21
勝負当日。
いよいよこの日がやって来た。
・・・来なくていいのに。
集合は生活者協会の受付カウンター。
そこに行くと、
「やっと来たか」
すでに鋼の・・・あれっ?何だっけ?
なんかそれっぽい名前があったような・・・ううん、やっぱり覚えられん。
「よう、体調はどうだ?」
「私たちは準備万端よ」
キースとリオーネも揃っていた。
「悪くないかな。待たせた」
これじゃあ重役出勤だな。重要人物でも何でもないのに。
「二人追加したところで、俺たちの勝利は揺るがんがな」
やる気満々だな、こいつら・・・
「あんた、うちらがスカウトしてたのに、こいつらについたわけえ?」
「ごめんなさいねぇ。語尾がおかしい人と一緒にいると、頭がおかしくなっちゃいそうで怖くて」
「はあ!?」
「早速言われてる。ぷふっ」
・・・あっちはあっちでバチバチかぁ・・・
「すげぇすげぇ!女同士でやりあってらぁ!」
「お前、どっちに賭ける?」
「実力は鋼の剣のほうだろうけどなぁ」
「そりゃ面白くねぇだろ。あのキリヤってヤツ、結構やるって噂だし、面白くなりそうだぜ?」
「あのリオーネって子、可愛いな・・・あの子のほう応援しようかなぁ」
野次馬まで集まってきてやがる。
こういうことになりゃあ、こういうお祭り騒ぎみたいな感じになるよなぁ・・・しかし、リオーネって割と人気あるんだな。まあ、実際可愛いけど。
「・・・ううん」
こりゃあ、今更ブッ千切るってのは難しいかなぁ。できりゃあやりたくないし、面倒だし、やらにゃならんこともあるのになぁ。
まあ、ここまで来たらやらにゃしょうがないわな。覚悟決めて、一発かましますか。
「皆さまお集まりのようですので、詳しいルールの説明をさせていただきます」
クエストが貼られているボードの前に、受付嬢が一人やってきた。
見た感じ、この前ここで揉めた時にはいなかった人のように見えるけど、普段表で仕事していない人なのか?
「ルールはすでにご承知のことかと思いますが、改めて説明させていただきます」
やたらキビキビしてるなぁ。こういう性格の人なのかなぁ?
「この勝負、クエスト達成で発生する獲得報酬金の多さで争います」
そこまではマーベルさんから聞いていることだからいいが、気になるのは、
「今日までに発生したクエストをまとめておりますので、今から新しい依頼をボードに追加させていただきます」
そう、クエスト。相手にするモンスターだ。
正直、綿密な打ち合わせをしても、本当に打ち合わせどおりにいけるか分からない。
俺たちが想定していたモンスターが出てこない場合もあるだろうし、仮に出たとしても報酬金が少ないと困る。
事前に知れたらよかったけど、協会も公平性を保つためにうちに情報を流すことはしてくれないだろう。実際、俺たち関係者は入れないようになっていたらしい、勝負を取り付けたマーベルさんも、基本ルールを決めた後は入れないようになったようだ。
受付嬢がクエストの内容が書かれた紙をボードに貼っていく。
良い内容が無いとうちは厳しい可能性が高い・・・頼むから良いクエストを貼ってくれ!
「こちらになります」
結構貼られた。すでに貼られている物も合わせると三十枚くらいはある。
選ぶだけでも大変な量だぞ、これ・・・
「この中から選んでいただき、クエストに挑んでいただきます」
クエストを自分で受けるってことをしてこなかったから何とも言えないが、この中から選んで金稼ぎって結構大変だな。
時には難し過ぎて受けられないことも続くだろうに。
「どのクエストを受けて頂いても結構ですが、討伐に掛けられる時間は陽が沈むまでとします」
長期戦を挑めばどんな強敵も倒せるだろうから、それの対策か。
まあ、妥当なルールかな。こんな馬鹿げた勝負に時間を掛けてもしょうがないし、メリハリはつけないと。
「なお、相手パーティを妨害するような行為は禁止とします」
「例えばそれってどういう行為が当たる?」
そんなことする必要性を感じない・・・っていうか、そういうスキルもない。一応聞いておいて損はないだろう。
「そうですね。例えばスモークやフラッシュで目くらましをする、直接攻撃して妨害する等が当たります」
スモークは一回食らったから分かるが、フラッシュは無いな。
パスポートでフラッシュが何か調べてみると、光魔法初級を覚えた後にスキルツリーが解放される技みたいで、目が眩むくらいの強力な閃光を放つらしい。
光魔法ってことは、白魔術師が得意にしているスキルだろうか?
シンプルで分かりやすい技だ。使いどころもそれなりにあるように思えるし、覚えておいて損はないかもしれん。
まあ、直接攻撃ってのはさすがに論外だし、一緒の場所に行くわけでもないし、妨害は考えなくても良さそうかな。
「なお、事前に討伐してあるモンスターがいないかどうか、ここで確認させていただきます」
フリーで倒したモンスターを勝負の終わりに出して報酬金を稼がないように・・・ってところか。
仮にそういうことがあっても、クエストを受けていないモンスターは対象外と思うが、考えられる不正行為は全て潰しておきたいのかもしれないな。
そっちのほうが俺としちゃあ助かるが。
「お一人ずつ、パスポートの提出をお願い致します」
受付嬢の最寄りにいた金髪剣士から始まって、
「・・・はい、お返しいたします。鋼の剣の方々は清算済みですね」
最後のイケおじまで終わった。とりあえず、未精算の個体はないらしい。まあ、不正をして暴かれたら面倒になるのは協会だし、それにルールから外れた個体は判定しないし、どうでもいいんだが・・・
「私からこの並びで順番に出そうか」
最寄りがリオーネからスタートして、
「ほい、確認よろしく」
「かしこまりました」
最後は俺、と。
受付嬢がカードを操作して、
「キリヤ様、問題ありませんでした。こちらの面々も問題ありません」
うちも特に問題なし、と。
「何もなければ、開始とさせていただきますが・・・ご質問等、ございますか?」
「いらん。さっさと始めろ」
なんでお前はこう威圧的なんだ?
協会の、しかも受付嬢にマウント取ったってしょうがねぇだろうに。
「・・・よろしいですか?」
「ああ、うちも大丈夫です。始めてください」
俺たちは悪態つく必要ないにしても、ちょっとは気遣っておかないと、後々響きそうで嫌だなぁ。
「それでは・・・開始とします」
討伐勝負がいよいよ始まった。
「さて、どれに行きますかな?」
始まったはいいが、どれを狩るか決めてもいないのに飛び出すことはできない。
ターゲットと狩れるかどうかの判断も含めて、なるべく早く判断しないといけないが、
「どけ」
クエストを見ようとボードに近付いた瞬間、剣士に突き飛ばされた。
「・・・いってぇな」
「さっさと決めないお前が悪い」
まだぼんやりとしか見てませんけど?
ってか、態度悪すぎん?突き飛ばすことなくない?ヴェロニカはマーベルさんと一緒にいるからまだいいものの、おんぶしてても突き飛ばすの?
「これを受ける」
剣士が一枚、貼り紙を剥がして受付嬢へ。
「・・・かしこまりました。では、いってらっしゃいませ」
「行くぞ」
「後で吠え面かいても知らないからねえ!!」
鋼の剣の連中が協会から出ていった。
「・・・はあ・・・」
受付嬢の深いため息・・・お疲れっす。
「気を取り直して、俺たちも選ばないとな」
あいつらのことより、自分たちのことを心配しないといけないわけだが、
「ちょっとマズいなぁ」
リオーネが若干、渋い顔をしていた。
「どうした?」
「あの人たち、結構いい報酬金のクエストを取っていっちゃって」
「・・・なに?」
ああ、雲行きが怪しい・・・
「何のクエストだったんだ?俺、まだちゃんと見えてなかったんだけど」
「ハンマーバードよ」
「・・・ああ、あれかぁ」
ドッシュで走り回っている最中、見かけたことがある。
割と大きい体格で、ごつめのダチョウとでも言えば分かりやすいかもしれない。ドッシュに近しいイメージもあるが、線が細いドッシュに対して、ハンマーバードはちょっとした恐竜と同レベルのマッチョ感がある。
それに、名前の由来でもある金槌みたいなクチバシが特徴で、それを使った打撃攻撃は威力があるらしく、駆け出し冒険者が着用できるレベルの鎧であれば、簡単にぺしゃんこにできるらしい。
動きも機敏だし、体力もそれなりにある。そこそこのベテランでも苦戦しやすいモンスターだってことで、この界隈では強いほうらしい。
「あれって報酬金いくらなんだ?」
「確か四十万フォドルだったはずよ」
結構いくなぁ!
パラライズバイパーで二十八万だったんだぞ?報酬金的には、あれより強いってことじゃねぇか!
「おいおい、どうするよ?四十万以上の依頼もあるはあるけど・・・」
考えることをやめちゃあダメだ。
しょうもなくても、勝負は勝負。俺が叩かれるだけならまだしも、キースとリオーネに被害が出ることは避けたい。ジェシカははまあ・・・ちょっと反省してもらったほうがいいかもしれないから置いておくことにする。
「それより上のモンスターは?」
「いることはいるけど・・・コレとコレ」
リオーネが指差すシートを見てみるが・・・
パワードオーク。
ボルドウィンとシルフィの国境間際にある小高い山に、ゴノオークの集団が拠点を構えようとしています。群れの中心であるパワードオークと、小型のオークを全滅させ、危険を取り除いてください。
報酬金:パワードオーク、ゴノオーク合計七頭の討伐完了で七十万フォドル。
ノンドバク。
ノーボの東にある森林地区に住み着いたようです。
非常に強力な昏睡ガスを発生させ、森林地区周辺の住民を眠らせ、負傷させました。ノンドバクを倒し、周辺の安全を確保してください。なお、討伐する場合は昏睡ガスの対策を要する。
報酬金:八十万フォドル。
「・・・キツすぎん?」
報酬金の額はモンスターの討伐の難易度に比例する・・・
事実上、この二種類のモンスターはハンマーバードよりも強敵だってことだ。
「おいおい・・・どっちもキツイぞ、これ・・・」
「どっちかに行っても、日暮れまでに間に合うとか、そういうレベルじゃねぇぞ・・・」
見た感じ、唯一目がありそうなのはオークか・・・?
文面からして、レッドゴブリンとボスゴブリンに似ている。ボスと、その周辺の子分の構図だ。
合計七頭ってことは、ボスは一頭として、子分が六頭ってことになる。それを四人で討伐するなら、分担すれば上手くやれるかもしれない。
ただ、調べた情報だと、このゴノオークってモンスターはレッドゴブリンとは比べ物にならないくらい強いらしい。レッドゴブリンが子供なら、ゴノオークが青年ってたとえ話も出ている。
ボスゴブリンと同じように、このパワードオークも子分を強くする能力があって、本体もバカみたいに強い可能性は高い。そうだったら想像以上にキツイ相手だろう。
「昏睡ガスなんてどうやって対策するんだよ・・・?」
ノンドバク・・・感じからして地球のバクのような動物なんだろうか?
昏睡ガスってのがシンプルに危ない。どれくらいの威力があるのか分からないが、被害はそこそこ出ているように見えるし、相当危ないと見える。
ガスの対策を要するってことは、何かしらできるってこと。
「・・・そうか。ガスを吹き飛ばしてしまえば・・・あ」
ガスを吸わなきゃいい。なら、強風で吹っ飛ばしてしまえばよくないか?と思ったが、この手段を取ることができない。
今回はヴェロニカを連れていけない。
俺の風魔法なんか、あってないようなものだ。エアニードルを撃つのも時間が掛かるし、魔力を使っている実感が凄まじいのに、いきなりガスを吹き飛ばすレベルの強風を使えるわけがない。
首都で工場の埃を吹き飛ばしたみたいに、ヴェロニカに吹っ飛ばしてもらえば、この問題は解決する。
ただ、今回は四人で行くと決めている。仮にヴェロニカはお守りで連れて行くってことにできたとしても、芝居を続けながら戦うことも難しいし、キースとリオーネの前ではできない。協会が噛んでいないならいいが、オーディエンスも揃っているこの場で連れて行こうとすりゃあ、大なり小なり反応があるだろう。
「・・・バリアを使えれば行けたけどなぁ・・・」
「・・・バリア?」
すぐにパスポートでスキルを確認。
バリア。
目に見えない、ありとあらゆる状態異常を防ぐシールドを形成する。
「なるほど・・・」
ありとあらゆる状態異常を防げるってことは、ガスを吸っても昏睡状態にならない・・・いや、ガスの成分だけを弾いて息ができるって感じか?
詳しい原理は分からないが、ちょっとは可能性があるように思える。
「それを使えばいいじゃねぇか」
「覚えてないのよ。スキルポイントが足りなくて」
・・・根本的に使えないのか。
「おいおい、何にポイント振ったんだよ!?」
「フォトンとフォトンシュートを覚えちゃったから」
「何やってんだよ!?」
フォトンは無属性の魔法スキルだな。
炎とか光とかの属性攻撃は相性があるらしいが、フォトンはそれを無視してダメージを与えられる優秀なスキル。
ただ、属性系と比べて威力が落ちるっていう弱点がある。サブウェポン的なイメージで習得する魔術師が多いらしいが・・・
「誰もこうなるなんて思わないでしょ・・・」
・・・まあ、そりゃそうだわな。
ただ、覚えておいてくれたら結構でかかったのは確か。
バク自体は強くはないらしいけど、この対策を打てない以上・・・このモンスターはオークよりも無しだ。
「どうするんだよ?この二枚のうちのどっちかって話になんのか?」
・・・本当にそうするのか?
「どっちも危険すぎるわ。ある程度情報があるとは言っても・・・」
「バクは危険すぎるだろ・・・」
「だったらオークだ!殴り甲斐があるぜ!!」
「そういう問題じゃないでしょ!」
殴るとか殴らないとか、そういうレベルの話じゃない。
こういうのは身の丈に合った物を選ばないとダメだ。
物語なら、いきなりチート能力を与えられて、いきなり高レベルモンスターを瞬殺できるんだろうが、残念ながら俺にはそんな都合のいい能力は持ち合わせちゃいない。
ここは現実。物語じゃあない。
「みんな、落ち着こうか」
最早、身内で揉め始めている。
この空気を一旦切りたい。
「落ち着けって、お前、こんな二択迫られて落ち着いていられんのかよ!?」
ジェシカが感情的なのは分かってる。だから俺が冷静にならんと。
「まずは観察だ!!」
強引でも何でも、空気を切る!
「説明したろ?こういう時こそ観察!」
「観察・・・」
そう、とクエストボードを叩く。
「その二枚は俺たちにはキツすぎる。なら、俺たちの身の丈に合ったクエストで戦わないとしょうがないんだ。勝つために何をしないといけないのか、まずは観察!」
目の前の状況の把握・・・今だからこそ、ここをしっかりしないといけない!
「・・・そうだな、まずは観察だよな」
意外と、ジェシカが真っ先に冷静になった。
・・・この人の情緒、どうなってんの?
まあ、それを突っ込むとまた場が荒れるだろうから言わないが。
「まずは冷静になって」
「このクエストボードを把握、だな」
リオーネとキースも落ち着いて、ボードを眺めて、
「簡単、難しいで並べ替えてみる?」
「それもいいけど、報酬金勝負なら高い、低いで並べたほうがよくないか?」
「それは確かに。並べ替えてもいいですか?」
「どうぞ」
乱雑に貼られたシートを一旦外して、ざっくり三分割してみた。
「こうしてみると見やすいな」
数千から数万フォドルレベルと、十万から五十万弱くらい、五十万を超える依頼と分けてみた。
明らかにハイレベルな例の二件を除くと、ミドルクラスが三分の一くらい。
「この中間層を狙えばいいわね」
「より報酬金が高いやつは・・・こいつか」
「どれどれ」
カッターマンティス。
ノーボの北西部で姿が見られました。カッターマンティスは好戦的な上に動きも素早く、非常に危険なモンスターであり、卵を持っている個体であった場合、孵化して個体数が増えてしまうと生態系のバランスを崩しかねません。早急に討伐願います。
報酬金:三十六万フォドル。
なるほど、こいつか・・・
昆虫系のモンスターで、日本で言うところのカマキリらしい。
武器はカマキリと同じで両手の鎌。これがどうやらえらく鋭い刃らしくて、下手な甲冑も真っ二つにできるとか何とか。
こいつの厄介な点は鎌だけじゃなく、その身軽さも含まれる。
ボスゴブリンなんかは体格がいいから、どっちかっていうと機動力は低い。自分の体重が重いから、速く走れない。このカマキリの場合は逆で、昆虫だから軽い。だから速く動ける。
実際に相手をしてないから分からないが、パラライズバイパーよりも報酬金が高い以上、手強いことは確定なわけだ。
「他のモンスターはどうだ?」
ほぼハンマーバードと変わらないレベル。
だが、これしかクエストが無いわけでもない。選べるなら選んだほうがいい。
「高い報酬はマンティスくらいしかないかな・・・」
「後は二十万いくかいかないかくらいか・・・」
程良いというか、妥当なのがそこ一本か・・・
「・・・一点確認したいことがあるんだけど、いいですか?」
ふと思ったことがある。
受付嬢がまだ近くにいるから、
「構いませんが、なんでしょう?」
「この勝負って・・・報酬金の多さで決まるんですよね?」
「はい、おっしゃるとおりです」
「なら、合計してもいいんですよね?」
ルールは報酬金の多いほうが勝ち、という話だった。
クエスト一本で得られる報酬金だけ・・・っていう制限は聞いちゃいない。だったら、クエストを二本、三本と受けたら、それを合わせてもいいはずだ。
これなら、やり方次第で四十万超えも可能だ。
「・・・確かにその方法は考えていませんでしたね」
「だったら、うちはクエストを二つ受ける」
合計で上回る。うちが勝つにはそれしかない。
ルールをきっちり練っていなかったわけだし、展開としては飲んでもらいたいところだが。
「・・・相手の承諾があればそれで構わないと思いますが」
出たよ。必殺の文言。
「あいつらもういねぇけど・・・」
ハンマーバードが出没する場所は把握しているから、今からドッシュを飛ばせば確認は取れる。
取れるが、あいつらのことだ。どうせ了承しない。逆に了承して、クエストを複数こなすかもしれないが・・・
「・・・お姉さん、この条件、飲んでもらえません?」
・・・あまりこういうことするの、慣れてないんだよなぁ。こういうのはマーベルさんの領分だし。
だが、やらにゃ仕方がないってのが現実か。
「公平を保たなければいけません。キリヤ殿の提案は受け入れかねます」
こう来るのはなんとなく分かる。分かってる。
「仮に」
受付嬢に可能な限り接近して、
「俺たちがやられたら、協会が死体の回収とかするんでしたっけ?」
小声で、
「・・・そうなります」
「仮に俺たちがオークやらバクやらを無理して倒しに行ってやられた場合・・・お姉さんたちの仕事が増えますよね」
「・・・それが業務ですから」
「四人分の死体を回収するのって割と大変なんじゃ?しかも、オークとバクの側に転がっているのを回収するわけだし、スタッフの身の危険も当然あるし、そっちの保証もしないといけない」
「・・・何がおっしゃりたいのです?」
「無理なクエストを受けて死なれるより、うちの提案を飲んでもらえたほうが、協会にとっても得だと思うんですよ」
オークとバクも悩みの種だろうが、このカッターマンティスとかいうのも大概だと思う。卵が孵化した場合は生態系を崩す可能性があるとか書いてるし、下手をすればオークとバクよりも質が悪い。
他のクエストのモンスターも生活を脅かす可能性もあるんだし、一日で一件の解決より、二件のほうが協会にとっても旨味があるはずだ。
「お姉さんの責任も回避できますしね」
「・・・それはズルいですよ。さすがに」
「申し訳ない。ただ、こっちも生き死に関わるからさ」
いいだろ?もう折れろって!
こっちもこんなところで時間を使うわけにゃいかねぇんだよ!
「・・・分かりました。その提案、飲みましょう」
折れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「報酬の合計を認めます」
「おっ!!やったな!!」
・・・ふぅ。もう疲れた。
何でまだ外にすら出てないのに疲れてんだよ・・・
「元々、この討伐勝負は私も不本意なのです。他のスタッフが・・・」
受付嬢が部屋の端にいる別のスタッフを睨んだ。
あ、あいつ。あの時の受付嬢だ。
「勝手に進めた案件で、最終的に私のところに回されましてね」
なるほど。あの人が独断で受けたものの、上に報告を上げたら何を勝手に話を進めてんだって怒られ、事態を収拾しようとしても手遅れで、最終的に段取りを組まされたのがこのお姉さん・・・ってところか。
可哀想に・・・
「それに、私情を挟みたくはないのですが、鋼の剣の面々はあまり好きになれませんので、あなた方にがんばってもらいたい・・・という気持ちもありまして」
このお姉さんも何かしら被害を受けたらしいな。
その理由はまた別の機会に聞くことにしよう。
今は、
「よし、クエスト決めて行くぞ!!」
やることをやる!




