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 北上を始めて三日目。

 俺たちはオアシスで一泊している。


 道中、休憩や野営を挟んでいくことで、どうしても食料が減っていく。

 食料に関しちゃ保存食を使っていけば長期の野営にも耐えられるし、水はアクアを使えば事足りる。だが、身体的疲れは溜まっていく。

 俺はそれなりに慣れているし、一週間くらいなら耐えられるとは思うが、俺以外は慣れてないし、女子は特有の悩みもあるだろう。

 特に赤ん坊は清潔にしないといけない一面もある。

 全てを解決するのはオアシス・・・立ち寄らないというのは難しいというわけだ。

 まあ、ゆっくりすることもできるし、お金さえ出せば料理も出てくるし酒も飲めるし、溜まった洗濯物もクリーニング屋に丸投げすることもできる。ある程度の安全も確保されているわけだし、頼らないという手はないところもある。


 まあ、たまにはガス抜きはしとかないとな。

 そろそろヴェロニカにも魔法をぶっ放させてやらないと、後がどうなるか分からんな・・・これは別問題だから難しいところだ。


「せっ!!」

「うおっ」

 外でジェシカとキースが模擬戦を行っていた。

「チッ、固いな・・・!」

「くそっ、上手く動けない・・・!」


 目的は二人の立ち回りの確認と、長所と短所を確認するため。


 キースにスキルの組み立てを依頼されたからその確認ってのが主な理由。

 ジェシカの時みたく、本人がどう動きたいのか、どういう動きが得意なのか、それを把握しないことにはどのスキルを選ぶべきか判断できない。

 それに、本人は機動力重視で動きたいし得意だと思っていても、逆の場合もある。

 ジョブの選びなおしほどじゃなくても、やり直しも気軽にできるものじゃないし、余計な手間も掛けたくない。真剣にやって損はない。

「キース、もっと派手に動けるか?」

 立ち回りを見るのも今回が初めてじゃない。

「おう、やってみる!」

 依頼を受けた翌日の野営でも見たし、モンスター相手の立ち回りも見てきた。


 その中で見えてきたのは、キースは機動力重視じゃないってことか。


 以前出会ったトールとジャンよりも、キースはガタイがしっかりしてる。

 そりゃあ、ガタイが良くても動きが早いヤツはいるんだけど、キースはその逆。

 派手に動き回るような立ち回りもできなくはないし、それなりにできているように見えるが、それよりも堅実な立ち回りのほうが合っているような気がする。


 ジェシカと一緒の立ち回りになるかってなったら、そういうわけでもない。


 あいつの場合、何でもかんでも受け止めているんだが、キースはそれなりに攻撃を見切れている。いや、ジェシカのヤツは見切った上で受けてるのか?

 いや、今はアイツのことはどうでもいい。

 とにかく、見切った上で受けている印象だ。なら、同じガード向けの味付けでも、スキル選びは変わってくるだろう。

「ねえ、キリヤくん」

 どういう風に組むか悩みどころ。

 考えているところにリオーネがやってきて、

「どうした?」

「白魔術師の場合はどういう風にスキルを覚えたらいいのかしら?」

「・・・どうした、悩んでんのか?」

「まあ、少しはね」

 意外と言えば意外ではある。

 キースは標準。ジェシカが不器用。リオーネは優等生。そんなイメージ。

 リオーネは結構よく考えて動いているし、魔法であることは前提だが、火力も出ている。そんな悩むことなんかなさそうに思えるんだが、

「魔法は火力が出るのは間違いないけど、前衛の人次第で立ち回りも色々工夫が必要になるでしょ。その辺りが難しくてね」

 ・・・なるほど。そういう悩みか。


 確かに、立ち回りが難しい一面はあるのかもしれない。


 火力は安定して出せるにしても、その立ち回りは基本的に後衛でいることが前提になる。

 前衛がキースみたいなガード型ならどっしり構えて魔法を撃てるだろうし、逆に動き回るタイプだと自分も動かないといけなくなるし、撃ち込む隙もしっかり見ておかないとフレンドリーファイアすることも考えられる。

 魔術師も割と気を遣っているんだな。

「火力で撃ち抜けば大体片付くけれどね」

 ・・・手元の大砲は脳筋タイプか。

 それができるからなかなか反論できんのが何ともだよなぁ・・・

 今はまあ、それはいいとして、

「そうだなぁ・・・魔術師の場合は・・・」

 キースもそうだが、リオーネにも大概世話になってるし、考えるとするか。

 特にジェシカの世話は本当に助かったし、スキルの組み立てくらい考えてやらんと罰が当たるわ。

「そうだなぁ・・・」

 これはこれで悩ましい。

 まあ、こういうのは大体、方程式は決まっちゃいるんだけども。

「私も混ぜてもらってもよろしいですか?」

 パスポートでスキルの確認を始めてすぐ、アイシャがやって来た。

「・・・別に構わんけど」

 食器の片付けをしに離れていたんだが、終わって戻ってきた。


 しばらく一緒にいるが、こいつの考えがイマイチ読めない。

 こっちに都合が悪いことを仕掛けてくることはない。アイシャ自身の目的として、女王に俺たちを紹介したいってのがあるわけだし、俺たちに反感を買うようなことはしてこないだろう。

 だが、何かこっちを探っているのも間違いはない。

 俺のことを探ってくることもあるし、ジェシカの様子を観察していることもある。割合としちゃあ後者のほうが多いが、それにしても行動に謎が多い。

 害はないから放置するしかないってんで、スルーしてる状態なんだよなぁ。

「・・・魔術師は魔法を扱うことが基本だろ?」

 とりあえず、話を進めていくしかないか。

「リオーネが使う魔法は光魔法と無属性魔法。それからグロースとシールドみたいな補助魔法。攻撃と補助魔法を上手く使い分けられる。バランスの問題はリオーネ自身の好みだが、魔法の習得の方向性はそれでいいだろう。問題は魔法に対する補助だな」

「魔法に対する?」

「魔法を上手く扱うためのってイメージだな」

 どういう風に伝えると分かりやすいのかが分からんが、

「光魔法なり補助魔法なり何でもいいんだが、それをより上手く扱えたほうがいいに決まってる。より上手く扱うためには、扱うためのスキルが必要だ」


 白魔術師と黒魔術師は共通のスキルとして、高速詠唱ってのがある。


 高速詠唱はジョブを設定したら誰にでも備わるスキルで、探検家で言うところの踏破と同じカテゴリになる。

 これは魔法を撃てるようになるまでに掛かる時間を短縮するっていうスキルだ。俺がエアニードルを撃つのに一分掛かるとしたら、魔術師だとそれよりも早く撃つことができるってわけだ。

 具体的な時間が分からないのは、パスポートに明記されていないことが大半だが、この高速詠唱にも個人差が発生するらしいってのも一枚噛んでいる。

 撃てるまでの時間に関しては置いておくとして、そういうスキルがあれば、隙を少なくすることができるし、より早く攻撃することができる。

 そういうスキルを覚えていくことで、自分の立ち回りをよくすることができる。

 だから、そういうことを考えていかないと、いくら実力があっても上手く立ち回れない。せっかくのセンスや実力を発揮させることが難しい。

 スキルの組み立ては思いの外重要度が高いってことだな。

「リオーネはジョブの設定が終わってるから、魔法を早く撃つことはできてる。だから後はより上手く扱うためのスキルを覚えていく必要があるってことになるな」

 となれば、選ぶスキルは分かりやすい。

「例えばこの魔力節約なんかがイイ例だな」


 魔力節約。文字通り、使用魔力の節約をするっていうスキルだ。


 シャインアローを一発撃つのに百の魔力が必要だとして、例えばスキルを得ることで八十で撃てるようになるとしたら、結構な節約になる。余った分でもう一発撃つチャンスが生まれるし、リオーネの場合は補助魔法も使えるかもしれない。

 魔術師は魔法が肝だ。撃てない魔術師に価値はない。一発でも多く撃つためのスキルは習得しておくほうが得だろう。

 まあ、魔力節約の場合、魔法だけじゃなく他のスキルにも影響がある。だから魔術師以外も通用するわけで、魔術師だけが習得するものではないっていう一面もあるから、俺やキースみたいな前衛タイプでも余裕があれば習得しておくに越したことはない。

「色々考え方はあるんだけど、得意を伸ばしておくってのは重要だぞ」

 育成系とかシミュレーション系のゲームだと、長所を伸ばして育成する方法がある。

 攻撃が得意なユニットなら攻撃系、防御が得意なユニットなら防御系の調整をすることになるが、攻撃が得意なユニットの防御力を高めるより、攻撃力に振る。防御系ならその逆。持ち味をより活かすための理論になる。

 もちろん、攻撃と防御のバランスが良い場合もあるだろうし、機動力とか魔力の問題もあったりするだろうから、一概に極端に振ることはないが、得意を伸ばすというのは重要だ。

 どこかで聞いた話だが、いかにして相手に自分の戦法を押し付けられるかが重要って話だが、この話も通じるものがある。

「リオーネは魔力節約も覚えながら、他のスキル・・・例えば見切りなんかもいいと思うけどな」

「見切り?」


 見切り。クリティカル発生率を上昇させるスキルだ。


 クリティカルが発生すれば、一発の攻撃で与えられるダメージが割り増しになる。

 剣とか拳とかよりも火力が高い魔法攻撃だから、クリティカルが発生したらより火力が増す。相手に与えるダメージも増えるわけだし、旨味はあるだろう。

 クリティカル発生は割と運というか、ある程度の確率の問題もあるし、確実に発生しないことを踏まえると、起きたらラッキーくらいの程度だろうが、ないよりあるほうがいいに決まってる。

 まあ、もっと上手く使うためには元々のクリティカル発生率の高さを事前に把握しておくことが重要で、例えば基本が三割発生だとしたなら、スキルを習得して更に伸ばすのも視野に入るが、無しなら習得するのももったいない。他のスキル習得に回したほうがいいだろう。

 最終的に本人の考え方次第だが、スキルポイントに余裕があるなら、振っておいて損はないスキルであることは間違いないけどな。

「なるほどね・・・勉強になるわ」

「まあ、あくまでも俺はそういう振り方があるって提案してるだけだ。絶対にそうしろとか、しないとダメとかは言わないぞ」

「分かってるよ。参考にするわ」

 リオーネに限って、参考にした末に失敗して、責任を追及してくることはないだろうが、念押ししとかないとな・・・全く、生きづらい世の中だわ。

「なるほど・・・そういう考え方なんですね」


 ・・・なんだ?急に?

 今まで黙ってたから放っておいたのに、急にまた喋り始めたぞ・・・


「・・・寧ろ俺が聞きたいな。お前ら、普段どういう風に考えてスキルを選んでるんだ?」

 今の発言だと、何かしら探りを入れてる気がする。

 だったら、こっちも探りを入れてやろう。

「うーん。私はあまりそこまで深く考えてないっていうか、他の人もそうなんじゃないかな?」

 いや、リオーネが答えちゃったら意味ないんだが、

「・・・そうなのか?」

 それはそれとして、今の回答は気になる。

「あの二人もたぶんそうなんだけど、生活が掛かってるでしょう?だからそこまで深く考える余裕がなくてね」

「・・・なるほど」

 そういう一面もあるか。

 結局、スキルを得るためにはポイントを稼がないといけない。

 ポイントを稼ぐためには普段の生活だけじゃなく、モンスターを狩らないといけない。

 モンスターを狩るためには基本的なスキルが必要。

 この方程式が出来上がってしまっているから、倒すための基本的なスキルが優先されてしまって、補助スキルに手が回らないのか。

 考え方次第だが、補助スキルを得ることで立ち回りが楽になることだってある。ある意味、基礎スキルよりも補助スキルのほうが優先度が高いと俺は思ってるんだが、そこまで考えが回らないくらい活動に余裕がないってのが現実ってことか・・・

 そりゃあそうか。今までの経験上、普段の生活よりモンスター討伐のほうがポイント取得量が多い。


 いや、寧ろモンスター討伐じゃないとポイントなんてほとんど入らない。


 最初のうちは生活を続けるうちにポイントが入ることもあったが、今じゃあ無くなったレベル。入ったとしても1ポイントとか2ポイントとかそれくらいだった。

 だが、トカゲから始まってカッターマンティスまで狩ったことで、余裕が出るくらいポイントが入った。ガノダウラスはまだ協会に報告してないし、そっちの分のポイントも相当入ってくるだろう。

 モンスター討伐のほうがポイントを手に入れやすいとなったら、やっぱり討伐しに行かないといけないわけだが、当然死ぬかもしれないわけで、そこまで到達しないのが現実か。


 となりゃあ、やっぱり如何にしてモンスターを討伐するか。ここが重要になってくる。


 当人の実力があればそれである程度まではこなせても、ガノダウラスみたいな災害級はもちろん、パラライズバイパーやカッターマンティスなんかは難しいはずだ。

 難しい内容であってもこなすためには、スキルだけじゃどうしようもない。それこそチート級の能力じゃないと無理だ。


 そこで必要なのは人海戦術。仲間だろう。


 一人で難しいことも、複数人で掛かれば楽になる。

 単純に火力も上がるし、注意を散らせるから生存率も上がる。前衛後衛だけじゃなく、攻撃役、回復役と役割も分担できるから、それぞれの仕事に集中できる。

 大型モンスターも討伐しやすい。討伐できる確率も上がる。


 俺の考え方が正しいかどうかは分からんが、方向性は間違ってないはず。

 これにこの世界の連中がどれくらい気付いているかだが・・・

「いや・・・」

 一定数はいるかもしれない。

 鋼の剣の連中はパーティを組んでいた。

 あの連中がその方程式に気付いているのかどうかは分からないが、何かしらの思惑がなければパーティを組むことはない。

 ハンマーバードを討伐できるくらいの実力はあるってのは証明されているし、入手できるポイントの多さが強さに繋がるところも不透明ながら立証できているはず。


 まあ、ここにいる連中はレッドゴブリン大量発生から続いている縁で一緒にいる状態だ。ずっと一緒じゃないだろう。

 ここから先、ジェシカたちがどういう風に活動していくのか。今後も誰かと組んで動いたほうがいいと思うが、それは本人たち次第。俺がどうこう言える立場じゃあない。

「で、お前はどうなんだよ?アイシャ」

 リオーネの話で考えさせられてしまったから、アイシャの考えを聞けていなかった。

「まあ、私も同様ですよ」

「・・・へぇ」

 自分の情報を明かさない、か・・・?

 それとも本気でそうなのか?

 どっちにしても気は抜けないか。

「キリさん。キリさんが思っている二択だと前者だよ」

 ・・・いよいよ気が抜けんな。

 こいつ、本気で俺たちをどうするつもりなんだ?

 本当に女王に紹介するだけなのか、それとも別の何かがあるのか・・・?

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