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「・・・ホントマジどうしてこうなった・・・」

「どうしてだろうねぇ」


 俺はヴェロニカを連れて、ドッシュに乗ってノーボから離れていた。


 理由は単純。

 あの頭のおかしい四人組との狩猟対決のためだ。


 *


「ということで、鋼の剣の面々と狩猟対決を致します」

「はい、よく分からないことがあるんですが」

 その晩、とある酒場で俺たちは集まって食事を取っていたんだが、

「なんでしょう、あなた?」

 ・・・最早、妻役が板についてきたマーベルさんには何も言うまい。言ったところでどうしようもないし、他の三人がいるから余計なことも言えない。

「何でわざわざそんな面倒なことをしなきゃいけないんだろう?」

 別に対決する必要なんてない。

 適当にやり過ごしてしまえばいいだけなのに、何でそれができない?

 わざわざ狩猟しにいかないといけないのは何で?

 本当に巻き込まれただけ・・・それが本当に嫌だ。

「ああなっては、お互い遺恨を残すだけでしょう?であれば、正々堂々と勝負をすれば良いではないですか」

 ・・・遺恨を残す、かぁ。

 ぶっちゃけ俺はどうでもいいんだけどなぁ。余計な争いに付き合うのが嫌だし、それを回避するためなら平謝りも喜んでする。特にあの連中は頭おかしいし、付き合って損しかないと思う。

 あとはジェシカなんだが・・・

「そりゃあ腹立つし、叩き潰さねぇとな!!」


 ・・・これだもんなぁ・・・


「特にあの頭のおかしい女は許さねぇ」

 お前の怒りの矛先は、あの黒髪の語尾がおかしい女なのか。

「リーダーのような男性は良いのですか?」

「あれはあれで腹が立つ」

 ・・・あの二人か。

 俺だったら剣士だけに腹が立ってるんだけどな。あの語尾がイカれた女はもうどうでもいい。知能が低すぎて話にならん。

 突っかかってくるのは主に剣士のあいつだし、あいつを抑えればどうとでもなる。

 ただまあ、面倒は当然あるから、もう勝負もせずに用事だけ済ませて立ち去りたいのが本音だ。

「で、勝負の方法は?」

「それによっては有利、不利がありそうよね」

 キースとリオーネも同席していた。

 知らない間柄でもないし、協会で揉めたこともすぐに伝わっていたらしく、心配して来てくれたってわけだが、勝負を受ける気になっているような感じが気になる。

「勝負の方法は受付との協議の結果、対象モンスターの討伐の成功報酬を比較するということになりました」

「ねぇ、何であなたが勝負の方法を仕切ってんの?」

「しかも協会も乗ってきてるってのがヤバいよな」

 キースも思うところがあるようだが、マーベルさんの話は進んでいき、

「同じモンスターの討伐が可能であれば、狩って帰ってくるまでの速さで勝負もできますが、今は対象が同じ依頼というのもありませんでした。大きさ比べも対象によって様々なので判断が難しい。となれば、公平に判断できるのが報酬金というわけです」

 ・・・ということらしい。

 そりゃあまあ、言ってることは分からんでもないが、そもそもやりたくないって話なんだけど、それを理解してくれないんだよなぁ。

「報酬金は討伐対象の難易度に応じて設定されているし、妥当な判断基準かしらね」

「ということで、討伐対象をそれぞれのチームで決定し、討伐して帰って来ることで勝負をつけよう、ということになりました」

 ここまで話がまとまっているなら、もう逃げられんかなぁ。俺は今からでも余裕で逃げるけど、

「ワクワクするねぇ!」

「モンスターの素材も手に入りますし、一石二鳥ですね。ふふふ」

 ヴェロニカがやる気なのはいつものことだからいいとして。

 マーベルさん・・・まさか、商売できるってんであいつらを焚きつけたんじゃないだろうな?

 だとしたらマジでやめて欲しいんだが・・・

「向こうは四人でやるんだろ?キリヤはこいつと二人でやるのか?」

 当然、向こうは四人一組で挑んでくるだろう。

 こっちは俺とジェシカ・・・って話になるだろうなぁ。ジェシカもケンカを売られていたわけだし、こいつの性格上、いやあたしは関係ねぇってなるわけないんだから。

 となれば、数的有利は向こうなわけだが、

「だったら私たちも参加しようか?」

 リオーネが手伝ってくれるらしい。

「まあ、乗りかかった船だし、やるならやるか」

 キースも乗っかってくれるようだ。

「それにまあ、あいつら正直腹立つしなぁ」

「一度くらい鼻っ柱折っておいたほうがいいかもね」

「・・・なあ、一応聞いとくけど、あいつらに何か恨みでもあるのか?」

 何かしらないと、鼻っ柱を折るとはならないだろう。多少気になる。

「俺はキリヤたちと出会った大量発生クエストの時にちょっと小言を言われてな」

「・・・どんな?」

「雑魚相手に時間を掛け過ぎだとか、ダメージを受けすぎだとか、そんなところだよ」

 ジェシカにも言っていたことをキースにも言っていたのか・・・となれば、宿屋以外のどこかか。

「リオーネも何か言われたのか?」

「私は勧誘されたのよ」

 あれっ?悪口じゃないのか?

「優秀だとか何だとかで、うちに入らないかって。白魔術師を探していたけど、なかなかいないからだとか何だとか」

 あいつらってどういう構成なんだっけ?

 剣士二人は確定なんだろうが、女二人は何のジョブだったんだろう?

 クエスト中は遠目で見ていただけだし、そもそも目の前の状況に精一杯だったから、細かく観察する暇はない。レノトの宿屋で揉めた時は軽装だったし、さっき会った時は装備をきっちり観察できなかった。

 分からなくても仕方がないが・・・

「リーダーが剣士、年長の方が槍使い。ジェシカが揉めていたのは黒魔術師で、あのピンクの髪の子はヒーラーだっていう話よ」

 前衛二人に後衛が二人。どんな相手でも渡り合えるような万能なパーティ構成だな。

 目的は後衛火力をもう一枚増やしたい・・・ってところか?

 魔法の火力はかなり高い。レッドゴブリンなら一発で仕留められるし、大型モンスターでも致命傷を与えることもできる。パーティの人数に制限とかがないのなら、何人いてもらっても構わないと思うし、軍隊だったら余計にそうだろう。

 仮にそういう考えだったら、まあ分からなくもないんだが・・・

「それで、リオーネはその誘いには乗るのか?」

「乗ってたらあんたたちと一緒にご飯食べてないでしょ?」

 協会で会って驚く構図になるよな。

「いくら何でもあのパーティは嫌よ」

「何でだ?」

「年長の方は紳士的だけど、他のメンツがねぇ・・・」

 やっぱそこかぁ・・・

「まだね、あのヒーラーの子はマシなのよ。何考えてるか分からないけど、突っかかって来ないから」

 身内が攻撃されていても笑うくらいだから、他のメンツに何かしら思うことでもあるんだろうか?無いのに笑ってるのはそれはそれで問題だが・・・

「けどあの金髪剣士と黒魔術師は無いわ。とにかく鼻につく。あんなのと一緒にいたくないし、仲間と思われたくもないし」

「滅茶苦茶言うなぁ」

「ですが、ご意見もごもっともですね。選ぶ権利はありますし」

「わたしなら焼き払うけどね」

 ・・・マーベルさんとヴェロニカも滅茶苦茶言うなぁ。ヴェロニカの場合、本当に焼き払えるから余計怖いんだけど。

「だから私も参加するわ。これで四対四になるわけだし、平等でしょ?」

「それはありがたい話だけど、いいのか?二人とも、それぞれ用事があるだろうに」

「俺は別に構わないぞ?さっきも言ったけど、乗りかかった船だしな」

「キリヤくんにはお世話になってるし、こんな時くらい協力させてよ」


 この二人・・・最高かよ!!


「ということは、わたしが参加できないかぁ。残念だなぁ」

 ・・・ヴェロニカの場合、どっちにしても参加できないよなぁ。

 いや?おんぶして背中から撃ってもらえれば違和感はないか。ヴェロニカが手伝ってくれるなら、相当大物でも瞬殺できそうだし、こっちも大助かり。

 いや・・・ダメか。ダメだ。三人には俺が使えるスキルの大半は伝えている。いきなりフレアバレットやらボルトショックやらをぶっ放せば、さすがに違和感を覚えるだろう。奥の手を隠しているって言い訳もキツイか・・・

「なら、俺たち四人でやるってことにして、作戦はどうする?」

「作戦か・・・」

 四対四のチーム戦で、報酬金の高さで勝負する。


 となれば、当然報酬金の高いモンスターを選ぶべきだが、話はそれだけで終わらない。


「どんなモンスターを討伐するのか、とかもあるよね?」

 より高い報酬金を狙いに行くわけだから、当然手強いモンスターを相手にしないといけない。

 どういうモンスターを討伐するかにもよるが、初見は厳しいし、事前にある程度決めておくなり、情報を収集しておくなりしておかないといけないだろう。

「使える技を増やしておくとかも必要かね?」

 蛇を討伐した当時のままでもやれないこたないだろうが、強力で高火力なスキルを覚えておけばより楽に倒せる。そこは間違いない。

 ただ、今回のためだけに貴重なポイントを割く・・・ってことを飲まないといけない。俺だったらちょっとは悩むぞ。まあ、使えないスキルを習得するわけじゃないし、今後も活きるわけだから、無駄ってわけじゃないのが救いか・・・

「マーベルさん、この勝負っていつ開催でしたっけ?」

「ああ、そこを伝えていませんでしたね。三日後です」

「三日か・・・」

 こんなしょうもないことに三日も待たなきゃいけないのか・・・

 時間の無駄遣いというか何と言うか・・・

「こちらも旅の疲れがありますし、補給も必要です。キースさんの剣も手配が済んでいませんし、あなたの鞭も作成終了していませんから、ちょうどいい時間だと思いますよ?」

 まさか、このための三日だと?

 それを計算してこの日程を組んだってか?

 どんな策士だよ・・・

「というより、キース・・・剣、完成してなかったのかよ?」

「ああ、その件な」

 てっきり完成したものだと思ったんだが。

「パラライズバイパーの素材が揃ってからの作成になるだろ?素材の提出をして待ってたら、奥さんがここに急ぐって話を聞いてな。それも集団移動を使うって聞いたら、心配にもなるだろ?だから後追いでここの武器屋に送ってもらうように依頼して、俺たちも同行したわけだよ」

 なるほどな、そういう経緯があったわけか・・・

「作成の依頼はなかったからすぐに取り掛かれるって話だったから、すぐ送るって話でな?ここの武器屋も知り合いだって言ってたし、その辺りは心配しちゃいないんだが」

 そういえばそういう話があったな。合成はノーボの武器屋でやってて、そこの店主が知り合いだとか何とか。

 配送もやってくれるのか。案外手広いな。

 あ、こういう時にヴェロニカ運送が役立つのか。上手くできてやがる。

「私もマジックワンドを買ったわ。魔法の威力も上がってるはずだから、期待しててね」

 全員、攻撃力対策はできているってことになるな。蛇を狩った時よりも楽に討伐できるかもしれない。

 その面はいいとしよう。後は、

「・・・下調べだな」


 *


 ということで、俺とヴェロニカでノーボ周辺を駆け回っているわけだ。

 事前に観察を済ませておくことで、分析に繋げやすくする。


 今の段階で下調べしておくことはそんなに多くはない。


 基本的にパラライズバイパーと同じだが、周辺の地形や地質。高低差や利用できる障害物の有無。この辺りは探検家お得意の踏破の仕事。

 そしてヴェロニカの仕事は、周辺のモンスターの気配を感知すること。お得意のテレパシーでモンスターの位置を把握して、そこを俺がマップに記録する。

 この二つができているだけでも、俺たちの討伐効率は上がる。


 あとはモンスターの能力を調べる。

 これはキースとリオーネに頼んだが、この辺りで狩猟できるモンスターがどんなもので、どんな能力、習性があるのかを確認しておく。

 事前に知っていてもクモと蛇はてこずった。初見はもっとしんどくなる。モンスター討伐の経験値が少ない俺たちには、事前の情報は攻略のカギになる。

「あの茂みの奥に小さいモンスターがいるよ。キラーラビットっていう種類だね」

「キラーラビット、と」

「大きい個体はそれなりに脅威になるけれど、ランドリザードほどではないかな」

 とりあえずマップに書き込んで、

「クエストに出ていても、そいつらはたぶんそこまで報酬金は高くないはずだ。他も調べよう」


 今回の勝負、とにかく報酬金の高いターゲットを討伐する必要がある。


 であるなら、自然と強いモンスターを狩らないといけないわけだが、ランドリザード以下のモンスターなら優先順位は低いと判断できる。

 ただ、強すぎるモンスターは俺たちの実力で狩れない可能性もある。ヴェロニカがいれば話は別だろうが、今回はそういうわけにもいかない。

 武器が新調されて、総合的に火力は上がっているにしても、俺たちの狩猟技術が向上したわけじゃあないわけだし、理想はパラライズバイパーと同等、もしくはもうちょい強いくらい・・・ってのが妥当だろうと思っている。

 そこで気になるのは、

「あの人たちは一体何を討伐するんだろうねぇ」

 

 ・・・そう、そこである。


 一応、実力者って話だから、それなりに強いんだろうとは思う。ただ、俺たち自身があいつらの実力を間近で見たわけじゃないし、比較ができない。

 噂は所詮噂・・・実際はどうかは分からない。だからそこは考えないっていうこともできる。

 マーベルさんが取り付けてきたルールだと、討伐対象は当日に発表するって感じらしいから、事前に知ることもできない。

 出たとこ勝負になるかな、これに関しちゃ。今考えても仕方がない。

「わたしの調査が全く進まないねぇ・・・」

「・・・それに関しちゃ俺は悪くないよな?今回は特に」

 俺も気にはしているけど、こうトラブルが多いとなぁ・・・

「まあ、今日は集めた情報をまとめて、明日武器を受け取ったらその足で調査しよう」

 少しでも機嫌を取っておかなきゃ、後々大変なことになりかねないからなぁ・・・

「でもまあ、今は目の前のことをやらないとね。あの人たちにはおしおきをしておかないと」

「・・・え?ヴェロニカが手を下すのか?」

 そういう風に聞こえるが、

「さすがに今回は難しいね。キリたちにやってもらわないと。だから協力してるんだよ」

 ・・・ということらしい。ホントに怖い。

「それに、気にしておくことはあっちのほうだけじゃないでしょ」

「・・・というと?」

「うちにもいるでしょ?厄介な人が。そっちの対策もしないといけないよ?」


 ・・・ああ、あの人かぁ。


 そうだなぁ。そっちもどうにかしないとなぁ。

 こっちも上手く立ち回っていかないといけないとはな・・・起きてから寝るまでやることいっぱいだ。

 貧乏暇なし・・・いや、この件はこれじゃないのか?

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