10
「では、行きましょうか」
衣類の調達後、俺たちはアイシャの案内を付けて首都へ向けて出発した。
調達を終えた段階で昼前になってしまった。
さすがに時間的な問題で昼飯をスルーすることはないってことで、昼飯を食ってからの出発になった。
ヴェロニカのトイレ問題とかだけじゃなく、途中で野営することも踏まえて保存が利く食料の調達も合わせて済ませたし、悪くない選択だ。
特別急ぎで首都に行かなきゃいけないわけでもなかったし、アイシャも急かしてるわけでもないし、ここは俺たちのペースでいかせてもらおう。
「今日はどの辺りまで進むんです?」
アイシャに尋ねられたので、
「オアシスまで行けたらそれでいいけど、無理なら野営する」
相変わらず、俺たちはドッシュで、他はドードだ。移動スピードと稼働可能距離に限界がある。
となりゃあ、確実かつ安全に泊まれるオアシスを目指すべきだが、野営も視野に入れたのはやりたいことがあるからだ。
やりたいことはたった一つ。バードアイを使うこと。
単純に使うだけなら今でも別にいい。ドッシュの操作はヴェロニカに頼めばいいわけだし。
ただ、俺自身、あんまりスキル・・・いや、神力ってやつを使うことに慣れてない。使うなら使うでしっかり腰を据えてやりたいっていうのが本音だ。
今のところ、威嚇と違ってバードアイはまともに使えるし、もらった直後でもそれなりに使えていたから問題はないにしても、だ。まあ、気持ちの問題ってやつ。
それに、オアシスだとバードアイを使う意味がない。
あれは広範囲であっても、ピンポイントであっても見ることができる能力。ってことは、ある程度安全が確保されているオアシスでは意味がない。
ある程度危険を伴う場所でこそ発揮する・・・と俺は思っている。野営じゃないと意味がないっていうより、薄いが正しいか?
「・・・野営するならここか・・・?」
あと、例の黒魔術師のジジイ。
あいつがまだこの辺りをウロウロしてないか見ておく必要もある。
あの黒い沼・・・次元の狭間とか隙間とか、単純にブラックホールみたいなもんだが、あれのおかげで神出鬼没の存在になってしまった。
初めて接触した時からそうなんだが、原理が分かった以上、より警戒が必要になった。
だったらオアシスのほうが周りの目があって安全とも言えるが、村を吹っ飛ばすこともいとわない頭のおかしいヤツだ。誰がいようと、オアシスもろとも吹っ飛ばすことも考えられる。
しっかり後をつけられているなら話は別だが、そうじゃない場合、野営ならどこにいるか分からないだろう。逆にこっちがバードアイで探し当てることもしやすいかもしれない。
二度と会いたくはないし、見たくもないんだが・・・残念なことに、たぶん会う。だから警戒しておくに越したことはない。
「水源がないからアクアで代用するとして、薪の一つや二つくらいあるだろうし・・・」
ジジイの話はまあ別として、たまにはオアシスじゃないところに行きたいっていう気持ちもある。
見た感じ、シルフィは森林の面積が広い。
人が通る場所はある程度切り開かれてるわけだが、それ以外は大体森林らしい。アイシャに確認を取ってみた感じ、国土の七割がそうだって話だし、そういう認識で間違いはない。
その七割の森林地帯のうち、人が管理しているところもあるって話だったんだが、それでも一割いくかいかないかくらい。つまり、手付かずの自然が半分近くあるってことだろう。
そんなのを聞いたら、キャンプしたいと思うわけよ。
せっかくマーベルさんから高いお金出して色々買って野営できるようにしたわけだし、たまには使ってやりたい。良いナイフもあまり使ってやれてないし、スキレットもほぼ新品と変わらない。
それに、オアシスは飯も風呂も寝床もあるから快適なんだが、これに慣れすぎるといざという時にできなくなりそうで怖い。
まあ、なんやかんや、結局のところキャンプしたいのよ。
俺も一端のキャンパーなわけで、バードアイがどうこうとか以前に、久しぶりにキャンプしたい!
ぬるま湯に浸かりすぎてる!
「野営するのかい?わざわざ?」
ヴェロニカも疑問に思ってるようだが、
「・・・たまにはいいじゃない」
「そうかい?まあ、キリがそうしたいならわたしはいいけれど」
ということでゴリ押しする。
たまには自由にやりたいことさせとくれ。
「この辺りだとブラインドも効きそうだな。あとは行けるかどうかってところだが・・・」
野営するかどうかは置いておくとして、進められる距離を見切っておかないといけないな。
「おい」
久々のキャンプにワクワクし始めた頃。
ジェシカが突然口を開いて、
「お?なんだ?」
「オメェじゃねぇ。あっちだ」
指差す先にいたのは、
「・・・私?」
アイシャだった。
「なに?」
「いつまで一緒にいるつもりだよ」
・・・揉めそうなんですけど。
「首都に行くっていう話をしていたでしょ?そこまでは一緒になるわよ」
「別に一緒でなくたっていいだろうが。何日後に合流でもいいじゃねぇか」
「悪くはないけど、合流が遅れたりすると都合が悪くなるでしょう」
おいおい、揉めるのだけはやめてくれよ・・・面倒だろうが。
「明らかに知り合いだよな」
「しかも仲悪いわよね」
そう。顔見知りの関係じゃないし、険悪とまでいかなくても、まあ悪いほうに見える。
「複雑な関係みたいだねぇ」
・・・また読んだな?
「おいヴェロニカ・・・無暗に思考を読むのはやめておいたほうがいいぞ」
「気を付けてはいるけれど、気になっちゃって」
気にならないわけじゃないんだが、あまり気分のいいものじゃないからなぁ・・・
「で、どういう関係なんだ?」
「キリも気になってるんじゃない」
「気になるっていうか、本人から直接聞くのも面倒でなぁ・・・」
直接確認すると面倒事に巻き込まれるのは目に見えてる。だからと言って、周りで繰り広げられてる以上放っておくのも難しい。
結果、気にしたくないが、最低限知っておくべきか・・・ということで、間接的に確認するっていう方法に納まる。
ヴェロニカがいればそういうことは簡単に分かるしな。
「結局今の今まで聞けなかったけど、あなたこそ、今の今までどうしてたの?なんでキリヤさんたちと一緒にいるの?」
「うるせぇな。今はテメェがいつまでいるのかって話をしてんだろ」
明らかに仲良くないだろ、これ・・・
「うーん・・・」
これ、放っておいたほうがいいやつなんじゃないか・・・?
こういうのに関わったら絶対ろくなことが起こらないだろ。
キースたちもこれに気付いてるし、どうにかしてくれないか?
「次のオアシスまで遠いな」
「キリヤくん、野営が得意らしいから野宿でも大丈夫そうね」
こいつら、無視を決め込むつもりだ。
いや、絶対に正解。俺も本当ならそうしたい。
「・・・あなた」
離れたところを走っているドッシュに乗るマーベルさんは静かに首を横に振っていた。
あなたも静観を決め込むつもりだな・・・
「・・・はぁ・・・」
首突っ込みたくないけど荒れていってるみたいだし、しょうがねぇな・・・
一段落したら話くらい聞いてやるか。




