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「そっち行ったぞ!!」

「おう!!」


 翌日、北上を再開。


 再開してすぐ、デントオーガという大型モンスターに出くわした。


 身長三メートルくらいで線の細い、一つ目のモンスターだ。

 形状からしてゴブリンみたいな人型だが、あっちと比べると腕や足の一部が太い。どうやら太い部位での質量打撃を得意としているパワー系のようだ。

 討伐報酬は40万フォドルで、ハンマーバードと同レベルの強さになる。

「キース!ジェシカ!」

「分かってる!」

「挟み込むんだろ!」

「私は今のうちに撃てるようにするわ!」

 連日の立ち回りの確認と練習が効いたのか、動きと連携が良くなっていた。


 考えた末、キースは防御主体の立ち回りとした。

 素早く動くよりもどっしり構えるほうが良く見えた。だからガードを覚えてもらい、受けるダメージを軽減させる。

 そしてカウンターを覚えてもらった。

 このテのゲームではメジャーな内容だが、相手が攻撃を始めた瞬間に発動し、逆にこちらから仕掛けられるスキルだ。

 個人の能力でできることだが、スキルの場合は確率で完璧に発生するらしく、完全に避けながら攻撃ができて、かつ通常よりも与えるダメージが多いというお得スキルだ。

 確実に見極められるならそれに越したことはないが、ある程度の機動力は必要。キースの場合はそこまで機敏に動けるわけじゃないから、スキルで発動させたほうが確実。キースの場合、トールやジャンと比べても攻撃力があるように見えるから、与えるダメージが多くなるのも旨味がある。

 カウンターに関してはジェシカも取得できるならするべき内容ではある。ただ、あいつの場合は元々の攻撃力が低い上、避けない。避けられないんじゃない。避けない。

 普通、攻撃なんか受けないほうがいいに決まってるし、下手をしたら致命傷を負うかもしれないわけで、常識的に避けるほうが優先順位が高い。

 それでもどうしようもないから受けるわけだが、避けられる攻撃をわざわざ受ける必要はない。


 あいつ、受けることに何かこだわりでもあるのか?

 確か命のやり取りをしていることがどうとか言っちゃあいたが、それにしたって頭がおかしい。

 それこそこだわりとか、信念とか、そういう何かがあるようにしか思えん。

 もしくはドエm・・・


 いや、あいつのことはどうでもいい。どっちにしたって頭がおかしいことには変わりない。

 攻撃スキルも一つ覚えたかったところではあるが、ガードとカウンターのスキルをそれぞれレベル2まで上げたことでポイントが無くなった。攻撃オプションは次回になる。

 ただ、ガードとカウンターのコンボが割とイイ感じに機能していて、初めて戦うオーガに対しても、多少のダメージを受けてはいるが、カウンターで攻撃を加えることができている。


「撃つわよ!」

 一方のリオーネ。

 リオーネはキースと同じく攻撃スキルの習得は保留として、魔力増大と回避性能をそれぞれレベル2まで習得した。

 それぞれ分かりやすい内容で、魔力増大は当人の基礎魔力量を増やし、回避性能は敵の攻撃を完璧に避けるというもの。

 基礎魔力量が増えれば、魔法を撃てる数が増えるということ。魔術師にとって最優先で取得したい内容であると言える。今まで何で取得しなかったんだって尋ねたところ、どうも攻撃スキルを優先し過ぎた上、そこまでモンスター討伐できていなかったことでポイントが間に合わなかったらしい。

 よく今までどうにかして来られた・・・いや、そこはリオーネがしっかりしていたからどうにかできたのか。

 その辺はまあいい。話を回避性能のほうに切替える。

 回避性能も文字通りの内容で、回避力を上げるもの。

 これの場合、機動力を上げるっていう話じゃあなく、回避運動中に無敵時間が設定されるようで、例えば攻撃を避けるためにジャンプしたとしたら、そのジャンプに無敵時間が設定されて、その時間中に攻撃が当たったとしてもヒットしないというもの。

 当たってるのに当たってないみたいな、時空が歪んでるのか?みたいな解釈だが、どうやら本当にそういうものらしい。

 ガノダウラスとの一件でアレからブレスをもろに食らったが、身体的にもそうだが、メンタル的にも相当効いたようで、攻撃と補助だけじゃなく回避も必要だと痛感したという。

 どれくらいの無敵時間かは検証してみないと分からないが、例えレベル2で十秒であったとしても、その間は攻撃を受けないわけだし、リオーネにとっては重要度の高い選択だっただろう。


 総合的に攻撃力と生存力を上げる結果となって、これでより多く魔法を撃てて、攻撃が飛んできたとしても避けられる可能性が高くなった。

 リオーネはより効率的に魔法を使うほうに舵を切るかなと思っていたが、話を聞いて意外だった・・・というのが正直なところ。

「シャインアロー!!」

 それでも、回避性能が付いたことで魔法に集中できる一面もある。言わば保険。安心して動けるっていうのは重要だしな。


 俺とジェシカはポイントの余りが無いから変化はないが、二人の能力が上がったことで総合的にパワーアップはできている。

 ジェシカは積極的に攻撃を仕掛けて、俺は隙を縫うようにしばいて状態異常を与える。


 今の実力で最大限できることができている。

 首都の協会で精算をしたら、追加でポイントが入る。そこから更に追加で強化を入れられればもっと良くなる。

 やっぱりこの世界で上手く活動するためには、積極的にモンスター討伐する必要がある。

 今後の旅でどうするかはまた別問題だが、その点に関しては認めざるを得ないか。


 まあ、それはそれでいいんだが、

「よっしゃあ!!」

「うっし!!」

 デントオーガが倒れた。

「ふう・・・」

「お疲れさん」

 腕と足を乱暴に振り回すから時間が掛かったが、それでも体感では二十分くらいで終わった気がする。

 俺たちの立ち回りが良くなって、40万レベルだとそう苦戦せずに倒せるようになったのかもしれない。

 問題は・・・

「素晴らしいです、皆さん」

 やっぱりこいつ。アイシャである。


 こいつ、今回の戦闘でも手を出さなかった。

 本当に戦闘向けのスキルを覚えてないのか、ジョブが違うのか、そもそも関わるつもりがないのか?

 関わるつもりがないとは考えづらいが、ここしばらくの行動を見ていると戦闘ジョブじゃない可能性もあるかな、と思える。

 分からないから苛立つこともあるんだが、

「おいアイシャ」

 ジェシカがアイシャの前に立ち、

「一体どういうつもりだ?」

 そうか・・・俺よりもジェシカのほうが溜まってるよなぁ。

 などと思っていたら、

「どういう、とは?」

「テメェ、狩人のくせして今の戦闘も手ェ出さなかったな?」

「・・・はぁ???」


 こいつ、戦闘職だったのか・・・!


「えっ、アイシャさん狩人だったの?」

「だったら何で手伝ってくれなかったんだ?」

 そう、ごもっともな反応である。

 狩人ってことは弓の使い手だろう。狩人に設定してるってことは、大なり小なり戦闘する覚悟はあるだろうし、その必要があるってことのはず。

「ガノダウラスの時もそうだ。テメェ、近くにいやがったくせに攻撃することもしないで観察してたらしいじゃねぇか。終わったらノコノコ出てきてオアシスまで案内するとか、ワケが分からねぇ。だから聞いてる。どういうつもりなのかな」

 ジェシカが言うくらいだ。狩人であることは間違いないだろう。

 だったらガノダウラスの時も今も手伝える。デントオーガに関しちゃ大して手こずってないから良かれよしても、下手にすると全員恐竜の腹の中ってことも有り得る。いや、ヴェロニカとマーベルさんが戻って来なかったらそうなっていた。

 こいつ一人で状況が一変するとは思えないが、魔法以外の遠距離もありがたい攻撃力だ。気も散らしてくれるし、大した火力じゃないとしても、いないよりいるほうが絶対にいい。

「・・・どういうつもりも何もないわよ」

 少しの間、沈黙が流れたが、

「あ?」

「私は任務でここにいるの。上からの指示で動いているから、それ以外で動くことは極力避けるようにしないといけないのよ」

「ああ!?何だそれ!!」


 ・・・うーん。分からんこともないが、なぁ・・・


「テメェ・・・ふざけんな!!」

 ジェシカが殴りかかろうとしたが、

「やめとけ、ジェシカ」

 すかさずジェシカの上着の襟足を掴んで止めた。

「止めんな!!」

「いや、止めるわ。一応な」

 手がブルブル震えてたから、殴るかもと予想がしやすくてよかった。

「ふざけんなキリヤ!!こいつのこと腹が立たねぇのか!?」

「ああ、そうだな。割と腹が立ってる」

「だったら一発くらい殴らせろ!!」

「お前のそういうとこ良くないぞぉ。マジで」

 殴りたい気持ちは分からなくもないが、

「こいつを今こんなところで殴ったって状況は変わらねぇんだよ」


 元々殴る気はないんだが、腹が立つのは間違いない。

 少なくとも知り合い以上で何かしら因縁があるであろうジェシカは尚更。


「こいつを殴ったところで何も変わんねぇだろ。ちょっとスカッとするくらいか?でも、それ以上どうなる?」

「どうなるったって・・・」

「ここ何日かをなかったことにできるか?ガノダウラス討伐を手伝ってくれるのか?んなわけねぇだろ?」

 時を戻そうってのができれば、バードアイで居場所を突き止めて、引っ張り出して討伐を手伝わせるってのができるだろうが、そんなことができるわけない。

 まあ、仮にできたとしても、俺はどうでもいいんだが・・・

「こいつをどうこうするったって、もうどうしようもないんだよ。だから放っとけ」

「ほっとけってお前・・・!」

「大人になれって言ってんだ。こういうヤツもいるんだよ。どこまで行っても」


 やたらテンションが高くてうるさいやつ。

 土足でズカズカ人の領域に踏み込んでくるやつ。

 他人を蹴落としてでも自分の利益を追求するやつ。

 陰でこそこそ他人を陥れてるやつ。


 挙げりゃあ他にも色々とあるが、そういうやつはどこにだっている。ボルドウィンだっているだろうし、これから行くシルフィ首都にもいるだろうし、他の大陸にだっているだろう。

 アイシャも漏れなくそういう系統なわけで、ラヴィリアも地球と大差ないってことがこういうことでも分かる。

 こういうヤツの対処法なんて大してない。

 実害が出てるなら法に頼ることはできるが、こいつの場合はどうすることもできない。だから放っておくしかない。

「おいアイシャ」

 これ以上ジェシカを宥めるのは嫌だ。面倒くさい。

「あんたとの縁もここまでだ。次のオアシスで俺たちは離脱させてもらう」

「ちょ、ちょっと待ってください。私にも都合がありますし」

「んなこと知るか」

 そりゃあ当然、そっちにはそっちの都合があるだろう。

 例の調査隊とか、女王様にどうとか、俺には到底分からん思惑があるんだろう。だが、そんなモン知ったこっちゃない。

「お前がお前の都合を優先してたように、俺も俺の都合を優先する。そりゃあそうだろ?お互い、自分が大事だからな」

 パスポートでデントオーガを回収して、

「お前はお前の仕事をやったんだろ?だったらそれに文句はない。ただ、ああいう時は助けに入るのが思いやりのある行動だと俺は思うんだよ。まあ、俺たちは見ず知らずの他人だからいいとしても、ジェシカは知り合いなんだろ?それを見捨てるような真似をするんだ。大したもんじゃねぇよ」

 目の前でバケモノに食われそうになっている連中を見殺しにするってのも、なかなか狂った都合だけどな。

「次のオアシスで俺たちは離脱させてもらう。少なくとも俺とマーベルさんはな」

 マーベルさんはどう思っているかは分からないが、ここは一旦巻き込ませてもらう。一応、まだ妻って役割で一緒にいるからな。

「ジェシカたちは自分で決めろ。こいつについて行くなら行くでいい。俺は止めない。ただ、そいつは何考えてるか分からんぞ」

 鞭をしまって、ドッシュの背中に乗る。

「マーベルさん、行こう」

「ええ、そうしましょう」

 何か思うところがあるのか、マーベルさんはドッシュを動かすことに迷いはなさそうだ。

「あたしも行く」

 ジェシカはすぐにドードに乗った。

「お二人はどうするんです?」

 キースとリオーネがまだ残っている。

 アイシャは二人だけでも連れて行きたいようだったが、

「まあ、お別れさせてもらうかな」

「あなたの本当の気持ちがどうなのかは分からないけれど、今は信じられないからね」

 二人も離れるらしい。

 まあ、そりゃあ妥当なところだろう。

「この辺もまだモンスターがいる。次のオアシスまでは一緒でもいい。でも、それが最後だ」

 バードアイでざっくり確認したが、別のデントオーガと、見たことのない昆虫系モンスターなんかが見えた。

 仮に丸腰であったなら、一人で放っておくのも危ない。何かあったら夢見が悪いし、ある程度安全が確保されているオアシスまでは一緒になるのは飲もう。

 本当なら放っておきたいところだが、ガノダウラス戦の後、一応はオアシスまで連れて行ってもらったわけだし、恩は返しておかないとな。

「・・・分かりました」

 不本意なのか、それとも罪悪感でもあるのか?

 多少落ち込んだように見えるが、これも演技なのかもしれないし、正直腹も立ってるところもある。ジェシカたちも巻き込んでるし、この流れのまま行かせてもらうか。

「よし、行こう。次のオアシスまでは遠いぞ」

 本当ならどこか適当な場所で野営をするつもりだったが、予定が狂った。

 まあ、安全に進むことを優先するってことでいいだろう。

 しかしまあ、こいつは本当に何を考えているのか全く分からん。とんでもない奴と一緒にいたもんだ。

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