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「・・・ん?」


 色んな意味で疲れたからか、目を閉じて眠りに入るのにそう時間は掛からなかったはずだ。

 たぶん、三十分も経たずに眠れたんじゃないだろうか。

 肉体的にもそうだが、あの頭の悪い連中と揉めて精神的にもきてたんだろう。当たり前だな。


 と、そんな俺は夢を見ている。


 どこかで味わった感覚。

 夢だと思える割に、妙に具体的、かつ非現実が入り混じる、矛盾した空間。

 深い森の中で、自分がどこかちゅうぶらりんになっているように感じさせる不思議な空間。


 これはアレだ。

 首都で一度見たやつだとすぐに分かった。


「ようやっとまた会うことができたな」

 ぼんやりとした森の奥から、またあのお姉さんがやってきた。

 ・・・あれ?梟とオオカミが一緒だったはずだが、今回は梟だけがいて、そいつはお姉さんの右肩に乗っている。

 割と大きい梟だが、重たくないのか?どうでもいいことだけども。

「今度は喋れるか?試してみてくれ」

 促されて、

「あ、お、おおう。喋れるわ」

 前回と違って、喋れることが分かった。

 意外とこっちでも普通に話せる。

 気になるのは、夢の中なのに自分の遺志のとおりに喋れていることだろうか?

「よかった。これで意思疎通を図れる。まあ、私にはあまり関係ないのだが」

「・・・ちょっと何言ってるかよく分かんないんですけど」

 こっちの疑問はそっちのけで話が進んでいる。

「む。ああ、すまないな。こちらのことだ。そのことも後々、機会があれば話そう。今はそこは重要ではないのでな」

 前回からそこそこ時間が経っているが、なんとなく話さないといけないことがあるんだろうってことくらいは覚えている。

 ただ、あれからこの夢を見る機会がなかっただけ・・・のはず。

「まずは自己紹介をしよう。私はアルテミナ。ラヴィリア三女神の一人である」

「・・・はい?」


 アルテミナ?ラヴィリア三女神・・・?

 なんのこっちゃ分からん。


「ラヴィリアというこの世界には、私を含め三人の女神がいるのだ」

 そう言ったアルテミナが、ポーチに取り付けている、古ぼけた丸い紙を取って広げる。

 それは自然と宙に浮いて、

「君が今いるのはこのノーラ大陸だ」

 それが世界地図だと分かるのにそう時間は掛からなかった。

 見覚えのある形状だし、一応携帯もしているしな。

「その向かい側がポーラ大陸。そこにリュクスという女神が一人いる」

「一人いる・・・?」

 言い方の問題か?若干気になるんだが、

「そしてビューラ大陸にもう一人、モーナがいる。そしてここノーラは私。この三人で三女神というわけだな」

「ちょいちょいちょいちょい」

「どうした?」

 どういう流れでこの話が始まってんだ?

「アルテミナ、だっけ?あんたが女神ってのは本当の話かい?」

 とりあえず冷静になって考えよう。一つ一つ、丁寧に理解していかないと話が分からん。

「無論」

「その証拠は?」

「証拠と言われるとなかなか難しいが、このように他人の精神の中に入って会話できる者など、下界に存在していない」

 え?他人の精神に入って会話する?

 ってことは何?これって夢とかじゃなくて、眠ってる俺の精神に直接このお姉さんが入って来てるってことか?

 ちょっとヤダ、なんか怖い!

「安心してくれ。別に精神を崩壊させようなどとは思っていない。まあ、やろうと思えば可能だが」

「余計なことを言うなよ。普通に怖いだろうが」

「ふふ。いつもの調子になってきたようだな」

 アルテミナの表情が少し和らいだ気がする。

 そういえば、初めてではないにしても、この状況に身構えていたし、訳の分からないことを説明されてしまって警戒していたかもしれん。

 ツッコミでいつもの自分らしくなった・・・って、なんだそりゃ。俺は芸人じゃないぞ。

「じゃあ、続けて質問するぞ。仮にあんたが女神ってならそれはそれでそうなんだろうが、ラヴィリア中にいるのか?」

「そういうことだ。先ほども説明したが、私を含めて女神は三人。それぞれ、大陸を一つ担当している」

「・・・だからアルテミナはノーラ大陸の担当ってことか」

 アルテミナは小さく頷いてくれた。

 なるほど。ってことは、さっき話に出たリュクスとかいうのがポーラで、モーナがビューラ大陸の担当ってことになるわけか。

「どういう目的で担当を分けてるんだ?そこに何か意味はあるんだろうが」

「その辺りは大した理由はない。ただ、何となくそうしただけだ」

 そういうことを何となくで決めるのはいかがなものだろうか・・・?

 この三女神とやらにとっちゃあどうでもいいことなんだろうが、下々の俺たちからすりゃあたまったもんじゃないぞ。そうやって聞けば尚更。

 ただまあ、一方でそういう風に決まったと知らなければどうでもいい話でもある。

 知らないって強いな。やっぱり。

「アルテミナは普段何やってんの?」

「私のプライベートを知りたいのか?」

「・・・いや、そういうことじゃない、だろ・・・」

 何で俺がアルテミナの・・・いや、仮にも女神と自称するような存在のプライベートを知りたいと思えるんだよ???

 そりゃあまあ、そういう趣味というか、知的好奇心というか、そういうのが働く場合はあるだろうが、今はそんなことどうでもいいわけで。

 何でこういう状況になったのかを知る必要があると思うんだが・・・

「すまんすまん、少し意地の悪いことをしてしまったな」

 自覚はあるようで安心だ。まあ、そこまで困ることじゃないからどうでもいいんだが・・・

「私たち三女神はそれぞれの大陸の守護をしている。私はノーラ、他二人はそれぞれの大陸の守護をしている。守護と言っても、基本的には見守るのが大半を占める」

「見守るっていうと?」

「そうだな・・・例えば、君の世界では天国だとかそういう表現をすると思うが、ここはそれに近しい世界観であり、ここから下界の動向を見守っているということになるかな」

「え・・・」

 何?ここ天国みたいなところなの?

 ってことはシンプルに俺死んでる感じになっちゃってるんだけど?

「あくまでも例えばの話だ。ここはあくまでも君の精神空間だし、そこに私が介入しているだけのこと。ただ、本来私たちがいる世界・・・つまりは天界ということになるが、そこと直接繋がっているわけではない」

 今俺がアルテミナと話をしているここは、あくまでも俺の精神の中。

 アルテミナたち三女神とやらがいるのは天界っていう表現のそれで、俺の精神空間とは別次元ってことになるのか。んで、何らかの方法で俺の精神に入り込んできている、と。

 まあ、話を聞けば大体分かるが、

「何で俺の精神に入って来てるんだ?」

「うむ、本題はそこだ」

 まだ知りたいことはあるんだけど、基本的な問題は先に聞いておくに限る。

「我々はとある男を追っている」

「・・・とある男?」


 何だ、この展開・・・?


 急にシリアスな展開になったような気がする。いや、こっちに来てから大概シリアスというか、面倒な展開が多かった・・・が正しいか?

 今はどうでもいいことだが、

「長い間、その男を追っていてな。君にその手伝いをしてほしい」

「・・・なんでぇ???」

 何がどうなってそんな話になんのよ?

 しかも、何で俺なんだよ?

「細かな説明は省く。別の機会に話すほうが良いと判断している」

「何でだよ?別に今してくれても構わないけど」

「なかなか深い話でな、一回や二回のダイブでは片付かん」

 ダイブ?精神世界に入ることをそういう風に言うのか?

 言葉の意味が俺とアルテミナとで違う可能性はあるが、今はそういう風に聞こえるし、この辺りもいずれ確認してみてもいいかもしれない。

 今尋ねても、たぶん答えちゃくれないだろうし。

「今、いや、随分と前からだが、ラヴィリアの世界情勢が悪化傾向にある。具体的に言うと、人間同士の戦争などが該当する」

「こっちでも戦争やってんのか・・・」

「まあ、そうなるな」


 どこの世界の人間も一緒だな。結局、戦争やってるらしい。


 世界は違っても、人間の質は変わらんってことか。

 違う点を挙げるなら、こっちがヒト族だけじゃなく、エルフ族みたいな別の種族がいるとか、文明レベルや世界観が違うってところか。

 ラヴィリアではヒトだろうがエルフだろうが、みんなまとめて人間ってくくりらしいし、その点に関しちゃこっちのほうが進んでいると言えるかもしれないが・・・

「ノーラに関しては戦争は起きていないものの、その影響は少なからず受けている。ポーラからの交易に滞りが見られるはずだからな」

 大陸同士で交易をする文化はあるってことは首都で想像していたし、そこはまあ驚きはしない。そういう点で、戦争の影響が出てもおかしくはないってことも分かるし。

「その男ってのはどんなヤツなんだ?」

「・・・それが分からんのだ」

「・・・なんだそりゃ」


 素性も分からんヤツを探せってか。そういうのは間に合ってるんですけど。


 いくら何でも、手掛かりもないのに探し出せるわけがない。ただでさえ、ヴェロニカの親の捜索も同じようなもんだし、雲をつかむような内容で調べていくのはしんどいし限界もある。

 誰かも分からないヤツを探す難しさは半端じゃない・・・っていうより、不可能に近い。この世界だって広いわけだし、俺たち二人が探したって見つかるかどうかも定かじゃないんだ。

 そんな対象をもう一人追加なんかされてたまるか。

「君が抱えている赤子の問題とはまた事情が違ってな」

「・・・は?」

 こいつ、ヴェロニカのこと知ってるのか?

「我々が追っている男はすでに我々が知っているヤツではない」

「・・・はい?」

 ホントよく分からないんですけど。誰か、分かるヤツいる?

「その男はビューラ大陸を守るモーナが召喚した者で、確か・・・本間 勝教といったはずだ」

 本間 勝教・・・?

 パッと聞いた感じ、日本人にしか聞こえない。

 まあ、今の時代なら海外にも二世、三世なんて世代が五万といるし、確実にそうだとも言えないところだが、その点は今はどうでもいいことで、

「ってことは転移してきたってことか」

 この世界で知り合った人間の名前は欧米っぽい感じだし、大体の人間がそう想像するはず。

「君と同様にな」

 ってことは、そのモーナって女神が俺もそうだし、その本間 勝教とかいうのもこっちに召喚したのか?

「ただし、君は私が召喚した」

「・・・そうなん?」

 アルテミナは頷き、

「異世界からの転移は三女神それぞれが可能な能力で、見守ること以外の仕事の一つでもある。その効果範囲は担当大陸のみに限定されている」

「ってことはアルテミナが転送したヤツは、この大陸に召喚されるのは確定ってことか」

「そういうことになる。ただし、どこに召喚できるかはランダムだ」

 何でそこだけガチャ回すような感じなんだよ。何か気に入らないな。

 ただまあ、俺があの森でヴェロニカと出会ったことは、ただの偶然だってことは分かった。

「・・・ってことはだぞ?その本間ってのはビューラにいるんじゃないか?だったら範囲は絞れたな」

「ところがそういうわけでもないようなのだ」

 話はそんなに簡単じゃないらしい。

「その本間とやらは今から三百年以上前に転移させた者でな」

「三百ってか!!」

 仮にそいつが二十歳で転移してきたとしたら、今のところ三百二十歳の人物ってことになる。

 人間の寿命の限界が大体百二十歳程度だって話なのに、それを軽く三倍ってのは盛り過ぎだろう。しかも、そいつは江戸時代から明治初期くらいの人間ってことになるはず。その頃の人間がそこまで長生きできるわけがない。

「・・・なあ、作り話もいいところだぞ、そりゃあ」

「話は最後まで聞け」

「お、おう」

 アルテミナは真剣な表情をしている。

 冗談で言ってるわけじゃあないんだろう。それくらいは分かるが、話のスケールが違い過ぎて何が正しいのかが分からん!

「その男にはある特殊能力が備わっている。恐らく、それを駆使して生存し続けているのだ」

 まあ、そうでなきゃ三百歳以上生きられるわけないわな。

 確かにそう考えると、その特殊能力が関係しているのは明白だが、

「その特殊能力ってのは何だ?」

「他人と入れ替わる能力のようだ」


 他人と入れ替わる・・・?


 ってことはつまり、

「例えば、そいつは俺とかと中身を入れ替えることができるってことか」

「そういうことになるな」

 単純にそうとしか考えられないが、それはそれで簡単な話で助かる。

 だが、そうなってくると問題が変わってくる。

「・・・アルテミナの推察はそういうことか」

「うむ」

 ううわ。嫌な展開だよ・・・

 例えばそいつが八十歳まで生きたとして、入れ替わり能力で二十歳そこそこの人間と入れ替われば、実質六十歳若返ることになる。

 それをループしていくことで、実質永遠に生きることができるって寸法なわけだ。

「だったら、余計に難しいぞ・・・」

 姿が同じならまだしも、三百年間も誰かの体を乗っ取って生き続けているんだろ?

 どうせ、元の自分の体は見捨てるに決まってる。乗り移ったら用済みなわけだし、乗っ取った相手が余計なことを喋らないとも限らない。そうなったら面倒だし、寧ろ自分から始末するってことも考えられる。

 となりゃあ、三百年前とは別人で生きていることになるし、一回や二回じゃきかない回数を繰り返しているだろうし、それを探し当てろってのは無理ゲーが過ぎるだろう。

「私も詳しく把握しているわけではないが、どうやら入れ替えには条件があるようだ」

「・・・条件?」

 アルテミナは小さく頷いて、

「詳しい話はモーナが知っているが、誰でも入れ替えができるわけではないということだ。対象はある程度限定される」

「その条件は?」

「少なくとも初対面の相手にいきなり入れ替わることはできないということだ」

 すれ違いざまに入れ替わるようなことは不可能・・・ってことか。

 それはどういう制限でそうなってるんだろうか?

 例えば射程距離。危険感知の有効範囲みたいに、ある程度範囲が限定されているってなら分からんでもない。使う本人のセンスとか能力で魔法攻撃の射程距離や威力を調整できるのは分かっているし、そういう能力でも影響はありそうだ。

 初対面の相手には不可能ってことなら射程距離じゃあないんだろうが、もっと別の条件・・・例えば、自分と相手をある程度固定した状態じゃないとできないとか、そういうことなんだろうか?

 というか、今までの話も大概気になるが、

「そもそも、その入れ替わりの能力って普通に手に入るのか?パスポート見ても無かった気がするけど」

 大概時間が経った今でも、隅から隅までパスポートの中身を把握していない。

 そんな状態でも、そういうスキルがないことだけは分かっている。あったら食いつくとまではいかないにしても、何でこういうのがあるんだろうと思ったはずだし。

「パスポートには全く無いスキルだ。モーナがヤツに直接与えた能力だからな」

「・・・はぁ?」


 女神が直接与えた能力・・・?


「君たち転移者には条件を満たせば特殊能力を与えることになっているのだ。当時のヤツは条件を満たしたため、ビューラに転移させたモーナがヤツの意向を酌んで与えたのが入れ替わりというわけだ」

「・・・ってことはだぞ?」

 条件を満たせば、転移者はパスポートには無いスキル、しかも本人の意向に沿った内容でチート級の能力をもらえるってことになる。

 そんなもん、俺も欲しいわ!!

「俺も欲しいんだけど!?何かイイのちょうだい!!」

 贅沢は言わないから、せめて生活をちょっと楽にできるようなスキルが欲しい!

「君はまだその域に達していない。だが、そこまで時を待たずに与えることはできるだろうと私は思っている」

「チッ」

「舌打ちしたな?」

「そりゃするだろ」

 頭のおかしいヤツには与えて、真っ当に生きてる俺はダメとか、そりゃ舌打ちの一つや二つくらいするだろ。

 しかも、わざわざ他人の精神にまで入り込んでまで、その本間 勝教とかいうのを探せって言ってきてるのにだ。

「まだその時ではないのだ。先ほども言ったが、君はまだその域まで達していない」

 逆に言えば、そこまで達することができればスキルを与えてくれるってことか。

 そんな頭のおかしい内容をねだるわけじゃないし、その辺りは融通を利かせてくれてもいいと思うんだけどなぁ。

「君の件はともかく、我々の頼みは伝えた。協力してもらいたい」

 話は一段落したらしい。まだまだ聞きたいことはあるんだが、

「・・・何で俺に頼むんだ?」

 毎度のことだが、俺はその辺にいる一般人であることに変わりはない。

 そりゃあ、ここしばらくは変な引きをしてるとは思うが、本当にそれくらいなもんで、特別頭がいいわけでもないし、何かの武術が得意なわけでも、ケンカが得意なわけでもない。唯一、ある程度のサバイバル能力と知識があるってだけの存在だ。

 そんな俺より、もっと適したヤツはいると思うんだが。

「転移者が皆、我々に協力的なわけではない」

 アルテミナは浮かべた地図を丸めながら、

「君のように精神にダイブして協力を要請するが、大体は断られる。協力すると言ってくれても、最終的にはどうでもよくなって投げ出す場合もあるし、様々な事情から身動きが取れない者もいる。そもそも、我々とのコンタクトが取れるまで生き残れる者が少ない」

 そういえば、ヴェロニカや協会のスタッフも言ってたっけ?

 そもそも、転移者自体が珍しいし、生きて協会にたどり着けるヤツはごくわずかだとか。

 となれば、俺が想像していたよりはるかに召喚された人間は多いのかもしれない。

「私は狩猟と技術を司る女神でな」

「ほお?」

 地球の神様にもそういう担当というか、要素というか、色々あるとは思っていたが、アルテミナにもそれがあるらしい。

「私が転移する者は、生き残る能力を持っていることを最優先としている。君はなかなか体が頑丈だし、生き残る術はある程度持ち合わせている。うってつけだと思ったわけだよ」

「そんなにできるわけじゃないぞ?」

 体のタフさはそれなりに自信はあっても、ゴリゴリのブッシュクラフトなんて経験はない。ある程度の道具と知識があって、初めて生きられる。

 偶然、ヴェロニカと出会って、無一文で右も左も分からない状態でも首都まで辿り着くことができた。マーベルさんと知り合えたことで、道具を手に入れることができたから、ある程度までサバイバルすることができている。

 今でこそ自分の判断でやっていけているが、たまたま上手くいい方向に転がれているだけだ。

「運も実力のうちとも言うがな」

「アルテミナさぁ。割と地球のこととか詳しいんじゃないか?」

「ある程度まではな」

 地球から俺みたいな連中を召喚しているわけだし、ある程度は分かって当然か。

「詳しい話は別の機会にさせてもらう。今は我々の要望を気に留めておいてほしい。可能であればその調査も頼みたいところだが、難しいだろう」

 三百年以上も前から続いていることだ。しかも、大勢に起こっていることじゃなく、たった一人の特定の人物。それこそ無理難題だ。

 できりゃあ俺も断りたい。っていうか、普通なら断る。そりゃあ、アルテミナがコンタクトを取ってきた連中が正しい。そんな無理ゲー、普通はしないし、できない。

「・・・分かったよ。できる範囲でだぞ」

 この女神、話せば分かるタイプだと思う。別に悪い印象もない。

 それにまあ、なんか断り辛いよなぁ。わざわざ頼ってきてる奴の場合は。だからお人好しって話になるんだろうが・・・

「助かる。そろそろ目覚める頃合いのようだ」

 アルテミナが少し薄く見えてきた。俺の意識が戻ろうとしてるってことか。

「ここまで意思疎通を図ることができれば、ダイブしやすくなる。その時までの繋ぎで、簡単な加護を与えておこう」

 そう言ったアルテミナの右肩に乗っていた梟が、ふわりと羽ばたいて彼女から離れた。

 すーっと、俺に向かって飛んでくる。

「え?あ、おい」

 梟って猛禽類ですよね?一応、肉食ですよね?若干怖いんですけど。

「じっとしていろ」

 梟は俺の頭に着地した。

 地味に爪が刺さって痛い・・・ような気がする。

「私の守護獣、アポロだ。次に会う時までの期間限定だが、お前の目になってくれる」

「俺の目・・・?」

「さあ、朝だ。赤子が目を覚ましている。起きるがいい」

 アルテミナが姿を消した。近々、また会うことになるんだろうなぁ。

 まあ、それはそれとして、

「あの、アポロさん・・・?若干爪が食い込んでるんで、ちょーっと足の力、緩めてもらっていい?」

 守護獣って喋れるのか・・・?でも、痛い気がするしなぁ。

「よかろう」

 あ、喋れた。

「人の子よ」

「え、あ、はい」

「アルテミナ様が寛容故に我が付いたが、決して全て認めたわけではないということを肝に銘じよ」


 わぁ・・・やりにくい。

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