11
昼過ぎ。
クーピ村のすぐ近くまで移動することができた。
適当な距離を残して、ドッシュを停めてきた。
いつでも逃げられて、人目にもつかないちょうどいい距離感。場所にもよるが、俺が子供を背負っていることを踏まえると、一キロくらいが程良い距離か。それ以上はなかなかキツイ。こう言うと怒られるかもしれないが、ヴェロニカって案外重いんだよな。
それはそれとして、
「あれか」
「だろうな」
村の側にそれなりの茂みがあった。これを利用して隠れて、村を観察している。
「思ったより大きくはないかなぁ」
思い当たる風景があるとすれば、東南アジアの田舎・・・だろうか?
ココナッツの木があるわけじゃないが、別の樹木がたくさん生えているし、村と外との境界線も曖昧で、まるで廃材みたいな木材で柵を作っているだけ。
テイストが西洋だから、ゲームで出てくるような寂れた村・・・って言えば、そっちのほうがイメージしやすいかもしれない。
見た目のイメージはいいとして、こんなところでランドリザードやらパラライズバイパーが暴れたらひとたまりもなさそうだ。この辺りにはああいう大型モンスターはいないのか?
村の規模もそんなに大きくないのかもしれないが、家もちらほらしか見えない。家同士が離れているのかもしれないが、そもそも家が多くない。
本当に田舎なのかもしれないな。
「こんなところにいるのかぁ?その怪しいヤツらは」
「調べてみないと分からないけど、可能性がないわけじゃないかな」
「なんでだよ?」
「人通りが少ないし、隠れやすいかもしれないだろ」
まだ調べちゃいないが、人の姿もあまり見えない。家の中にいるのかもしれないが、昼過ぎで表を歩いている人間が少ないのはおかしいように思える。
少なくとも、食材を買いに出る奥さんの一人や二人くらいはいてもいいもんだが、それもない。
となれば、こういう場所なら潜伏しやすいかもしれない。逆に目立つ場合もあるんだろうが、そこまで人通りが多くないなら紛れやすいかもしれない。
それに、連中の出身がここっていうなら違和感もない。
「・・・調べに入るか」
ここでこうして観察し続けていても仕方がない。
仮に連中のペースにハマるとしても、こっちから動いていかないと。
「うーし、腕が鳴るぜ!」
ジェシカはもうやる気満々だ。
・・・すっげぇ不安なんですけど・・・
「キリ、わたしも警戒するし、万が一の時はメリコの時と同じように戦うから大丈夫だよ」
テレパシー持ちは相変わらずありがたい。
・・・さっき散々いじられたから、ありがたみが薄れるが。
ここに来るまでの道中・・・相当疲れた。
*
ドッシュたちを適当な茂みのある場所に停めて、その場にある枝木を集めて焚火を始め、あたかも俺が出したかのようにアクアで水を生成。
コーヒーの粉末をカップに入れて、お湯を注いでかき混ぜる。これでコーヒーができあがる。これはミルクと同様、地球で作る物と変わりない。豆が違うのか、風味というか、味わいが独特なのは単純に気になる。
「キリさんやい。わたしのミルクもお願いできるかな?」
まずはミルクを作るべきだろうが、悪いが俺のメンタルがそれどころじゃあなかった。
とにかく、一杯先に飲ませてもらおう。そう思っていたが、
「おい、それ飲んだらやるぞ!!」
コーヒーを作ってミルクを・・・という流れでも、ジェシカの戦闘意欲が収まることはなかった。
どんどんパワーアップするというか、底なしというか。
まるでお父さんに遊びをせがんでいる娘のような感じだ。
「おら、早く飲め!!」
「うるせぇよ!!子供のミルクを作るのが先でしょうがァ!!」
・・・幼稚園くらいの娘で、それが自分の子供なら可愛いんだろうが、俺の周りでシャドーを繰り返している女は幼稚園児でもなければ、俺の娘でもない。
「あそこまで向上心のある子はなかなかいないねぇ。見習うべきところがあるのは確かだよねぇ」
「っしゃあっ!!あったまってきたぜ!!」
「・・・最も、直すべきところが大きいところも確かだねぇ」
「・・・っすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう」
*
そんな落ち着かないコーヒータイムを終えて、またドッシュを走らせて今に至るわけだが。
「ジェシカ、俺の前を歩け」
「・・・追っかけてるヤツってお前らの相手だろ?お前が殴らなくていいのかよ?」
おや?殴れれば何でもいいわけじゃないのか?
こいつはそういうヤツだと思ってたんだが。確かに、俺たちの的ではあるんだが、別に引っ叩くことに執着はないわけで。
「俺は全く構わん。お前さんに譲る。そいつらがいたら好きなだけ殴ってもらって結構」
というよりも、殴りに行ってもらわなきゃ困るってのが実情だ。
メリコでは上手くいったが、同じ戦法が通用するかどうかは謎だし、二対二ではあっても、自由に動けるのは俺だけだから、実質二対一なわけで。ちょっとでも攻撃する手段と的を増やしたいという狙いもある。
どっちでもいいから相手をしてくれると助かる。何より、ついて来ているわけだし、役に立ってもらわなきゃ困る。
「・・・本当にいいのかよ?」
「おう、いいぞ」
「・・・本当だな?」
余計なことを考えるな。素直に殴りに行け。俺たちの壁になれ。
「・・・お前、悪いこと考えてないよな?」
「なんなんだよ、悪いことって」
今そういうのは必要ないんだよ。素直に前に出ろ。
「なら、前を行かせてもらうぞ」
ジェシカが先に進んでいく。
「素直に聞いてくれれば楽なのにねぇ、キリさん」
「全くだよなぁ」
無駄なやり取りだよなぁ、あれ。
余計な勘繰りがなければスーッと話が進むのに。
まあ、こればかりは仕方がないか。幼馴染とか友達とかでもない、ただレノトで知り合っただけの関係だし。
とりあえず、先に歩かせることはできたわけだし、前向きにいこうじゃないか。
「それにしても、やっぱり寂れてるねぇ」
先行したジェシカに続いて、俺たちも村に入ったが、中に入ると余計にそう感じる。
何だろうな。別に何が悪いわけでもないだろうに、何でここまで寂れるんだ?
レノトもそう遠くないし、南下すればニギもあるし、もうちょっと頑張ればメリコまで行けるし、交通手段さえ整えれば悪い位置じゃないはずなんだが。ドードであっても、オアシスを経由すればそれなりに快適に移動できるだろうに。
それとも、村の位置の他に何かあるのか?
「この村ってここまで寂れて大丈夫なのかな?何で財政をまかなっているんだろうねぇ」
・・・財源か。
この世界にも税金はあるみたいだし、それによって維持はされているんだろうが、他にもあるはず。
簡単な話だと、特産品か何か。
その土地でしかできないとか、他のところにもあるけどここのは旨いとか、そういうのがあれば強い。商売に繋げられるし、村興しもしやすいだろう。
ただ、そういう何かはパッと見では見えない。農作物がないわけじゃあないんだが、家庭菜園くらいの量しかなさそう。
「・・・ちょっとマズいかもな」
「わたしもそう思ってたんだ」
村の入り口くらいでは何の反応もなかった危険感知が、進めば進むほど黄色信号の数を増やしている。
「今のところ敵対意思はなさそうだけれど、警戒はされているね」
ヴェロニカはテレパシーで感知し続けてくれている。
警戒態勢は問題ないが、何があるのかが分からないことにはどうしようもない。
ここは素直に撤退したほうがいいのか・・・?
「おい、キリヤ。こんなところに本当にいるのかよ?」
前を歩いていたジェシカが立ち止まって振り返り、
「人っ子一人いねぇじゃねぇか」
「・・・うぅん」
それは俺も考えてはいることなんだが、
「他のところに行ってるんじゃねぇのか?こんなところで何ができるんだよ?」
別に潜伏だけがすることなわけじゃないんだが、これは同意できる一面はあるな。
「おい、油断するなよ。ここにいるかもしれないんだから、周りに気を配れ」
「いるのかよ、こんなところに?」
「それが分からないから調べに来てるんだろ?」
「そりゃそうかもしれねぇけど、こりゃあ―――」
ジェシカの小言も最もだが、
「キリ!!」
俺の頭に、突然赤いシグナルが・・・!
目を見開いて顔を向けた先に、すでにナイフを構えた例の盗賊がいて、
「こいつっ・・・!!」
ジェシカにあとちょっとの距離まで詰めてきていた!
咄嗟に鞭を抜きつつ、
「ジェシカ、構えてあっち向け!!」
警戒を呼び掛けつつ、スピードウィップで盗賊を狙って撃ち込む!
「チッ!」
あと数歩でナイフが届く距離になっていたが、上手く逸らすことに成功。
「何だよ・・・って、うお!?なんだコイツ!!」
お前が何だコイツなんだけどな、個人的には・・・
まあ、それはそれとして、
「なんだ、お前らこんなところにいたのか」
盗賊は距離を取ってナイフを構えている。すでにこっちを倒そうって腹だな。
「まさか、ここまで追ってくるなんてね」
「できるなら俺も会いたくはなかったんだがな」
「キリ。キリが向いている方向の奥の民家に相方がいるようだね」
なるほど。もう片方は万が一のバックアップってところか。
攻撃する意思はあるんだろうから、危険感知に出そうなもんだが、その気配がない。射程距離外なのかもしれないが・・・
「仲間を連れてくるとは思わなかったわ」
「あ?別に仲間じゃねぇけど?」
「・・・は?」
ああ、そういうリアクションになるよな。分かる。分かるよぉ。
普通、一緒にいりゃあ仲間って思うよなぁ。でも、そうじゃないんだよ。何なら早いことおさらばしたいんだわ、俺は。
「ヴェロニカ、すぐにでも攻撃できるようにしておいてくれないか」
「分かった!」
奥の方へ撃ち込まないといけないかもしれないし、こっちも用心しておくに越したことはない。
「じゃあ何なの?あなた?」
「別に何でもいいだろ。テメェに関係ねぇ」
そりゃあ関係はないが、目の前の状況的に気にはするだろ・・・最低限は。
まあ、それはそれでいいわ。どうでもいい。
「あんたら、こないだコテンパンにしてやったのに、まだやる気なんだな。怪我の一つや二つしたろうに、そっちは大丈夫なのかい?」
「大きいたんこぶができたわよ。心配ありがとうね」
フレアバレットで壁に叩きつけて、たんこぶ一つで済んだのかよ。こっちの人間て思いの外打たれ強いのか?下手したら死んでだろうに・・・
「こっちも無駄なやり取りをしたいわけではないのよ。素直に来てくれないかしら?」
やっぱりこいつらは個人の計画で動いているわけじゃないらしい。
となれば、親玉がいるってことだが・・・
「どうも、まともな思考の持ち主じゃないってのだけは分かるんだよなぁ」
「そういうのは考えなくてもいいのよ。黙ってついて来てくれたらこちらも助かるし」
「俺は助からなさそうだ。遠慮しとくよ」
盗賊は溜息を漏らしながら、
「じゃあ・・・今度は容赦しないわ」
実力行使ってか。
「まともな大人のすることじゃあないな、これは」
左手で盗賊を指差し、
「やるなら、容赦しないぞ」
「主にわたしがね」
ヴェロニカはやる気満々。たぶん、フレアバレットを使いたくて仕方がないって感じだ。
「おい、もう片方がいるんだろ?こっちはあたしが相手していいんだよな?」
ジェシカが拳を固めて構えている。
購入した金属製の手甲がきらりと光る。
「は?あんたエルフなのに無手なの?」
「テメェにゃ関係ねぇ」
大なり小なり、これからやり合うわけだから、関係ないわけじゃあないんだろうが・・・まあ、いいか。あまり細かいことは気にしないようにしよう。
「ジェシカ、そいつ割と速いぞ。気を付けろ」
「もう片方いるんだろ?そっちはお前にやるよ」
「正直に言えばいらんけど、まあ、しょうがないか」
潜伏している黒魔術師をさっさと潰して、ジェシカの援護をしてやるか。
「んじゃ、いくぜっ!!」
ジェシカが意気揚々と突っ込んでいった!
「うらぁっ!!」
振りかぶって右手でストレートを突き出すが、
「おっそ」
盗賊は軽々と避けていた。
「そんなんで格闘家やってんの?遅くてあくびが出るわ」
「あ?調子に乗んなよ?」
・・・確かにジェシカのほうが遅い、というより、相手の方が身軽だ。
これはジョブの補正が掛かっているから、それとも本人の能力によるものなのか、もっと別の要素があるのか・・・
定かじゃないが、
「こっちがお留守だぜ!!」
「フレアバレット!!」
状況上、今は実質二対一だってことを忘れちゃいけない!
俺の左手の前に火の玉を一瞬で作って、ヴェロニカが女盗賊に撃ち込む!
「わっと!」
盗賊は避けたが、
「食らえ!!」
その隙に距離を詰めたジェシカがグローパンチを打ち込み、盗賊の顔面に直撃させた!
「ぐっ、う!」
「もいっちょ!!」
ワンツーの勢いで二発目を打ち込むが、盗賊は手甲をナイフで払って距離を取る。
「・・・思いの外、痛くはないわね。所詮、非力なエルフはこの程度かしら?」
「あ?バカにすんのも今のうちだぞ、コラァ」
バフ無し一発の威力がないのは俺も把握してるが、そんなにないの?
それはそれとして、
「そいつは任せる!」
「何なら、もう片方もあたしが殴ってもいいんだぜ?」
「欲張るな」
盗賊をジェシカに任せて、俺たちは黒魔術師がいる民家へ。
「ヴェロニカ、さっきのは良かったぞ」
「ん?フレアバレット?」
小さく頷いて返しつつ、
「できるだけ速く、威力があるヤツを撃ったほうがいい」
「そうなの?大きいのを撃ちたくないかな?気持ちいいよ?」
・・・言いたいことは分からなくもないんだが。
「大きく作れるのは良い点、悪い点がある。それを理解した上で使うのならいいんだが」
何にでもメリット、デメリットがある。
もちろん、物によっちゃあ大した差はないだろう。ただ、生死に関わることはそのわずかな差が命取りになる。
炎や水の特性はもちろんだが、今回の話は大きさやスピードの話。
大きくつくることのメリットは、相手を威嚇できることだろう。
自分の体を大きく見せようと、立ち上がって両手を大きく広げる習性がある動物がいる。あれは自分は強い、やってやるぞって相手を威嚇するためにすることだ。それによって相手がビビって逃げれば命拾いができるわけだ。
フレアバレットで大きく火の玉を作ることができれば、大きな威嚇効果はある。それに、発射すれば威力も期待できる。
その分、俺たちは視覚を遮られてしまう。これが大きなデメリットだ。
「相手が何をしようとしているのか、どこにいるのか。これは絶対に必要な情報だ。大きい火の玉を作ってる間に、武器を持って接近してこられたらどうする?」
「・・・気付けばいいけれど、遅れれば攻撃されてしまうね」
そういうところだ。察知が遅れれば、命取りになる。
鬼ごっことか、サバゲ―とか、そういう死ぬことのないゲームだったら別に構わないが、こっちは正真正銘、命の取り合いをしている。
ここは気を付けておかないと、後々痛い目に遭う。
そこで、小さくてもいいから威力のある、スピードのある攻撃、と指定したわけだ。
小さくても威力があれば、相手にきっちりダメージを与えることができる。スピードをつければ相手に当てやすくなる。
大切なことは、相手をよく見て、把握して、攻撃を当てること。
一撃必殺であれば文句はないが、そこまで上手くいくことも少ないだろう。であれば、威力は多少低くても、確実に相手に当ててダメージを与えるほうがいい。
二次被害を生まない・・・って点も大事ではあるが、この村はだいぶ寂れているし、ドンパチして大穴が空いても大したことはないだろう。
「その方法で黒魔術師のほうをやっつければいいんだね」
「そういうこと」
「ハンティングブレード!!」
「グローパンチ!!」
後ろで女二人が殴り合いをしている。
「この女っ!!くたばりなさいよ!!」
「うるせぇよ!!テメェがくたばれ!!」
キャットファイト・・・っていうには荒々し過ぎる気がするが、なかなか激しいな。
とにかく、ジェシカが片方を引き付けてくれているうちに倒す!
「・・・キリ、そろそろ撃つよ」
ヴェロニカが撃てる距離ってことは、相手も同じくらいの距離でもあるはず。
しかも、相手はすでに俺たちを捕捉している。
分はこっちが悪いな。
「よし、早速撃ち込め」
「よぉし、いくよ。左手を前に出してね」
一旦止まって、左手を例の民家に向けると、
「フレアバレットォ!!!」
先ほどと同じ要領で一瞬で火の玉を作り、すぐさま発射!
真っ直ぐ飛んでいき、民家に直撃、爆破した!
「うわあああっ!?」
爆破の勢いで、中から例の黒魔術師が表に飛び出てきた。
「よう、久しぶりだな」
「くそっ、なんて射程距離だ・・・!」
待ち構えていたようだが、ヴェロニカのほうが能力的に上手らしい。その点に関しちゃ、前回で分かったことだったが、ここまで差があるか・・・
「俺は面倒なことが嫌いでな?」
左手で黒魔術師を牽制しつつ、
「このまま降参してくれたらそれでもいい」
本当はそれを望んでいるんだが。
「やるなら容赦しないぞ」
接近戦は俺に分がありそうだし、お得意の魔法はヴェロニカが圧倒している。
戦う先に良い結果はない。それなりに考えられるヤツなら分かる未来。
「さあ、どうす―――」
・・・なんだ?
無数に点灯していた黄色信号の一つが、急に赤に変化した・・・!?
「キリさん?」
「うわああああ!!」
目を向けた先に一件、小屋がある。どこにでもありそうな小屋。
そこから、鉈を持ったおばさんが飛び出してきた。
「キリ!」
赤信号・・・完全に敵対意思を示している。しかも鉈を持って、俺に向かって一直線。
確実に俺を切り倒そうとしている。
でも何で?俺、おたくとは初めましてだよな?
「キリ!!」
おばさんの走る速度は大したことない。
「っぐ」
大したこたないが、やらなきゃやられる!!
「スピードウィップ!!」
右手の鞭を、射程距離に入った瞬間に打ち込んで、おばさんを弾き飛ばした!
「あぐっ」
倒れるおばさん。そして、
「母さん!!」
「・・・はァ?」
母さん・・・こいつの?
「早く逃げな!こいつはあたしが引き付けるから!」
「無茶言うな!」
何だ?この展開・・・
このリアクションからして親子だってことは間違いなさそう。演技だったら最高峰の賞を取れる。
母親だったら、息子を庇うのは分からなくもない。マンガでもドラマでもよくある展開だ。
こいつが何やってるか分かってる感じか?返り討ちに遭いそうだから思わず飛び出してきた感じ?
よく分からない。マジで分からない。
「あんた、どこの誰かは知らないけど、この子を見逃しとくれ!」
「見逃すも何も・・・」
そもそも、俺たちはこいつらに攻撃された側だ。仕返ししに来たみたいな面はあるが、
「俺たちはそこの小悪党に聞きたいことがあるだけだ」
攻撃してこなけりゃ、何もしない。俺は悪党じゃないんだ。
「お前、何で俺を攻撃してきた?あっちのも含めてだが」
「少しでもおかしな真似をしたら撃つからね」
ヴェロニカがうずうずしてそうだが、今はそれどころじゃないな。
「大人しく喋ったほうが利口だぞ。魔法の実力は俺のほうが上だって、嫌でも分かってるだろ?」
「実際はわたしだけどね」
余計なツッコミがうるさい!
「・・・いいだろう。喋ってやる。だから、母さんには手を出すな」
「あんた・・・!」
何でお前が上からなんだよ。なんかおかしいんだよなぁ、この構図。
喋ってくれる何でもいいが・・・
「いいよ、それで。で、何で俺を狙った?そもそもお前ら何者だ?」
目的も大切だが、こいつらが何者かも知っておかないと。
「・・・俺たちは雇われの傭兵だ」
「傭兵?」
ありきたりな答えだな。
「お前を連れてくるように依頼された。そこそこいい金額だったから受けただけで、理由は特に知らない。理由を知る必要はない、とにかく一日でも早く連れて来いって話だった」
詳しい情報を伝える必要はない・・・じゃなく、伝えると色々マズいって感じかもしれないな。
大体、そういう連中がすることの理由なんてろくなもんじゃないし、知ったら消されるってのもお約束だし。
「お前をメリコで見かけて戦った後、ニギに渡ってここへ来た。ここは俺の出身地でね」
「潜伏にはうってつけ・・・ってわけでもなさそうだな」
「ボロの村でも、落ち着ける場所なんでね」
単純に休息目的か。ニギでもどこでも、宿泊するには金が掛かるし、生家があるならそこにって理由も分からなくもない。
「移動手段は?」
「ドードを走らせて、休憩は最小限にした。がんばれば、そんなに時間を掛けずにたどり着ける」
ドッシュだったらもっと早く到着できただろうが、ドードではなぁ。
「・・・で、雇い主は?」
問題はそこだ。そこが知りたい。
「・・・俺も詳しくは知らないが、身なりからしてそこそこいいトコの人間だろうと思うが」
人間か。ヒト族か、はたまた別の種族なのか・・・
「そういえば、いい香りがしたな」
「・・・香り?」
「嗅いだことがない香りだ。香水とかじゃない、もっと別の・・・」
「余計なことを言わないほうがいいと、忠告しませんでしたか?」
ゾッ!!
一気に体を突き抜ける悪寒。
急に発生する黄色信号。
自分の視界の外からの、突然発せられた声。
「そんなに酷くやられたわけではないのに、もう降参ですか」
・・・空中!!
空を見ると、そこにローブを羽織った誰が浮いていた。
何だ、あいつ・・・浮遊持ち?
「・・・誰だ、お前?」
見たところ丸腰だが、ローブで体型が見えないから魔術師と決めかねる。
とりあえず、声色からして男、かつそれなりに歳を食った中年、もしくはもっと上くらいの年齢だってことは分かる。
何だ、こいつ・・・?
「君は随分と有能のようですね」
浮かんでいるそいつは楽しそうに、
「鞭を扱うのも珍しいですが、魔法も扱える。しかも、いくら簡素な家だと言っても、一軒を吹き飛ばせる火力もある」
こいつ、ずっと見てたな?
いつからかは知らないが、最初から見てないと分からない内容をつらつらと・・・
「歳は二十歳になるかならないかくらいでしょうが、いかがです?」
・・・黒魔術師の様子からして、こいつがクライアントで間違いない。かなりビビってる。
なら、やることは大して多くないな。
「そういうあんたは何者だ?」
こいつが何者かを突き止める!!
「キリ、気を付けてね。この人、相当できるよ」
・・・あのヴェロニカが警戒するくらいだ。相当ヤバいってことだけは分かる。
俺もさっきから悪寒が止まらないし、鳥肌がすごい。
物腰が柔らかそうだからって舐めて掛かると痛い目を見るパターンだ、コレ。最悪、ヴェロニカがいるからどうとでもできるかもしれないが、注意はしておかないとな。
「ふぅむ。君はなかなか度胸がありますね。この私を前にして強がってくるとは」
「あんたがどこの誰かも知らないんだ。デカいローブで見た目も分からん。そんな奴にいちいちビビッていられるか」
浮いている位置も、革紐が届かないところ。きっちり計算できていやがる。
「俺に話があるんだろ?だったら下りて来いよ。顔を突き合わして話そうじゃないか?」
「ふぅむ」
「あんたも面倒事は嫌いだろ?俺も嫌いでね。友好的に話を進めたほうが、お互い得だ。上からの眺めは良さそうだが、人間関係を構築するのには良い位置じゃあない」
上から見下ろされて、しかも舐められてるってのはいい気分じゃない。国王とか貴族とか、そういうのは仕方がないだろうが、現段階で素性も分からないヤツにはしないほうがいいだろう。
「何の用事かは知らないが、素直に俺について来て欲しいんだろ?だったら、平和的に解決したほうが得策だぜ?あんたも余計な力、使いたくないだろうが」
「・・・なるほど。君はなかなか考えることができる子のようだ」
・・・少なくとも、下りてくる気はないようだな。
「君が言うように、私も面倒事は嫌いだ。だから、素直について来てほしいと思っていたのだがね」
「・・・俺の話、分かってないようだな?」
「君も私のことを分かっていないようだね」
なんだ?急に空気が重くなった・・・
「私が本気を出せば、君ごとき吹き飛ばすくらい簡単なんだよ」
・・・上のあいつの雰囲気か。
何だろうな。これを的確に言い表すのが結構難しい。
例えるなら、両肩にでかい石を載せられたみたいな感じ?それとも俺の周りだけ重力が狂って重くなる感じ?
・・・なるほど。これが威圧とか、プレッシャーってやつか。
道理で足が震えるわけだ。
俺、こいつにビビってるんだ。
こいつはマズい。何かあったら走れるかな、これ・・・
「キリさん、撤退しますか」
いつもなら意気揚々と魔法を撃ち込もうとするヴェロニカが、撤退を選ぶとは。
「この男、底が知れないんだ。テレパシーでも上手く思考が読めない。何か特殊な訓練を受けたのかもしれないけれど」
ヴェロニカがここまで言うとは・・・
選択を間違えたかな。でも、ついて行ったってどうせろくなことないだろうしなぁ・・・
「よろしい」
両手を叩いた奴は、少しずつ高度を上げて、
「これを避けたら、考えましょう」
右手を掲げる。
一瞬で火の玉が形成された。
「・・・え?」
とんでもない大きさのフレアバレット。
そう、運動会の大玉転がしのアレとかのレベルじゃない、まるでお台場のテレビ局のアレみたいな、とんでもないデカさの。
「避けてみなさい。さすれば、交渉に応じましょう」
「ちょ、チョトマテチョトマテ!!!」
「ほら、いきますよ」
そいつからそれは放たれた。
徐々に落ちてくる火の玉・・・最早、隕石。
「あー、これはちょっとマズいねぇ」
アホかぁ!!!
ちょっとどころで済むかぁ!!!




