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「ここを野営地とする!!」
結局、今日は野営することになった。
理由はまあ、前に考えたとおり。
頭がおかしい黒魔術師のジジイ対策と、移動距離の問題。それと俺の気分。
そして、最終的に決断したキッカケ。
そう、あの二人の事だ。
「よし、俺はタープを張る!」
移動中に当たりをつけていた辺り。
程良く茂っていて、かつ周りからの視界を遮ることができるくらいの木の量。それから地面が湿っていないこと。
とりあえず、三つはクリアしていた。そういうことは踏破の影響で分かっていたし、キャンプ地を決めることはスムーズだった。
「お前はここ!」
ドッシュを適当なところに留めた後、ヴェロニカをドッシュの背中に載せて、カバンを地面に下ろした。
「ター・・・なんだって?」
「よし、分からないなら知らなくてよし!マーベルさんとキースとリオーネは騎獣をきっちり止めてから薪を探してきてくれ!」
俺とヴェロニカとマーベルさんの合計三人なら、準備するのに大した量は要らないが、追加で四人となりゃあ話は変わってくる。
特に薪は相当数必要だし、時間が必要。
あまりちんたらしてる暇はない。
「分かりました。薪はどれくらいの量が必要ですか?」
「三人とも両手で抱えられる分くらいあれば嬉しい」
「分かりました。では」
「あと、薪の条件がある」
行こうとする三人を止め、
「最低限これだけは覚えておいてほしいのは乾燥してること。あとは針葉樹と広葉樹があったとしたら、針葉樹が一割、広葉樹を九割の感じで拾ってきてほしい」
「え・・・?しん?こうよう・・・なんだって?」
針葉樹と広葉樹っていう認識がないのか?
いや、これはキャンプの知識・・・いや、興味がないと分からないモンだし、こればっかりは仕方がないか。
「この辺りは・・・」
見回した感じだと、杉っぽい木が多い。地面にそれの葉っぱもたくさん落ちてる。ちらほら樫っぽいような木もあるようだが、
「こういう断面の木が落ちてたら優先して拾ってほしい」
樫のほうを拾ってみせて、
「無けりゃあ、こっちでいい」
最後に杉のほうを見せた。
「・・・違いがあるの?」
「ある。だから頼んでる」
ここで詳しい説明をしてもいいが、今はキャンプ教室をやってる場合じゃない。
「分かりました。では、行きましょう」
マーベルさんたちを薪集めに向かわせて、
「残った君たちには別の仕事をやってもらいます」
この場に残したのはジェシカとアイシャだ。
「あ?なんだよ?」
「なんでしょう?私、野営はあまり経験がないんですが」
調査隊って連中はあっちこっち動き回るだろう。だからそれなりに知識とか技術があるもんだと思ってたんだが、どうもそういうわけでもない・・・?
いや、一旦置いておこう。気にはなるけど!
「二人にはタープ張を手伝ってもらう」
荷物から小さく畳んだタープを取り出して広げた。
「タープって何だよ」
「日除けみたいなモンだよ」
まあ、一般的に日除けにするっていう物ってだけだ。使い方次第で色々できる。
「張るというと?」
「今日の感じだと・・・」
一応、踏破で天気の具合を確認。
それから、バードアイを使う・・・!
「おい、どうした?」
やっぱり、バードアイを使うと、周りの状況が若干見えなくなる。
ジェシカはリアクションが遅れていることに違和感を覚えているらしいが、適当にやり過ごす。
見た感じ、周りにモンスターはちらほらしかいない。いてもキラーラビットみたいな小物だけ。最悪、戦うってなっても四人でボコボコにできる。
「・・・うし、屋根を作るだけでいい。こういう風に張るから、手伝ってくれ」
落ちている枝で完成図を描いてやる。
今回はCフライっていう張り方に挑む。
「・・・布でこういう形を作るんですか?」
「おう」
このリアクション・・・確実に知識がないな。
調査隊ってのはどういう仕事をしてんのかね・・・?
「おい。こんなのできるわけねぇだろ。これって棒だろ?」
しゃがんだジェシカが指差すのを見て、
「まあ、そうだな」
頷いてやる。
すると、ジェシカは鼻で笑って、
「こんなところにそんな都合がいいモンあるわけねぇだろ」
まあ・・・そういうリアクションをするよな。知識がないんだもの。
だが、そんなことは想定済みよ。
「落ちてないなら、作りゃあいいんだよ」
「は?」
「ここにはこういうのがそれなりに落ちてる」
俺は離れたところに落ちていた、長目の葉っぱが付いた枝を拾い上げて、
「・・・そんな枝をどうするんだよ」
「こういうのを使ってポールを作る」
「ポールを作る・・・?」
「見てろ」
荷物に入っているグリューセン作の手斧を取り出して、
「こういう余分なところを落としてやる」
しっかりとした太い木の根っこに枝を当てて、踏んで固定。
ざっくり一メートル五十センチくらいのところを目掛けて斧を振り下ろす。
二、三回ほど分けて打ち込んで、余分な個所を切り落とした。
「ほら。できたろ」
「・・・こんなんでいいのか?」
「おう」
拍子抜けみたいな顔をしている。
「次はペグを作る」
「・・・ペグ?」
「要は杭みたいなモンだ」
今落としたばかりの余分な枝。
今度はこいつの葉っぱがついた部分を斧でざっくり落として、
「ナイフを使って」
斧を木に立て掛けて、グリューセン作ナイフを抜いて枝の先端を尖らせる。
可能な限り鋭利に削ってやって、
「反対側は」
上下を持ち替えて、今度は尖らせるんじゃなく、切り欠きを作るイメージでナイフを入れていき、
「こうしてやるわけよ」
先端は尖らせ、頭は切り欠きを付けてやる。
これで地面に刺さらせつつ、ロープを引っ掛けることができるペグができるわけだ。
こういう風に、現地調達できる自然の物を使って行うキャンプを、ブッシュクラフトキャンプという。
倒木。枝。石。蔓。
自然にある物を活かすキャンプ。便利な道具が揃っている現代キャンプではあるが、あえて自然との調和を意識して行うキャンプ。
これはなかなか難しいように思われがちだが、枝を使ってポールやペグを作ったり、ランタンスタンドを作ったりすることは割と簡単にできる。
器用、不器用の差はもちろん出るだろうが、不可能なことじゃあない。
「お前らにはポールをもう一本と、ペグをあと六本作ってもらう」
Cフライは横から見たらCの形に見えるように張るタイプ。
ポールが二本あれば立ち上げることができるし、地面にダイレクトに固定する分と、立てたポールに引っ掛けてテンションを掛けるロープを固定する分のペグがあればできる。
結構色んな張り方があるが、割と簡単にできる。俺もタープ泊をする時はCフライで挑むことがある。
三メートル四方のタープだと六人分の就寝スペースを確保できないんだが、広く屋根を作ることはできる。女子もいるわけだし、プライバシー保護のためにビークフライを組んだほうがいいかとも思うが、人数が多いから仕方がない。
六人で雑魚寝なわけだし、屋根の面積と組みやすさを優先する。
「できるかしら・・・?」
「できねぇよ、こんなモン」
「できなきゃ屋根無しで寝てもらう」
まあ、壁が無い段階で多少ハードになるわけだが、屋根があるだけでもだいぶマシ。
「お前も屋根無しだろうが!!」
「俺は自分で準備して、家族分の就寝スペースは確保する」
「なんだそれ!!」
「連帯責任ってやつだバカヤローコノヤローオメェ」
こいつらがどういう理由で仲が悪いかは知らん。
どういう風に探ったら理由が分かるかも分からん。
俺ができることは探検家を活かした活動と、持ち前のキャンプ技術、現代知識の応用。
一緒にキャンプをすれば仲良くなれる・・・とまでは言わないが、同じことを同じ立場でやれば見えることがあるのも確か。
自分の技術がもろに出るブッシュクラフトを通して、できなきゃ完全野宿というプレッシャーも与えることで、ちょっとでも協力関係を作って話すキッカケを作る。
これが俺の狙いだ。
「・・・チッ。ナイフ貸せよ」
ジェシカが先に動いた。
「自分のがあるだろ」
「ねぇよ。あたしはそういうことをしたことも、することもねぇんだからな」
「することねぇじゃねぇんだよ。ったく。ほら、手ぇ切るなよ」
ナイフを渡すと、
「子供じゃねぇんだ。そんな簡単に切るか」
ジェシカはナイフを片手に、その辺りに落ちている枝を拾い始めた。
「・・・ふぅん」
正直に言えば意外だった。
こいつは最後の最後まで渋ると思っていたからだ。
だから真っ先にアイシャが動いて引っ張っていくもんだと思っていたが、
「私には斧を貸してください。ポールを作りましょう」
こいつが後になるとはな・・・
「ほい。分からんことがあれば教えるから言ってくれ」
「分かりました」
アイシャはポール用の枝を探しに行った。
「いや・・・?」
こいつ、ジェシカを先に向かわせるためにあえてしばらく黙ってたのか・・・?
ジェシカには悪いが、どう見てもアイシャのほうが利口だろう。
ガノダウラスとの件も静観を決め込んで自分が被害に遭わないように立ち回っているし、自分の目的のために俺たちを首都に連れて行くこともそれとなくまとめている。
あいつのこともそれなりに知っているだろうし、あいつがああ動くことも予想していて、先に動かした可能性もある。
まあ、実際はどうかは分からない。本人に尋ねるのもいいかもしれないが、はぐらかされるに決まってる。
とりあえず気にしないようにしよう。




