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「あいつらはまだ戻って来ないのか」

「最初から勝負にならないでしょうよ」


 もうそろそろ夕方になる。


 この勝負の時間制限。刻一刻と迫ってきているわけだけども。

「まだ時間ではありません。勝負はまだついていませんよ」

 受付嬢が扉の側で空模様を眺めている。

 あの様子を見る限り、キリたちの姿は見えないようだ。

「大体、カッターマンティスって結構手強いでしょお。あんなへっぽこ達で倒せるのかなあ?」

「実力差があることは本人たちも分かっているはず。なのに、この辺りでも強い部類に入るモンスターを狩りに行くなんて・・・さすがにウケない」

 女二人も揃ってこうだ。本当にさっさと焼き払いたい。

 でも、言っていることも分かる。カッターマンティスは確かに強い。

 大木も輪切りにできるほどの鋭い鎌と、魔法攻撃を弾く甲殻。巨体の割に機敏な動きもできる。

 討伐のカギは、いかに攻撃を避けて懐に潜り込めるか、甲殻の性能を上回る火力を出せるかどうか、と言ったところかな。

「・・・あの探検家の少年は割と判断力があると噂されている」

 槍使いのおじさん?

「割と、やれるかもしれないが」

 ・・・この人だけはキリをまともに評価している気がするなぁ。どうしてだろう?

 ちょっと調べて・・・

「あの小僧にそれほどの価値はない」


 ・・・は?

 何て言った?この男。


「ウチの人に価値がないとは、随分な言い草ですね」

「実際にそうだから言ったまでだ」

 マーベルも若干怒ったらしい。

「鞭の攻撃力は剣や槍、斧などの純粋な戦闘職が扱う武器に及ばない。それであの硬い甲殻を破壊することは難しい」

「その分、鞭やナイフにはそれを補う特性もあります」

「その議論をする必要はない」

「・・・むぅ」

 クエストを達成するかどうか、という話だからか。

「リオーネの火力を期待したのだろうが、余程の火力が無い限り、あれの甲殻を貫通させることはできん」

「随分とリオーネさんを買っていたようですが、その評価では必要ないのでは?」

「様々な攻撃手段があるということが強いのだ。不足している火力については後々補える」

 とりあえず仲間にできればいい。必要な能力は後で考える。随分な考え方だ。

「他人の扱いが酷すぎますね」

「どう映ろうが構わん。俺のチームのことは俺が決める」

 この男の誘いを断っておいて正解だよ、リオーネ。ろくな未来にならないだろうし。

「どっち道、カッターマンティスだけでなく、マルエテも同時に討伐するなどという計画・・・あいつらに達成できん。俺たちの勝ちは揺るがん」

 カッターマンティスだけでは勝ちは揺るがない。

 さすがに彼らもバカではなかったようで、それを協会に指摘していた。黙っていてもいずれ分かることと、最後の成果確認の時に揉めても面倒だっていう理由から、協会もすぐに説明をしていた。

 二頭討伐での合計を許可する・・・それを拒否してはいない。彼らはできっこないって思っているから、拒否するまでもないって考えるからね。

 この勝負・・・どうなるかな?

 本当に彼らの思惑通り、キリたちは失敗するのか。

 それとも・・・

「・・・あなた方がどう思おうと、結果はまだ―――」

「マーベル」


 ああ。あの声が聞こえる。


 *


「っしゃあ間に合ったァァァァァァァ!!!」

 リミットギッリギリ!

 本来なら町の入り口で預けるドッシュを、協会の真ん前まで走らせてきた!

 後で協会やら何やらから苦情を言われるかもしれないが、今はそんなことを言っちゃいられない!

「ドッシュたちは逃げない!気にせずに協会に飛び込め!!」

 ギリギリまで走らせて手綱を引っ張り、

「よし、飛べ!!」

「おう!!」

 同乗しているキースが真っ先に飛び出し、

「いくぜ!!」

「とおっ!!」

 後追いで到着したジェシカとリオーネが同時にドッシュから飛び降りていった。

「よし、待っててくれよ。少ししたら戻るからな」

 ドッシュたちに指示を出しておいて、俺も協会へ走る!

「キリ!!」

「あなた!」

 ああ、感動の再会・・・


 うん。んなわきゃあない。


 何度も言うが、駆け寄ってくるのは俺の妻でも娘でもないんだよなぁ。

 でもまあ、

「おかえり!」


 その一言は悪くない、かな。


「・・・おう、ただいま」

 ヴェロニカの頭を撫でてやる。相変わらず柔らかい毛だ。

「・・・おや?」

 あれ?こいつの髪の毛ってこんな量・・・あったっけ?

 首都にいた時よりも増えてる・・・?

 なんとなく見た目も大きくなっているような・・・?

 一日会ってないとそう思うもんなのか・・・?

「おい、キリヤ!早く報告しねぇと無効にさせられるぞ!!」

「キリ、早くしたほうがいいよ」

 気になりはするが、今は目の前の勝負を終わらせんとな。

「・・・後でその話するからな」

 ヴェロニカとマーベルさんと離れて、

「討伐できたぞ。例の二頭」

 リオーネとキースがそれぞれモンスターを保管している。二人はパスポートをすでに渡していて、

「それでは、討伐の成果を確認させていただきます」

 受付嬢は二人のパスポートを確認。

「・・・確認できました。カッターマンティス、マルエテを討伐していますね。お疲れ様でした」

 受付嬢が一礼した。

「嘘でしょ・・・?」

「あの子たちがカッターマンティスを討伐できた・・・?」

 鋼の剣の女子二人があ然となっているようだが、受付嬢はそんなことはお構いなしで、

「鋼の剣の方々はハンマーバードの討伐に成功。報酬は四十万フォドル。一方キリヤさんたちはカッターマンティスとマルエテの二頭を討伐し、それぞれ三十六万フォドルと八万フォドル、合計して四十四万フォドルになります。よって、勝者はキリヤさんたちになります」

 わっと協会が沸いた。

「すげぇよ!!一日に二頭も狩るとかよぉ!!」

「しかもカッターマンティスでしょ?あんなの簡単に倒せないって」

「キリヤさんたち結構やるのね・・・」

 今日の勝負の結果を知りたくて集まった野次馬たちが盛り上がっている。

 今回はジェシカの活躍が大きかったし、リオーネのアシストにも救われた。キースに関しちゃ一人でサルを討伐してくれた。全員がベストを尽くした結果と言えるかもしれないな。

 最初は不安しかなかったが、終わってみりゃ良い経験になったかもしれない。

 しょうもないトラブルに巻き込まれたわけだが、今回ばかりは目を瞑ってやるか。

「認めん!!!」

 ガンッ!!

 金髪剣士がカウンターに拳を叩きつけた。

 場が静まり返り、

「報酬の合計が認められるなら、俺たちだって二つ、三つとクエストを受けて出た。後付けのルールなど無効だ」

 ・・・まあ、正論かな。俺だって同じことになれば、こいつと同じようなことを言い出すに違いない。

 いや、そもそも面倒だから勝負を受けない・・・が一番かな。俺の性格的に。

 今は周りに巻き込まれてどうしようもないからやってるが、本来はそういう面倒事が嫌いで、避けられるものは避けるのが俺という男だ。

「しかし、一頭よりも二頭討伐するほうが難易度が高い一面もあります」

 受付嬢は毅然とした態度で金髪剣士に対峙していて、

「あなたがおっしゃることは分かるつもりです。ですが、同じ人数と同じ時間で二頭討伐を行った彼らのほうが、ある意味で狩猟技術が高いと判断できます」

「うちはアルバートがほとんど参加していない。実質三人だ」

 あの槍使いのイケおじ・・・アルバートっていう名前だったのか。

 今回の勝負も討伐に加わらなかったのか・・・何でだ?強敵が相手なら、三人より四人のほうが楽に勝てるし、安全に倒せるはず。

 それを意図的にしてないなら、何か理由があるはずだ。

「仮にそうであっても、四人で参加されたのなら四人と判定するのが当たり前でしょう」

 あの受付のお姉さん強いなぁ。気持ちが強いのか、慣れか・・・大体、ああいう頭のネジが何本かぶっ飛んだヤツの相手は難しいのに。

「お前が何を言おうと、俺は認めん!!」

「どう言えば納得してもらえるんでしょう?」

 こういうヤツは何を言っても無駄のような気がするなぁ。説得を重ねても、その隙間を掻い潜ってくるっていうか。

 結局、いくらがんばっても理解なんかしちゃくれないんだよな。


 ・・・しょうがねぇなぁ。これは黙っとくつもりだったが。


「なあ、受付のお姉さんやい」

「何でしょう?」

 俺はパスポートを出して、

「これもついでに報告しとくわ」

 受付嬢に提出する。

「・・・クエスト以外のモンスターを討伐したのですか?」

「まあ、そういうこと」

「何・・・?三頭目だと・・・?」

「そう言わなかったか?」

 金髪剣士は怪訝そうな雰囲気。

 そんな男を気にも留めず、受付嬢はパスポートを受け取って、

「・・・では、確認します」

 中身を確認。

「・・・確かに、キラーラビット一頭を確認しました」


 帰って来る途中で、キラーラビットに遭遇した。


 もうあと少しで町に戻れるってところで、ずんぐりむっくりしたでかいウサギがウロウロしていた。

 パッと見の全長は二メートルくらいで、割と幅がある。ウサギらしく瞬発力が高いようで、その巨体を活かしたタックルが脅威だそうだ。

 一応、クエストにも挙がっていたモンスターではあったが、今回は受けてないわけだし、スルーも考えた。夕方ではあったし、タイムリミットも迫っていたのもある。

 ただ、脅威になる可能性はあるし、そこにいるヤツを見過ごしたら連中と一緒になっちまう。

 それが気に入らない俺は、

「ジェシカ、まだ能力は上がったままだよな?」

「あ?おう、まだいけるぜ」

 バフが残った状態であれば、よっぽど手こずらない限り倒せはするだろう。

「・・・キリヤくん、行くのね?」

「分かる?」

「分かっちゃう。魔力、溜めておくわね」

「っしゃあ、ついでだ!やろうぜ!」

 リオーネとキースも乗ってくれた。

「やろうか!」


 ・・・という経緯で、キラーラビットも討伐したってわけだ。

 ジェシカの能力も残ったままだったし、カマキリみたいに魔法防御力が高いわけでもなかったし、四人で一斉に掛かれたことも大きい。討伐にそこまで時間は掛からなかった。

 そこからドッシュに乗り合わせて、急いで町に戻ったってわけだ。

 キースが乗っていたドードを乗り捨てているから、この件が終わったら急いで現場に戻らないといけない。レンタルしたドードだから、無事に生きて戻さないと違約金が発生する。

 いつまでも同じ場所に留まってくれるとは限らない。だから早く終わらせたいんだが・・・

「キラーラビットごときついでに倒したからと言えど、何の評価にもならん」

 ・・・まあ、そうだろうなぁ。こいつはそういうヤツだよなぁ。

 分かってて仕掛けたわけなんだけど、こうなると本当に面倒だな。

「クエストを受けていなくても、討伐は討伐です。実績に加算せずとも、これは素直に負けを認めるべきでは?」

「何度も言うが、勝負に関係がないことだ。俺たちの勝ちは揺るがん」

 受付嬢も引くに引けなくなったか・・・悪いことしたなぁ。

「大体、最初からせこいのよねえ!一頭で勝てないから二頭狩るとかさあ!」

「そうかしら?時間以内にできれば何でもいいんじゃない?まあ、私たちはできるんだけど」

「・・・あたしたちができないって言いたいの?」

「そう聞こえなかったか?あ?」

 女子は女子で一触即発になってら・・・キャットファイトだけはやめてくれよ、マジで。

「ワクワク!」

 うちの大砲は今か今かと騒ぎになるのを待ってるし、

「皆さん、この勝負どう思われます?実績はうちの人のチームが上だと思うのですが?」

「そりゃそうだろ。三頭狩ってきたら文句ねぇよ」

「でも、ルールはルールでしょ。鋼の剣の勝ちよ」

「ああ?あっちの味方がいるのかよ?」

 マーベルさんは周りを巻き込んでいる・・・余計な火種を作るな!!

「・・・はぁ」

 こうなったら仕方がない。

「よし分かった。俺たちの負けでいいよ」

 パン、と手を叩いて悪い空気を切る。

 今にも発火してケンカが起きてしまいそうな現場も静まる。

 ただ、納得しないメンツがいるのも確かで、

「おいキリヤ!!テメェ何言ってんだ!!」

 言うまでもなく、うちの残念ヒーラーである。

「何のために二頭も、しかも余計なモンスターまで狩ったと思ってんだ!!」

 言いたい気持ちは分かる。ぶっちゃけ、俺も言いたいこた言いたい。

「ここで両方が主義主張を貫いても解決しないだろ」

 実績は俺たちが上ってことが言えても、確かに複数討伐ルールを承認していない相手からしたら、知らない間にできたルールなわけだし、納得しないのも分からなくもない。

「ここであーだこーだ言うのも面倒になってきたし」

「おいおい、それ言うのかよ」

 本当に面倒。それが一番の理由であることは否定しない。さっさと風呂に入って汗を流したいし、旨い飯食べたい。

 それに、さっきのヴェロニカの件も確認しておきたい気持ちもある。

「俺もこだわっちゃあいたが、もうどうでもよくないか?勝負の結果なんて」

「テメェ・・・あたしにポイント使わせておいて、それはねぇだろ!!」

「それは将来的に活用できるわけだし、結果的に良かったってことにしとくんな。実際、今回カマキリぶん殴って満足できたろ?」

「む・・・ま、あ・・・そうだけど」

 ジェシカの動きをよくするためにしたことだし、どこか納得できていなくても、満足できたってならそれでいいわけだ。

「リオーネもいい経験になっただろうし、キースもサル一匹、単独で倒せることが分かった。みんなそれぞれ収穫はあったろ。勝負の結果は置いておいて、それが分かっただけでも良かったじゃねぇか」

「まあ・・・そうね。光魔法だけじゃダメなことも分かったし」

「新しい剣もいい調子だしな。一人で狩る自信もついた」

 二人は割と前向きで助かる。

「せっかくがんばったのにもったいないねぇ」

「素材が手に入るからまだ良いものの・・・」

 ヴェロニカとマーベルさんも納得していないようだが、

「ってわけで、俺たちの負けでいいんで」

 俺は受付嬢にそう言い渡す。

「・・・よろしいのですか?」

 せっかく機転を利かせてくれたし、連中に毅然とした態度を貫いてくれたのに申し訳ないが、何の得にもならない争いはさっさと終わらせるに限る。

「ああ、それでいい」

「・・・分かりました」

 ふう、と小さいため息を漏らした受付嬢は、

「この勝負、鋼の剣の方々の勝利とします」

「当然だ」

 普通、こういう時って盛り上がるんだろう。帽子とか書類とか投げたりして。

 この場の静まり返り様は・・・まるでお通夜。

「・・・なによお。もっと盛り上がりなさいよ!」

 頭の悪い魔術師が盛り上げようとするが、

「・・・三体狩ってるならどう考えてもキリヤたちのほうが優秀だろ?」

「いやいや、日に三頭とか、よっぽど上手くやらねぇと無理だろ。そういうところも計算されてるってならすげぇよなぁ」

 周りの反応はイマイチである。

「・・・つまんない」

「所詮は三流の集団だ。相手にするな」

 こいつらは本当に空気が読めないなぁ。ある意味、こういう稼業には必要な能力なのかもしれないが、こうはなりたくないな。

「ま、実力で勝って勝負に負けたってことだ。みんな、とりあえずドードの回収をして飯に行こうぜ」

「では、皆様のパスポートをお返し―――」

「待て」

 金髪剣士に肩を掴まれた。

「・・・いってぇな」

 結構強く掴まれている。割と痛いんですが。

「今のは聞き捨てならん」

「何の話だ?」

「実力で勝って勝負に負けた、というやつだ」


 いかん。少しでも身内を落ち着かせるために言ったことが裏目に出た。


「実力でも俺たちは負けてはいない。お前たちが決めつけているだけに過ぎん」

「実際、そうだろ」

 こいつらが三頭狩りできるかどうかは分からないが、結果的には俺たちのほうが難易度が高いことをやったわけだし、実力勝負は俺たちの勝ちでいいだろう。

 ただ、了承も無しにルールを付け加えたわけだし、それを責められるのは当然。勝負は俺たちの負けってのは仕方がない。

 実力で勝って勝負に負ける・・・妥当な表現かな、と俺は思ったが、気に入らないのも分からなくもない。

「ああ、気に入らなかったなら謝る。悪いな」

「ここまでコケにされて、黙ってはおれん。勝負しろ」

「・・・はぁ?」

 勝負?何の?誰と?お前とか?

「一対一。サシの勝負だ」


 ・・・何でそうなる???

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