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「グアアァァァァァァァァァァア!!!」
とんでもない事態だ・・・!
黒いティラノザウルスが俺たちを追ってきている。
あのバカ魔術師が撃った攻撃を食らって、俺たちが襲ったと勘違いしている。
人なら分かってくれそうだが、残念なことに、相手は野生の動物・・・いや、恐竜・・・いや、モンスター。そこまで理解はしてくれまい。
どうにかして切り抜けないといけない・・・!
「可能な限り走れ!!離脱しろ!」
ドッシュとドードたちを全力で走らせる。
「おい、キリヤ!こっちはもう限界だぞ!?」
ここに来てドードたちの足がもうダメらしい。
ドッシュたちに引っ張ってもらっちゃあいるが、それも限界か。
「これだけバタついている中で撃って当たるかしら・・・!」
リオーネが仕掛けようとしているが、ドードの影響で安定しない。
本家魔術師のほうが命中率は高いかもしれない。今まで外した様を見たこともない。ただ、今の状況だと撃って当たりゃあ儲けモンって感じな気がする。リオーネ自身も自信が無さそうにも見えるし。
「おいおいおいおい、どうすんだ!?」
次第に迫るガノダウラス・・・!
向こうのほうが元気な上、ドッシュほどでなくてもスピードはある。
『追いつかれるのは時間の問題である』
言われなくても分かってるんだよ!
こうなった時の手段なんか、そんな多くはない!
「マーベルさん、ロープを切り離せ!!みんな、荷物を捨ててドードから飛び降りろ!!」
ドードを捨てるしかない!!
「おいおい、違約金が出ちまうよ!!」
「言ってる場合か!!」
このままだと追いつかれるし、戦う体勢も整えられない。
どっちにしても戦わざるを得ない。なら、少しでも有利に動けるように時間を取る!
「・・・切り離しましょう!」
マーベルさんが鞍に繋いだロープを解いて捨てた。
俺もロープを解いて捨てて、
「急げ!!」
「こうなったら腹ァ括るしかねぇぞ!!」
「ええ!!」
「クソッ・・・!」
キースたちはドードに固定している荷物を取って投げ捨て、飛び降りた!
三頭のドードたちがそれぞれの行きたい方向へ走っていった・・・
・・・あいつら、まだ走れるじゃねぇか。
「マーベルさん、ヴェロニカを頼む!」
「はい!」
いや、ドードのことはもうどうでもいい!今やることをやらないと!
「キリさん、さすがにわたしも出ないと厳しいんじゃないかな?」
そうしたいのは山々・・・いや、是非とも一緒に戦ってほしいが、事情が事情だ。それができない。
「どうぞ!」
ドッシュを寄せて停止させて、ヴェロニカをマーベルさんにバトンタッチ。
俺は荷物から残りのロープだけを取って、
「程良い距離まで逃げろ!」
「気を付けて!!」
二人を乗せたドッシュと、俺が乗っていたドッシュを離れさせる。
「さて・・・」
いつも気を付けちゃいるんだが、今回ばかりはいよいよマズいかもなぁ。
「とにかくやるぞ・・・!」
キースは剣を抜いていて、
「良かったわねぇ、ガノダウラスと戦えるわよ!?」
「おーおー、ホントだよ!?」
リオーネとジェシカも臨戦態勢になっているが、相当ビビってるな、ありゃあ・・・いや、俺も大概ビビってるけども。
「来るぞ!!」
「グァアァアアアアアアアアアッ!!!」
追いついてきたガノダウラスの突進を、二手に分かれるようにして全員避けた!
「でっけぇなァ、オイ!!」
アポロの能力で大きさは把握しているつもりだったが、それでもなお大きく感じる・・・!
やっぱ迫力あるんだなぁ、このテの恐竜って。小さい恐竜も、ティラノザウルスが来たらこういう気持ちだったのかね・・・?
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃねぇ。
「落ち着いていけ・・・!」
目標を失ったガノダウラスが森を勢いよく破壊していく。
「ガアァアッ!!ガグアッ!!」
行く先に、ドードが一頭いた。
走って逃げたはずだが、もう足が回らなかったんだろう。
大した距離を稼げずに立ち止まってしまっている。
そんなドードを目掛けてガノダウラスは突っ込んでいき、大口を開けて噛みついた。
「う、おおぃ・・・そういう感じかぁ・・・」
断末魔を上げることもなく宙に放り投げられるドード。
落ちていくそいつを口を開けて待ち構えて、口に入った瞬間にガチンと閉じる。
なんか洋画で見たことあるわぁ、ああいう光景。
割とあるよな?ティラノザウルスがちっちゃい恐竜を飲み込むあの感じ。
これが野生かぁ・・・
「・・・じゃねぇよ!!」
そこそこ距離も開いた!
あいつはドードの咀嚼に時間を使ってる!
「リオーネ、魔法を頼む!まずはジェシカに防御魔法!」
「了解!」
いつも通りにやればいい。相手がトカゲやら昆虫やらから恐竜に変わっただけだ。いや、比較できないくらいの変化だけどな?
俺たちができる行動なんか大して変わらん。
やることはいつも通り。
いや、少し変えられることもある。
「ホント、これから先、必要になるか分からんから避けてたのに」
パスポートを取り出してスキル欄を開き、
「嫌になるな」
とあるスキルを習得する。
これでどう変わるか・・・いや、この状況を切り抜けられるか分からんが、やらんと死ぬし言っちゃあおれんよなぁ。
「また来るぞ!」
ドードを腹に収めて体勢を立て直したガノダウラスが、また俺たちを睨んでいる。
「ガアアアアッ!!!」
そしてまた突っ込んでくる・・・!
「キース、避けながら斬れるか!?」
「やらなきゃ死ぬだけだろ!やってやる!」
「ジェシカ、リジェネを掛けながら防御して力を溜めろ!」
「おまっ、あんなのに当たったら死ぬだろ!?」
普通なら死ぬよなぁ・・・でも、お前、生きてるんだよなぁ。不思議と・・・
「シールド!!」
ジェシカに青い光がまとわりつく。
「これで少しは耐えられるでしょ!」
「お前っ、簡単に言いやがっ」
「来るぞ!!」
ガノダウラスは体を横に向けながら体勢を低くしつつ接近・・・!
これはタックル!
「ぐっ―――」
そのタックルをジェシカは真っ向から受けて吹っ飛ばされた・・・
「・・・やっぱ」
こうなるよなぁ。十数メートルの恐竜のタックルなんて、受けりゃ誰でもああなるわなぁ。
だが、
「うっ、ぐうっ・・・」
思いの外、どうにかなってんなぁ・・・
シールドの効果もあるし、事前にリジェネを掛けたことで、ダメージを受けた瞬間から治癒を始められるようにしたこともあるだろう。
それに、あいつ本来の回復力の高さも効いてるかもしれん。
「キース、行くぞ!」
「おうっ!!」
ジェシカのことは一旦置いといて。
恐竜は勢いを殺すために踏ん張っていて、動きが制限されている!
この隙を逃さずに叩きたい!
キースが接近しきる前に、
「スピードウィップ!!」
いつも通り、先制攻撃で膝をしばき、
「クラッシュソード!!」
キースが足を斬り付ける!
「ガッ!」
多少効いてるか!?
「麻痺させられるだけの効果はまだ出ないか!?」
ランドウィップも麻痺効果は発揮するが、二発くらいじゃ効果は出ないか・・・!
カマキリでもそこそこしばいてアレだったから、当然と言えば当然か。
「効果が出るまで攻撃するぞ!」
カマキリと比較して、ガノダウラスのほうが体が大きい。麻痺や毒の成分が体中に回るのに量が必要なんだろう。
この巨体を麻痺らせるためには、相当打ち込まないとダメだな。
「シャインアロー!!」
リオーネが魔法を胴体に撃ち込んだ!
「グガッ!?」
割とダメージになってる!
撃ち込んだ個所の青黒い鱗を貫通してる!
一番攻撃力を期待できるのはここでもリオーネだ。
「リオーネ、矢でいい!威力を少し上げて撃ち込め!タイミングは任せる!」
「分かったわ!任せて!」
止めの一発と、要所要所の大ダメージは任せられる。
あとは、
「ジェシカァ!!攻撃できるんだろうな!?」
「なっ、なめん、なよ!」
「キース、足元で仕掛けるぞ!」
「おお!!」
前衛の俺たちがガノダウラスの気を引きつつ、可能な限り攻撃して動きを止める。
麻痺でもいいし、麻痺よりは蓄積が遅いだろうが、毒もある。
上手く立ち回れば、ジェシカだって火力を出せる。
「いくぞ!!」
「グローパンチ!!」
「ソードスラッシュ!!」
シャインアローが効いて動きを止めたこの隙を狙って、それぞれの攻撃で恐竜の足をしばく!
「ガァ!?」
割とイイ具合で攻撃が通っているように見える!
殴ったり鞭でしばいたりしたところは変化は見られないが、剣で斬ったところからは出血が見られる。足周りにはほとんど鱗がないのか?
だとしたら、俺たちは足をしばき続ける!
「ガアァァッ!!!」
ガノダウラスがその場で周りながら、尻尾を振り回して俺たちを襲う!
「あぶねぇっ!!」
「うおっ!?」
「ぐうっ!!」
俺は避けないと致命傷になるが、キースとジェシカは受けることができている。
ただ、キースは結構きつそうだ。ジェシカと違って防御魔法の恩恵がないから仕方がないにしても、そう長くは保たんな・・・!
「スピードウィップで・・・!」
俺は避けながら、とにかく手数でしばくだけ・・・!
鞭は剣と違って大した攻撃力じゃあないらしい。その分、ある程度の距離を置いて仕掛けることができて、手数を打てる。
ランドウィップの能力を発揮させるためにも、素早く打ち込むことが最優先!
「シャインアロー!!」
リオーネが矢を発射!
大きな光の矢がガノダウラスの腹部に突き刺さる!
「ガアアアアアアアッ!?」
ガノダウラスが大きくふらついた!
「そこだ!!」
「おらあぁぁぁぁっ!!」
キースが力いっぱい足を斬り付けて、ジェシカが思いっきりぶん殴る。
「ガッ!?ガグッ!」
「うっしゃあっ!!効いてるぜ!!」
「どういうわけか、調子がいいぜ!!」
「昨日までの私たちじゃないみたいだわ!」
そう。そうなってもらわにゃ困る。
統率力。それがさっき習得したスキルだ。
スキルポイントが入ったから次は何を習得するか、もしくはレベルを上げるか悩んでいた時に、ふと見つけたのがこのスキルだった。
見つけたっていう表現になってしまうのは、未だに全て理解できていないってところも大きいが、今までそんなスキルを見つけられなかったからだ。
「あー、それはねぇ、ボスゴブリンを倒したから出てきたんじゃないかな?」
ヴェロニカに尋ねてみると、そう回答された。
どうやら、対象モンスターを撃破したら表示されるスキルがいくつかあるらしく、統率力はそのうちの一つらしい。
統率力の場合、部下を率いているモンスターの撃破が条件になっていて、ボスゴブリンとか、クエストリストにもあったパワードオークが該当している。
それに加えて、仲間を指揮して撃破・・・というのも条件らしい。
俺の場合、キースとリオーネを指揮してボスゴブリンを撃破したからスキルが現れたっていうことになる。
「よし、とにかくしばけ!!」
統率力の効果は、仲間の能力を引き上げること。
詳しく書かれちゃいなかったが、たぶん攻撃力やら防御力、魔法攻撃力なんかが強化されるはず。
この仲間ってのがどういう判定なのか、そもそもどれくらいの効果が発揮されているのかは謎なんだが、様子を見る限り、ジェシカたちの身体能力は上がっているように見える。
ただ、残念なことに、俺自身の能力値は上がらないらしい。自分で自分を指揮するのは意味が分からないから、ある意味妥当とも言えるが、どうせなら上がってくれたほうが幾分か楽になるわけだし、上げてくれてもいいんじゃないかと思う。
「片足だけでもいい!とにかく足を集中して攻撃しろ!」
無い物ねだりをしても仕方がない・・・今は目の前の化物をしばく!
「グローパンチ!!グローパンチ!!」
「クラッシュソード!!」
近距離組はとにかく足を潰す!
動きを遅くできれば、攻撃も満足にできなくなる!そうすれば、ジェシカのパンチもしっかり打ててダメージを入れられるし、キースの攻撃も加わってしっかりダメージを蓄積させることができる!
「リオーネ!」
「シャインアロー!!」
高火力魔法で確実にダメージを与えられるリオーネは、とにかくダメージを与えてもらう。
頭を狙えれば一番いいが、ガノダウラスの頭の位置は高い。パラライズバイパーより大きいから狙いやすいが、動き回っている中で当てるのは難しい。
ボディに当て続けることができれば、内臓へのダメージを狙える。次第に動きが遅くなる。
これでいい。
今までと何ら変わらないが、俺たちは今以上の実力を出せない。
だから、普段と同じようにやればいい。
「いける・・・いけるぞ!!」
順調だ!
動きも遅くなってきているし、ジェシカとキースも攻撃を耐えながら反撃できている。リオーネの魔法の効果もあるだろう。
なんだ、案外楽勝じゃないか?
これ相手に首都じゃ三十人も人員を割いたって話だったが、そんなにいらないだろ、これ。
なんて思っていたら、
「グッ」
ガノダウラスが目を大きく見開いた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
今までよりも強い咆哮・・・!
「うっ!!」
思わず耳を塞いでしまうくらいの大音量と、空気と地面の震え・・・!
「フッ!!フッ!!フッ!!」
今までも大概そうだった気がするが、更に増して興奮してるな・・・
それに、体がかなり大きくなった・・・
「こ、いつは・・・」
筋肉が膨れ上がって、元々がっちりしている体格が更に大型化している。
それに加えて、体中から湯気が出ている。まるで沸騰した湯が入ったケトルの注ぎ口だ。
「へっ!見た目に騙されるかっつぅの!!」
ジェシカが突っ込んでいった・・・!
「おい、まずは様子を!!」
「グローパ―――」
「グゥゥゥオアァァッ!!!」
ガノダウラスがその場で足踏み。
「うおっ」
強力な震動でジェシカの動きが硬直してしまう。
そこに、
「ゴアアアアアッ!!!」
尻尾を一振り!
「がっ」
尻尾の一撃を受けて、ジェシカは弾き飛ばされてしまった!
「おいおいおいおい・・・」
「マジかよ・・・」
始めに受けた時より、かなり遠くに弾き飛ばされている・・・!
尻尾自体もパンプアップしているし、威力は増しているはず。
あんなのを食らって無事でいられるわけがねぇ・・・
「グッ」
ガノダウラスが頭を少しだけ上を向け、
「グアアアッ!!!」
すぐさま顔をリオーネに向けて、でかい口から炎を吐き出した!!
「ちょっ!?」
リオーネは逃げ遅れてしまったらしく、炎を受けてしまった・・・!
「・・・ヤバい」
何だこれ?
頭は冷静なくせして、冷や汗みたいなのは滅茶苦茶出てくるし、体もカッカしてきてる。
接近すれば強力な打撃とパワーでノックアウト。遠くから狙おうとしてもブレス攻撃がある。
木を軽々なぎ倒すパワーと、まるで火炎放射器みたいに放つ高威力のブレス。近距離も遠距離も持っているモンスターと対峙するのは初めてじゃないにしても、蛇と比べて格が違いすぎる。
こりゃあ、首都が壊滅するだとか、一頭を討伐するのに三十人必要だとか、素直に頷ける。
とにかくヤバい。ヤバすぎる。
ジェシカはノックアウトしちまってるのか・・・いや、そもそも遠くにぶっ飛ばされすぎて様子が分からん。
リオーネはなんとか動けるようだが、髪の毛も服も焼けてえらいことになっとる。
キースは動けるようだが、俺と二人でどうこうできる自信はない・・・
『このままでは死ぬぞ、少年』
「んなこと、言われなくても分かっとるわい!!」
「来るぞ、キリヤ!!」
「ガオァァァァァァァァッ!!!」
ガノダウラスがこっちに向かって突っ込んで来る・・・!
「とにかくかわせ!!避けろ!!」
一発でも食らったらヤバい。
とにかく避けるしかない!
だが、
「ガアアアアアアアッ!!」
「う、おおおお!?」
勢いが凄すぎて、キースが避けきれない・・・!
「冗談じゃねぇよ!!」
キースに意識が向いている隙に、鞭でしばく!
しばくが、
「おいおい、どうなってんだよ!」
さっきまでしっかりあった手応えを感じない・・・!
感じないというより、硬い物をしばいていて、手応えが薄くなったって感じか。
全体的にパンプアップしたからか、防御力も上がっているってのか・・・!?
「うおっ!?」
足で蹴られそうになったところをなんとか避けたが、
「ガアアアッ、ガグアァァァァァァァァッ!!!」
再びブレス攻撃!
ターゲットは、
「うおおおおおおおおおおおお!?」
キースだった・・・!
攻めようと動いたキースを狙い撃ち。見事に直撃させている。
「キース!!!」
「うっ、だいじょう―――」
「ガアッ!!!」
強烈な尻尾攻撃が、炎に焼かれて大ダメージを負ったキースを弾き飛ばしてしまう。
「クソッタレ!!」
「シャインッ、アロー!!」
今まで息を殺して魔力を溜めていたリオーネが魔法を撃ち込んだものの、
「ガゥアアアアッ!!」
更に勢いを付けた尻尾で弾き飛ばされてしまう。
「嘘でしょ・・・」
こっちが言いてぇよ・・・
これは本気でマズい・・・!
まともに動けるのは俺だけになってる!
俺一人でこんな化物、相手にできるわけがねぇ!
このままだと全滅だ・・・!!!
『仕方がない。我が力を貸そう』
「うっ、お、い!?」
意識が現実からアポロに持っていかれる・・・!?
『少年、我の言うとおりにするのだ』
こんなところで動けなくなるわけにゃいかないんですけど!
『動けなくなるかもしれぬが、まだ仲間がいる。まだどうとでもなろう』
「こんな時に風景を見たってしょうがないでしょうよ!?」
『風景を見るだけが我の力ではない』
・・・ほう?




