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 パラライズバイパー討伐の次の日。


 キースたちと待ち合わせた俺は、朝一で協会に向かって、討伐報告と解体を依頼。

 工場ではまた大物だと盛り上がった。

 パラライズバイパー自体、個体数は少なくないものの、討伐に複数人必要だってことで、主に軍隊・・・ボルドウィン周辺で言うところの、国お抱えの軍隊が対応することがほとんどらしく、俺たちみたいな一般人が狩ってくることは珍しいらしい。

 首都ならまだしも、少し外れた町だと解体する機会はあまりないって話だ。


 とりあえず、手こずったものの、討伐自体は終わっているわけだし、クエストの報酬金を受け取れた。

 一頭当たり二十八万フォドルだったらしく、相当な金額だ。

 それを四等分して、俺の手元に七万フォドル。ちょっとした生活費になった。


 なったけど・・・やっぱり割に合わないな。


 俺、ジェシカがいなきゃ死んでたかもしれないのにな。

 それなのに日当七万ってのは割に合わない。

 もっと上手い狩り方があるのか、それともスキルやパーティ編成で簡単に狩れるのか分からないが、やるならそれ相応の対策をしておかないと大損だ。

 治療費が掛かるだけならまだしも、死ぬのは笑えない。


 なんか、トカゲやらクモやらの時も同じことを思ったような気がするが、毎回思えるくらい重い課題なんだよなぁ、これ。

 こっちの世界の所謂冒険者ってのは、割に合わないって思わないもんなのか?

 まあ、一定数いるからあまり思われてないのかもしれないが、やっぱり納得いかない。


「では、今日は商売をしてきます。この子をお願いしますね」

「あいよ」

 協会に同行していたマーベルさんは、解体の依頼を終わらせた後に単独行動となった。

 まあ、俺が一緒にいたところで何ができるわけでもないし、経験上一人がいいっていうならそれが一番いいだろう。

 俺個人としても、少し息抜きができるっていう一面もある。知られたら怖そうだから言わないが。

「さて、と」

 どうしたもんか。

 とりあえず、調査をすることはするんだが、どういう方向性で始めたらいいか考えないと。

 マーベルさんは行商仲間やら商売ルートになる。なら、俺はそこを外さないといけないわけだが。

「みんなはどうするんだ?」

 参考にはならないだろうが、一応、話を振ってみる。

「俺は武器屋に行ってみる」

「ああ、例の骨の剣か」

 そっちはそっちで興味はあるんだが、ここは一旦ステイ。

「私はクエストを見てこようかしら。しばらく分の滞在費を稼がないと」

 リオーネはレノトにしばらく滞在するようだが、その理由を聞いてなかったな。

「あたしも武器屋だな」

 ジェシカはある意味、キースよりも早くなんとかしないといけないレベル。さっさと行け。マジで。

「そういえばみんな、何でレノトに滞在してるんだ?」

 ここに何かあるんだろうか?それにしてはあまり人通りは多くないが・・・

「いや、俺は一応傭兵稼業だからな。旅の途中でただ立ち寄っただけだよ」

「私も同じ。まあ、修行の一面もあるけど」

「あたしも一緒だ」


 ・・・つまりはここにいるほぼ全員が傭兵稼業なのか?


 ここの世界観がとんでもなく荒廃しているような気がするのは俺だけなんだろうか?

 いや、ちょっと考え方を考えればそういうもんなのか?

 ゲームの勇者とかって、モンスターを倒して経験値とお金を稼ぐのが基本で、別に働いているわけじゃない。職業を言い表すなら傭兵に近しい。人によっちゃあニートって言うやつもいそうだ。

 固定の仕事があるわけでもなく、モンスターを狩って生計を立てている以上、傭兵っていう言い方が正しいのかもしれない。

「・・・じゃあ、ここ以外の土地にも行ったことがあるよな?」

「おお、まあ、そんなにたくさん回ったわけじゃないけどな」

「じゃあ、怪しい夫婦を見なかったか?」

 旅をしているっていうなら、俺たちとは違う道を歩いてきているはず。

「怪しい夫婦?どんな?」

「歳は大体四十いくかいかないかくらいで、人目を避けるように移動しているはずなんだ。ワケ有りって言えばいいのかな」

「ワケ有りって、何やったんだよ」

「相方から商品を奪ってとんずらこいたヤツでな」

 一応、みんなには俺とマーベルさんが夫婦ってことで通ってるし、ヴェロニカが誰かの子供っていう話にするのは今更面倒。

「君は適当な理由を言うのが上手いねぇ」

 そう、適当な理由でいい。なにせ、俺たちも正体が分からない相手を追っているんだ。何かしらに引っ掛かればそれでいい。

「どういう風貌なんだ?」

「俺が最後に見た時はボロを着ていたけど、今はどうか分からん」

 着替える可能性もあるし、この辺りは適当なんだが・・・

「うーん、前にいた町にはいなかったかなぁ」

「それはどこの町?」

「ノーボよ。ボルドウィン共和国最北の町になるわ」

 マップポーチを開けて、位置を確認してみる。

 ノーボはボルドウィン共和国の最北端で、その上のシルフィ王国ってところの国境際にあるらしい。

 となれば、シルフィ王国には訳アリ夫婦はいないってことになるが、リオーネ一人だけの情報で決めつけられない。もしかすると、かなり離れたところに逃げているかもしれないし。

「私はシルフィ王国の首都出身なんだけど、泥棒くらいなら割といるような気がするなぁ。重い罪を犯した人はそんなに多くないと思うけど・・・」

 シルフィってところはボルドウィンと一緒で、治安がいいほうなのか?

 だったらそうなるのも頷けるけども。

「クッパルって村を知ってるか?ニギから西にある村で、俺はそこの出身なんだけど、クッパルにはそう悪い奴はいない。村が小さいから、何かやらかしたらすぐ分かるし、悪いことしようとも思わねぇよ」

 ニギには行かなかったが、更に西に村があるのか。

 言動がすぐに知れ渡るくらいだから、村の規模も相当小さいし、住民の数も少ないんだろう。

 だったら、余所者が来たら分かるし、それが怪しいならすぐに察知できるはず。

 ノーボやらシルフィ首都ならともかく、クッパルは問題なさそうだな。

「途中でニギとメリコを通ってきたけど、怪しいヤツってのはいなかったような気がするな。あまり意識して見てないから、見逃しているかもしれないけど」

「それは仕方ないよな」

 まず、怪しいヤツを探して周囲を観察なんか、普通はしない。

 それに加えて、こっちは全ての情報を開示していないわけだし、思い当たる節があれば奇跡みたいなもんだろう。

「ジェシカはどうだ?お前さん、どこの出身だよ?」

 キースに話を振られたジェシカは、

「・・・ベルーシュだよ」

 明らかに不機嫌な顔をしていた。

「ベルーシュっていうと」

 地図を見てみるが、シルフィ王国の最北端にその名前があった。

 ノーラ大陸の北から、大陸中央まで縦断してきてるのか。

「えらく遠くから来たんだな。こっちに何かあるのか?」

「別にいいだろ。あんたたちには関係ない」

 ・・・何かワケ有りか?それとも目的無し?

 この感じだと前者なんだろうが、掘っても掘れなさそうだ。

 それに、一時的に協力関係になってるだけで、ここで別れる相手を深掘りする必要もない。放っておこう。

「うーん、無さそうかなぁ」

 となれば、やっぱり自分たちの足で稼ぐしかないか。刑事ものの見過ぎかな、こりゃ。

「悪いな、役に立てなくて」

「私も」

「いや、気にしないでくれ。こんなこと尋ねられてすぐに思い当たるほうがおかしい」

 キースとリオーネの情報だけじゃどうしようもないし、レノトでやることが終わったら移動再開だな。ゴブリン連中と大蛇の解体が終わったらすぐに発つか。

 しばらく分の食料を見て買っとく必要があるな。

「さて、武器屋にでも行くか」

「そうだったな。引き留めて悪かった」

「別にいいさ。どうせ、しばらくここで足止めだ」

 大蛇が追加されたから、最短で二日か、三日か・・・

 俺たちも動けないし、情報収集もボチボチするけど、

「なあ、俺も行ってみていいか?」

「おお、いいぜ」

「私も暇だし、一緒に行ってみようかしら」

 話が一段落したところで、全員で武器屋に行ってみることになった。

「リオーネも武器が必要なのか?」

「ううん、私は特に。暇だし、何かいい物がないか見てみようかなーって。キリヤくんは?」

「ちょっと鞭の革紐が切れるかもしれないから、どうにかならんかなと思って」


 メリコで戦った黒魔術師と盗賊の男女ペア。

 あの一戦で革紐が少し千切れてしまっていた。


 盗賊の女をしばこうと攻撃した際、ナイフで払われてしまったんだが、たぶんその時に傷がついたんだろう。そのままゴブリンと蛇を相手にして、耐久力が落ちた可能性がある。

 まあ、ゴブリンはともかく、蛇は鱗もあったし、大なり小なり摩耗するよなぁ。よく千切れずに持ち堪えてくれたもんだ。

 金属でも疲労はするし、革もすり減る。こういうのも消耗品扱いになるかな。

 ゲームだったらずっと使えるのに。

「それって初心者用の少し上のランクなんだろ?よくそれでやってこれたなぁ。まあ、俺も他人のこと言えないけどよ」

 キースも中の下くらいの剣だとか言ってたし、よく似たもんかな?

「これからもモンスターを相手に戦うなら、武器と防具はしっかり整えないとね」

 俺はあまり戦うつもりはないんだけど、避けられないよなぁ・・・

「キリ、報酬金もあるし、良い物があれば買い替えたほうがいいかもね。少なくとも、現実的に戦えるのはキリだけだし」

 ・・・そう言われてみればそうか。

 ヴェロニカが圧倒的な火力を発揮できるとは言っても、赤ん坊の姿のままだと攻撃できない。

 マーベルさんは戦えるかどうか不明。護身用にナイフはある・・・とかは言っていた気がするが、実際に戦えるかってなると、たぶんダメ。

 火力不足はヴェロニカとの連携でどうにかできるかもしれないが、やっぱり俺が矢面に立つことになるんだよなぁ・・・

 やっぱり、ミドルウィップからもう少し良い鞭に交換したほうがいいのかなぁ。

「おう、いらっしゃい」

 考えているうちに、武器屋に着いてしまった。

 スキンヘッドの、いかにもって感じのオヤジが大将みたいだ。

「骨の剣が欲しいんだけど、ここで作れます?」

「おう、あんちゃんは剣士か。物によるが、作れるぞ」

「ということは、このおじさんはクラフターでもあるようだねぇ」

 武器屋であって、武器も作れる。商売人ではなくて、クラフターのほうが正しいのかもしれない。

「素材は何だ?」

「ボスゴブリンの大骨と、パラライズバイパーの鱗と牙、骨とかです。量はまだ分からないけど」

「おー、この前の大量発生の素材だな。量と質によるが、作れるだろう。麻痺属性になるが、それでもいいか?」

 キースは二つ返事で了承していて、

「じゃあ、刃渡りとかを聞いておこうか。事前にある程度の設計ができる。どれくらいがいい?」

「程ほどの長さでいいですね。ちょうどこれくらいが慣れてて使いやすくて」

 パラライズバイパーの素材を使うから麻痺属性が付くってことか?

 素材次第だが、属性が付けられるってのはメリットがでかいな。どれくらいの効果が期待できるかにもよるんだろうが、無いより有るほうがいい。

「キリの鞭にも同じことができるかもしれないね」

 ・・・そういえば、俺たちの手持ちの素材に同じような物があったな。

「よし、大体分かった。できるように準備はしておく」

「頼んます」

 キースの剣が一段落したところで、

「ところで、合成ってできます?」

「おお、あんちゃんも用があんのかい。だが、俺は合成はやってねぇんだ。他を当たってくれるか」

 残念。ここでは合成はできないか。

「知り合いに合成スキル持ちがいるから、そいつのところに行ってみたらどうだ?隣町のノーボにいる。そう遠くないし、よかったら訪ねてくれや」

「ほおー。なるほど」

 隣町なら、立ち寄ることもできる。というより、調査で寄るだろう。

 そこの武器屋を訪ねてみるか。

「手甲は売ってるか?」

「お、おう、お嬢ちゃんもかい。あるぜ。見てけ見てけ」

 ジェシカはキースみたいに武器を作るってことはしないのか?

 せっかく蛇の素材が手に入ったわけだし、活かした武器を作ったほうが旨味があると思うんだが。

「まあ、人それぞれだよねぇ」

 正にそれだな。

 武器の質感とメリットを追い求めるヤツもいれば、単純に使えればいいってヤツもいる。考え方とか趣味がよく分かるな。

 ジェシカは脳筋だな。これまでの言動を含めると断言できる。

「あ?何だよ?」

「別に何も」

 何でそういう勘だけはいいんだ、こいつ。

「この町も見慣れない連中が増えたな」

 なんだ?いきなり世間話か?

 もうジェシカしか用が無いし、当の本人はどれがいいかで悩んでるし、暇なんだな?

「大量発生の後処理が終わったら元通りになるのでは?」

「普通の冒険者だけならそうだろうが、そうじゃないのもいたみたいでな」


 ・・・そうじゃない、普通じゃないヤツ?


「大将」

 キースを押し退けて、

「その話、もっと詳しく」

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