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 レノト滞在二日目。


 初日は大量発生クエストの件があったり、頭がおかしい連中の相手をしたりと、なんやかんやあって何もできなかった。

 まあ、時間はあってもあれだけの揉め事の後は何もする気なんか起こらないけどな。


 で、とりあえず朝一。

 宿屋が用意してくれていた朝飯を食べて身支度を整えた俺たちは、町へ繰り出した。

 ヴェロニカの調査もしないといけないが、とりあえずさっさと悩みの種を解決しておきたい。


「おー、いたいたァ」

 人が集まりそうなところをぶらぶらしていくと、朝市の屋台で食事中のキースとリオーネを見つけた。

 二人一緒で探す手間が省けて大助かりだ。

「おう、キリヤ」

「おはよう。協会に行くの?」

「まあな。でも、飯食ってる途中だろ?俺たちは適当に時間潰してるから、ゆっくり食ってくれよ」

「いや、もう終わったよ。行くか」

 二人はそれぞれ会計を終わらせて、席を立った。

「昨日は世話になったな」

「それは俺たちも言えることだろ。助けてもらったし」

 キースもリオーネも、割と話が分かるタイプだった。でなきゃ、いきなり飛び込みで来たヤツの指示なんか聞き入れないだろうし。

 そういえば、そういうヤツがいたなぁ。ボスゴブリンにぶん殴られてたけど、あれからどうなったんだろう?さすがに死んじゃいないとは思うが・・・

「それはそうと」

「どうした?」

「キリヤくん、奥さんと子供いたんだね」

 ・・・その話、ここでもするぅ?

「しかも、結構美人っていう」

 マーベルさんとヴェロニカを置いてくりゃよかった。このテのやり取りはもうやりたくない。

 ただ、前者はボスゴブリンの解体や討伐報酬の件でやる気になっていたし、後者はとりあえず散歩に連れ出さないといけないしで、連れて来ないわけにはいかない。

 となれば、自然とこういう話になるし・・・

 ああ、めんどくせぇ!!!

「お上手ですわ。妻のマーベルと娘のフェリーチェです」

「あうあう」

「赤ちゃん可愛い~!」

 ・・・中身はだいぶヤバいけどな。

 知ったら驚くだろうなぁ。この赤ん坊の姿をした自称十八歳が、ランドリザードを瞬殺する火力の魔法を撃てるって知ったら。

 こういう状況になったら毎度思うけど、知らないって強いなぁ。

「で?奥さんと子供の自慢をしたくて一緒に来たのか?」

「嫌味を言うな」

 俺もできたら離れたいんだよ。一緒に旅することは百歩譲っていいとしても、こういう場に連れてくるのは本当にやめたい。

「わはは、冗談だよ」

「ボスゴブリンの件で取り分を相談しなくちゃいけないだろ?できれば、使える素材があればウチで引き取りたくてな」

「私は商人をしておりまして。素材は一つでも多く確保しておきたいのです。ご協力いただければ別の商品をお安くさせていただきますので、どうかよろしくお願いします」

 素晴らしく外面がいいなぁ。もうここまで来るといっそ清々しい。

「解体後の素材の件もあるし、その話は協会でしようか。どうせ、解体もすぐには終わらないし、こんなところでする話でもないしな」

「まあ、そりゃそうだな」

「落ち着いて話もしたいしね」


 *


「・・・どこが落ち着けるんだよ、コレェ・・・」

「おーおー、ようやっと来たか」

 協会まで軽く後悔した。


 昨日のエルフ女が玄関で仁王立ちしていた。


「おー、昨日盛大に吹っ飛ばされてたヒーラーの」

 キースは全く悪気はないんだが、

「誰がヒーラーだ。あたしは戦士だよ」

「・・・そうなん?」

「う、ううん・・・」

 ・・・どうやらそうらしい。

「ヒーラーじゃないんだね・・・」

 やっぱり、世間的にもエルフはヒーラーっていうイメージなんだろうなぁ。先入観ってのもあるんだろうが・・・

「うるさいね。あたしのことはどうでもいいんだよ」

「わたしたちは君のことがどうでもいいのだけれどねぇ」

 ヴェロニカに同意する。心からどうでもいい。

「余計なことしやがって。あのゴブリンはあたしがブッ倒すはずだったんだ」

 このやり取り、昨日もしたよな?

「いや、まあ、でも、さあ」

 キースが言い辛そうにしているが、

「あんた一人じゃ・・・どうしようもなかったろ?」

 そんなことを言ってしまう。

 すると、

「どうしようもねぇことねぇよ!!」


 ・・・ああ、始まった。


「あとちょっとで倒せたんだ!!一人でもやれたんだぞ!!」

 すげぇ声量だなぁ。元気だなぁ。

「あとちょっとだったかぁ?アレ・・・」

「まだまだ元気だったよねぇ・・・?」

 そういえば、二人は昨日の騒動を知らないのか・・・

 これは面倒事になるぞ。

「ワクワク!」

 ・・・こっちも平常運転だな。最悪吹っ飛ばせば済むとか思ってるんだろうなぁ。

「リオーネが魔法を撃ち込んでやっと致命傷だったもんなぁ。俺とキリヤの攻撃だけだったら、もうあと何発入れなきゃいけなかったんだろうな?」

「・・・少なくとも数十発以上は入れなきゃダメだろ、アレは・・・」

 俺の攻撃なんか大したもんじゃなかった。

 たぶん、俺とリオーネ抜きで倒すとしたら、キースがクラッシュソードを二十発以上は入れないと倒れちゃくれないぞ。


 そういえば、俺も新しいスキルを習得しないといけないなぁ。


 今の今まで忘れちゃいたが、ランドリザードとポイズンスパイダー討伐の精算時にスキルポイントが加算された。

 すっからかんだったポイントが復活したとなれば、新しいスキルを覚えられる。

 スピードウィップを覚えたから、しばらくはそれだけでやっていけるって思ってたんだが、やっぱり俺だけだと火力不足ってのは免れないらしい。俺の攻撃力が低いのか、そもそも鞭の攻撃力が低いのか、どっちもあるのか分からんが、このまま強敵と出くわし続けたらさすがにしんどい。

 鞭もそうだし、今度はナイフのほうも覚えていったほうがいいかなぁ、なんて思いもある。

 また死ぬ思いをする前に、さっさと向き合っておこう。

 ・・・ボスゴブリンの前にやっとけよって話になるんだろうが、未だに危機感が薄い。ホント、しっかり改めていかないと、次は生き残れるか分からんな。

「そもそも、俺たちが到着する前にも他の連中もいたろ?まあ、吹っ飛ばされて戦力外になっちゃいたが、そいつらが食らわせたダメージもあるんじゃねぇの?」

「あんなもん、ほとんど効いちゃいねぇよ!!まだテメェのへっぽこ攻撃のほうが効いてら!!」

「褒められてんのか、けなされてんのか、どっち?これ?」

 俺もよく分からんが、感じとしちゃ前者でいいと思う。

 いいとは思うが、素直に喜べないやつだよな。

「じゃあ、どうしたらよかったの?私たちが手出ししなければそれでよかったの?」

 キースで手に負えないと思ったのか、リオーネが論争に加わった。

「そう言ってんだろ!!」

「なるほどね。だったら、あなたたぶん死んでたわよ」

「はあ!?んなわけないだろ!!」

 そうなんですか?リオーネさん。

「そうかしら?だって、私が魔法を撃ち込んだ頃にはあなた、気絶してたでしょ?」

 ・・・そういえばこちらの方、最後は気絶してましたね。

「う、そ、れは・・・」

「私のおかげで命拾いしたって言いたいわけじゃないけど、あなただけで殴り続けていても、長期戦になって体力が尽きるのが目に見えたでしょ」

「いやっ、それは、う」

 痛いところを突かれてしどろもどろになっとる・・・

「体力が尽きたらあとは殴られてグチャグチャになって終わりかな?」

 確かに、シャインアローが無ければ長期戦は覚悟しないといけなかった。となると、俺たち前衛で始末をつけないといけないわけだが、そうなると体力が尽きるほうが早いだろう。

 いくら速攻で元気になれるとは言っても、気絶した結果を見ると、ボスゴブリンと違ってこの子は無尽蔵の体力ってわけじゃないはず。

 体力が尽きたら、あの持ってた丸太でタコ殴りになれて・・・まあ、言わずもがなだわな。

 こう言っちゃあなんだが、助けてやったんだって言われても、文句言えないよなぁ。

「それでもよかったならごめんなさいね。余計な手出しをしちゃって」

「リオーネ・・・強くない?」

「うん、強いな・・・」

 なんだろう。白魔術師だからなのか、頭がいいからなのか、リオーネが強く思えて仕方がない。

「まあ、正論ですね」

「気絶しちゃったら言い返せないよねぇ」

 うちの女性陣も強いなぁ。

 こうなったら頭がいいとかより、女性が強いっていう感じになってくるか?いや、ケースバイケースだろうし、絶対的にそうではないかもしれないが・・・

「じゃあ、そういうことで終わりね。みんな、行こう」

 

 ・・・ハイ、リオーネの勝ち。


「い、いや、話まだ終わってねぇけど!?」

「いや、これ以上やってもあんたが苦しくなるだけだ。やめとけ」

「ああ!?」

 これ以上のやり取りは面倒だし、時間の無駄。これ以上やり合っても勝ち目がないのは目に見えてる。

 とりあえず適当にあしらって、俺たちは協会の中へ。

「おはようございます。レノト支店です。本日はどのようなご相談でしょう?」

 ここの協会は割とさっぱりしてるな。本当に簡易というか、首都やらメリコほど建屋が豪華じゃない。

 人員も最低限で回しているのか、目に見えるだけで五人だけ。

 昨日、頭の悪い四人組とエルフ女を連行していった人員は非常勤、もしくは解体現場のスタッフなのか?

「俺は昨日の緊急クエストに参加したんですが、その報酬金の受け取りと、モンスターの解体を依頼したくて」

「それはそれは。お世話になりました。他の方々は?」

「俺たちも似たようなもんだ」

「・・・そちらの方は?」

 そちらの方?

 受付嬢の視線が俺の後ろに向いていたから振り向くと、

「あたしも報酬金の受け取りだよ」

 ・・・いたのか。

「はあ・・・かしこまりました」

 そりゃあ、気絶して病院に直行して、宿屋で騒動を起こして協会に連行されて・・・お金を受け取る暇はないよなぁ。

 そしてこのお姉さんの深いため息・・・だいぶ苦労したな?分かるよぉ。分かる。

「では、皆様の成果を確認させてくださいませ。パスポートのご提示をお願いします」

 俺たちはそれぞれパスポートを手渡し、

「確認させていただきます」

 受付嬢が手続きを始める。

「・・・なんか疲れたな」

「・・・そうね」

 二人とも、軽く騒動に巻き込まれたもんなぁ。そりゃ疲れるよなぁ。

 俺も疲れはしたんだが、ヴェロニカとマーベルさんで慣れたのもあって軽症だろうか。

 まあ、こんなモン、慣れるもんじゃないけどな・・・

「・・・確認が終わりました。工場へお願いします」

 全員で工場へ行くと、お姉さんは俺のパスポートを操作してボスゴブリンとレッドゴブリンの遺体を現場に転送させた。

 続けてキース、リオーネ、エルフ女の分を転送。

「お、おお・・・ボスゴブリンだ」

「これ解体するの久しぶりだなぁ」

 個体数が少ないってだけあって、現場スタッフもボスゴブリンには驚いている。俺はゴブリンっていう生き物の存在自体に驚かされたが。

「まずレッドゴブリンですが、キリヤ様は七匹、キース様が十五匹、リオーネ様が十三匹、ジェシカ様が四匹ですね」


 あのエルフっ子・・・ジェシカっていうのか。


 名前を伝えてさえいなかったな。そりゃあ、協力を依頼しても門前払いだったし、宿屋でもここでもすぐさま言い争いになったし、そんなやり取りできるわけがないんだが。

 それにしても、

「四匹って少なくないか?」

「ああ!?」

「あなた、私たちと同じで最初から参加していたわよね?キリヤくんが少ないのは分かるけれど」

 途中参加の俺にすら負けるってことは、それなりの理由があるだろう。

 そういえば、頭のネジが何本か無くなっている四人組の剣士・・・あいつ、ジェシカが普通の倍以上の手数を打っていることを指摘してたな。

 俺が上手くできれば三発、四発のところを倍以上の打撃を必要とするってことは、単純に攻撃力が低いってことか?

 その割に回復力は高い、と。


 ・・・バランス、悪すぎない?


「それでこのボスゴブリンですが、どのように致します?」

 四人いるから、解体後の素材をどう分配するんだってことな。

「だったら、私が要らないから、三人で分けたらどうかしら」

 リオーネがそういうことを言い出し、

「はい?」

「だって、私が余計なことをしたわけだし、三人で分けるのが妥当かなと思ってね」

「いやいやいやいや、そういうわけにいかないだろ」

 ジェシカが余計なことを言ったし、バチバチになった影響はあるんだろうが、それはさすがにマズい。

 リオーネがいなきゃ、全滅の可能性もあったわけだし・・・

「いいってんならいいだろ」

「バカかお前は」

「ああ!?」

「とりあえず」

 怒鳴ると工場に響くな・・・これ以上怒鳴らせるとうるさいし、ジェシカは放っておこう。

「俺の分はいい」

「あなた、それは」

 マーベルさんは絶対突っ込んでくるだろうと思った。

 思ったから、軽く手で牽制する。この場は任せてくれ、と。

「それはちょっと悪いだろ」

「キリヤくんが指示してくれたから上手くまとまったのに」

 そう思ってくれるのはありがたいが、

「俺は途中参加だし、みんなに協力してもらっただけだ。寧ろ、しっかり対応してくれた二人には感謝してるよ」

 実際、俺の攻撃じゃあどうしようもなかった。

 キースがきっちり前衛を務めて、リオーネがトドメの一発を撃ち込んでくれたからどうにかなったわけだし、二人にはそれなりに礼はしておかないとな。

 一応、ジェシカの最後の正拳突きも効いていたことだし・・・

「俺は報酬金と討伐報酬だけでいいから、素材は三人で山分けにしとくんな。ただ、要らないってならうちのに卸してくれると助かる」

 マーベルさんに売ってくれるならこっちはこっちで旨味があるってことにしたら、気分はちょっと楽になるだろう。

 キースとリオーネも追加で資金にできるし、ウィンウィンってやつだ。

「・・・それでいいなら、そうするか?」

「キリヤくんが気を遣ってくれているわけだし、そうしようかな?ここまで言ってくれてるのに断るのも悪いし・・・ねぇ?」

 リオーネがジェシカを睨む。

「う、おう・・・」

 この無言の圧力・・・

 リオーネさえいれば、ジェシカはもう面倒じゃない。ありがてぇ。

「じゃあ、三等分な。端数は適当に話し合って決めとくんな。じゃあ、そういうことで」

「かしこまりました。では、報酬金と討伐報酬の手続きを行います。ロビーへお戻りください」

 受付に戻って、

「まずは大量発生クエストの参加報酬です」

 カウンターに四人分の紙幣が並べられて、

「お一人五万フォドルとなります」

 あれ?そんなもん?

 結構手間掛かったし、もうちょいくれてもいいと思うんだけど・・・

 まあ、日当五万と考えればそんなもん?いや、でも体張って命賭けてやってるわけだし、もうちょいくれてもいいんじゃなかろうか? 

「レッドゴブリン一匹につき二千フォドル、ボスゴブリンは八万フォドルとなります。先ほどのお話ですと、ボスゴブリンは四等分ということでしたので、お一人当たり二万フォドルですね」

 受付嬢が紙幣を手早くまとめていく。

「・・・レッドゴブリンって一匹二千フォドルなのか?安くない?」

「まあ、安いけど・・・弱いからなぁ、あいつら」

 確かに倒すのに苦労はしなかった。マンガやゲームの世界だったら、ストーリーの序盤に出てくる雑魚と変わらないんだろう。

「気持ちは分かるけどね。ボスゴブリンの側にいた個体は強くなるけれど、それでも金額は変わらないわけだし」

 そう、安いと感じる理由はそこだろうな。

 ボスゴブリンは周辺の小鬼の性能を上げる特殊能力がある。手強くなって面倒になるわけだが、それでも一匹当たりの勝ちは変わらん、と。

 そりゃあ、割に合わんと思われても仕方がない。マジで割に合わん。それこそ、もっと小鬼をしばいて数を稼がないと金にならん。

「お待たせしました。お受け取りください」

「これが俺の取り分か」

 参加報酬が五万と、レッドゴブリン討伐分で合計一万四千、ボスゴブリンの分け前が二万。合計八万四千フォドルか。

 高校生のバイトとしちゃあ出来過ぎだけど、これバイトじゃなくてガチの生活だもんなぁ。


 となれば、討伐するならするで、相手を選んだほうがいいかもな。


 ヴェロニカの運送会社の稼ぎも、マーベルさんの商売も当てにせず、俺個人が生活をしていくためには、やっぱりモンスターを狩るのが手っ取り早い。

 そりゃあ、俺個人で何かしら事業をするのもアリっちゃあアリだろうけど、それがヒットするかどうかはやってみないと分からないし、軌道に乗るまでの凌ぎは必要だろう。

 となれば、やり方をしった以上、モンスターを狩るってのが手っ取り早い。そうなれば、より儲かる方へ進まないといけないわけだし、手間の掛かるゴブリンよりも一発が大きいランドリザードのほうがいいし、もっと稼げるやつがいるならそっちのほうがいいってなる。

 念頭に置いておかないといけないのは、より強いヤツを相手にするなら、命を落とすリスクを背負うということ。

 リスクを最小限にするために、スキルを覚えて攻撃手段を増やして、経験を積んで自分を研ぎ澄まして、武器と防具を整えて万全の状態にしておく必要がある。

 ・・・そう考えると途方もないな。モンスター狩りで生計を立てるのはやめとくか。

「とりあえず」

 生活費にはなったな。これがいつまでもつか、だな。問題は。

「解体待ちか」

「そういうことになるな」

 それぞれ、財布に紙幣をしまって、

「解体っていつ頃に終わります?」

「そうですね。大量発生クエストの影響で、工場も解体待ちの状態です。あなた方が最後のほうですから、少なくとも三日は掛かるかと・・・」

 最低でも三日は足止めか。

 まあ、最早数えるのも面倒なくらいの数だ。人類対モンスターの合戦と言ってもいい。それの後始末と考えれば、三日程度で済めばいいほうだろう。

 人類同士ならそうはならんしな・・・

「だったら、クエストを受けてみない?」

 リオーネが提案してきた。

「クエストを?」

「そう、私たちで」

 ちょっと嫌な流れのような気がするんだが・・・まあ、聞くだけ聞いてみよう。

「思ってたんだけど、私たち結構相性がいいような気がするのよね」

「ほう?」

「ほおおおお?」

 マーベルさんとヴェロニカの無言の圧・・・

 うん、気にしないようにしよう。気にしたら負けよ。負け。

「キリヤの指示も結構分かりやすいし、やりやすかったよなぁ」

「そう。魔法を撃ち込むタイミングもよかったし、他のモンスター相手でも上手くやれそうな気がするのよね」

 そう評価してくれるのはありがたいんだが、俺はあまり実感がないんだよなぁ。

 俺はその場で見て思ったことと、昔見た色んな小説やマンガ、ゲーム、雑誌で得た知識を繋ぎ合わせただけだし・・・


 そういえば、そういう風に考えれば・・・日本というか、この場合は現代で広まっている知識は結構使えるな。


 例えばゲームの知識。

 モンスターの存在に驚かないのも、ファンタジー物である程度知識をつけているから。何も知らなきゃ化物だし、シンプルに驚くだろう。

 スキルに関しても同様。多少違いがあったり、迷ったりすることはあっても、冷静に取捨選択できているのも、そういうものだって知識があるからだ。

 それにモンスターに対しての立ち回り。これはサバイバル関係が大きいかもしれない。

 俺自身はサバゲ―自体をしたことはないものの、タクティカルトレーニングと呼ばれるカリキュラムには興味があって、動画を見たこともあった。

 ランドリザードやボスゴブリンを倒すために仕掛けたトライアングルも、それに属するものだ。標的に対して何人で当たり、同士討ちをしないようにするための陣形。これも知識があったからすんなりできることで、思いつくことはあっても時間は掛かることだろう。

 こうなるなら、もうちょっと読んだり見たりしとくべきだったかな・・・まあ、こんなことになると誰も思わないけども。

「どうせここで足止めでしょ?なら、ささっと片付けられて稼げるようなクエストがあれば、それを一緒に行ってみてもいいかなと思ってね」

 ・・・確かに悪くない提案だ。

 少なくとも三日は足止めだし、この辺りで稼げるなら、旅費のためにこなしてみるのも一つの手だ。俺自身の経験値にもなるし、スキルポイントも溜められて、スキルの試運転もできる。

 ただ、

「わたしのことは後回しですかぁ」

「冷たいお父さんですねぇ」

 ・・・後ろの二人がなぁ。

 順序が逆なだけで、悪いことをしてるわけじゃないんだけどなぁ。

「・・・よし、こうしよう」

 俺一人だったら迷うことはないかもしれないが、今は連れがいることだし・・・

「クエストは付き合う。けど、うちはうちで商売があるからな。まずはこっちを片付けたい。一日待ってくれないか?」

 この旅の目的はヴェロニカの出生の理由を知ること。これが最優先であることは変わりない。

 だから、商売ってことを理由にして、明日一日は調査に当てる。これは俺が主導する。

 二日目はヴェロニカとマーベルさんだけになるが、首都でやったような無茶はできないだろうし、ゆっくりしておいてもらってもいい。もちろん、無理のない範囲で調査もできるし、それでもいい。俺じゃなきゃダメってこともなくなってきたし、マーベルさんも事情を知ってるから上手くやれるだろ。

 三日目以降はちょっと考える。とりあえず、二日間のスケジュールさえ組めればいいかな。

「クエストはリオーネでもキースでもいいから、選んでくれ。俺はそれに付き合う」

 俺はどれがどういうモンスターなのか分からないし、目の前の状況に合わせるだけ。そこまで難しいことじゃない。

「そうだな・・・クエストによるけど、俺も準備が必要だし、一日待つくらいは問題ないか。リオーネはどうだ?」

「そうだね。私も準備しておきたい物もあるし、それでいいよ」

 クエスト組は問題なさそうだが・・・

「・・・どっすか?」

 問題は身内のほう・・・

「まあ、そういう条件であればいいかな?」

「どの道足止めですから、その辺りは譲歩しましょう」

 ふう・・・ごきげんは取れたか。

 二人の機嫌も取らなきゃいけなくなるってのも、今後は念頭に置かなきゃいけないかなぁ。

「よし、そうと決まればクエストを選ばなくちゃね」

 リオーネがクエストを見に掲示板に向かうと、

「ところで、準備が必要とおっしゃいましたが、何かご入用で?」

「あ、お、おう、そうですね。応急薬の予備が無くなったから補充と、あとは包帯とかが欲しいかな」

「であれば、私が準備しましょう。お安くしておきますよ」

 こっちはこっちで商売が始まった。相変わらずたくましいな、この方・・・

「・・・で、あんたは?」

 そういえば、ジェシカを放ったらかしにしていた。リオーネに論破されてからずっとおとなしかったから忘れてたわ。

「・・・あたしも行く」

「・・・は?」

「あたしも行くからな。次のクエスト」


 ・・・何で?

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