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 翌日、北上を再開。


 キースが朝まで起きて警戒しつつ、焚火を維持してくれていたおかげで、割と快適に寝られた。疲れていたのもあるだろうが、周りに戦える人間がいるってのは大きいのかもしれない。


 朝食は焚火を利用したパヌと干し肉の炙りで軽く済ませて、コーヒーを一杯。

 朝飯は簡単なモンでいいのよ。


 焚火の始末はしっかりめに。

 やり方は人それぞれだが、俺は可能な限り薪を燃やして灰にする。

 火吹き棒があればピンポイントに空気を焚火に送り込んでやれるから、燃焼を促進させられる。だが、こっちにそんな便利グッズがないから、最近買ったカッティングボードで扇いで燃焼を促している。

 ほとんどを灰にしたら、火ばさみとかで粉々に砕く。小さくすればするほど冷めるから、熱を放出させる意味でやっている。

 最終的に掘った土なんかを被せて、そこに水を掛けて消火。ここは賛否あるだろうが、ここで焚火をしましたっていうのが一目で分かるようにしている。後から来た誰かが見て分かるほうが警戒できるからだ。


 まあ、焚火の後処理談義は置いとくとして、野営の片付けを済ませて、全員で首都を目指して移動をしているというわけだ。


「なあ、ヴェロニカ」

「どうしたんだい?」

 今日はヴェロニカを俺が負ぶっている。

「ガノダウラスを送り込んできたあのアホ、覚えてるよな?」

「ああ、あの魔術師だね」

 話したいことはあの黒魔術師のジジイのことだった。

 マーベルさんに預けたままだと、自然に話ができない。まあ、テレパシーで解決するかもしれないが、周りの目もあるし、可能な限り自然に話せる状況にしておきたい。

 だから今日は俺が負ぶっているわけだ。

「あいつ、瞬間移動ができるのは確定なんだけど、ああいうのは転送でもできるのか?」

「あー、なるほどねぇ」


 ヴェロニカは転送で危機を脱出させてくれた。

 あれとは原理が違うが、瞬間的に長距離を移動できるっていう内容は一緒。

 であれば、あれは転送を応用している何かだと俺は思っているんだが・・・


「あれは転送とは別物だね」

「ほぅ・・・」

「あれからわたしも考えてはいたんだよ」

 あまり尋ねたりしなかったのもあるが、ヴェロニカなりに考えてはいたらしく、

「わたしのは転送を応用しているっていうのは以前話したけれど、下手をしたら体が真っ二つになっちゃう」

 そういう話だった。すげぇ怖いことしてるなこの人って思った。

「だけど、あの人の場合は別物だね。すごく安定してる」

「安定、か・・・」

 あの黒いゲートは確かに安定しているように見えた。

「たぶん、あの黒い何かは出入り口を固定している、一種の扉なんだろうねぇ」

「ふんふん」

「あれがあるから安定して移動できるし、たぶん距離も時間も無視できるんじゃないかなぁ?」

 ヴェロニカも同じ考えにたどり着いている。

「あれはなかなか脅威だよねぇ」

 口ぶりはそう聞こえないんだが、

「いつでも好きな時に好きな場所に移動できるし、音もしないからわたしたちは分かりにくい。ガノダウラスみたいな大きいモンスターも移動させられる。脅威と思わないほうがおかしいよ」

 ゲートの大きさを変えれば、大型モンスターも引っ張り込めることを忘れていた。


 神出鬼没。

 移動距離無視、時間無視。

 大型モンスターも転送可能。


 これは一種の戦略級スキルだ。


 これを上手く使えば色んなことができる。

 色んな場所に行くだけならまだしも、災害級の大型モンスターを首都に放り込んで破壊するなんてこともできる。ガノダウラスがいい例だろう。

 戦争を起こすなんて大層な想像をするつもりはなかったが、国一つ滅ぼしてやるなんて過剰な思想を持っても、起こすにはそれなりの理由や状況を作り出さないといけない。

 だが、大型モンスターを一頭放り込めば・・・いや、一頭と言わず、好きな数を放り込めばいい。入れたら入れた分、そいつらが好きに暴れてくれる。気が済むまで、体力が尽きるまで大暴れしてくれるだろう。この方法なら理由も状況も用意しなくていい。


 あいつがそこまで考えているかは分からない。もしかしたら考えているかもしれないし、これから思いつくかもしれないし、もうやったかもしれない。

 まあ、今のところそういう事例を聞いたことがないからやったことはないんだろうが、思いついてしまった以上、緊張感は跳ね上がる。

 俺たちの前でこれ以上酷いことをしないでもらえればそれでいいんだが、あいつの頭のネジ、そこそこ外れてるような気もするし、やらないことはないだろうなぁ・・・

 実際、一度やってるわけだし、やらないってことはないだろうなぁ・・・

「ああいうスキルはないから、どういう風に使っているのか気にはなっているんだよ」

「・・・ない?」

「ないね。例えばわたしの転送は、以前に説明したように、純粋に転送っていうスキルを突き詰めて応用したもの。可能な限り安定した出入口を作って、自分たちが通る」

 集中しないとゲートが閉じてしまって、体が挟まったままだったら真っ二つっていうやつだな。

「転送移動には限界がある。ゲートを作ることでいっぱいいっぱいになるから、長距離移動ができないんだよ。わたし一人だけだったとしても、せいぜい小さい町の端から端へ行くくらいかな」

 一人だけだったとしても、せいぜい数キロくらいか。

「それと比べれば、あの黒い扉は次元が違う。自分を過大評価するわけじゃあないけれど、わたしでもあれと同じことはできないよ」

 ヴェロニカでもできないなら、相当なもんだな・・・

「だからおかしいなぁって思っているんだよ。できる人でもあのレベルになるとできないはずだし、かと言って目の前でできているわけだから、わたしもできないとおかしい」

「・・・となりゃあ」


 もしかしてアレか?

 まさか神力なのか?


 となれば納得できる。

 バードアイを例に挙げるが、あれも通常のスキルとはかけ離れた性能だ。風とか水の簡単な魔法を使えるようにするとか、そういう次元じゃない。超長距離まで視認できる能力なんて、普通のスキルの性能を軽く超えている。

 あの黒いゲートを使った移動能力も飛び抜けて高い。となりゃあ、神力の可能性が濃厚になってきた。

『その可能性は低いだろう』

 ・・・などと考えていたものの、アポロはそうではないらしく、

『神力を詳しく伝えるならば、二つに分類される。我が与える神力はあくまでも地上のスキルの延長線上にあるもの・・・と言えば分かりやすいか?我のバードアイも危険感知を更に広範囲、詳細に把握できるように性能を引き上げたものだ』

 となりゃあ、転送も可能性は高いと思うが。

 っていうか、そういう話も初めて聞いたんですけど・・・

『転送は痕跡があることが前提で使用可能なスキルである。背中にいる赤子は髪の毛を転送元に残している故、荷物の出し入れ先を設定できている。だが、あの男が使っている転送はどこでもゲートを作り出すことができる可能性が高い』

 神力があくまでも延長線上にあるものだっていうなら、転送に近しいとしても、ベースが違うという判断もできるか。

『恐らくヤツは神から直接能力をもらっている』

 ・・・それが残ったほうの神力か。

『アルテミナ様をはじめとしてリュクス殿、モーナ殿の三女神から与えられる神力は、地上のスキルとは関係の無い内容とすることも可能である』

 ということは、転送を超えた内容にすることもできる、か。

『そういうことである。故にヤツの能力は神から直接与えられた神力である、と我は考えているのだ』

 誰がああいう面倒な能力を与えたんだ?

 いや、今はそれを論じている場合じゃないし、そこを追求したところで解決にはならない。知りたい気持ちはあるけども。

『しばらく警戒は必要であろう。少年も考えている通り、ヤツは神出鬼没。バードアイで周辺を観察しつつ進むが良い』

 ・・・そうするしかないか。

『少年を殺すつもりはないようだが、殺すつもりもあるような動きも気にはなる。この先はどうなるか分からんぞ』

 心配してくれてありがとうよ。気が重くなる。


 しっかし、毎日毎日、どんどん余計な情報が増えていく。

 スキルだの神力だの、結構頭が痛くなるよなぁ・・・

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