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「よし、そんじゃまあ行くか」


 翌朝。俺たちはオアシスを出発。

 時間にして恐らく九時頃か。時計がないのが結構しんどい。


 こっちの時間軸は割と地球と一緒だと思う。あくまでも体感上だが、日が暮れる、夜が明けるスピード感はよく似ている気がする。

 太陽も月も一つずつだし、ある程度は一緒なんだろうか?

 ってことはスマホの時計が使える?

 地球の荷物はヴェロニカに預けっぱなしになってるし、今度暇があれば確認してみてもいいだろう。


 まあ、こっちは時間に対してある程度寛容な一面はあるから、時計を見てきっちり動く必要がないかもしれない。

 朝一集合、と伝えておけば、大体みんな同じ時間帯に起きてくる。早い、遅いくらいは当然あるが、ある程度体内時計が全員揃っていると言ってもいいかもしれない。

 早く起きればゆったり朝飯を食えるし、遅く起きればゆっくりできた。その程度のゆったりした対応がちょうどいい世界なのかもな。


 さて、話を戻すが、

「目指すのはリグーン村だって?」

「ああ、そうだ」

 俺たちはリグーン村を目指している。


 その村はオアシスから少し外れた位置にある。

 首都から多少離れたところにあるっていう認識だが、ドードで移動するには時間が掛かるし、わざわざ赴くほどの用があるわけでもないっていうことで、シルフィ王国の中でも有数の寂れた村なんだそうだ。

 俺たちも用事があるわけないんだが、行きたいと希望したのはマーベルさんで、

「そういう村にこそ商売が転がっているんですよ」

 ということだ。

 まあ、分からんでもないか。

 寂れているってことは村の産業もある程度絞られているわけだし、商品を必要としている人は多いだろう。特にマーベルさんは日用品だけじゃなく、モンスターの素材も含めて色んな物を扱っている。いい物があれば飛びついてくる可能性は高い。

 それにまあ、寂れている場所ならヴェロニカの親もいる可能性が高い。寂れているってことは、潜伏しやすい一面もあるからだ。

 逆に人目につくから目立つ可能性もあるから、その辺りは考え方次第と言ったところだが、今回は向かう価値があると思われる。

「よく手に入れたねぇ、その情報」

「まあ、ざっとこんなもんよ」

 話は昨晩まで遡る。


 *


「さて、と」

 ジェシカは部屋に戻ったか?

 聞かないほうが良かったなぁ、なんて思うが、とりあえず話も終わったし、これ以上深入りしないようにしよう。

 せっかく外に出たし、何か情報でも集めてから戻るとするか。


 一人になったわけだし、俺は俺なりに動いてみる。

 日中は大勢で動いているからしたいことはなかなかできないし、ジェシカとリオーネがやかましくて集中もできない。

 ヴェロニカの世話もそれなりに必要だし、いくらマーベルさんが手伝ってくれるとは言えど、一人でできることも限られる。

 こういうタイミングを逃さないってのも、この生活で学んだ。

「・・・あの辺は商人か?」

 体感上、時間は九時くらいか?

 酒を飲む大人たちにとっちゃあちょうどいい時間か。割と表に人が出ている。

 焚火を挟んで反対側に、ジョッキを片手に集まっている大人たちがいる。今のところ三人か。

「すみません、ちょいと話いいですか?」

 エルフのおっさんが二人と、ヒトのおっさんが一人か。

 リラックスタイムだからか、武器を持ってない。戦闘職じゃないからかもしれないが。

「あ?おう。何だ?」

 危険感知の信号が三人とも黄色に変わった。

 完全に敵と認識してるわけじゃないし、シンプルに警戒しただけだろう。

「皆さん、首都から来られたんですか?」

 ここで止まっても仕方がない。話を進めることにしよう。

「おう、まあな」

 オアシスの位置はシルフィ首都に近い。ある程度予想していたことだが、当たっているとマジで助かる。

「坊主はどこから?」

「俺はボルドウィンからです」

「おー、そうか。俺たちはウトに向かってる途中なんだ」

「俺はその護衛だ」

 エルフの二人は商人で、ヒトは戦闘職で護衛、か。

 思いの外少ないパーティなのか、それとも他にも商人のような同行者がいて、他のメンツは寝ているとか?

 まあ、そんなことはどうでもいい。

「で、話って何だ?」

「首都に変わった夫婦がいないかどうか聞きたくて」


 本来の目的であるヴェロニカの親探し。これをこそこそ進めていくことにする。


 エルフが大半を占める国にヒト族の夫婦がいて、しかもそいつらがワケ有りであるっていうのはなかなか確率が低いと思うが、行くところまで行きゃあいるだろうし、探っておいても損はないだろう。

 山奥にいるとか、海沿いに新しく越してきたヤツがいるとか、そういうのもあるだろうし、地元民もうろつかない穴場みたいなのもあるかもしれないしな。

「変わった夫婦か?」

「何だ?何か因縁でもあるのか?」

 こういう話を好む層もいることはいるし、こういう反応もあるだろう。

「まあ、色々ね」

「何されたんだ?」

「金を奪われてね。その置き土産に子供を置いてトンズラですよ」

「・・・酷い話だな」

 まあ、嘘ですけどね。

 でもまあ、こっちでもこのテの話を酷いと思う人がいるみたいだし、多少安心はするかな。

「強盗はあることはあるが、子供を置き去りにするってのはなかなか聞かないよなぁ?」

「ああ、俺は聞かないな。お前は?」

「俺もないな・・・」

 強盗はあっても、非人道的なことをするのはなかなかいない、と。

 強盗も大概、非人道的な行いだが、あくまでもここの非人道ってのは子供を捨てるほうに重点を置いているということで。

「シルフィも人口は多いからな・・・そういうのがないわけじゃないだろうが、珍しいことは間違いないだろうな」

 ボルドウィンも平和のように見えたが、シルフィも治安はいいほうなのか?

 首都だからある程度治安はいいっていうのはあるかもしれないが・・・

「あ、そういえば・・・アレとかどうだ?」

 ヒトのおっさんに何か思い当たる節があるらしく、

「傭兵仲間から聞いた話だが、リグーン村に変な夫婦がいるらしいんだ」

「・・・変な夫婦、ですか」


 これはまさかの手がかりか?


「どういう夫婦なんです?」

「いや、そこまで詳しくは聞いてないんだけどな。割と若めで、それなりに金は持ってる風貌だったって話で、そいつらが来てから村の様子が変わったらしいんだ」

「・・・村の様子が?」

 様子が変わるってのはどういうこった?

 そりゃあ、新しい人間が入ってくれば多少雰囲気は変わることはあるだろうが、今の話だと村全体に影響が出ているように聞こえる。そんなこと有り得るのか?

「その二人は武器を持って戦ったりとかしたんですか?」

「いや、俺もそれ以上は聞いてなくてな。そいつも知人に会いに行った時に見て感じた程度だったらしいし、どこまで本当か分からないぞ」

 確証はないか。


 だが、ほとんど情報が無い中で影響を感じたってことは、その二人が噛んでいるって推測も現実味が増してくるか。


「情報どうも。これでもう一杯やってください」


 *


 ってな具合で情報を手に入れた。

「よく見知らぬ人たちに話しかけに行ったねぇ」

「まあ、結構ドキドキするけど、難しいわけじゃない」

 ゲームだと見知らぬ誰かに話しかけることで、いい情報を得たり、攻略のヒントを得たりすることもある。

 ここはラヴィリアっていう現実世界だが、そういうことは現実でもよくあること。あちこち移動する商人たちは広い情報網を持っているだろうし、町で暮らす人たちはその土地の詳しい情報を知っている。

 それを聞き出すことができれば、次の動きを決めやすくなる。

「ちなみに、情報提供料はいくら払ったんだい?」

「千五百フォドルだな」

 酒は一杯五百フォドルほど。どういった種類の酒かは知らないが、大体の相場はそれくらいだ。

 一人一杯おごっておけば、そんなもんだろう。実際、話を聞いた三人も不満を漏らさなかったし。

 情報が本当、かつヴェロニカの親がいたら相当ラッキーだが、何も無ければ手痛い出費になる。この辺りは仕方がない話だが・・・

「寂れた村にわたしの両親がいるのかなぁ」

「行ってみにゃ分からん」

 ただでさえ雲をつかむような話だ。一つや二つの空振りは当たり前・・・いや、寧ろ必然と思わにゃ話が進まん。

 覚悟を持てって話になるわけだ。結局のところ。

 旅の目的がそれなわけだし、今後も続くだろう。

 それはそれでいい。いや、仕方がないっていう言い方が正しいが、

「寂れた村にいるかもしれないけど、他所から移り住んでる可能性だってあるだろ。そこの出身じゃないかもしれない」

「それはまあ、確かにそうかもね」

 ヴェロニカを捨てて逃げているとしたら、移り住んでいるってのが妥当だろう。それ以外に理由が見えない。

 リグーン村が寂れているから嫌だとか、そういうのは言ってない。決して。

「気になるのは村の様子が変わったところだねぇ」


 ヴェロニカが言うように、気になるのはそこだ。


 両親であるかどうかは一旦置いておくとして、村の雰囲気が変わるってのは何かがあるように思える。

 良い風に変わるのなら別に問題はないだろうが、護衛のおっさんの話から察して良い風じゃあない。悪いほうに聞こえた。

 なら、その二人が何をしたのか・・・いや、逆にされているのか?

 とにかく、見てみないことには変わりないな。


 何もなきゃあいいんだが・・・

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