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「お呼びでしょうか?」


 屋敷のとある一室に、男がやってきた。


「この二人の調査の進捗はどうなっている?」

 魔導タブレットをデスクに置くと、

「この二人ですか」

 やってきた男はそれを持ち上げ、ぼうっと光る画面を眺める。

「不服か」

「いえ、そういうわけでは」

 理解に苦しむ。そう読み取れたわけだが、

「確かに気になる存在ではあります。このタカミ キリヤという少年と、フェニーチェという子供は」


 画面には二人のデータが表示されている。


「特に子供のほう。何なんですか、この能力は」

 ほとんど習得していないものがないくらい、魔法関連のスキルは覚えている。

 大人顔負けと表現することがあるが、これはそれの比ではない。

 一般的に魔法スキルに限らず、戦闘系、生活系と幅広いスキルがある中で、一個人が習得できる数など知れている。

 中にはある程度の才覚がある・・・つまりは天才的な能力を持って生まれた者などが該当するが、そういった者は生まれたすぐにでもスキルが埋まっている場合もある。だが、それでも魔法関係のスキルを全て覚えられるわけではない。

 結局は経験と努力というものが不可欠である。それがこの世界の理と言えるかもしれない。

 だが、このフェニーチェという子供は異例の存在である。異例というよりも、異端と言ったほうが近いかもしれない。

「本当にこんな風な能力であれば、とんでもないですよ。我々が束になっても勝てるものではない」

 スキルの多さが強さに直結しているわけではないにしろ、才能が無ければこうはならないのも確か。

 いざ戦うとなれば、この子供一人でどれだけの被害が出るか分からない。

「勘違いするな。我々は戦おうとしているのではない」

「・・・そうでした」


 我々の目的はそこではない。

 目的を見誤ってはならない。


「それに加えて、このタカミ キリヤという少年・・・これもどういう存在なのか」

 若干十六の少年ではあるが、

「転移してきているのはすぐ分かりますが、反映されたスキルが特殊だというか何と言うか」


 ナイフ、斧、基礎体力、技術、知識、クラフト。


 特段これと言って特別には思えない。

 だが、それは一般的な観点での話である。

 いきなりナイフと斧を習得している・・・しかも、ナイフに限ってはいきなりレベル2まで反映されている。

 どこの世界から転移してきているのかは分からないが、一般常識的にナイフを使い込む十六の少年がいるものか?

 ラヴィリアでさえ、そんな者は少数派であるというのに。

「しかも、追加したスキルも特殊なものばかりでしたしね」

 クラフトをレベル2に引き上げ、複製を習得。更にはかくれんぼや危険感知を覚えている。

 狩人や盗賊に通じる内容ではあるものの、ジョブは探検家を選んでいることも気になる。

 このタカミ キリヤという少年の世界ではこれが当たり前なのだろうか?そう思わされるほど、この少年に何かを感じている。

「この転移者も調査対象にするというのはよく分かりませんが・・・」

「転移者であるが故だ。過去に事例があることを忘れたか?」

「・・・そうでしたね」

 とにかく、と話を切り上げ、

「進捗の報告をしろ」

「調査員をノーラに向けて派遣しました。随分離れていますし、ボルドウィンへ出る船も使えない今、接触に時間を要します。しかも、彼らも移動しているわけですし、確実に出会えるかは分かりません」

「それは承知の上だ」

 急ぎ、彼らと接触しなければ。

「奴らも動いているだろう。転移者がいるとあれば、な」

 大変なことになる前に。

「承知しています」

 こちらも待ってはいられない。


 時が動き出した。この十八年、止まっていた時間が動き出した。


 この二人が動かしたのだ。


「急げよ」

 上手く事を運ぶことができれば、あるいは・・・


 *


「なんとか騒ぎにならずに済んだな」

「全くだねぇ」


 鋼の剣の剣士がタイマンを仕掛けてきた。


 そりゃあ、結果に納得いかないのも分からんでもないし、場の空気も最悪で面白くないのも分からんでもない。プライドを傷つけられたとか言われても仕方がない場面ではある。

 だが、だからっていきなり勝負しろってのはどうなんだ?

 しかも、俺は本気で戦闘をする風に心も体もスキルも準備しちゃあいない。言っちまえば、ちょっと戦える一般人ってくらいでしかないわけだ。

 そんなヤツが、戦い慣れたゴリゴリの剣士に勝てるわけがない。アホでも分かるこった。

「おいおい、そんな勝負したってしょうがねぇだろがよ」

 見かねたキースと、

「勝負は私たちの負けでいいってことになったわけだし、実力のある人の提案じゃないと思うわよ」

 リオーネが割って入ってくれたものの、

「貴様たちの言うことなど関係ない。今は俺とこいつで話している」

 ・・・と、頭に血が上ったヤツにとっては関係のないこと、と。

 聞き分けがいいタイプじゃないし、こうなることは想定していたけど、いざ直面するとなかなか酷い。

 今から謝っても許しちゃくれないだろうし、こいつ相手に土下座するってのもなぁ。っていうか、ラヴィリアの文化で土下座ってのがあるのかも分からんし、正直何とも言えん。


「おーい、お前さんたち。これ以上はやめときな」


 上の階から、爺さんが降りてきた。

 パッと見、七十代くらいの感じかな。

 農作業をやっている風なラフな服装。実際、ちょっと土汚れが見える。

 歳を食ってそうな割に猫背になっていないのも気になる。線もしっかりしてるし、今も現役で何かしら仕事をしてるのかもしれない。

 そんな印象の爺さんだが、

「支部長」

 受付嬢が軽く一礼して、

「おう、ご苦労さん」

 この爺さんがここの支部長だったのか。

 それにしちゃあ、ボーマンと比べるとタイプが違うな。

「それよりも、若いの。これ以上はやめておいた方が無難じゃぞ」

「・・・いきなり出てきて何を言い出すかと思えば」

 こいつ、偉いさんにも噛みつくのか?すげぇな。

「お前さんたちも分かっておるじゃろ?生活者協会の掟の一つや二つ」

 ・・・ごめんなさい、おじいちゃん。俺は全く知らん。

「戦闘、非戦闘職に関わらず、私闘は除籍処分とする」


 ・・・そういうのあったのか。


 でもまあ、どこにでもあるルールではあるな。

 戦闘職であろうがなかろうが、私闘は良くない。学生同士の殴り合いならまだしも、こっちは高校生であっても武器が持てる世界だし、人も簡単に傷つけられるし、殺すこともできる。

 ある程度縛りは入れておかないと、それこそ無法地帯になってしまう。そりゃあ、こういうルールの一つや二つ、できて当然だわな。

「・・・だが、プライドを傷つけてきたのはヤツだ」

 こいつ・・・どこまで根に持つんだよ。友達にしたくないやつの上位に堂々ランクインするぞ。いや、そもそもこいつとは仲良くなれん。

「どういった理由であれ、私闘は私闘よ」

「だが―――」

「これ以上の問答は不要よ。それとも―――」

 爺さんの目つきが変わった。

「わしとやるか?んん?」


 爺さんの目つきやヤバい。


 まるでナイフのような?いや、氷のような?カエルを睨む蛇とか?

 どういう表現がバチっとハマるのか分からないが、とにかくすごい迫力だ。睨まれてない俺でさえ、背筋が伸びる。

 さっきまで温厚そうな爺様って感じのキャラだったのに、この豹変っぷり・・・

 この爺さん・・・只者じゃない。絶対。

「お前さんたち」

 目つきが戻った。

 お前さんたちってのが俺たちだってことはすぐに分かって、

「今日はもう遅い。成果も十分挙げてもろうた。また明日にでも来なさい。報酬はまとめて払おう」

「あ、はい」

 自然と丁寧になる自分がいる。ビビってるんだな、これ・・・

 まあ、ビビったかどうかはさて置き、実際、これからドードの回収に向かわないといけないわけだし、連中を威圧して大人しくしてもらっているわけだし、この脱出できるタイミングを逃すことはない。

「じゃあ、また明日伺います。失礼しました」

「おう、ご苦労さん」


 *


 という流れで、俺たちは協会を後にしたわけだ。

 その後は予定していたとおり、俺は単独でドッシュを駆って置いてけぼりにしていたドードを回収して帰還。獣舎に返して、一旦宿屋に。

 ひとっ風呂浴びてから、先に打ち上げをしていたみんなと合流。

 飯食って、反省会。それで解散したわけだ。

「それにしても、随分と自尊心が高い方のようですね。あの剣士の方は」

「全くだな」


 あの鋼の剣の剣士みたいなヤツ。

 あの手の奴は割といる気がする。


 とにかく、自分に自信があるんだろう。何でもできるって信じてるし、実際腕も立つわけだから余計にそう思えるはずだ。

 そこまで加味されてるかは定かじゃないが、高身長でイケメンってところも一枚噛んでるのかな?マンガとかでもよく出てきそうなタイプの、正統派な勇者ってイメージもある。

 イメージ戦略が必須とか言ってたような気がするが、その点も売りにしてるんだろうなぁ。この感じ。

 まあ、ビジュアルに関しちゃ好みもあるだろうから何とも言えんし、俺はモテた経験もないからノーコメントにしておくが、自分の実力を過大評価して周りに押し付けるような手合いのヤツ・・・どこにでもいるんだなぁと思わされる。

「結局、どうなったんだろうねぇ、あれから」

「さあな?」

 俺たちは素直に協会を出たし、飯屋でも合わなかった。

 たまたま鉢合わせしなかっただけかもしれないし、まだ協会で揉めているのかもしれないし、その辺りは分からん。

 ただ言えることは、爺さんには感謝だし、これ以上あいつらと関わるのはゴメンだってことかな。

「そんなことより、だ」

 あいつらのことはどうでもいい。今後、関わるつもりは一切ないしな。

「ヴェロニカお前・・・でかくなった?」


 こっちの問題を解決しとかないとな。


「キリさん・・・女子に向かってでかくなったと言うのはデリカシーが無いんじゃないかな?」

「私も同意です」

「んっ・・・んんん・・・!」

 言い方が悪いのか?

 それとも二人が必要以上に深読みしてるだけ?

 何?俺が悪いの?

「・・・悪かった」

 俺が悪いかどうかも解決したいが、どっちにしても言葉選びはしっかりしておかないといけないか。まあ、女子二人と旅するわけだし、当たり前と言えば当たり前ではあるんだが、今更なぁ・・・

「ちょっと見ない間に、体が大きくなってると思ったんだが」

 これもちょいアウトのような気が・・・いや、なら何て尋ねりゃいいんだよ?

「ああ、それは私も同感です」

 マーベルさんも薄々感じてはいたようで、

「なんだか急に重くなりましたし、抱えた感覚も少し変わりましたので、なんとなく成長なされたのかと思っていたのですが」

 そりゃあ、抱えてりゃ多少の変化にも気付くよなぁ。

 それに、

「髪の毛の量も増えてる」

 協会で覚えた違和感・・・毛量。体の大きさもそうだが、こっちも急に増えたような気がする。

「そうかなぁ?わたしは違和感ないけれど」

「そりゃあ、本人に自覚はあまりないだろうよ」

 でもまあ、昨日の今日で突然増えるもんじゃないし、徐々に増えてはいっていて、今日気付いただけかもしれないけども。毎日見てりゃ、見慣れるってのもあるだろうし。

「でも、おかしくありませんか?ヴェロニカさんは成長が止まっているんですよね?」

 そうなんだよなぁ。そこなんだよなぁ。


 十八年も赤ちゃんの姿でいたはずなのに、何で急に成長し始めたのか分からん。


 二十歳前後から成長するとかも可能性としてあるんだろうが、この世界の人間の仕組みは地球とほぼ一緒なわけだし、さすがにそれはないだろう。

 となりゃ、別の原因があると考えるのが妥当・・・なら、そりゃ何だ?

「パスポートに反映されることで成長するとか?」

「いや、それはないな。協会に見せてないし」

 今までの経験は記載されているけど、これを協会に提出して、反映してもらってない。

 パスポートも協会も無関係だ。

「だとしたら何でしょう?」

「何だろうねぇ?」

「まあ、今分かることは何もないな」

 気になるこた気になるが、判断材料が全くない現状、それを判断するのは難しい。

「今できることは、なんか知らないけど大きくなったねって思うくらいだな」

 いずれ、その謎も分かることもあるだろう。逆に謎のままかもしれない。

 ただでさえ謎な状態なわけだし、人が理解できない何かがあるのかもしれない。なら、俺たちが考えたってしょうがないわけだ。

 分からないことはずっと分からないって考えない道を歩くわけじゃない。

 なるようになる。そういう心構えでいりゃあいいって話だ。

「さて、明日も早いしそろそろ寝るかね」

 結構いい時間だし、協会に報酬金も受け取りにいかないといけないし、早めに寝ておくに限る。

「素材の交渉もしないといけませんしね」

「お、おう・・・」

 それは上手いことやってくれ。俺が見てないところでな。

「明日からどうする?」

「そうだなぁ・・・」

 この町を調査するのも一つの手ではある。

 ここはヒト族とエルフ族で構成された町で、人口比率も半々と推測される。そこには何かしらトラブルもあるだろうし、こういう場所だからこそ潜むこともできるかもしれない。

 俺はあの頭のおかしな連中に巻き込まれてしまったせいで探索もろくにしちゃいないが、二人が調べて回った様子からして何もなさそうに思える。

 となれば、更に北上するのが妥当のような気がするが、それはそれで別の問題もある。

「まあ・・・明日考えるか」

「そうしよう。おやすみ~」


 とりあえず寝るか・・・さすがに三体討伐はしんどい。

 ってかよく討伐できたなと思う。もちろん、ジェシカたちがいることが前提で話は進めていたわけだが、それでも出来過ぎだ。

 余計なトラブルにならないといいんだけどなぁ・・・

 こっちに来てからトラブル続きだし、ゆっくりのんびりしたいもんだ。

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