡したんですか?」

「そういえば、ここにそれらしい連中はいねぇな」

 人が集まって暮らす場所なら、大なり小なり警察くらいはあるだろう。どんな田舎にだって、駐在所くらいはある。大きな事件なら、最寄りの大きい警察署が動くかな?

 ボルドウィン首都には大勢の警備隊がいたし、他の町や村にもそれなりにいたように思えるが、ジェシカが言うように、ここには一人も見えない。

「この村の警備隊は今は不在でな」

「何で?」

「人手不足でな・・・王都に人員を要望しておるが、なかなか回してもらえん」

 人員の要望は王都にするのか。てっきり地元の協会とかで採用試験でもやるもんだと思っていた。

 国ごとで違いはあるかもしれないが、今はまあいい。

 ここの若い連中は取り締まる人間がいないのをいいことに、好き放題できている。これはこれで問題なんだが、

「・・・罰せられるのは嫌だなぁ・・・」

 行くつもりは毛頭ないんだが、協会に話を通しておけばいいなら、最悪それでもいい。

 だが、今日は閉まっている。勝手に締め上げに行ったら処罰される。割に合わん。

「その件については後でどうにかしよう」

「え・・・できるの?」

「できるはずじゃ」

「いやいや、はずじゃ困るんですけど」

 確証が欲しい。ってか、この流れだと行く羽目になるんだが?

「それはワシを信用して欲しい。とにかく、救助してやってくれませぬか?連中が好き勝手して結構な時が過ぎておる。女子たちも限界じゃろう」

「う、ぬぬ」


 言いたいことは分かる。そりゃあ心配なのは分かる。俺も鬼じゃないから。

 でも、俺たちはここの連中とは関係ないし、余計なトラブルに首を突っ込んでエライ目に遭うのは避けたいんだよなぁ。

 国がキッチリ対策しておかないからこうなるわけで、一般ピーポーが警察の真似事なんかするもんじゃないんだよ。基本的な話として、だ。


「報酬は可能な限り出させていただきます」

 お金で解決するような話じゃないんだよなぁ。

「おいキリヤ。どうすんだよ」

「放っておくってのも可哀想だがなぁ」

「女の子たちも心配よね・・・」

 ダメだ。こっちはこっちで同情ムードが凄い。

 さっさと切り上げないと巻き込まれる。

「あなた、ちょっと」

 村長から離れたマーベルさんが手招きしている。

 ・・・嫌な予感しかしない。

「・・・何?」

「報酬はこちらで交渉しておきます。あと、どうやらマナタイト鉱石をいくつかお持ちのようでして」

「・・・はぁ」

 マナタイトって言えば、ランドウィップを強化する時に使ったあの合成素材か。

 あれがあるからどうだってんだ?

「それをいただけるように話を通しておくとすればどうでしょう?」

「・・・それはそれでなんか嫌だなぁ」

 物で解決するってことだろ?明らかにイメージ悪いぞ・・・

「欲しいでしょう?」

 そりゃあ確かに、マナタイトがあれば武器とか防具とかを強化できる。産出量が少ないからなかなか手に入らないって話だし、いくつか持っていても損はない。

 ランドウィップは十分な性能を持っていると思うが、それを更に強化できるかもしれないし、他の装備品に別の効果を付け足すのも悪くはない。

 欲しいっちゃ欲しいけど、それと引き換えだぞってのはどうなんだ・・・?

「キリさん。そのまま聞いて」

 ヴェロニカが話しかけてきて、

「今のこの村に不審な人はいなそうだよ。いるとしたら」


 ・・・あっちか。


 としたら分からなくもないか。

 傭兵のおっさんが言う雰囲気が変わったってのも、若い連中の暴走によるものだとしたら納得できる。

 そこに若い夫婦が絡んでいるとしてもおかしくはない、か。

「・・・はぁ。分かったよ」

 ただの村の揉め事なら放っておくところだが、今回は調査も兼ねている。

 報酬だとかマナタイトだとかってのは関係なし。ホントになしだからな!!

「俺たちでいいなら、行ってみます」

「本当ですか・・・!」

「まあ、俺はそんな強いわけじゃないんで、期待はしないでくださいよ」

 失敗しても責めるなってことだけは念押ししとかないとな・・・

「で、連中はどこにいるんです?」

「奴らは村の外れにある集会所を拠点にしております」

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