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 いや、しかし。

 エルフ女が乗り込んでくるとは思わなかったなぁ。


 とりあえず、客間に逃げ込めたから良かったものの、あのままいたらどうなっていたことか。

 少なくとも、鋼の剣とかいう連中と一戦交える可能性は高かったし、乗り込んできたエルフ女も同様だったろう。

 前者はシンプルにお互い気に入らないっていうだけだったが、エルフ女はちょっと困る。

 ボスゴブリンを倒すのに協力・・・という名の利用をしただけなのに、どうして恨まれなきゃならんのか。そりゃあ、自分が倒す予定だったってのは分かるけども、あれだけ派手に吹っ飛ばされたら、大抵のヤツがもう無理だって思うだろう。


 それにしても不思議なのは、結構なダメージが入っていたにも関わらず、すぐに回復していたことだ。


 丸太でぶん殴られてダメージがあまりない・・・ってのはあるかもしれない。いや、現実的に無い寄りの無しだろうが、すぐ動けるかどうかは話は別。

 勢いよく殴られていたし、下手すりゃバイクに轢かれるくらいの衝撃はあったはず。

 それなのに動いている。動いているどころか、今からもう一戦ってくらいの元気・・・どうなってるのか不思議に思うもんだろう。


 まあ、もうこの先関わることはないだろうが・・・


「まだ続いてるねぇ」

 通された部屋に入っても、下の様子はそれなりに分かる。

 ヴェロニカはテレパシーで拾っているかもしれないが、部屋が二階でロビーからそう遠くない位置だっていうのもあるだろう。

 協会スタッフが来て仲裁はしているはずだが、まだ時間は掛かるのかもしれない。

「あのパーティの方々も大概ですが、エルフの方も同じくらい面倒でしたね」

「マーベルさんもそう思った?」

 マーベルさんは小さく頷いて、

「やる気があるのは分かるのですが、あり過ぎますね」

 やる気というか気合というか、闘争心というか。

「無いよりマシだけれど、あり過ぎるとそれはそれで困るねぇ」

 やる気がない奴は切ればいいだけだが、あり過ぎて空回っている奴は切り辛い。

 いや、そもそも切れないか。別に同じチームで活動してるわけじゃない。今は付きまとわれているって感じになる。

「でも、とりあえずは一安心だね。部屋に居れば会わずに済むし」

 さすがに部屋に乗り込んでくることはないだろうが・・・

「しかし、あの回復力はさすがですね」

 マーベルさんも評価できる点はあるらしく、

「回復力?」

「彼女のような種族をエルフというのですが、彼女たちはヒト族と比較して回復力が高いんです。例えば傷が癒えるスピードが速い、疲労回復が速い・・・等々です」


 回復力・・・なるほど。そういう要素もあるのか。


 確かにエルフはそういうイメージがあるかもしれない。

 俺がイメージしていたのは、回復魔法や弓が得意だったり、手先が器用で細工や工作に強いっていう感じだが、回復力が高いのもそれに通じるところがあるのかもしれん。

 というか、ヒト族と比べてっていうと・・・

「今気になったんだけど、ヒト族っていうのがいるのか?」

 あまり気にしてこなかったんだが、エルフ族っていう人種が出てきた以上、気にしたほうがいいかもしれない。

「ええ、ヒト族という種族がいます。他にもエルフ族、ドワーフ族、妖獣族など、たくさんの種族がいらっしゃいますよ」

 確かにファンタジーって世界観にはそういう存在は定番だが・・・

「俺は何族になるんだ?」

「キリヤさんはヒト族に属すると思います」

 まあ、マーベルさんからしたら俺は異世界人なわけだし、正確にアレだって答えられるわけじゃないのは分かる。

 その辺りを追求しても仕方がないし、今はどうでもいいし、とりあえず今はそういう認識であるって程度でいいだろう。

 しかし、色んな種族がいるみたいだな。この分だと、例に挙がった種族の他にもいるんだろう。

「話を戻すけど、エルフ族は回復力が高いって話だったよな?だったら、あの子くらいの回復力は当たり前なのか?」

 今も荒れているであろうロビーにいるあの子・・・あれが標準なんだろうか?

「いえ・・・そんなことはないと思います」

「丸太で叩かれてけろっとしていられるわけないよ。さすがのエルフ族でも、回復するのは時間が掛かるんじゃないかな?」

「そもそも、ヒトもそうですし、エルフ族もそうですが、モンスターの攻撃を受けてすぐさま復帰するのは不可能ですよ。回復魔法を受ければ話は別でしょうが、それでも痛みや出血は簡単に解決できるものではありませんし・・・」

 話を聞く限り、あの子くらい簡単に復帰するのは稀なケースみたいだな・・・

 回復魔法を受けても、痛みはすぐに取れないし、抜けてしまった血はすぐに戻らない。あまりにもリアルな現実。ゲームと同じようにはいかないシリーズだ。

「それに、あの子のように徒手格闘を好む方は少ないですね」

 

 それは俺も気になっていた。


 戦闘の時も思ったことだが、エルフは回復専門、もしくは弓での遠距離射撃が得意ってのがファンタジーでは常識だろう。作品によっちゃあ、ヴェロニカみたく黒魔術を扱うこともあるだろうが、どっちにしても共通なのは、遠距離が主体で接近戦はしないケースが多いってことだ。

「うーん、これはあまりよく分からないけれど、そういう傾向があるっていうことしか言えないかなぁ」

「傾向かぁ」

「あくまでも私はですが、彼女のようなエルフと出会ったことはないですね」

 今も下を荒らしているであろうあのエルフは例外なのか・・・

 まあ、そうだろうな!

 エルフだろうが、接近戦好きだろうが、そういうことはどっちでもいい。頭のネジがぶっ飛んでいるのはいただけん!

 ただでさえこっちにはトラブルメーカーみたいな方々がいらっしゃるんだ。もうお腹いっぱいだよ。

「おや・・・下が静かになったねぇ」

 言われて気付いたが、確かに静かになった。

 窓際に行って外を見てみると、例のエルフと、イケおじたち四人組が協会スタッフに連行されていた。

「・・・まあ、そらそうなるわな」

 一触即発で、宿屋にも迷惑を掛けたわけだし、日本でも警察沙汰だよ。あんなもん。

 離脱しておいて正解だったな。

「結局、あの四人組も連れて行かれたわけかぁ」

「イメージダウンは避けられませんね」

 イメージが大切だとかどうとか言っていたが、こうなっては印象悪化は避けられんなぁ。

 頭がおかしい連中だって分かったからってのもあるが、知らなくてもアレを見たら俺だったら仕事頼もうとは思わない。

 ま、反省の一つや二つ、時間を掛けてしとくんな。

「あのエルフの子はどうしてる?」

「おとなしくしてるな」

 てっきり騒ぐもんだと思っていたが、思いの外静かだった。

 冷静になったのか、それとも別の感情や思いがあるのか・・・どっちにしても、静かにしてるなら大助かりだ。

「これで気にせずゆっくり休める」

 ようやっと落ち着ける。

「しかし、この辺りでは珍しく出現したのですね。ボスゴブリン」

 備え付けの茶器で茶を淹れようとしたんだが、

「・・・そんなに出ないモンなの?」

「うーん、そんなに個体数がいるものではないかなぁ」

 二人の認識もそうだが、キースのリアクションもそれに近いイメージはあったな・・・

「ボスゴブリンはね、レッドゴブリンが成長してああなるんだ」

「あれって成長するのか・・・」

 成長っていうより進化に近いくらい姿が変わってたんだが?

「レッドゴブリンは身内同士の争いが多くてね。縄張り争いっていうのかな?そういうので戦いを繰り返して、強くなっていくんだ。そうして一定の能力向上を果たせたのがボスゴブリンなんだよ」

 一定の能力を向上って・・・あんなガリガリの小学生くらいの体格が、どんだけがんばったらゴリゴリのプロレスラーになるんだよ。何年掛かるんだよ、ああなんのに。こっちの世界にもトレーニングジムでもあんの?

 それだけ過酷なんだろうか。繰り返される縄張り争いってのは。

「戦う度に力を付けていく。それは知能も一緒だよ」

「知能・・・」

「戦って思わなかったかい?その辺にいるのはそうでもないけれど、ボスゴブリンは指示を出していなかったかい?」

 そういえば、そういう場面はあった。

 何を言っているのか分からなかったが、小鬼に怒鳴っていた。たぶん、指示を飛ばしていたんだろう。

「指示を受けたゴブリンは強くなるんだよ。どれくらい強くなるかは分からないけれどね」

 動きの隙が少なくなる。攻撃を受けてもリアクションが少なくなる。連携して仕掛けてくる。

 小鬼自体の戦闘能力は大したことないが、三つ改善されただけでも面倒が増す。ざっくり強くなるっていうのも間違いじゃない。

「あれはボスゴブリンだけが獲得できる能力みたいだね。わたしたちで言うところのスキルみたいなものだよ」

「・・・あいつらにもスキルがあるのか・・・」

「まあ、そうかもしれないっていうだけだけれど」


 だけどまあ、そう考えたら納得かもしれない。


 図体がデカくなっただけで、小鬼の知能も成長するわけがない。単純に戦うのと、他人を統率するのは全く別物。いきなりできるわけでもないし、殴る、蹴るくらいしかしてこないモンスターが獲得するには相当の年月と努力が必要だろう。

 そう考えれば、モンスターにもスキルがあるって推測も理解できる。

「となれば・・・」


 連中にもパスポートがあるのか・・・?


 俺たちはパスポートをスキルを管理している。この世界はそういうシステムが標準になっている。

 モンスターもスキルを得ていくっていうのであれば、連中もパスポートがあるように思えるが、そういうのはさすがに分かってないのか・・・?

 成長で得ていくって話も出ていたし、連中はパスポートっていう概念はなくて、地球の人と一緒で成長で学習していくってこと?

 そりゃそうか。ゴブリンは手があるから操作はできるかもしれないが、ランドリザードは操作でどうこうできないし。

 不思議だなぁ・・・異世界って。

「で、ボスゴブリンは結局どうなったんだい?」

 話が一段落したから、別の方向へ。

「あー、あれなぁ」


 倒したボスゴブリンは一旦俺が預かっている。


 ヴェロニカと一緒に倒したなら共有資産ってことにしてもいいが、キースとリオーネは現地で居合わせただけの間柄。さすがに共有はできない。

 後日合流するっていう話になったから、代表して俺が預かったっていう流れだ。

「仮にキリヤさん、協力してくださったお二人・・・それから例のエルフの方を含めた四人で分けるとなれば、取り分を交渉しなければいけませんね」

 ・・・この方は相変わらず仕事熱心だなぁ。

「ボスゴブリンはランドリザードほど利用価値がないので、素材も知れていますから、相談はさせていただきますが」

「利用価値がないって、どういうことだ?」

 尋ねると、マーベルさんは転送で一冊の本を取り出して、

「ボスゴブリンは体格が優れているので、骨は頑丈で需要はあります。身に着けているモンスターの皮の衣装も使い道はありますから、それも素材として回収できますね。ですが、他は使い物になりません」

「他っていうと・・・肉?」

 ランドリザードは肉と臓器っていう形で解体していた。あっちは人気らしいけど、

「ボスゴブリンは筋張っていて食べられる物ではありません。お願いすれば切り分けていただけるでしょうが、取引で使えるような素材にはなりませんね。少なくとも、私は取引した実績はありません」

 筋張って食べられない・・・うまくはないのか。

「食えないことはない?」

「食べられないことはないですが、ランドリザードやゴルモアパイソンと比べるとだいぶ劣ります。食堂や屋台でも出しているところはありませんね」

 どういう調理方法かにもよるが、こっちの人間が好まないなら、俺もダメだろうなぁ。

 カレーやらシチューが作れるわけだし、煮込みはできる。肉の加工と味付けでうまくなるかもとは思ったが、煮込みが無理なら勝算はないか・・・?

「爪も私たちと同じように短いですし、本当に取れるところが少ないんです。小物は言わずもがなです」

 ボスゴブリンで取れるところがないんだから、子分たちはほとんど取れないだろうなぁ。

「それなりに数も多いし、集団で襲って来るけれど、取れる素材が少な過ぎて面倒なんだよね」

 集団で襲って来るからそれなりに人手が要るし、ボスゴブリンがいれば手強いし、討伐に掛かる手間と、取れる素材の少なさ・・・

 ぶっちゃけ割に合わんな。

 鋼の・・・何て言ったっけ?さっきの四人組が言うことも分からなくもないな。あれに手間掛けるくらいなら、別のヤツに掛けたほうがマシだ。

 かと言って放っておいていいとは思わんが。

「骨はいい額で売れるのかい?」

「ランドリザードと比べると安いですが、利用価値はそれなりにありますから、十分な値段で売れます」

「あとは討伐報酬がどれだけ出るかだねぇ」

 割に合うか合わないかの差はあっても、とりあえず儲けにはなるか・・・

「まあ、資金に余裕ができたってくらいの認識でいいだろ」

 そりゃあ、多けりゃ多いほどいいかもしれないが、最低限活動できる額を確保できればいい。

「そういえば・・・」

 ドッシュを二頭、獣舎に預けてあるとか言ってたな。そこもお金必要だろ?それに餌代だって掛かってくるわけだし・・・

 やっぱ儲けられるだけ儲けといたほうがいいかな・・・額にもよるが。

「とりあえず、明日にでもキースとリオーネを探して、協会に報告がてら解体の依頼と、取り分の相談をするか」

「そうですね」

 ボスゴブリンとレッドゴブリン数体の解体を依頼するってなると、それなりに時間が掛かるかもしれないな。

 レノトでも調査をしないといけないとなると、ここでも数日滞在することになるか・・・

 まあ、すぐにポンポン解決できるようなことでもないし、じっくりやりますか。

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