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「結構急な出発だったねぇ」

「まあな」


 翌日。

 俺たちはレノトを出発した。


 理由は一つ。怪しいヤツがいたって情報があったからだ。


 武器屋の大将の話によれば、その怪しいってのは男女二人組で、両方とも軽装だったが、女のほうはローブを羽織っていたらしい。

 メリコで襲撃してきた連中と一致している。

 まあ、他にも同じようなスタイルのヤツはいる。珍しい組み合わせでもない。ただ、俺たちはそいつらに心当たりはあるし、ここは当てはめてもいいだろう。

 あいつらは俺を狙ってきていた。確実に何かある。


 ここはあいつらを追ってもいいと思った。


「・・・方向は合ってるよな?」

 ドッシュのコントロールをしながら、マップポーチを開く。

「・・・よし、間違ってない」


 俺たちが目指しているのはクーピ村っていう、小さい村だ。


 レノトの西方向、約二十キロくらいの位置にある。

 そっちから例の二人が来たらしい。


 *


「クーピから来たというのであれば・・・今から行ってもいないのでは?」

 そういう情報を得たことを、マーベルさんにも話したが、もっともな返答をいただいた。

「メリコから逃げるのであれば、選択肢は多いです」

 マーベルさんは地図を広げ、

「隣にニギ、南下すれば首都です。人混みに紛れるなら、ニギと首都が妥当でしょう」

「北上すればここに着くけれど、ここには居なかったねぇ」

「となれば、ニギ、首都が妥当・・・彼らを追うなら、メリコに戻って、二ヶ所を探すほうがいいのではないでしょうか?」

 人混みに紛れるなら、それがベターな選択肢か。

「そもそも、あの人たちを追ってもしょうがない気がしなくもないけれどねぇ」

 ヴェロニカの直感では、あいつらは親ではないって話だ。女のほうの声の質感が違ったらしい。

「言いたいことは分かる。分かるけど、手掛かりがない今は、そこに賭けるのも一手かな・・・と俺は思う」

 ヴェロニカじゃなく俺を狙っていることが理解できないが、それを含めて、何かの目的があって襲撃したはず。

 捕まえて締め上げれば、何か出てくるかもしれない。

 可能性の話だし、言い始めたら何もできない。わずかな可能性でも、何かが分かるなら追ってみてもいいんじゃないか?

「そいつらが親じゃなくても、そこに繋がってるかもしれないだろ」

「・・・まあ、可能性がないわけではないね。ほんのわずかくらいだろうけれど」

「それでも調べてみないと、始まらない」

 ただでさえ、移動だけで時間を食う世界だ。こうしている間にも、連中はどこかに行ってしまう。

「仮に」

 地図を見つめ、

「クーピ村が拠点だとしたら・・・どうだろう?」

 地図に表記されている町や村の距離からして、直線距離ではメリコからレノト、メリコからクーピ村はよく似た距離だ。

 もちろん、多少の誤差はあるが、ドッシュを使えば二日で行けるはず。

 レノトとニギにも行きやすい位置にあるし、どっちからでもメリコへアクセスできる。そこを経由して首都へ南下するのも無理はない。

 だとすると、拠点っていう考え方もできなくもないんじゃないか?

「・・・なるほど。そういう考え方もできますね」

「・・・決まりだ」


 *


 ということで、ドッシュを走らせてクーピ村に向かっているわけだ。


 ドッシュなら、早ければ昼過ぎくらいか、夕方には着くだろう。

 推測が正しかった場合、もう一回連中と戦うことになるかもしれないが、今回はヴェロニカを連れてきている。前回と同じ方法で戦うこともできる。

 それに、武器も新調した。

 情報を教えてくれた礼と、強化までの繋ぎにもう少し上のクラスのハイウィップを購入した。相変わらず革製だが、ミドルウィップよりもしなやかで強靭な特性があるらしい。これでもう少しまともに戦うこともできる・・・かもしれない。

 それに・・・

「なあ、そいつらに会ったら殴っていいんだよな?な?」


 ・・・何故かジェシカがくっ付いてきていた。


「・・・なんであの子まで来てるんだろうねぇ?」

「どうしてでしょうねぇ・・・」

 早朝、ドッシュを取りに獣舎に向かおうと宿屋を出たすぐにジェシカに遭遇した。

 待ち合わせをしていたわけじゃない。実際、武器屋までしか一緒にいなかった。

 だけど、まるで今来たとこだけど、みたいなノリで宿屋の玄関にいたわけだ・・・

「とりあえず、物を取り返すまで殴っていいんだよな?な?」

「・・・それはそれで別にいいけど、何で俺たちと来てるんだよ?」

 嫌とかダメとかじゃなく、その理由を知りたいわけなんだが、

「・・・別にいいだろ」

「良くはねぇよ?」

 問題がないわけじゃない。どうしても付いて行くと言って譲らなかった。

 また表で騒ぎを起こすのも嫌だし、朝っぱらからしょうもないことでやり取りしたくもないし、言い出したら聞かない性格ってことは分かってるし・・・

 とりあえず、同行することはいいとしたものの、急ぎになるからドッシュを使わざるを得ない。

 マーベルさんのためにレンタルしていたドッシュだったが、ジェシカに貸し出すことになった。

「怒ってはいなかったからまだいいけれどねぇ」

 もうあと一日、二日すればゴブリンと蛇の解体が終わる。

 素材の引き取りとキースたちとの売買交渉のためにマーベルさんは残ったが、終わり次第ノーボの町に向かって出発する計画になっている。

 ノーボに向かう足は集団移動か、ドードをレンタルするかのどっちかになる。

 ヴェロニカにテレパシーで状況を伝えたところ、すぐに了承していたようだが、内心どう思っているのかは分からない。怒ってはいなかったらしいが、本当のところはどうなんだろうなぁ。

 まあ、それはそれとして、あの人なら集団移動を使って移動することは慣れているだろうし、やることは明確にしているし迷いはしないだろう。

 俺たちは目の前のことを解決しないといけないし、マーベルさんはマーベルさんで判断して行動してもらおう。

「・・・利点がないわけでもないし、な」

 火力がない点を除けば、ジェシカは前衛としては優秀だ。

 それに、仮にメリコでやり合った連中と再戦となった場合、実質三対二で数的優位にできる。

 ジェシカにはヴェロニカと連携して戦う様は見せちゃいないが、あまり疑問に思わず戦ってくれるだろう。あいつは殴ることができればそれでいいんだから。

「・・・なんか悪いこと考えたか?お?」

「別に何も」

 ・・・だから、なんでそういうところの勘はイイんだ?

 そういうのをもう少し別のほうに配分できんのか?

「なあ、そういえばあまり聞けてなかったけど、歳はいくつなんだ?」

 道中、殴る、殴らないの話ばっかりはしんどい。他愛のない話でもして話題を変えていかないと。

「あたしは十六だけど」

「あっ、そうなん?」

 ・・・まさかの同い年。

「あんたは?」

「同い年だよ」

「ああ、そうなのかい。そこまで歳は離れてないとは思ってたけど、まさか同い年とはな」

 若いだろうし、二十歳そこそこなんだろうと思ってはいた。思いの外若かったな。

 見た目が超絶キレイだからな。この様子だと歳食ってもキレイだろうな。

 ・・・脳筋でなければもっとイイんだが。

「なんか言ったか?」

「あ?俺何か言った?」

 こいつ勘良すぎだろ。まさかテレパシー持ちか?

 いや、だったらもっと的確のはず。こいつの天性の勘・・・いや、女の勘か?まあ、どっちでもいいが。

「ちょっと気になることがあるんだけどさ」

「なんだよ?」

「エルフってどれくらい生きられるんだ?」


 エルフは長寿命の種族。それはファンタジーの常識だろう。


 いつから、どういう理由でそういう設定になっているのか分からないが、大抵は千年とかざらに生きるイメージだ。

 それに男女関わらず美形で、多少の好みはあっても、誰が見ても美しいと口を揃えて言うくらいのはず。

 ジェシカもヒーラーではあるはずだが、治癒魔法とか、ここの世界で言うところの属性魔法とか、弓が得意な種族でもあるはず。例外はいるようだが。

 俺の常識がここのエルフの常識とどこまで一緒なのか、移動中は暇だし、確かめてみてもいいと思ったわけだ。

「そんなこと知ってどうすんだよ?てか、そんなことも知らないのか?」

「いいだろ、別に」

 どうせいつかはサヨナラする相手だし、俺が異世界人だってことは伝えてない。このやり取りも適当に済ませておけばいい。

「あたしもそこまで詳しくはないが、平均して八十くらいじゃないか?」

「・・・え?そうなのか?」

 八十歳くらいしか生きられないのか?

「男女の差とか個人差はあるだろうが・・・たぶん、そんくらいだろ。うちのババアは今年で八十歳くらいだし」

「・・・千年も生きられないのか」

「そんなわけないだろ。そんなに生きたら化物だぞ」

 そりゃあまあ、平均八十歳くらいの生命からしたら、千年も生きれば化物と評するのも分かるが。

 そうか。こっちのエルフの常識は、地球のファンタジーのそれと一緒じゃあないのか。

「大体、千年も生きてどうするんだよ?仮にヒト族と結婚したら、旦那のほうが先に死んで、それどころか子供もあたしより死ぬのが早いんだろ?嫌だろ、それは」

 そういう概念はあるのか・・・

 地球だとそういうのを理解した上で一緒になる・・・ってケースが多い気はするが、こっちはそういうことを考えなくてもいいから、異種族間結婚も楽だな。

「エルフはヒト族と結婚する場合もあるのか?」

「あ?なくはないけど、少数派だろうな」

 異種族間結婚も有り得る。有り得るが、そこまで多くはない・・・ってイメージ?

「そこは当人たちの問題だろ。あたしだって好きなヤツがヒト族なら、別に気にせず結婚するぞ」

 最終的に当人次第か。

「・・・っていうか何だ?もしかしてあたしと結婚したいのか?」

「・・・そうなのかい?」

「・・・え」

 横を走っているドッシュに跨るジェシカの表情が険しくなった。

「おい、冗談はよせよ?あたしにだって選ぶ権利はあるからな?」

「さすがにああいう人はやめたほうがいいと思うんだよねぇ。お母さん心配しちゃう」

 ・・・無茶苦茶言われるなぁ。

 ってか、そこまで嫌がらなくても良くない?俺、そんなにダメですか?

 内一人はちょっと違う視点から見てるし。

「いや、チョトマテチョトマテ。いつ俺がお前と付き合いたいとか言ったんだよ?」

「突き合う?なんだ、殴り合いたいのか?」

「ああ、うん。ツキが違うな、ツキが」


 スゲェめんどくせぇじゃねぇか、こいつ!!!


 とにかく殴ることしか考えてねぇ!

 何で付き合うが突き合うになるんだよ!どんだけ殴りたいんだよ!

 お前、一応歳相応の女子だよな?だったら男とイチャつきたいとか考えないのか?

 こいつに合う男がいるとは思えないが・・・それはそれとして、殴る以外のことを考えたほうがいいぞ。将来的に・・・いや、目の前の現実をしっかり見ろ。

「キリヤ、お母さんは反対だよ?」

 背負ってる赤ん坊も面倒だな。どういうキャラなんだよ・・・

「・・・ああ、俺が悪かった。すまんすまん、忘れとくれ」

「冗談は顔だけにしときなよ?」

 これ以上言うと面倒になるのは分かってる。何を言われても謝ることにしよう。

「いるんだよなぁ。エルフが美形揃いだからって口説いてくるヒト族とか、他種族。ああいうのは本当に迷惑なんだよ」

 そういうのもいるのか?だったらまあ、それはそれだろ。自分たちが相手にしなけりゃいい。

 でも、それを言うと面倒になるのは分かっている。ここは何も言わずに受け止めよう。

 マジでめんどくせぇ。俺が悪いわけでもないのに・・・

「・・・ちょっと休憩するか」

 とにかく話題を切りたい。コーヒーを飲んで気持ちを切り替えたい。

「おー、やるかぁ!」

「やるわけねぇだろバカ」

 ジェシカが指の関節をパキパキと鳴らしているが、そんなことはどうでもいい。

「キリも苦労するねぇ」

「いや、お前も一緒になって俺をいじるのをやめろ。な?」

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