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13-1

「よし、これでいいか」


 夜が深まってきた。

 体感上、恐らく午前二時とか三時くらいだろう。


 俺は焚火の維持と警戒のために起きている。


 夜は思いの外寒いし、焚火から発生する熱は重要な熱源。

 熱をため込む形にタープを組んでいないから逃げていく量のほうが圧倒的に多いが、無いより有るほうが絶対にいい。

 熱源としてだけじゃなく、獣避けとしても機能するし、維持管理は重要になる。

 炎を絶やさないように、適度に薪をくべて維持をしていく。


 それから周辺警戒。

 ある意味、これが最も重要。


 あの神出鬼没の黒魔術師のジジイ。

 あいつはいつどこから出てくるか分からない。読めない。

 一度だけの接触ならまだしも二度あったわけだし、三度目、四度目と襲撃してくる可能性は高い。となりゃあ、当然警戒する。

 だから番をしてるわけだが、

「・・・起きてたところでなぁ・・・」


 困っているのはあの神出鬼没を可能としている、黒い沼だ。


 正式名称が分からんから何とも言えんが、あれは一種の扉とか、ゲートとかそういう表現のものになるんだろう。

 アレの質が悪いところは、あの視認性の悪さだ。

 一度目、二度目は空中に出ていたからよく見えたが、あれを暗がり・・・例えば物影とか倉庫の中とか、暗い場所に出されたら見つけにくい。今みたいな闇の中も例外じゃない。

 距離や時間を無視して移動できる能力も大概だが、あいつは本当にヤバい。

 今の状況なら圧倒的にこっちが不利だが、

「バードアイ」

 こっちにはこれがある。

 広範囲だろうがピンポイントだろうが調べることができるこの能力は、今の状況だと便利だ。

 今日気付いたことなんだが、暗闇でも詳細に見ることができた。

 日本じゃ鳥目なんて言われることがあると思うが、夜は見えないと思いがちだろう。だが、実際はそうじゃなく、ニワトリ以外は見えてるらしい。

 アポロの能力っていうより、神力の性能の高さの問題かと思ったが、実際は夜でも見えているとなると、バードアイ自体は超広範囲、超詳細の両方を見ることができる能力と考えると自然だろう。

 まあ、そういう都合はいいとして、あのゲートもバードアイで見つけることもできる。問題はそれを俺が都合よく見つけられるかどうかがカギになる。

 俺が起きている間に出てくるのかどうか、だな・・・

「おう、キリヤ」

 キースが起きてきた。

「そろそろ代わるか?」

 一応、キースと交代で火の番をするっていう話にしていた。

「ああ、そうだな」

 このパーティの中じゃあ、魔術師を除いて安定した火力が出て、かつ堅実な立ち回りができるのがキースだ。

 火の番は正直誰でもいいが、もし何かが襲ってくるってなったら、ジェシカみたいなスロースターターや俺みたいな弱火力、そして特殊な立ち回りが要するメンツより、安定感のあるキースのほうが適している。

 そういう都合で、先にキースに寝てもらって、深夜帯に交代するっていう話にしていた。

「火の番を続ければいいな。一応警戒もしておくけど」

「おう」

 バードアイがあるならまだしも、闇の中での生の視力に頼った警戒は限界がある。

 直近まで接近してきた相手に対して立ち回ってもらえれば十分だ。

「じゃあ、しばらく頼む。何かあったら呼んでくれ」

「おう」

 まあ、この辺り一帯にヤバそうなモンスターはいなかったし、よっぽど悪い状況にならない限りは大丈夫だと思うが・・・

 あまり時間もないし、とある人物を除いてみんなしっかりしてるし、ここは任せるとしますか。

「なあ、キリヤ」

 寝袋をめくった後、キースから話しかけてきた。

「どうした?何かいたか?」

 バードアイでざっくり見たが、やっぱりこの辺りには何もいない。

 あのバカジジイの姿も、ゲートも見当たらない。

「強くなるためには何が必要だと思う?」

「・・・どうした、突然?」

「いや、どうしたも何もないんだけどな」


 急にこんな話を切り出すとか、一体どうしたんだ・・・?


「ちょっと前にガノダウラスと戦っただろ?」

「おう」

「自分の実力の無さを痛感してなぁ」

「・・・いや、待て待て待て」

 あれを引き合いに出すのはやり過ぎだろ・・・

「あんなモンと渡り合うとか難しいだろ・・・」

 街の一区画くらい軽々吹っ飛ばすパワーがあるし、巨大な体躯で機動力もそこそこある。三十人掛かりでようやっと倒せるとか誰かが言っていた。

 あれは一種の災害級のモンスター。ああいうのと渡り合うのは難しい・・・っていうより、普通は如何にしてやり過ごすかとか、遭遇しないようにするかとかを考えるもんだと思うが。

 やっぱり世界観の違いかね・・・?

「いやな、マルエテくらいならなんとかなるようにはなったが、それも武器の性能のおかげだろ」

 麻痺属性付きの武器で動きを縛りつつ、隙が生まれたら袋叩きにする。

 この戦い方は武器ありきだ。性能のおかげというのは間違いじゃない。

 キースがそれを理解してくれているのは助かるが。

「それでも、パラライズバイパーとかガノダウラスとか、でかいモンスター相手だとなかなか難しいし、どうにかしないとなと思っちゃいるんだが、なかなかなぁ」

「・・・うーん」


 なかなか悩ましいなぁ。この話は。


 この世界だと、大型モンスターを避けられない。だからそういうのと戦うのが当たり前になる。

 だが、この世界の人間は俺みたいな標準的な能力らしい。マンガみたく念じればモンスターを引きちぎるくらいの超能力があったり、とんでもない怪力で持ち上げて遥か彼方に投げ飛ばしたりする能力があるわけでもない。

 同時に何でもかんでも一刀両断する剣だとか、串刺しにする槍だとか、どんな攻撃も防げる盾だとか、そういうチート武器もない。

 ヴェロニカとか、あの頭のおかしい黒魔術師ジジイとか、特例は一定数いるとしても、俺たちみたいな一般人はなかなかそうはいかない。

 それでもやらなきゃダメだってところが辛いんだよなぁ。

「ジェシカも出会った当初はアレだったけど、キリヤに見てもらってからだいぶ変わったろ」

「・・・意外なことになぁ」

 どうにか戦える状態になっちゃあいるが、あれはあれで弱点があるし、良いか悪いかって話はいつかしなきゃいけない時がくるかもしれないが。

 それは置いておくとして、最終的にどうにかいっちょ前に戦えるようになっていることも事実。

 そりゃあ、その事実を知ってりゃあ、

「だから、恥を忍んで頼む。俺にも色々教えてくれ」

 こいつはこいつで悩んでるってところか。

 ジェシカの場合は状況がああいうもんだったし、どうにかしないとクリアできないから仕方なくやったわけだが、キースの場合は一種の向上心。

 自分から変えたいと思えるタイプ。そういうヤツの頼みを断るのも気が引ける。

「・・・分かった。ちょっと考えてみますか」

 ジェシカはともかく、キースにも世話になってるし、レッドゴブリンからの縁もある。

 それに、こういうタイプは嫌いじゃない。

「じゃあ、パスポートを見せてくれ。そこから色々考える」

「おう」

「明日、移動しながら考える。どうせ、警戒しながら北上するだけだ。ドッシュのコントロールだけしてりゃあ十分できる。今は寝させてもらうわ」

「分かった。頼む」

 仕事が一つ増えたが、まあ、頭を抱えるほどの内容じゃない。

 移動の時間を上手く使って考えますか。

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