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23

「あいつか・・・」

 町を出てしばらくドードを走らせた先にある、見晴らしのいい丘。

 そんなところに、元気に跳ね回っているエテ公がいる。


 マルエテだ。


 協会の情報どおり、長い前足がある。体格は決して良くはないが、軽い分、身軽に動けるって話らしい。

 正直、俺はそこまで素早くないと自負している。鎧も重いしな。

 だが、任されたし、一人でやってみるって宣言した以上・・・やらないと格好もつかない。

「さあ・・・やるかぁ」

 新しい相棒を抜いた。思いの外、ずっしりしている。これはこれで悪くない。

「・・・キキッ?」

 向こうも俺に気付いた。

 間抜けそうな顔をしている。とぼけてるのか?そういう立ち振る舞い?

「まあ、何でもいいよ。やることには変わりないしな」

 あいつらも戦い始めた頃か?それともまだ捜索中か?

 ちゃんとやってるかなぁ?


 *


「ぅおおおおおおおおおおい!!」

 何でこんな時にこっちに気付いてんだ、あの昆虫野郎!!

 空気読めよ、空気!!お前だってこの世界の空気吸ってんだろ!?

「どうすんだよ!?」

「キリヤくん!?」

 これは想定外!

 いや、嘘!

「リオーネ、行け!!撃て!!」

 これくらい想定してる!

 結局、やることは変わらん!

「シャインセイバー!!!」

 力を込めた光の刃が発射された!

 物凄い勢いでカマキリに向かって飛んでいく・・・そのまま当たれ!

「!」

 カマキリがシャインセイバーに気付いた!

 鎌の付いた両腕を振り上げて、向かって来る刃に振り下ろす!


 ギャリギャリギャリ!!!


 なんか火花散ってる・・・スゲェ迫力だ。

 思わず呆けてしまったが、

「うっ、ちょっ、ちょっ!?」

 リオーネが慌ててる?

「どうした!?」

「魔法を維持でき、んんうっ!?」

 ・・・シャインセイバーを維持できないのか?

「・・・マズい!!」

 そうか、鎌が上から入ってるのか!!

「ジェシカ!!挟み撃ちだ!!行くぞ!!」

「おっ、おう!!」

「どこ狙ってもいい!!とにかく打て!!」

 一斉に飛び出して、

「スピードウィップ!!」

「グローパンチ!!」

 俺は中足を目掛けて鞭を打ち、ジェシカは腹を殴る!

「!!」

 カマキリにリアクションはあるものの、

「あっ、ダメ!!」

 リオーネが叫ぶと同時に、カマキリが両腕を振り抜いてシャインセイバーを打ち破ってしまった!

「おいおいおい!!当たってねぇじゃねぇかよ!?」

「しょうがないでしょ!?私も精一杯維持したのよ!」

 そう、リオーネは必死に維持しようとしていた。ただ、それが難しかった。


 その理由は簡単。シャインセイバーを上から迎え撃たれたからだ。


 ナイフだけじゃなく、刀なんかもそうだが、ああいう道具は切るためにある物。真っ直ぐに刃を物に入れていって、初めて切ることができる。

 刃幅は切ることで発生する負荷に耐えられるように設計されているはずだ。もちろん、切る物に応じて刀身の長さやデザイン、刃の厚みは変わるけど、耐えられないと意味がない。

 そんな刃物は縦からの衝撃・・・つまり、物を切る向きは強いが、横からの衝撃に弱いんだ。

 シャインセイバーは魔法による刃だが、理論は一緒だ。カマキリに向かって真っ直ぐ飛んでいき、上から鎌を叩き込まれて、その威力に負けてしまったんだ。

 魔法の維持はある程度できるんだろうが、それも限界がある。元々弱い方向から攻撃を叩き込まれてしまっているから、維持することも難しいはずだ。

 こればっかりは俺も想定していなかった・・・

「ジェシカ、こいつの意識を散らせ!動きながら攻撃を仕掛けろ!」

 奇襲が失敗したら、後はその時の状況に合わせて動くだけ・・・!

「こんな風になるとはなぁ!!」

「文句垂れないでよ!」

 ここは林間だし、罠も張りやすい・・・

 これは蛇の時と同じように、ロープワークで罠を仕掛けるべきか?

 仕掛ける隙があればやるが、今はとにかく、

「しばく!」

 カマキリが動き始めた。思いの外動きが早い。

 今はとにかく攻撃を当てて、スローダウンさせたい!

「ふっ、よっ!!」

 とりあえず、シンプルにしばいてみる。

 鞭の攻撃は割と効いてるように見える。

「これはっ・・・」


 敵をしばいた時の手応えが違う!


 もちろん、爬虫類と昆虫の差はあるだろう。

 ただ、それを除けても打撃の感触は段違い。雲泥の差とまではいかなくても、ミドルウィップとの差はすごく大きく感じる。

 同じ皮系統の武器のはずだが、ミドルウィップとハイウィップよりしなやかさがあって、操作性が高い。思ったところに革紐を叩き込めるし、硬い、柔らかいの差も手応えで分かる。

「そりゃ!」

「!!」

 カマキリの動きが急に遅くなった!

 これは・・・?

「・・・!・・・!?」

 動きが遅くなってるってことは・・・

 なるほど、そういうことか!

「ジェシカ、リオーネ、叩き込め!!」


 こいつ、麻痺してる!


 ランドウィップに追加された効果の一つ、麻痺属性。

 まるでゴキブリみたく動き回るカマキリの動きをかなり遅くできている。これは確かに価値がある。

「ジェシカ、今のうちに目一杯殴っとけ!」

「言われなくても殴るわ!!」

 動きが遅くなれば、攻撃するチャンスが生まれる。俺も当然そうだが、リオーネの魔力チャージも、ジェシカのバフの積み重ねもしやすくなる。

 もっと欲を言えば、動きを止められたならよかったが、それは贅沢ってもんか。

「グローパンチ!!」

 攻撃力増強を重ねていけば、ジェシカでも仕留められるはず。

 それに、ここでしっかりバフを積んでおけば、この後のマルエテ戦も楽に立ち回れる。

 今ここで殴れるだけ殴っておいてもらう!

「シャインアロー!!」

 両サイドから打撃を加えつつ、リオーネが正面から魔法を叩き込む!

 叩き込むが・・・

「!」

 甲殻に直撃するものの、矢は貫通しない。

 それどころか、大した傷も付けられずに消滅してしまう。

「ちょ、おいおい!!どうなってんだ!?」

「魔法の耐性が強いのかしら・・・!」


 魔法耐性・・・確かにそういうのもあるらしいな。


 シャインアローの消滅の仕方を見る限り、甲殻に当たった個所から威力が散らされたようなイメージがある。まるで撥水加工をしたマウンテンパーカーに付いた水滴みたいに。

 つやつやしているし、たぶんそういう成分か特性があるんだろう。

 これが魔法耐性っていうやつだとしたら、

「もう一発・・・シャインアロー!!!」

 魔力を強く込めた矢をもう一本撃ち込んだが、少し傷を付けたくらいで、すぐに消滅してしまった。

 リオーネの魔法で仕留めるってのは難しいかもしれない。

 ヴェロニカくらい威力のある魔法を直撃させれば違うかもしれないが、今ここでそこを考えても仕方がない。

「リオーネ、魔法でダメージを与えなくてもいい!支援できないか!?」

「できるわ!グロース!」

 俺に赤い光がまとわりつく。

「攻撃力を上げたわ!そのまま仕掛けて!」

 白魔術師はこういった補助魔法も得意としている。こういうの、地味にありがたいんだよな。こういうシチュエーションの場合は特に。

「よし、しばくぞ!!」

 動きがのろくなっているデカい虫をしばき続ける!

「!!」

 手応えはしっかりある!

 攻撃力が上がったからか、さっきよりもいい感じの手応えだ!

「おい、あたしにもグロースを掛けろ!」

「ちょっと待って!魔力を溜めて掛ける!」

 そりゃあ、ジェシカにも掛けたほうがダメージを与える量が上がる。蛇の時にもできたらよかったなぁと思いつつ、あの時はリオーネも習得してなかったっていうし、これはこれで仕方がない。

「!・・・!!」

「ん!?」

 動きが戻ってきた・・・?

「!!」

 カマキリが右腕を振り上げてジェシカに振り下ろす!

「うおおっ!?」

 手甲でガードしてはいたが、吹っ飛ばされてしまっている。

「うおっ、おっ、あぶねぇ!」

 よくガードしたな・・・ありゃあ俺だったら直撃してたかもしれん。

「どうなってんだよキリヤ!!」

「こいつは・・・」

 麻痺が効かなくなってきてるのか!?

 効かないっていうより、耐性が付いてきてるのか!?

「じっとしてろよ!!」

 ジェシカのパンチを避け始めている・・・!

 どっちにしても、動きが戻ってきてることに変わりはない。俺はなんとか攻撃を当てられるからいいものの、魔法の火力に期待できない以上、何かしら手を打たないと時間を無駄に掛けてしまう!

「!!!」

 カマキリが両腕を広げた・・・!?

「おお、おお!掛かって来いってか!!行ってやらぁ!!」

 ジェシカが踏み込んで行ったが、

「!!」

 この感じ・・・!

「危ねぇ!!」

 鞭でしばこうと思ったが、カマキリの動きだしのほうが早かった。

 カマキリは両腕を広げたまま、その場で回転!

「うおおおっ!?」

 周りの的をまとめて薙ぎ払うってか!

 ジェシカは手甲で受け切ったが、また吹っ飛ばされてしまった・・・!

「よく受け切ったわね!?」

 ホントそうだよ。あんなの受けてたら真っ二つだよ、普通はな。

 しっかし、あのカマキリ・・・ああいう荒業も持ってんのか!

「!」

 カマキリが突進してきた!

「むっ、こいつ!」

 意外と速い!

 だが、スピードなら俺も負けるつもりはない!

「スピードウィップで!」

 頭と足元に素早く打ち込んで、

「!?・・・!」

 カマキリを牽制する!

 頭への攻撃は鎌で弾かれたが、足には当てることができた。

 これでいい。一発でも当たれば動きを遅くすることができる。どっかのチートマンガじゃないんだ。鈍らの武器でも一発当てたらノックアウト確定、しかも地面も割れるオマケ付き・・・なんてわけにゃいかない!

 残念だが、現実はそう甘くはない!

「後ろから殴ればっ!!」

 ジェシカが駆けてきて、カマキリの腹を目掛けて正拳突きを仕掛ける!

「!!」

 きっちり当たるが、あまり効いていないように見える。

 お返しと言わんばかりに、鎌を振り上げて振り下ろし、

「ぐっ、うおっ!」

 ジェシカにキッチリ当ててきている・・・!

 連続で攻撃を仕掛けてきて、

「うっ、ぐっ、うっ!!」

 どれも的確に攻撃してきている。

 ジェシカはジェシカで受け切っているが、

「キリヤくん、援護を!!」

 リオーネが魔法を使おうとしているようだ。

「・・・これでいい」

「は!?」

「リオーネ、攻撃はしなくていい!防御だ!ジェシカにシールドを掛けろ!」

「グロースじゃなくてシールドなの!?」

「そうだ!攻撃じゃなく、防御を上げろ!!」


 *


「はい。来ていただいたのは他でもない、あなたの立ち回りのことです」

 武器の手配ができたその晩、宿屋の俺の部屋にジェシカを呼び出した。

「お前・・・いくら何でも、自分の部屋に女連れ込むとか何考えてんだ?妻子持ちのくせして。幸い、二人とも一緒にいるから間違いを起こすこたねぇだろうけど」

 最低評価は今に始まったことじゃない。

「はい、今はそういうことはどうでもいいです。今しないといけないのはあなたの立ち回りのことですからね。はい、そこに座りなさい」

「・・・なんなんだよ、ったく」

 ジェシカを俺の前に座らせて、

「お前のパスポートを出せ」

「・・・は?」

「いいから出しなさい。ほら、ここに出しなさい」

 テーブルをぽんぽんと叩いて促す。

「何で見せなきゃいけないんだよ。こういうのは他人に見せるようなモンじゃねぇんだぞ」

「勝ちたくないのか?」

「・・・ああ?」

「あのクソッタレどもの鼻っ柱を折りたくねぇのかって聞いてんだよ」


 この勝負、こいつの脆弱な攻撃力でも頼らざるを得ない。


 攻撃手段や威力・・・っていうより、根本的に人員が必要だ。

 敵の意識を散らす。そのためには武器を扱い、手数を打てる人員が必要。戦いは数だよ兄貴、とまでは言わなくても、遠からず言っていることは間違っていない。

 とんでもないチート・・・ヴェロニカみたいな存在や、あの瞬間移動してきた黒魔術師みたく、一発で村を吹っ飛ばせるようなヤツがいれば話は別だが、残念ながら俺たちは一般人。モブ中のモブ。そんな力を持ち合わせちゃいない。

「詳しくは知らんし興味もないが、どうも連中は俺たちよりも実力はあるらしい」

 ちょっと話を聞いたくらいだが、鋼の剣の連中はそこそこできるってのは本当らしい。

 特に槍使いのイケオジ。あの男は金髪剣士よりもできるって話だ。攻撃よりもガード主体らしく、この辺はキースと同じ部類になるかもしれないが、自分から率先して攻撃を仕掛けることはあまりないとのこと。

 わざわざ攻撃力を下げる理由が分からないが、黒魔術師とヒーラーがいるから、二人を守るために防衛に回っている・・・という考え方もできる。

 となれば、攻撃力は金髪剣士と黒魔術師の喋りがおかしい女の二人に掛かっているわけだが、二人でどうにかできているってことは、少なくとも俺たちよりも攻撃力は高いってことになる。

 俺たちは蛇一匹を倒すのに四人掛かり・・・この現実を踏まえて考えれば、少しでも攻撃力を高めたいというのが本音。

 ジェシカの攻撃力アップは課題とも言える。


 そこで、ジェシカの攻撃力を上げるため、パスポートの確認を行う。


 もちろん、ジェシカが言うことは分かる。パスポートは所謂個人情報の塊だし、秘密が詰まっている。他人に見せていいモンじゃあない。

 ただが、それでも見ないといけないのは、今何ができて何が足りないのかの確認が必要だからだ。

「・・・分かったよ。ホラ」

 ジェシカが俺の前にパスポートを置いた。

「じゃあ、見るぞ」

 とりあえず断っておき、ジェシカのパスポートを手に取ってスキル欄を開いた。

「・・・なるほど」

 パッと見ただけでも分かることがいくつかある。


 一つは回復系のスキルの習得数が圧倒的に多いこと。

 キュアやリジェネ、リカバーだけじゃなく、その一つ上のスキルであるハイキュア、パーティ全体を回復させるキュアオールも覚えている。シンプルにヒーラーとしての能力は高いはずだ。


 二つ目。無手スキルが中途半端な状態。

 初歩のスキルであるグローパンチと、その一つ上のスマッシュパンチ。攻撃力アップとスタン効果が高い攻撃を持っている。

 ・・・ただ、それだけ。他にも技の出が速く、使えば使うほど速度が上がっていくスピードパンチもあるが、それは覚えていない。

 攻撃手段が二つだけ・・・なんとも中地半端。


 このパスポートから読み取れる情報は、ヒーラーになることが前提で、それのためにポイントが振られているってこと。

 無手スキルがちらほらあるが、そんなことは些細なことで、今からでもヒーラーとして活動した方が賢い選択だ。

 だが、こいつはそんなことはしないだろう。目標は格闘家として大成することだろうから。


 この状況でできることがあるとすれば、

「・・・ポイントがいくつか残ってるから、残りを全部使って立ち回りを工夫したい」

「全部使うのかよ!?」

 残っているのは十ポイント。これを全部使って、こいつに合う味付けに調整したい。

「一応、何かあった時の備えで残してる分なんだぞ!それを使うのかよ!?」

「言ってる場合じゃないんだよ」

 こいつにも備えって考え方もあるんだな・・・

 だが、勝つためには仕方がない・・・いや、これからこいつが無手を使い続ける限り、悩み続けることになる。それを今解決するだけってのが正しいか。

「文句があることは重々承知の上で提案する。怒鳴るなよ」

 とりあえず、前置きだけはしておかないとな。

「・・・内容にもよるだろ」

 内容によっちゃあキレられるのかよ。まあ、言っちゃあいられないが。

「まず、このスキルを覚えてもらう」

 スキル欄をスクロールして、該当スキルをタップ。それを見せると、

「・・・なんだこりゃ。反骨心?」


 スキル名:反骨心

 相手の攻撃を受け続けることで、攻撃力、防御力向上のバフを得ることができる。


「・・・こんなの、役に立つのかよ?」

「立つ立つ、めっちゃ立つ」

 ジェシカは攻撃を避ける機動力がない。いや、避ける気がない?

 ゴブリン連中の攻撃も、蛇の攻撃も全部受けていた。レッドゴブリンはともかく、ボスゴブリンとパラライズバイパーの攻撃は致命傷になりかねない。それなのに受けていた。

 だったら、受けることを前提でスキルを組んだらどうだろう?

「こいつのいいところは、受けることで攻撃力と防御力が同時に上がるところだ」

「それは分かってるよ」

「分かってない。分かってたらスキル習得の優先順位は最優先レベルだ」

 ジェシカが分かってないだけかもしれないが、ガード主体の前衛なら覚えておきたいスキルの一つだと俺は思う。

 受ければ受けるだけ攻撃力も防御力も上がるんだぞ?防御力が上がれば生存率も上がる。それに加えて攻撃力アップ。グローパンチと合わせて使えば、もっと早く立ち上げられる。

 こいつは覚えて欲しいスキルの一つだ。

「そんでこいつも」


 スキル名:ガード

 相手の物理攻撃ダメージを減少させる。


「・・・これもかよ」

「これもだよ」

 こいつもガード主体の前衛職には必要なスキルだ。

 とにかく受けてもダメージを減らせるんだ。ガード主体の戦士でなくても欲しい。ぶっちゃけ、俺も覚えておいたほうがいいかもと思うくらいだ。

 特にこいつには覚えさせておいたほうがいい。これだけは間違いない。

「あたしにはリジェネがある。こんなのにポイントを使わなくてもいいだろ」

 ・・・そうか。こいつはそれがあるのか。


 こいつの無茶苦茶なスキルの覚え方。

 それは回復スキルを十分覚えているから、それを駆使すれば防御力を無視できる・・・そういう寸法なんだろう。


 ある意味では間違っちゃいない。エルフは元々回復力が高いっていうし、考え方自体はあり得る。

 ただ、それは即死級の攻撃を受けないことが前提の話・・・

 頭が吹っ飛ぶような攻撃を受ければ、さすがに回復することは難しい。発動させることすらできないんじゃあ話にならない。だから防御力を上げるほうが重要性が高いって考え方もできる。

 ジェシカはその考えが頭にないから、本来なら重要性の高い反骨心とガードを無視してしまっているわけだな。

「これからは回復力頼りの立ち回りだと大変なことになるかもしれない。自分が目指すべきスタイルが固まっているなら、それができるようにスキルの組み合わせを工夫するべきだ」

「・・・そこまで必要に思えないけどなぁ」

「お前は今まで上手く回復してやり過ごせていたからそう思えるんだ」

 その案が出ない奴に必要だと説明しても、あまり手応えを感じない・・・悲しい現実。

「ガードは仮に無しにしたとしても反骨心だけは覚えてもらいたい。攻撃力も一緒に上がるのはお得だ」

 とにかく一分、一秒でも早く、一端の攻撃力まで立ち上げたい。だから攻撃力アップのバフを得られる反骨心だけはこの機会に覚えてもらいたい。

「・・・むうううう」

 そんなに渋る?俺が言ってることが分かってない?

「ジェシカさん、うちの人が言うことはごもっともですよ」

 見かねて、マーベルさんが助け舟を出してくれた。

「凶暴なモンスターを相手にするんです。最低でも生き残れるだけの能力は身につけておかなければ、これから先の討伐でいつか大変なことになりますよ」

 マーベルさんは理解してるっぽいな。

 まあ、この人は元々商売人だし、城へ出入りしているくらいだから、それなりに上手く立ち回れているんだろう。スキルの重要性、組み合わせを理解していて当然かもしれないが。

「レッドゴブリンを数匹倒すのに時間が掛かり、体力を消費。ボスゴブリンに到達し、討伐できる頃合いに立ち上がる。戦闘素人の私でさえ、何かしら対策をしないといけないと分かります」

「お前の課題は攻撃力の低さ、立ち回りの悪さだ。今後も殴りに突っ走るなら、いつか限界が来る」

 いつか同行者がいなくなった時、いつか回らなくなる。

 今は目の前の勝負のためにするが、今後のこいつのためにも、今ここで少しでも補正しておいたほうがいい。

「・・・分かったよ。反骨心とガードだな?」

 おっ。もっと渋るかと思ったが、思いの外あっさり受け入れてくれるようだ。

「一応聞いとくけどよ。本当にこれで上手くいくんだな?」

 一抹の不安?それとも俺に対する不安か?

 どっちでもいいが、

「悪いけど、保証はしない」

「はぁ!?何だよそれ!!」

「最終的にお前次第だからな。お前が上手くできればできる。できなきゃできない。手元の材料で上手く立ち回れるように改善案を提案はするが、それを飲むかどうかもお前次第」

 上手くできなくて恨まれても嫌だしな。責任は持ちませんってことは主張しとかないと。

「・・・本当に意地が悪いな、お前」

「一応、褒め言葉として受け取っておくわ」


 *


「うっ、うおっ、おっ!?」

 カマキリの攻撃が勢いづいている・・・!

 散々しばかれたし、殴られたし、そりゃあ怒るよなぁ。生き物だもの。

 でも気に入らないのか、叩きやすいのか、さっさと倒しておきたいのか、ジェシカを集中攻撃し続けている。

 だが、

「んっ、ふんっ!」

 徐々にジェシカの動きが変わってきている。

 さっきまで吹っ飛ばされていたのに、もうしっかりと受け止め切れている。

 それに、大なり小なりダメージを受けているはずだが、回復魔法を使っていない。

「ようやく溜まってきたか・・・!」

 どっしりと構えられるようになったというか、一本芯が入ったというか、安心して見られるようにはなった感じだ。

 これが反骨心とガードの効果か。こりゃあ確かにあったほうがいいな。

「シールド!」

 リオーネがジェシカに防御力向上魔法で効果を付与。

 青い光がジェシカを包むと、

「・・・!!」

「うっ、っしゃあ!!」

 とうとう、力強く受け止められるようになった。

「もうしっかり受け止められるぜ。お前の攻撃は怖くねぇ。んでこいつが!!」

 拳を振りかぶって、

「お返しだ!!!」

 正面からカマキリの胸部を殴りつける!

「!??」


 バコォォォン!!!


 魔法を弾き飛ばす甲殻が拳の形にめり込んで、亀裂が入った。

 一瞬だけ、あの巨体がふらついた。

 ジェシカがホントに攻撃したの?ってくらいの衝撃。

 これが反骨心とグローパンチでバフを積み重ねた一撃か!

「いけるぞ!突っ込め!!」

 あまりの衝撃でカマキリの動きが止まっている!

 色んな意味で衝撃を受けているはず・・・畳みかけるなら今しかない!

「スマッシュで行くぞ!」

「無しでいい!とにかく殴れ!」

 スマッシュパンチは頭に当てなければスタンを取れない。

 威力はもう十分発揮できる。とにかく殴ればいい。

 ここでがんばらないといけないのは俺で、

「手数を入れて動きを止める!」

 スピードウィップで速い攻撃を入れ続ける!

 また麻痺にできれば、安定して攻撃を入れ続けられる。それが今の俺の役割だ。

「どりゃあっ、うおらっ、どらぁっ!!」

「!!・・・!!」

 想像以上にジェシカの攻撃力が上がっている。カマキリも最大の標的と捉えたらしく、ジェシカに的を絞った。

 拳と鎌の応酬が激しい。

 そこを突いて、俺が革紐を叩き込む。

 すると、

「・・・!?・・・!・・・!!」

 動きが急に止まった・・・

「体力切れかしら!?」

 確かに動き回ってはいるし、そこそこ体力は削れているはず。

 だが、その割に俺たちはまだまだ動ける。モンスターの方が体力は多いみたいだし、どっちかっていうと俺たちのガス欠のほうが早いはず。

「いや・・・これは」

 よく見ると、カマキリは口から泡を出している。


 これは毒だ!


 なるほど、ようやっと毒が回ってきたってことか!

「今だ、全力で仕掛けろ!!」

 麻痺が効いている状態だと、動きがぎこちない印象だった。全身に痺れ薬が回っていて、それのせいで満足に動けないって感じか。

 毒の場合、ぐったりしている。高熱が出て全身がだるい・・・そんな感じに見える。

 明らかに動きに精彩を欠いている。畳みかけるなら今だ!

「狙うは」

 首元・・・ここの甲殻を外しさえすれば、

「リオーネ、魔力を溜めてろ!」

「了解!」

「ジェシカ、奴に飛び乗って後頭部をスマッシュでぶん殴れェ!!」

「おう!!」

 動きが鈍いカマキリに飛び乗ったジェシカは、

「食らえオラァッ!!!」

 思い切り、スマッシュパンチを打つ!!

「・・・!!?・・・」

 動きが止まった・・・!

 スタンが上手いこと作用してくれたか!

「次の仕事は俺だ!」

 この隙に鞭を打ち込んで、首の甲殻を破壊する!

「そいっ、おらっ!!」

 通常攻撃で首を狙い続けること四発目。

「おっ」

 バキッ!

 甲殻に大きい亀裂が入って、一部が剥がれ落ちた。

「今だ、行け、リオーネ!!」

「シャインセイバー!!!」

 意図を酌んでくれたリオーネが、溜めた魔力を使って光の刃を発射!

 その一撃がカマキリの首に直撃する!

「いけ!!」

 矢は甲殻に弾かれてしまった。だが、甲殻を剥がせば魔法も通用するはず。

 その思惑は的中した。シャインセイバーはその身に徐々に埋まっていき、

「ふんっっっ!!!」

 気合を入れて杖を押し込む。

 

 ドキュッ!!!


 光の刃はカマキリの首を切り落とし、消滅した。

 ごろん、と虫の頭が地面に転がる。

「・・・終わったか」

 コントロールを失った体もその場で伸びた。

「終わったわね」


 カッターマンティス、完了。


「おいおい、まだそんなに殴ってねぇぞ!」

 何でこいつはそんなに元気なんだよ・・・防御力が上がってない間は吹っ飛ばされていたし、そもそも攻撃もそこそこ受けていたはずなのに、どうして・・・

 俺、結構疲れてるんだけど・・・もしかして俺だけなのか?

「あなた、元気ね・・・羨ましいわ」

 どうやらリオーネも同じ気持ちらしい。なんか嬉しい。

 いや、嬉しがってる場合じゃない。

 俺たちの戦いはここで終わらない。

「よし、カマキリを回収してキースの援護に行くぞ!!」

 マルエテの討伐も終わらせて、そして帰還する。それができて、目標が達成する。

「私が回収しておくわ!」

 リオーネがパスポートにカマキリを収めて、

「行くぞ!」


 *


「おせぇよ・・・」

 伸びたサルと、そいつにもたれ掛かって息を切らすキース。

「・・・おおん」

 森を出てドッシュに跨って、マルエテの生息域周辺に急行して一時間。

 キースが一人でマルエテ討伐をやり遂げていた。

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