5
やべぇ・・・
とにかくやべぇ・・・!
目が回って頭がおかしくなる。
なんか、見える景色がごちゃ混ぜになって、まるでパレットに適当に放り込んだ絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜていっている感じだ・・・!
三半規管までおかしいのか、気分も悪い・・・!
「うぅっ!?」
急に鈍痛・・・!?
ガノダウラスに体当たりされるレベルじゃあない・・・あ、足が地面についてない。たぶん、シンプルにこけたんだな。
三半規管がやられて、立ってられなくなってやがる・・・
これはシンプルにマズい!!
「キリヤァ!!大丈夫か!?」
ジェシカが声を掛けてくれているようだが、それすらも耳障りに感じるくらい、頭がくらくらしている。
『ううむ。思いの外、耐性が無いようである』
神の力ってのは凄いらしい。ここまで人間をダメにするとは・・・
『このままでは動くことすら叶わぬ。死ぬのも時間の問題か』
「余計な予想なんかしなくてもいいんだよ・・・!!」
こうなるのは計算外だったが、今は威嚇が通っている・・・!
この隙に逃げ出す算段を整えないとマズい!
「キース・・・リオーネを負ぶって離脱しろ・・・」
ぐっちゃぐちゃの頭でも、それなりに考えられている。
会話能力まで死んでいたら話にならないが、その点だけは助かる。
「キリヤ!!動けないのか!?」
「今は動けん・・・」
というより、動ける目途が立ってないが正解か。
「お前のほうが近い!!リオーネはジェシカが回復させるから問題ないだろ!!」
「もうすぐ回復しきれる!!」
やっぱ思考回路もやられてたか。
キースがしっかり考えてくれていて助かる。
『少年、目だけは使えるはずだ。ガノダウラスを観察し続けよ』
「おまっ・・・目も魔力使うんじゃないのか?これ以上使ったらいよいよヤバいわ」
『目はあくまでも自身に掛かる力だ。相手に強く働く力ではない』
・・・なんか上手くイメージができんが、使えることは使えるらしい。
「後で詳しく説明してもらうぞ・・・!」
『生き延びられたらの話だな』
この鳥野郎・・・焼き鳥にして食ってやろうか!!
いや、今はそんなことより、
「バードアイ・・・!」
周囲の観察が優先!
バードアイを発動させる。
こっちは生の目よりきっちり見える。しっかり切り分けがされているらしいが、
「大丈夫か!?」
キースが駆けつけてくれた。
「立てるか!?」
「すまん、全く歩けん・・・」
歩けなくなるってこういうことなんだな・・・吐き気がないだけまだマシと思おう。
「ジェシカ、回復はどれくらいできたんだ!?」
「今終わったよ!!」
「お待たせ!!」
リオーネが復帰してくれた。ジェシカ様様と言ったところか。
「キリヤは動けるのかよ!?」
「動けんらしい!!俺が負ぶるから、二人はそのまま逃げろ!!」
負ぶわれた感じがする・・・今度は俺がヴェロニカみたくなるとはな・・・
「ありゃあ、どうなってんだ!?」
「俺が知るか!!」
ガノダウラスは固まっている。
固まっているっていうより、金縛りに遭っているってのが正しいかもしれない。
体中の血管が破裂しそうなほどに体に力を入れて動こうとしているが、全く動けない。何かの意思で縛り付けられているイメージがしっくりくる。
これが威嚇・・・アポロの力か!!
「グッ、ウググッ、グゥゥッ!!」
必死に力を入れて拘束を解こうとしているが、ビクともしない。
「いや・・・?」
何かがおかしい。
まるでもがいているような?振りほどくとかじゃなくて、もっとこう別の・・・
「・・・そういうことか・・・!」
ドオオンッ!!!
なんとなく分かった直後、ガノダウラスの口が爆発した!
「うおっ!?」
「なんだ!?」
そりゃあ、驚くわな。何もしてないのに、いきなり恐竜が爆発したら。
「誰か魔法を使ったの・・・?」
「違う・・・そうじゃない・・・」
ガノダウラスが爆発した理由。
それは行き場を無くした炎だ。
ガノダウラスはジェシカとリオーネに火炎放射を浴びせようと力を溜めていた。
撃とうとした瞬間に、俺が威嚇で止めてしまった。
体中を縛る威嚇は、炎を吐くという行為も縛る可能性がある。予定していた出力まで溜めた炎を吐くことができない上、そこから更に溜めが続いた可能性もある。
口の中で溜め続け、更に溜まったエネルギーが臨界を突破。それが爆発の原因になったんだろう。
「ガァ、ァアアァァァァァ・・・!!!」
口からもくもくと黒い煙が上がっている。
あの様子からすると、炎を作るのは口の中じゃなくて、喉からしたのどこかにある臓器とか、もっと別の器官があるのかもしれんな・・・
そんなことは置いておいて、
「今のうちに逃げるぞ・・・!」
さっきまで必死の力でもがいていたが、体の力が抜けている。
それどころか、パンプアップして大型化した体が元のサイズに戻っている。
相当なダメージを与えたに違いない。
威嚇がまだ効いているうちに、さっさととんずらかますだけだ!
「なあ、今ならブッ倒せるんじゃねぇか?」
・・・は?突然何を言い出すんだ?
「動けなくなってるし、体も元に戻ってるし、あからさま弱くなってるだろ、あれ。今ならキリヤ抜きで掛かっても袋叩きにできるんじゃねぇか?」
「・・・確かに」
「・・・一理あるな」
おいおい、余計なこと考えてんじゃねぇよ!?
「チョトマテ、冷静になれって・・・」
今は威嚇が通ってるだけだ。解除されたら普通に動く。
確かに自爆のダメージはしっかりありそうだし、体も元に戻ってるわけだからパワーもそこまでないだろう。
解除されても弱いかどうか・・・これが分からないうちは仕掛けられない!
「おし、仕掛けるぞ!」
ええ!?やるの!?
『・・・命知らずである』
ホントそれだよ!!
「ジェシカは俺と突っ込んで攻撃!リオーネは万が一に備えてキリヤの側にいて、魔法攻撃だ!」
あれ?もしかして地面に下ろされた?
「いくぞ!!」
「おお!!いったらぁ!!」
「了解!」
ジェシカとキースが突っ込んでいっちまった・・・
アポロの言うとおり・・・命知らずもいいとこだよ。
冒険者稼業はこうでなきゃダメな一面はあるんだろうが、それにしても危ない。
だが、あいつをブッ叩くチャンスだってことも確かか。
パッと見は弱体化しているし、相当苦しそうにしている。
仮に炎を作る何らかの器官があったとして、さっきの自爆でそこに甚大なダメージを受けていたとしたら、普通の生物なら即死だったろう。
様子からして交戦当初と同レベルか、それよりも弱っている可能性は高いかもしれん。なら、俺が近くにいれば強化は続くわけだし、ジェシカの攻撃力強化も無くなってないはずだから、与えられるダメージも少しはマシなはず。
ここで叩けるなら叩くに越したことはないのか・・・?
「グローパンチ!!」
「うおおおっ!!」
動けないガノダウラスに二人が攻撃を仕掛けて、
「シャインアロー!!!」
続けざまに、リオーネが矢を撃ち込む。
「ガッ!?グゥゥッ・・・!!」
どれくらい効いているかは分からんが、威嚇で動けない点を考慮してもリアクションは悪くない。
もしかしてイケるのか・・・?
『少年、効果が切れるぞ』
「威嚇が切れるのか・・・?」
『そのとおりだ』
直後、ガノダウラスの体勢が崩れた・・・!
まるで糸を切った操り人形みたいに、地面に倒れ込んだ。
『せいぜい、三分といったところか』
威嚇の効果は三分くらいだったらしい。体感上、もっと長く感じたもんだが、案外そんなもんか。
『初の発動にしてはそこそこの結果・・・いや、この程度か』
「お前・・・容赦ないな・・・」
こっちはぶっつけ本番で使った上、体の機能が一部麻痺してる状態なんだぞ?もっと労わってくれてもいいんじゃねぇか?
『所詮、人の子ではこれくらいである、ということだな』
「てめぇマジで覚えてろよ・・・次にアルテミナに会った時に全部話すからな」
飼い主の管理が悪すぎる!!
まあ元々、梟って動物は飼育難易度は相当高いらしいし、ある意味納得の話なんだが、それはそれだ。
ここまで他人を、しかも自分たちの不手際で起こってる出来事の調査まで手伝わせておいて、ここまで言われる筋合いはねぇ!
「いける!いけるぞ!!」
「食らえこのバケモノ!!」
「次は喉元を狙うわ!!」
三人の攻撃は続いている。
それこそ、袋叩きのそれだ。
ガノダウラスは立ち上がることを優先しているのか、それともそれしかできないのか、三人に構っていられないって雰囲気がある。
体内のどこかに炎を生み出す器官があって、そこが爆発しているとしたら、相当なダメージだってことは確定なわけだし、立つこともままならないってところはあるだろうが・・・
これはマジで行いけるかもしれん・・・?
「グオァァァァァア!!!!」
いや、いけん!!
ガノダウラスが急に立ち上がった!
「グゥオアァァッ!!!」
また全身をパンプアップした・・・!?
「こいつ、まだ動けるのかよ!?」
大概ダメージはあるはずだが、それでも足りないのか・・・!
「怯むな!!行くぞ!!」
キースが突っ込もうとするが、
「ガァアアッ!!!」
尻尾を振り回して阻み、
「このバケモンが!!」
「グゥオアッ!!!」
殴り掛かるジェシカを弾き飛ばす!
自爆前の攻撃力よりは劣っているように見えるが、質量は大して変わらん!ジェシカも相当なダメージをまた受けただろう・・・!
「リオーネ、足を狙え・・・!」
「了解・・・!シャインセイバー!!!」
とにかく、動きを封じたい!
ジェシカとキースが足に攻撃を集中させていたし、魔法攻撃が通れば動きを制限できる!
だが、
「ガアアアッ!!!」
ガノダウラスが尻尾で迎撃する!
あとちょっとで足に当たったんだが、向こうも足にダメージを受けたらマズいことくらいは理解しているらしい。
「んんんっ、んんッ!!」
リオーネは力を振り絞ってシャインセイバーを撃ち切り、
「ガァアアアッ!?」
ガノダウラスの尻尾を吹っ飛ばすことに成功した・・・!
これで広範囲を攻撃できる手段を失ったわけだが、
「うぅ、もう魔力が・・・!」
頼みのリオーネがガス欠・・・!
「もう撃てないのか・・・!?」
「小さな矢を撃つくらいならまだどうにかできるけれど、それでアレを撃ち抜くのは難しいわ・・・」
となりゃあ、キースとジェシカ頼みか・・・!
いや、俺もどうにか行けるなら行くべきだが、
「くそっ・・・!」
生の視界がかなり悪い・・・!
相変わらずクラクラしてるし、立ち上がることすらままならん!
『あと少しではあるが、厳しいな』
ガノダウラスの猛攻は続いている・・・!
尻尾を切られて相当出血しているはずだが、痛みよりも怒気が勝って動けている。
動きの精細さは欠いちゃいるが、キースと、回復して復帰したジェシカを蹴り飛ばし、かじろうと動き回っている。
もう少しでいけそうなんだが、そのもう少しが遠すぎる!!
「そういうことがあるから、わたしが必要なんだよねぇ、キリさんや」
ガツンッ!!!
上空から、氷の塊が落下して、ガノダウラスの左足を貫いた・・・!!
「グゥアアアアアアァァァァッ!!!」
氷は膝を貫通している。
あまりの威力にガノダウラスが叫んでいた・・・
「え、なんだこりゃ・・・」
「大きさがおかしいんだけど・・・」
突然現れた氷の塊・・・形状からして刃物のようにも見えるソレは、圧倒的な攻撃力を発揮している。
そんなことができるのは、俺が知ってる中で一人しかいない。
「さあ、元気にいくよぉ!!」
そう。赤ん坊の姿をした大砲である。




