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「様子はどうだ?」

「どうもこうも、って感じだな・・・」


 ガノダウラスがすぐそばまで迫ってきている。


 とにかく、早く離脱したい。災害級のモンスターと一戦交えるなんて御免だ。

 だが、ドードの脚力が限界に達してきている。動きがどんどん遅くなってきている。

「どうする?キリさん」

 手を打ちたくても、どこからどこまでできるのかが分からん。

「・・・ジェシカ、キュアってのは体力を回復するんだよな?」

「あ?」

 体力を回復できるなら、ドードに掛けてやればもう少し走れるかもしれないが、

「そういう効果はほとんどねぇぞ」

「・・・そうなの?」

 現実は非情である。

「完全に無いわけじゃねぇだろうけどな。ただ、あれは治療の効果がほとんどだ。しかも、ヒトだけにしか通用しねぇんだぞ?」

「マジかよ・・・」

「ドードなんかに掛けたって、全く効果はない。無駄だよ」

 ゲームとかだと体力ゲージが回復するもんだが、なるほど・・・現実的にはそういう解釈になるのか。

 仮にあるとするなら、キュアとはまた別の魔法なんだろうが、そんなことを考えてる場合じゃない。

「縄を使ってドッシュとドードを繋いで、引っ張っていくってのはどうだ?」

 それも考えはした。考えはしたが、

「ドードがそもそも足を回せんわけだし、引っ張ったところで大した効果はないだろうが・・・」

 まだ回せる足が残っているならまだしも、ほとんど動けないドードを引っ張ったとて・・・

「やってみないと分かりませんよ。今はどんな手を使っても逃げることが先決ですし」

 マーベルさんの言うとおりではある。

「ドッシュたちにはわたしから言っておくよ」

 ヴェロニカが交渉を始めたからか、ドッシュたちの表情があまり良くない風に見える。

 たぶん、嫌なんだろうなぁ・・・でも、やってもらわにゃ俺たち全員あの世行きだからなぁ。やってもらわんと。

「キリ、大丈夫!」

「うし」

 後でそこそこ良い餌を出しておけばいいだろ。

「マーベルさん、先行してくれ」

「はい!」

 マーベルさんを先に行かせつつ、俺は荷物からロープを準備。

「三人とも、今から縄を渡すから、三頭が横一列に均等に走れるように調整して、鞍に繋げ!」

 俺のドッシュも先回りさせて、最寄りのキースに縄の端を投げて渡した。

「均等にしとけよ!どこかたるんだら事故になる!」

「おう!」

 バランスを崩したら転倒するかもしれないし、そうなったら乗っている人間が怪我をする。

 ドードが怪我をしたらチャーター屋に文句は言われるかもしれないが、この際言ってはいられない。

「こっちまでできたぜ!」

 キース、リオーネ、ジェシカの順番でドードを固定できたらしい。

「マーベルさんに投げろ!」

「投げるぞ!」

「はい!」

 ジェシカがロープの端を投げると、マーベルさんはそれをしっかり受け取って、

「最後に私のドッシュに結べばいいんですね?」

「ああ、それでいい!」

 急ごしらえだが、これで引っ張っていく構造ができた。

「グッ、ぐうぅっ」

「堪えてくれよ・・・!」

 ドッシュ二頭に負荷が掛かっている。声に出てる。

 人間三人とドード三頭を引っ張るなんて、普段しないことだからな。負荷に声を上げても仕方がない。

「少し速度が上がったわね」

「バタバタしてっけどな・・・」

 無理矢理引っ張られているからか、足は安定してないようだが、走ることはできている。

 これも所詮付け焼刃・・・どこまで保てるかだな。

『少年!』

 ・・・アポロか。

「こんな時にどうした?」

 なんか口調が強いな。何かあるのは分かるが・・・

「キリさん?」

「後で話すから、今は黙っておいてくれ」

「分かったよ」

 やっぱり、ヴェロニカには聞こえてないようだ。

 アポロは霊獣・・・とか言ったっけ?そのテレパシーとヴェロニカのそれとじゃ構造が違うんだろうな。今はどうでもいいが。

『後方を注視せよ!』

「後方・・・?」

 ガノダウラスがいるんだろう?それ以外に何がある?

『非常に危険な存在である!』

 嫌な予感しかしないが、見ないわけにはいかない流れだ。

 それに、アポロが焦るくらいだ。相当なやつなんだろう。

「どれどれ・・・?」

 アポロの力で後方を見てみる。

 そこまで離れていないのか?徐々に範囲を広げていくと・・・

「・・・!!!」


 宙に浮かんでいる物体が一つ。

 あれはローブだ。


「あいつ・・・!!!」

 間違いない・・・クーピ村を吹っ飛ばしたあの魔術師だ!!

「キリさん?何か見つけたのかい?」

「最悪だ!アイツがいる!」

「・・・アイツ?」

 あの一件からしばらく、全く姿が見えなかった。

 警戒は当然していたし、その上で危険感知にもヴェロニカにも引っ掛からなかったから諦めたもんだと思ってたんだが、まだこの辺りでウロウロしてやがったのか!

 まだ諦めてなくて執念深く探っていたのか、それともたまたま引っ掛かっただけかは知らないが、こんなところでコンタクトはマズい!

「・・・ああ、あいつかぁ」

 ヴェロニカも察したようで、

「状況は極めて悪いねぇ、キリさん」

「全くな!」

 ガノダウラスもいるし、チート魔術師もいる。

 後方に災害級の存在が二つもいるとなると、いよいよ焦らんとマズい!

「どうする?ここから仕掛けられる距離じゃないんでしょ?」

「俺じゃどうしようもないことは確実だ」

 リオーネなら地上から攻撃できるにしても、相手は空中を移動している。確実に当てるのは難しい。

 となりゃヴェロニカならイイ勝負ができるだろうが、全部ではないにしろ、事情がバレる。まあ、やり過ごしたら話さざるを得ないだろうが・・・

「・・・ん?何です?あれ」

 振り向いていたマーベルさんが何かに気付いた。


 俺たちのすぐ後ろに、黒い何かが浮かんでいる。


 その物体は追ってきているわけじゃないから、遠ざかっていく。

 きっちり物は分からないが、黒くて薄い、丸い形状をしている。奥行きは分からんが、そんなに質量があるようには見えないが・・・

「おい。何か出てきてないか?」

 その黒い物体から何かが出てきた。

「ありゃあ・・・頭?」

 頭と認識できたその物体が、黒い物体から飛び出してきた。

「な、んで、ハンマーバードが出てきたの!?」

 出てきたのは正にハンマーバードだった。

 ただ、地面に転がって以降、動いてはいない・・・

「どうなってんだ・・・!?」

 体の損傷が激しい。頭と胴体は繋がっているようだが、翼や胴体が食い千切られている。

「まさかとは思うが・・・」

 あの個体、さっきまでガノダウラスが追いかけ回していたやつじゃないのか!?

「あの黒い物体から出てきたが、ありゃあ何だ!?」

「・・・転送か」

 何もないところへ物体を送り込む。

 転送か、もしくは移動させる何かの技には違いない。

 こんなことができるのは今のところ、ウチの赤ん坊と、

「・・・アイツか」

 とんでも魔術師か。

『少年、この次は何が起こるか・・・想像はできるな?』

「まあ、できるさ。悲しいことに」

 ハンマーバードが転送されてきたってことは、自然と・・・

「おいおい、冗談だろ・・・」

 黒い物体のサイズが徐々に大きくなっていって、そいつが現れた。


 巨大な体躯と黒い鱗、白いトサカ。

 圧倒的な存在感のある恐竜。


 ガノダウラスだ・・・!!


 ドスン!!

 すごい重みのある音だ。地面が揺れたような気がする。

 その体格からして妥当だろう。ある程度距離を置いているが、それでも相当でかく感じる。

 威圧感があるその風貌からそう思えるだけなのかもしれないが、それにしても、だ。

「おいおい・・・どうなってんだよ!?」

「知らないわよ!!」

 ジェシカとリオーネが揉めそうになっている・・・全く、余計な争いを起こすな!

「可能な限り離脱するぞ!」

 反応を見る限り、ガノダウラスも自分に何が起こったのか分かっていないようだ。この隙に少しでも離脱できればいいが・・・

『少年!!』

「ん!!」

「―――あなたの相手はこちらですよ」

 アポロの呼びかけと、すぐに発動させた能力で気付いた。


 ヤツが俺たちのすぐ後ろに出てきた!


「は・・・?何だあんた?」

「知る必要はありませんよ」

 キースに答えながらも、そいつはほんの一瞬で火の玉を作り、

「おいおい、チョトマテチョトマテ」

「あなた方はアレの腹に納まるのですから」

「チョトマテって言ってるでしょうが!!」

 エアニードルを放ったが、遅かった。

 ヤツはフレアバレットを発射した。

 それは真っ直ぐに飛んでいき、

「グア!?」

 ハンマーバードを捕食しようとしていたガノダウラスの頭に直撃した。

「・・・最悪」

 威力はそこそこあったらしい。ガノダウラスがふらついていた。

 だが、すぐに立ち直って、俺たちを凝視・・・

「グアアァァァァァァァァァァア!!!!」

 巨大な咆哮を上げた・・・

「グアッ、アアッ、グハァッ!!!」

 ガノダウラスが俺たちに向かって突っ込んでくる!

 ハンマーバードを蹴り飛ばして、真っ直ぐ!

「テメェ!!よくもやりやがったな!!降りてこい!!ぶん殴ってやらァ!!」

「あなた方には用はないので、お相手するのも無駄ですよ」

 激昂するジェシカにはお構いなし、と。

「俺に用があるなら、常識的な方法で訪ねてきてくれりゃあいいんだが・・・まあ、それは期待しても無駄か」

「何、こちらにはこちらの事情がありますからね。多少の無礼は目を瞑っていただければと」

「瞑れる目がありゃあいいが、もうお前の顔は覚えさせてもらったぞ?」


 チート野郎のフードが風ではだけて、素顔が見えた。


「・・・いつの間に」

 長い白髪を一つにしばっていて、西洋人風に見える老体。どこかのファンタジー系の洋画に出てきそうなイメージ。

 割とモテそうな爺様ってところか。

「俺の魔法も捨てたもんじゃねぇってところかね?」

 咄嗟に撃ったエアニードルが、ジジイのフードを掠めたらしい。

 風ではだけて外れてくれたのはラッキーでしかないが、

「・・・思ったよりやりますね。合格点ですよ」

「悪いが、お前らのしょうもない試験を受けてるつもりはないんだわ」

 ジジイは追って来る気はないらしい。だが、恐竜に食われる気もないだろう。

 離れ続けていて、しかもドッシュの背中の上から慣れない魔法で狙い撃ち・・・まあ、次は当たらんだろう。やるだけ無駄か。

「生き延びたらまたお会いしましょう。生き延びていたら、ですがね」

「逃げるのか?魔術師でもない俺の魔法で正体バラされたくせして、悔しくないのかい?」

「挑発が上手いですが、まだ付き合うほどではないですね」

「どうせ付き合うなら可愛い女の子がいいんですけど」

「その余裕、どこまで続くか見物ですよ」

 ジジイは左手で黒い物体を生み出した。

 随分と薄く見える。

「では、お会いできれば、またお会いしましょう」

 ジジイは黒い物体に飛び込んで、その物体もすぐに消えた。

 ありゃあ、一種のワープゲートみたいな物か・・・

「キリさん、キリさん」

「どうした?」

「結局あれ・・・どうしようねぇ?」

「グアアァァァァァァァァァァアァァア!!!」

 後ろからえらい勢いで接近してくる大怪獣・・・

「・・・どうしようなぁ?」


 あのジジイ、必ずぶっ飛ばす・・・!!


 その前に、この状況を切り抜けなきゃだが・・・

 何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ・・・辛すぎる!!!

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