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北上 ―エルフの国へ―

「この辺りが国境周辺か?」

 とりあえず、国境だろうと思われる場所まで到達した。

 特に目印は設置されていないようだ。


 日本は島国だからそれで済むが、ヨーロッパだと地続きだってこともあって、検問と柵なんかが用意されているが、こっちはそこまでやってないらしい。


 だったらどうやってここから別の国って判別しているのかが気になるが、それは一旦置いておこう。

 今気にしないといけないのは、

「あれか」

 遠くでも確認できた、森に発生している謎の開かれ方を調べることだ。

 ドッシュたちを走らせて、近くまでやって来た。

 国境と思われる位置から多少北上したし、シルフィ王国に進入したって認識でもいいだろう。

「結構深いな・・・」

 ポイズンスパイダーと戦った森も大概深かったが、ここも割と木が茂っている。

 違う点を挙げるとするなら、ここの空気感はそこまで重くないってことか?

 割と日当たりもいいし、風通しも悪くない。そういうところが作用してるのかもしれないが、腐って折れた木なんかも少ないように見える。

 まあ、もっと奥に行けばそういうところはあるのかもしれない。あくまでここはボルドウィンとの境界線付近。ボルドウィンは割と開けているし、隣接しているこの辺りはそっちに引っ張られてるだけかもしれないしな・・・

「もうちょっと奥だろ?」

「進みましょうか」

「おう」

 ジェシカとリオーネが先行して進んでいっている。

「キース、一応周辺警戒しておくか」

「おう、いつでも戦えるようにしとくんだな?」

 頷いて返してやり、俺はドッシュに先に進むように促す。

 今のところ危険感知で反応を拾っているわけじゃないが、たぶんそこまで広い範囲を検知できない。

 最終的には目で見て判断するしかない。

「キリ、わたしも気を付けておくよ」

 広範囲はヴェロニカがカバーしてくれるから、その点は随分と楽。ホント助かる。

「割と進みましたね」

「妙に静かだな・・・」


 森の割に、やけに静かだ。


 いや、森なんて静かで当然だろって話をされりゃあ、そりゃまあそうですねってなる。

 生きてるものの中で一番うるさいのは人間だ。話はするし、文明の利器を使って仕事をするし、物も作るし、森を切り開くし、山も掘るし、生活する。はっきり言って、住み着いている動物のほうがよっぽど静か。

 森に人間がいないから、そりゃあ静かなもんですよ。動物なんてしょっちゅう鳴いてるわけでもないわけだから。

 だが、この辺りの静かさは割と違う。

「何か気になることでもあるのか?」

「動物の気配が無さすぎる」

 森にいれば、大なり小なり何らかの動物、昆虫なんかが立てる音が聞こえる。まあ、人間で言えば生活音なんかがそれに該当するだろう。

 例えば足音とか、草むらを歩く時に発生する音とか、高いところから飛び降りた時に発生する音とか、挙げれば割とある。

 こっちの動物・・・所謂モンスターってことになるが、小動物クラスもいることはいるし、それこそランドリザードとかポイズンスパイダーみたいなのもいるわけだから、音がしないわけがない。

 ただ、そういう音が聞こえない。


 そもそも、生命がいるのかって思うくらい気配がない。


 危険感知の反応がないことがそれを物語っている。

 俺を捉えている、もしくは敵と見なしていることで反応するスキルは、モンスターたちにも有効なわけだが、それが全く対象を捉えていない。

 ということは、少なくとも俺の危険感知で捉えられる範囲には生命がいないって思うのは自然なわけだ。

「キリさん、わたしもテレパシーで探ってはいるけれど、動物はいなさそうだね」

 俺よりも広範囲を捜索できるヴェロニカでさえ、動物を感知していない。

「でかいモンスターは話は別としても、小さい動物さえいない。これはまあまあおかしいように思う」

 日本の森にサルとかイノシシとかヤモリがいるんだから、こっちの森にだってよく似た動物の一つや二つくらいいるだろう。

 実際、ヴェロニカと出会った森にはそこそこいたわけだし、いないわけがない。

 となれば、

「・・・ここに何かがあるってことは間違いないんだろうな」

「・・・本当かよ」

「確実って言い切れるくらいまで自信はないけど、まあ・・・そうだろうよ」

「おーい、キリヤ!こっち来いよ!」

 少し奥からジェシカが呼んでいる。

「どうした?」

 ドッシュを近くまで走らせて驚いた。


 木が何本もなぎ倒されていた。


「なんじゃあ、こりゃあ・・・」

 数えられないくらいの量の木が、かなり広範囲でなぎ倒されている。

 まるで土砂崩れにでも巻き込まれたのかってくらいの惨状だ。

「・・・ここが国境付近で見たあの抉れた範囲か」

「そういうことでしょうね・・・」

 しっかし、よくもまあここまでなぎ倒したもんだ。

 重機で体当たりでもしたのか?強引に倒している木が大半だ。寧ろ、人の手で倒したような木を見つけるほうが難しい。

 ここが例の場所だってことは間違いないだろうが、

「キリさん、ちょっとマズいかもしれないねぇ」

「ん?」

「正面から少し右にある大きな木を見てごらん」

 ヴェロニカが言う木を探してみる。確かに大きい木があるにはあるが、

「・・・そういうことかぁ」

 マズい理由が何となく分かった。


 随分とデカい傷跡が見える。


 まるで何かで引っ掻いたような跡だ。ラインが三本あって、一本当たりの傷の幅がまあまあ広い。

 何かのモンスターが付けたものなんだろう。間違いなく・・・

「ああ・・・すごく嫌になってきた」

「ねえ・・・あの傷って・・・」

 リオーネも例の傷に気付いたらしい。

「見覚えでもあるのか?」

「直接見るのは初めてだけど、相当マズいわね。あれってたぶん・・・ガノダウラス、じゃないかな?」

「ガノダウラス・・・?」

 初めて聞く名前だ。少なくとも、ノーボのクエストリストでは見覚えがない。

「ガノダウラスはシルフィ王国を生息域にしている大型モンスターだよ」

 シルフィ王国で見られるモンスターだったか。だったら知らなくても仕方がないが、

「とても凶暴な肉食獣でね、はっきり言って相当強いよ」

 凶暴でない肉食獣に出会ったことがないんだが。いたら連れてきてほしい。

 それよりも、強いってのが本当に嫌になる。

「どんくらい強い?」

「そうね・・・首都の一部は吹っ飛ばされるくらいは覚悟しておいたほうがいいかも」

「ちょっと大げさだけれど、割と的確かもしれないねぇ」

 首都の一部が吹っ飛ぶだと・・・?

 おいおい、まるで天災じゃねぇか。一匹のモンスターでそんなことまで発展するのかよ?

「・・・並大抵で勝てる相手じゃねぇよ」

「チョトマテチョトマテ」

 あの脳筋ヒーラーまでビビってるだと・・・!?

 殴ることができりゃあどんな相手にだって突っ込んでいくような女だったよな?それがビビるってことは相当な相手なんじゃないの?

「私たちの戦力もそこそこ整ってはいるけれど・・・勝つのは難しいわね」

「・・・そこまで?」

「あれ一頭に相当な人員を導入していたわ。私が知っている事例だと、確か総勢三十人で掛かってようやく討伐できたはずだし」

 一頭につき最低三十人も必要なのかよ!?

 そりゃあ、俺たち四人で勝てるわけがない。

「いや、そうじゃないそうじゃない」


 一旦冷静になれ。

 俺たちの目的はそれじゃない。


「リオーネ、ジェシカ、そのガノ・・・なんだっけ?」

「ガノダウラス」

「あー、分からん。あれの傷跡は、そのガノなんたらってのが付けたってことで間違いないな?」

「まあ・・・そうだろうよ」

「間違いないと思うわ。あれだけの爪痕を残せるのは、この辺りだとガノダウラスくらいだと思うし」

 地元のヤツが言うんだから間違いないだろう。

「うし、分かった。撤退するぞ」

 となりゃあ、やることは一つだけ。

 さっさと安全圏まで離脱する!

「おいおい、冗談だろ!?」

「お前、ああいうのと戦おうってのか?そっちのほうが冗談だろ?」

 爪痕の規模からして、相当大きいモンスターに違いない。たぶん、パラライズバイパーと同等、もしくはそれ以上のモンスターだ。

 加えて、大木の表面を抉り取ることができるくらい強靭な爪があることも確定事項。防具を付けているキースとか、手甲を装備してるジェシカならともかく、ほぼ生身の俺がそんなモン食らったら真っ二つにされちまう。

 大体、どれくらいのレベルの連中かは知らないが、総勢三十人で掛かってようやっと倒せるようなヤツに、四人程度でまともに相手できるわけがない。

 そんなモンと戦えるか!!

「ガノなんたらがこの辺りをうろうろしてるって知らせることができれば、後は王国お抱えの精鋭たちがやってくれるだろ?こんな災害級のモンスターだったら嫌でも動く」

 寧ろ、報告を受けて放置したら、足をすくわれかねない。

 王国ってくらいだし、政治は王政なんだろうが、国王も自分の身が可愛いわけだし、最低限どうにかするだろう。

 仮に放っておくにしたって、森の一部をなぎ倒すようなモンスターなわけだし、そのうち大きな被害も出るだろう。

 どっちにしたって、対処せざるを得ない状況であることは変わりない。

「戦うにしても、今のキリたちでは危険すぎるしねぇ」

 ヴェロニカがバンバン魔法を撃って攻撃してくれるならまだしも、ジェシカたちがいる以上はそれは難しい。俺が負ぶって演技する方法もできなくもないが、あまり多用しすぎると強い印象を与えてしまう。これは今後の活動に影響する可能性が高いからやりたくはない。

 単純に戦える戦力はヴェロニカを除けた人員のみとなりゃあ・・・まあ、勝てんだろう。

 やってみないと分からないが、五体満足で帰られるってことはないだろうなぁ。

「あくまでも俺たちの目的は調査!爺さんも言ってたろ?」

「避けられないなら戦ってほしい、でしたね」

 そう。避けられないなら戦う。

 ただ、今回は的が目の前にいないし、こっちに迫ってきているわけでもない。確証を得るために探しに行くのは百歩譲ってやってもいいが、戦う必要は全くない。

 爺様は怪我をされても困るとも言っていたし、ここは引くべき。

「まあ、正常な判断だと思うわ」

「無茶はしないほうがいいだろ」

 リオーネとキースは撤退を支持してくれている。

「さすがにガノダウラスを今の戦力で討伐するのは難しいですね。素材は欲しいですが」

「賢明な判断だよ。わたしがたくさん手出ししていいなら戦うけれどね」

 ・・・事情を知ってる二人は相変わらずだな。

「なんだよ、ビビりやがって」

 一方のジェシカはこんな調子だったが、

「・・・お前、さっきまでビビッてたよな?」

 爪痕を見た時のリアクションから察して、相当ビビってたはずだが。

「ビビッてない」

「ビビってたろうがよ」

「ああ、ビビってた」

「ビビってたわよ」

「ビビッてましたね」

「ビビってたねぇ」

 俺以外も賛同してくれている。

「精神的にも相当きてるのにねぇ。強がりは時と場合を選んでやらないと」

 さすがテレパシー持ち。おいジェシカ、余計なことをはしないほうが得だぞ。

「・・・チッ」

 これは飲み込んでくれたってことでいいのか?

 まあ、飲み込もうと飲み込むまいとどっちでもいい。

「よし、次の町へ急ごう。他のモンスターの調査なんて後回しだ。今はガノなんちゃらの報告を最優先にする」

『少年、我の言うことに耳を傾けよ』


 ・・・またアポロが話しかけてきた。


 これからここを離れようって時に、何の用事だ?

『意識を広く持つが良い。危険感知で敵意の有る者を探す要領だ』

「キリ、どうしたんだい?」

「行こうぜ。こんなところに長いしないほうがいい」

 ヴェロニカとキースが話しかけてくれているようだが、意識がアポロに持っていかれてる?

「キリヤさん?」

「ごめ、ちょい待ち」

 そっちに集中すると、周りの様子が若干見えなくなる?

 慣れない感覚だ。周りのリアクションを見るに、明らかに普通じゃないように見られている。

『この辺り一帯に意識を広げよ。自身を中心とし、少しずつ見える範囲を広げていく要領だ』

 これが何なのかは分からんが、さっさと片付けんと撤退できん。

 アポロはアルテミナの加護の一部らしいし、俺に悪いことを起こそうとしているわけじゃあないんだろう。

 とりあえず、言うとおりにやってみよう。

「・・・こうか?」

 意識を広げるって感覚がよく分からないが、自分を中心に地図の範囲を拡大していくようなイメージをしてみた。

『そうだ。何か変わったことはないか?』


 不思議だ。遠くが見える。


 危険感知と一緒じゃない。あれはあくまでもざっくりどの辺りに敵意を持っているヤツがいるかをシグナルで把握するスキル。

 今やってるこれは、的確に遠くが見える。どの辺りまで気がなぎ倒されているのかが見えるし、もっと集中すると自生している花とか、小さい昆虫なんかも見える。それがくっきりと、鮮明に。

 更に付け加えると、二次元だけじゃなく、三次元でも把握できる。つまり、今立っているここから平面的に見えるだけじゃなく、空から俯瞰して見ることもできる。

 全体的な把握はカーナビ。ピンポイントでの把握はドローン。それがしっくりくるイメージだ。

『少年から西北西の方向を見てみるがいい。少し離れた場所だ』

 言われたとおりの場所にイメージを広げると、騒がしい場所が見えた。

「あれは・・・」

 一羽のモンスターがドタドタ走っている。あれはハンマーバードか。クエストリストで見た姿だ。

 そいつを追うように、別のモンスターが走っている。

『見えたか』

「・・・マジかよ」


 青黒い皮膚と鱗と、頭に生えている白いトサカ。

 鋭く伸びた爪。

 何でも砕きそうな力強い顎と牙。

 筋骨隆々の力強い肉体。


 まるでティラノザウルスみたいな巨体のモンスターが、ハンマーバードを追いかけている。


 随分とデカい。

 ハンマーバードも人と比べるとそこそこ大きいはずで、大きい個体で三メートルかそれ以上はあるって話だった。今見えている個体もそれに近いように見える。

 だが、その恐竜はそれよりも更にデカい。たぶん、二桁くらいは余裕にある。

『それがガノダウラスである』

 ・・・マジですか。

 あんなのがこんなところで暴れてるんですか。

『この辺りの環境変化はヤツのせいであると見て間違いないだろう」

 そりゃあ、あんな巨体が走り回ってりゃあ、木の一本や二本折れるどころで済まんわなぁ・・・

 今見える光景はたぶん、ハンマーバードを捕食しに掛かってる状態だ。

「キリさんやい。さすがに心配になるよ?」

「・・・こうすりゃいいのか」

 アポロ側と現実側と切り分けるイメージを持てば、周りの声が聞こえるようになってきた。

「なあ、ガノダウラスってやつは青黒い、デカいトカゲっぽいやつか?」

「え?ああ、そうだね。ランドリザードとは少し違うけれど、とにかく大きいわ」

 アポロが言うことも間違ってはない、と。

『我が嘘を教えると思ったとは心外である』

 そりゃあ神様の遣いなわけだし、そういうのはないんだろうけど、一応な?

 っていうか、だとしたらマズいだろ!

 近くにいて、しかも現在進行形で暴れまわってるんだからな!

「悪い悪い、離脱しよう。次の町はどこだっけ?」

「ウトだ。この位置からだと北上になるかね?」

 地図と踏破で確認できた。ほぼほぼ北上で間違いない。

 森を突っ切っていけば早いが、ガノダウラスがうろうろしている場所を突っ切るのはリスクが高い。多少迂回することにはなるが、森を避けながら北へ向かうほうがいいだろう。

「よし、行こう!」


 ドスン・・・!

 遠くで何か、重い物が倒れたような音が聞こえた。


「あー、キリさん・・・マズいねぇ」

『少年。離脱するなら急げ』

 ヴェロニカがテレパシーで何かを引っ掛けた。

 アポロの様子から察して、

「・・・マジかぁ」

 意識をアポロ側の探知に切替えて見渡すと、さっき発見したモンスター二頭がこっちに向かって走ってきている姿が見えた。

「みんな、急ぐぞ!かなりヤバい!」

「は?やば・・・?は?」

「とにかく急げ!!ドードを駆ってる三人は早く行け!!」

 ハンマーバードとガノダウラスは割と近くまで来ている。

 このやり取りで時間を潰すのはマズい。ただでさえドードは走力に限界があるし、追いつかれる可能性も否定できない。

「・・・とにかく行こうぜ」

 キースが先頭に立って、

「今のリーダーはキリヤだ。様子からして普通じゃない。今は指示に従おう」

「そうね・・・そのとおりだわ」

「なんなんだよ、全く・・・」

「文句垂れるな。キリヤ、先に行くぞ」

「おう」

 キースたちが先行していった。

「キリヤさん、ガノダウラスが近くにいるのでは?」

 マーベルさんは察していて、

「ハンマーバードを追いかけてこっちに向かって来てる。俺たちもすぐに離脱しよう」

 騒音はどんどん近づいてきている。猶予はそこまでない。

「あ、近くまで来たねぇ」

 テレパシーで把握できる距離は近づいてきている。

「マーベルさん、行こう!」

「了解!ハッ!」

 手綱で進行を指示したマーベルさんのドッシュが走り出した。

「よし、頼むぞ!」

 俺たちも続けて離脱を開始。

「これで離脱しきることができりゃあ御の字だが・・・」

 ドッシュは早いし、スタミナもある。ドードに追いつくことは簡単だろうが、問題はドードたちだ。

 放っておくわけにもいかないし、かと言ってレンタルのドードを失うことになればチャーター屋に違約金を支払わないといけなくなる。

 こんな時に金のことを考えたくはないが・・・

『少年、このままでは逃げきれぬぞ』

「おい、マジかよ」

 例の二頭の状況を確認。

 ハンマーバードは開けた場所を走っている。その後を的確に恐竜は追っかけていて、あと少しで追いつける距離まで詰めている。

 鳥の体力が尽きてきているのかもしれない。だいぶ走ったんだろう。

 だが、それはあくまでも鳥の事情だ。俺は知った事じゃない。

 それにしても、恐竜のほうがピンピンしてるな。まだ余裕で走れそうに見える。

「このままハンマーバードを捕食してくれりゃあいいが・・・」

『捕食はするだろうが、周りに的がいないため、他の獲物を狩る可能性は高い』

「・・・というと?」

『ヤツはその大柄の体を維持するために、大量の食料を必要としている。ハンマーバード一頭では足りんだろう。となれば、近くにいる獲物を捕食するに決まっている』

 ・・・まあ、そうなることくらいは想像できるが、

「アポロさあ・・・一応、俺の味方なんだよなぁ?」

『不本意ではあるが、アルテミナ様の命であれば従うのが霊獣の務めである』

「さらっと不満漏らすな。だったら、俺が食われたらアルテミナに説教でも受けるんじゃないのか?」

『ふむ・・・確かに、そうなる可能性は高いが』

「だったら協力しろよ!いくら何でも、説教なんか受けたくないだろ?」

『勘違いされては困る。今も協力している』

「・・・協力してこれかよ」

 だったらもうちょっと感じよくしてくれないもんかね?

 どう見ても嫌々ってのは見て分かるんだが?

『勘違いしているようだから再度伝えておくが、我はお主を認めたわけではない。だが、問題の解決もできずに死なれても困る。協力しなければならない故、今は力を貸しているのである』

 どっちにしても嫌々なのは否定なし、か。

 まあ、この梟の性格的に友達になりやすいタイプでもないし、神様の遣いみたいな立ち位置だから、下々に協力するのも思うところがあるんだろう。

 こんなのを当てられても困るんだけどなぁ、アルテミナ様よぉ・・・

「むっ」

 マーベルさんとヴェロニカのドッシュはずっと見えていたが、先行していったキースたちが見える距離まで追いついた。

 となりゃあ、ここからは全員で逃げることになるが、

「キース!ドードはまだ走れるか?」

「ちょっと無理かもしれん!速度が落ち始めてる!」

 ドードの足の方が限界か。

 ノーボから走ってきて、あまり休憩も取ってないからな。分からんでもないが・・・

「・・・しょうがない。少し速度を落とせ!」

「いいのですか?追いつかれますよ?」

「それは懸念しちゃいるが、まだある程度の距離はあるし、問題ないだろ」

 走れなくなったらいよいよヤバい。最低限、ランニングくらいのスピードを維持できていれば、少しでも離れられるわけだし、移動し続けることが優先だろう。

 実際、早めに動けたからある程度の距離は稼げてる。向こうが気付かなければ、そのまま離脱することもできるだろう。今はそれでいくしかない。

「しっかし、ガノダウラスがこんなところでうろうろしてるとはなぁ・・・予想してなかったわ」

「それが野生だ。しょうがない」

 問題は普段の行動範囲から離れることになった理由だが、それが一体何なのか突き止めないと、この件は終わらんな・・・


 *


「おや、こんなところにいたとは」

 にやっと口角を上げる。

「死んではいないだろうと思っていましたが・・・ふむ」

 随分と騒がしく辺りを荒らしているモンスターが二頭、か。

「面白い」

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