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「よし、日が暮れる前に着いたな」


 オアシスに到着した。

 デントオーガを倒してからは特にモンスターとの接触はなく、二回の休憩を挟んだが、特にトラブルもなく辿り着くことができた。

 いや、まあ、トラブルがないわけじゃないんだけどな?

 ここで言うトラブルってのはドードが動けなくなったとか、やたら強いモンスターと遭遇して命辛々助かったみたいなことを言う。


「とりあえず、宿の確保からいくか」

 オアシスの門を潜って、一旦ドッシュから降りる。

「あなた、私が宿の確保に行ってきます。フェリーチェをお願いします」

「あいよ」

 ヴェロニカを受け取ると、マーベルさんはドッシュから降りて、そのまま宿舎へ。

「よし」

 ヴェロニカを抱っこする形でだっこ紐を施して、

「俺たちは騎獣を預けてこよう」

「そうだな」

 さすがに一人でドードを三頭、ドッシュを二頭は無理だ。

 オアシスに泊まる場合は他のメンツにも手伝ってもらっている。

「あんたは自分で全部やってくれ」

「・・・分かりました」

 とりあえず、アイシャを牽制しておく。


 揉めて以降、特に会話を交わすことはなかった。


 まあ、相当険悪な雰囲気にはなったからな。そうなって当然とも言える。

 過ぎたことだから水に流すのもできなくはないんだが、事が事なだけに心情として難しいのが正直なところか。

 仮に俺は大人になってもいい。だが、一番大人になれないヤツがいるから質が悪い。

 ジェシカもアレ以降、アイシャと関わろうとはしなかった。元々、自分から関わることはほとんどなかったんだが、より拒絶を強めたと言ったほうが正しいか。

「あなた、皆さん。お部屋が取れましたよ」

 ドッシュたちを預けて宿舎に入ると、マーベルさんが鍵を持って待っていた。

「荷物を置いて食事にしましょうか?」

「・・・そうだな」

 そろそろ日も暮れる。移動もそこそこ掛かったし、腹もいい具合に減ってる。

「みんなはどうする?」

 とりあえず、みんなの意見は伺っておくが、

「今日はもう仕舞いだろ。たまにはゆっくりするのも悪くはないしな」

「賛成」

「そうだな」

 キースたちも同じ流れでいくらしいし、

「よし、それでいこう」

 別に何かしないといけないことがあるわけでもないし、その流れに乗っかるのもいいだろう。

「じゃあ、早速荷物を置いてくるわ」

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 キースたちが先に宿舎に入っていった。

 俺は少しずらす。

 やることは一つだけ。

「なあ、アイシャ」


 この怪しい女である。


「今は団体行動中だからな。俺自身も割と腹が立ってるから、こういう方法を執ったわけだが」

 最後にもう一回牽制しておく。

「俺たちだったからまだこれで済んだだろうが、他の連中はどうかは分からんぞ。どういう仕事をしてるのかまで聞かないし興味もないし、聞いたら聞いたでどうなるか分かったもんじゃないから聞きたくもない」

「・・・ええ」

 正直に言えば後者の意味合いが強い。

 事情を聞いたらまだ譲歩の余地があるかもしれない。だが、内容が悪すぎたら引くに引けなくなる可能性だってある。

 俺一人だけなら最悪それでもいいんだが、そもそもヴェロニカの件で動いているわけだし、足かせになったら元も子もない。ここは聞かないがベストだろう。

「あんたとの付き合いもここまでだ。明日からは別行動にしてくれ」

「分かっています」

「まあ、あんたに借りがないわけじゃないからな。一応、礼の一つは言っておく。俺たちをオアシスまで連れて行ってくれて助かった。ありがとうよ」


 それだけは助かったと素直に思っている。

 俺たちだけだったら、辿り着くのに時間が掛かっていただろうし、下手すりゃ別のモンスターに襲われる可能性もあっただろう。満身創痍でもう一戦ってのは無謀が過ぎる。

 ガノダウラス戦での件は置いておくとして、恩がないわけじゃあないからな。そこだけは認めておこう。


「・・・はい」

 あまり表情で読めないが、何かしら思うことはあるだろう。

 だが、これ以上は踏み込まない。

「じゃあな」

 アイシャと別れて、俺も宿舎へ。

「済みました?」

 マーベルさんがロビーで待っていてくれた。

「分かります?」

 キーを受け取ると、

「まあ、それなりに付き合いは長いですから」

 そう返してくれた。

「キリさんも厳しいからねぇ」

 今まで黙っていたヴェロニカだったが、

「俺ってそんな厳しいか?」

「そこまできつくはないけれど、きつい時はきついね」

 思うところはあるらしい。

 そこまできつく当たったつもりはないんだけどなぁ。

「やったことがやったことですからね。仕方がないでしょう。実際、ヴェロニカさんが間に合わなければ全滅していましたからね」

「それはまあ、そうだろうけれど」

「まあ、その話は一旦切り上げよう。部屋に荷物を置いて、飯に行こう」

 当たりがキツイのも自覚はある。もっと言い方があるってのも分からんでもない。

 これ以上、この話を広げてもぐずぐずになるだけだ。追々話をするのはアリだとしても、今は追究しなくてもいいと思う。

「今日もおいしいミルクを頼むよ!」

「分かってますよ」

 まあ・・・この件を追究するとしたら、アイシャじゃあなく・・・


 *


「よう」

 飯を終わらせて風呂を終わらせて表に出た。

「・・・おう」

 表でオアシス側が焚いている焚火の前に、ジェシカがいた。

「何か用か?」

「特に用ってのもないんだが」

「じゃあ何なんだよ」

 いつも思うが、何でこいつはこうもケンカ腰なんだ?

 こいつ、損するタイプだとは思っちゃいたが、そういうところじゃないか?

 まあ、それはそれでいいわ。こういう性格なんだろうし、今更矯正のやり様がない。

「アイシャとのことを聞きたくてな」


 ここしばらくの問題のタネだったアイシャ。

 こいつらの関係を追究する必要性はないだろうが、関わった以上、気になることは気になるし、いつまで続くか分からないこの関係であっても、多少の影響は避けられない。

 気にならないようにすることはできるが、こいつはこいつで悩んでいるように見えるし、話の一つや二つくらい聞いてやってもいいだろう。


「あいつのことを?」

「何かあったんだろ?」

「・・・別に、なんもねぇよ」

 こいつは話そうとはしない、と。

 そんなに因縁があるヤツなのか?

「まあまあ、そう言うなよ」

 雑に切った丸太を地面に転がしている。

 ジェシカの隣に移動させて座り、

「別に言いたくないならないでいいけどよ。ここしばらくお前、割と態度に出てるからな」

 こいつ、良くも悪くも分かりやすい。

 明らかにアイシャを良くは思ってない。俺も大概だが、マーベルさんたちも気にはしている。

「一緒にいる以上、あんまり空気が悪いのも嫌だからな。気を遣う」

「・・・おう」

「どこまで付いて来るのかは分からんが、一緒にいる以上、面倒な事は一つでも少ないほうがいいからな」

 そもそもこいつが面倒くさいってのはあるんだが、これを言うとまた面倒くさくなるから伏せる。当たり前か。

「話せる範囲でいい。何があった?」

 全部を話すのも難しいし、アイシャはもうついて来ないから聞かなくてもいい。だが、ここ一連の流れで気にならないこともない。

 あとはこいつがどう思うかだが、

「・・・あたしがベルーシュ出身だってことは話したよな?」

「おう」


 お?話す気になったか。

 てっきりだんまりを決め込むと思ってたんだが。


「あいつも同じ出身でな」

「ってことはアレか。幼馴染とか、そういう関係か」

「歳が近いから、避けられないからな」

 まあ、同年代なら接触の機会は多いだろう。村っていう小規模の範囲なら余計に。

「あいつは結構何でもできてな。勉強も体術も、同期の中じゃ一番できた」

 ポールを作る様子と、調査隊とやらに入れる実力から察して優等生タイプだと思っていたが、本当にそうらしい。

「そんであいつは村長の娘だ」

「・・・マジかよ」

 偉いさんの娘か。

 まあ、村長も子供の一人や二人くらい作るだろうし、誰かはそういう肩書を持ってる人間の子供になるわけで、珍しいことじゃない。数は圧倒的に少ないだろうが。

「一方のあたしは学校じゃ下の下、一般家庭の子だ」

 こいつ、成績悪かったのか・・・

 でも、不思議と納得できるのは何でだろうか?

「別に家柄とかはどうでもいい。あたしはそんなもんは気にしちゃいない。だが、事あるごとに成績で突っ掛かってきてな」

「突っ掛かる・・・」

 成績のことで問題なんかあるか?

 別に成績がいい、悪いことで何もないだろ。中にはそれをネタにするヤツもいるだろうが、アイシャはそういうタイプじゃないとは思うんだがなぁ。

「例えばどういう?」

「もっと本気出せばできるだろうとか、色々な」


 本気を出せばできるだろう・・・?


「あたしだって本気でやってることはやってる。なのに、あいつは決まってそう言うんだ」

 何でそんなこともできないんだとか、そんなの幼稚園児でもできるぜとか、そういうのは想像しやすいし、言われる可能性は高いかもしれん。

 だが、こいつの場合は逆か。

「・・・そういえば」


「・・・やればできるんだから。あなたは」


 ペグを作っている時、ぼそっと言っていたな。

 ああいうのを言ってるのか。

「そりゃあ確かにあたしは雑だし、適当に済ませることだってある。でもな、あいつにそこまで言われる筋合いがねぇんだよ」

「そりゃごもっともだな」

 だが、できることを知ってるってことだよな・・・?

 それは根拠がなきゃ言えないことだ。

 アイシャなりに何かしらの根拠があるはずだが、それはこいつには見えていないわけか。


 こう言うと申し訳ないが、確かにこいつは優等生タイプじゃない。


 やりゃ出来ることは出来るんだろうが、不器用なタイプだろうし、一回で出来るタイプと比べりゃ習得も遅いだろう。今までの付き合いでもそれくらいは分かる。

 モンスター討伐でも不器用な立ち回りだったのも確か。考え方の相違はあるだろうし、実際そういうスキルもあるからできなくもないにしても、自分から傷つくような動きは必要ない。

 そもそも、向き不向きの話で言うなら、こいつは接近戦向きのタイプじゃない。


 こいつの良さは回復力の高さ。

 意外と攻撃を受け切っているし、見切る力もある程度あるとは思う。

 そういうのをどうにか活かせたから格闘家としてどうにか成り立たせることはできたが、本来ならヒーラーとかのほうが絶対に向いている。こういう稼業を続けるなら、向いているほうを活かしたほうが長続きするだろうし、パーティを組みたい連中からしたら欲しい人材になる。


 ・・・実はアイシャはそういうところを把握してるのか?

 それとも別の根拠があるのか?

 何にしても、アイシャに聞いてみないと分からないな。

 まだ同じ場所にいるし、聞き出そうと思えば聞き出せるが、別れた後は顔を見せてない。わざわざ聞きに行くのも、あれだけ突っぱねた以上行きにくい。

 クソ。もうちょい早く動いておくべきだったか・・・?

「本当に鬱陶しいんだよ。ああいうことを事ある度に言われるのが。他の連中はできるわけねぇとかうるさいしよ」

 アイシャは高評価しているようだが、他の連中は逆のリアクションか。

「あたしはあたしだ。これが普通だし、これ以上やりようがねぇ。なのに周りがうるせぇ。だから嫌いなんだよ。アイツもそうだし、村も嫌いだ」

 良い反応と悪い反応が混じって、それが耳障りになる。

 アイシャのことも大概だが、こいつの場合は村が嫌いってほうが強いかもしれんな・・・

「そういうこった。あたしとあいつの関係は」

「・・・そうか」


 骨肉の争いとかじゃあないだろうが、思いの外規模が広い上にこじれてる。

 アイシャも思うところがあるなら正面から言えばいいのに、それをしてこなかった。ジェシカも素直に聞くことができなかっただろうな、この様子なら。

 この件・・・結構闇が深いな。


「そういうことだからよ。もう放っておいてくれ」

 そう言って、静かにジェシカは宿舎に戻っていった。

「・・・ううん」

 解決が難しいな。

 本当に解決するなら、お互いきっちり向き合って話をさせるほうがいいんだろうが、ここまで頑なならジェシカのほうが席につかないだろう。アイシャも素直に話すとも限らないし。

 今更どうしようもないし、聞くべきじゃなかったか・・・?

 余計なことに足を突っ込んだような気がする・・・

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