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 レッドゴブリンとボスゴブリンの大量発生クエストが終わって、俺はキースとリオーネと協力して、エルフの女の子を引きずって町に入った。


 町は慌ただしく動いていた。

 外でモンスターが暴れている・・・しかもそれが大量だなんてことになりゃあ、そりゃあ慌てもする。

 今回のクエストで怪我をした連中もそこそこいて、協会スタッフが手当てに回っていた。

 一緒に戦ったエルフも一旦協会に預けた。回復魔法を覚えていない俺がどうこうできる問題でもないし、一緒に活動しているわけでもないし、妥当な対応だろう。


 後日、また会おうと約束して、キースとリオーネとは一旦別れた。

 二人はそれぞれで活動していて、たまたまレノトに居合わせて参加したらしく、状況としては俺に似ている。

 キースは多少怪我をしているようだったから、手当てに向かっただろうが、リオーネは自分で倒した分のゴブリンたちの精算に向かったかもしれない。


 俺は町の入り口で待ってくれていたヴェロニカとマーベルさんと合流して、一旦宿屋に入った。

 レッドゴブリン自体は弱いという認識はあったし、今回は側にいなくても大丈夫だと判断していたようだが・・・

「とりあえず落ち着いたわ」

 いつも通り、部屋を二つ依頼。

 部屋の準備をするからってことで、ロビーで待つようにお願いされたから、とりあえずコーヒーを頼んで三人で一服している。

「いやぁ、それにしても、ボスゴブリンまで出るとは思わなかったねぇ」

「そう、それだよ」


 唯一の誤算は、最後に相手をしたボスゴブリンの存在。


「ボスゴブリンは強いモンスターですから、あれのせいで全滅する場合もあるようですね」

 機動力はそこまで無いように見えたが、とにかくパワーファイトがヤバい。

 丸太を強引に振り回せるパワーと、疲れを知らない体力。隙は見えるから叩きようはあるが、ランドリザードの時と一緒で、長期戦はしたくない相手であることは間違いない。

 たぶん、俺みたいな駆け出し冒険者だと苦労するレベルだろうな。

「あれも結構強かったぞ・・・キースとリオーネがいてくれたから何とかなったけど」

 キースもリオーネも、それぞれそれなりの戦闘経験はあったから助かった。

 トールとジャンも戦闘経験はあったものの、場数を踏んでいなかった。それに、シャインアローみたいな高火力魔法も無い。

 この差は大きかった、ってことだろう。

 あの二人にはそれぞれ感謝だな。

「あとは・・・」


 あのエルフの女の子・・・


 戦士として難アリ・・・いや、言動も難アリだったが、攪乱してくれたことはありがたかった。

 最後のパンチも効いていたように見える。グローパンチだっけ?

 そんな言うほどの攻撃力じゃなかったはずだけど、ボスゴブリンが悶絶するくらいのパンチが何で打てたんだろう?

 機会があったら尋ねてみたいところだ。

「そういえば、他にも動けた連中、いたよな・・・?」

 町側の戦力で気になることがもう一つ。

 途中でいなくなったが、あまり疲弊していない連中がいたはず。

 パーティを組んでいるだろうと思った連中だが・・・

「ああ、いたねぇ」

「この辺りでは比較的しっかりとした装備をお持ちの方々でしたね」

 パッと見でしか分からんが、駆け出しレベルじゃなさそうなイメージは俺もあった。

「あいつらが手伝ってくれてたらもっと簡単に済んだだろうに」

 そう、俺はあいつらにも手伝ってほしかった。

 こっちも余計な疲れやダメージを受けたくないし、さっさと片付けられるならそれに越したことはない。それが町の脅威となっているなら尚更だが・・・

「ああいう方々はある一定数いらっしゃいますよ」

「ええ?」

「粗方片付けたから、あとはよろしくーって感じだね」

 何それ?どういうスタンスなの?

「どういうお考えかは分かりませんが、いらっしゃるのは事実です」

「・・・それってさぁ、どう―――」

「―――文句でもあるのか?」


 ロビーの奥のほうから、男女四人組がやってきた。


「・・・あんたら」

 軽装になっちゃいるが、クエストの途中で見かけた連中だ。

「途中参加でやって来た・・・探検家、だったかな?」

 短い金髪の、そんでもって高身長の男。

「ああ、それがどうした?」

「探検家で戦闘に参加するなんて、なかなか度胸がありますねえ」

 背が低めの、長い黒髪の女と、

「・・・面白い。ぷふっ」

 キツめのピンクのボブヘアーの女。

「やめておけ、みんな。失礼だろう」

 他と比べると割と歳を食っている、がっしりした体型のイケおじ。

 この四人でパーティを組んでるのか。

「失礼も何も、あのゴブリンの群れを一掃するのに、時間掛け過ぎでしょお」

「・・・そんな時間掛けたっけか?」

「途中で居合わせた人たちと一緒に戦ってアレだものね。笑える。ぷふっ」

 言いたいことは分かる。俺もそこまで空気が読めないわけじゃないからな。

「・・・俺が弱いって言いたいのか?」

「よく分かってるじゃないか」

 まあ、あの話の流れだとそう思うだろうな。

「・・・ま、そうだろうよ」

 コーヒーを一口飲んで、気持ちを落ち着かせる。

「俺は戦闘専門じゃないんでね。でも一応、戦闘ジョブ判定だし?緊急ってことなら手助けの一つや二つ、するだろ」

 本当はスルーしたかった気持ちはあるが、一応やる気はあるってことにしておく。

「あれでは大したものではないな。まあ、一緒にいた剣士よりはまだ良い程度ではあるが」

「この人、腹が立つねぇ」

 正確に言えば、イケおじ以外に腹が立つ、だな。

「燃やしていいかな?いいよね?」

 燃やしたいと思ってくれるのはありがたい。ありがたいが、ここでぶっ放すと大変なことになるからやめとくれ。

「お前、大した実力も無いのに自分はできる男だと思っているだろう?」

「・・・は?」

 え?何言ってんの?

「俺たちはご覧のとおり、実力もある有名パーティだ。鋼の剣と聞けば、分かるだろう?」

 え?自分たち有名人ですよって自慢しちゃってる?

 ちょっとヤダ。怖い。

「いや、知らんよ。そんなの」

「はあ?ほんとおに知らないのお?」

「知らねぇよ、ンなモン」

 そもそも、あまり他人と関わろうとしなかったし、そういう話も噂も聞かなかったしなぁ。

 俺が知らないのが異常なのか?それともこいつらがヤバい奴らなのか?

「田舎の出身?ぷふっ」

 田舎というか、あんたらからしたら異世界の出身だが?

「冗談が過ぎるな・・・この辺りで鋼の剣を知らない者がいるとは」

「私たちからすれば、あなた方のほうが冗談が過ぎますよ?」

 今まで黙っていたマーベルさんがとうとう口を開いた・・・!

「うちの人が実力不足なのは認めましょう」

「認めるんかい」

 思わずツッコんでしまったが、

「ですが、うちの人の本来の仕事は家族を安全に目的地まで導くことです。戦闘が起これば手を下しますが、あくまでも二の次。最低限の実力があればそれで良いのです。今は」

「お、おお・・・」

 意外とまともな返しだった。すまん、ツッコミ入れちゃって。

「安全なところへ導くか・・・笑わせる」

 結構イイことを言ってたはずなんだが、この男は全く理解していない。

「強さが無ければ守ることなどできない。レッドゴブリンごときに後れを取っているようでは、守る者も守れんぞ」

 それはそれで正しい。

 正しくはあるが、

「だったら、あんたらみたいな自称強くて有名な方々が手助けしたらいいんじゃないのか?」

 自分たちが強いっていうなら、有名だっていうなら、どこの誰かも知らない奴であっても助けたらいい。そうしたら恩も売れるし、もっと売れるだろうよ。

「俺たちは慈善事業はしていないのでね。弱い奴のことなど知ったことではないんだよ」

「ほおー・・・」

 こいつ・・・いや、正確にはこいつら、が正しいか?

 自分たちの都合さえ良ければ、後はどうなってもいいってか。周りの女どもも大概だが、イケおじのほうもそう思ってるわけか?

「・・・なかなかの方々ですね」

「うん、この人たち焼いたほうがいいね。丸焦げ・・・いや、消し炭にしちゃおうか」

 マーベルさんも思うところはあるようだし、ヴェロニカも言わずもがなだが、俺もそろそろ我慢するのがしんどい。

「だったら、町のことなんかどうでもいいだろ?何で緊急クエストに参加した?」

「乗りかかった船だ。ゴブリンの素材を売って金にしたいというのもあるが」

「ボスゴブリンまでまとめて倒せば、相当な金になったろうよ。なのに、それはしないのか?」

「金は重要だ。だが、印象が重要なんだよ」

 印象・・・イメージ?

「俺たちみたいな傭兵稼業は印象が重要だ。実力と同時に容姿も必要になる」

「これを見て分かるでしょお?」

 黒髪の女がワンピースの裾を摘まんでくいっと持ち上げて、

「見た目が可愛いとか、美しいとか、うちのリーダーみたいにたくましいとか、そういうので支持を得られるものなんだよお?」

 なるほど。要は見た目で好感度を得られるケースもあるってことか。

 まあ、それは頷ける。アイドルなんかもそうだな。歌が下手でも顔が良くて踊れればモテるってやつと一緒だ。本来、歌が上手いことが前提の存在のはずだが、それよりも見た目でファンを取ってるっていう。

「その点、君は普通だねえ。ちょっとはカッコ良く見えるけど、その辺にいる男と大差ないなあ」

「おう、そいつはどうも」

 金とイメージが維持できれば後はどうでもいい。周りがどうなろうと知ったこっちゃない。


 そんな連中、クソ食らえだわ。


「俺はあんたは他と違ってずば抜けてすごいところを見つけたぞ」

「おっ!聞いてあげよう!」

「頭が悪い」

「なっ」

 カッとなったようだが、そんなことは最早どうでもいい。

「それも飛びっきりの、もう助からないレベルのバカだよ、あんた」

「ぶふっ!」

 マーベルさんが噴き出した。我慢でもしていたんだろうか。

「アハハハハー!!キリさんイイぞぉ!!もっといけー!!」

 赤ん坊はテレパシーも生の声も笑っている。

「言われてる。笑える。ぷふっ」

 身内にまで笑われて、黒髪の女も体を震わせていた。

「上等じゃないのお・・・表に出なさいよお!!」

「俺の地元じゃお前みたいなヤツをな、弱いヤツほど良く吠えるっていうんだよ」

 俺もケンカしたいわけじゃない。

 前にもこんなことを考えたが、俺は争いは避ける主義だし、会話で解決するならそれに越したことはないし、それが無理なら無視を決め込むタイプだ。ここまで来たら、本来ならシカトで終わらせる。

 だがまあ、こいつらは別だな。

「お客様、ケンカはおやめください!」

 ただ事じゃないと思ったスタッフが止めに来たが、

「表でやればいいんでしょお!?ほらあ、出なさいよお!!」

「おーおー、威勢のいいこといいこと」

「やってやるわよお!!鞭でも何でも持って来なさいよお!!」

「上等だよ。しばき倒したらぁ」


「見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 最早、一触即発。いつバトルが始まるか分からない状況だった。

 その空気を一瞬で止めた、突然の大声。

「・・・はい?」

 宿屋の玄関から声がした。

 顔を向けてみると、

「さっきの探検家だろ!!」


 ボスゴブリン討伐を協力してもらった、あのエルフの女がいた。


 いや、協力してもらったんじゃないか。断られたから、上手いこと立てて利用したんだわ。

 それはまあ、今はどうでもいいか。

「いつの間にか病院のベッドにいたんだけど、どうなったんだよ!?」

 協会スタッフに預けた後は病院に直行したみたいだな・・・

 相変わらず衣装はボロボロだが、頭に包帯を巻いているし、所々絆創膏が見える。

「・・・あれ?」

 おかしいな。怪我してたのか?

 ボスゴブリンに吹っ飛ばされてもピンピンしていたし、怪我はしていないっていうイメージだったんだが・・・

「なによお、邪魔すんのお!?」

「うるさいねぇ、キャンキャン騒ぐな!」

 あんたは表でどえらく騒いでたけどな。

「それよりお前だよ、お前!!」

 指を差された。どうやらターゲットは俺らしい。

 ・・・何でだろ。

「よくもあたしの相手取ってくれたね!!」

「え、えええ・・・?」

 エルフ女は宿屋に入ってきて、

「あとちょいでボコボコにできたのに、邪魔しやがって!!」

 腹の立つ黒髪女を押し退けて、俺の前で仁王立ち・・・

 ヤバい。こいつも頭がおかしいヤツなのか?

「あ、おう。いや、あのな?」

「他の二人も邪魔しやがって・・・特にあの白魔術師!」

 実質、止めを刺したのはリオーネであることは間違いないが。

 少なくとも、シャインアローを撃ち込んだところでは意識があったみたいだな。

「剣士も見当たらなかったけど、お前は見つけられてよかったぜ!」

 キース、リオーネ・・・解散しておいてよかったな。一緒にいれば巻き込まれたぞ。

「いや、あのな?ちょっと落ち着こう、な?」

 俺たちも大概ヒートアップしてたから他人の事を言えないが、

「あんたも仲間だったのお!?」

「あん?誰だよ、テメェ」

 俺たちとムカつく四人組の一触即発ムードはなんとなくあやふやになったみたいだが、エルフ女が入ったことで結構面倒な構図になりかけている。

「確か君は・・・レッドゴブリン相手に苦戦していた格闘家?だったか?」

「苦戦してねぇ」

「一匹倒すのに何発打った?どれだけ実力が無くても、普通なら二発、三発打てば十分だが」

「何発打とうがあたしの勝手だろ?テメェも打ってやろうか?あ?」

 ・・・これは面倒だ。

 俺は戦わなくてもよさそうな流れにはなったが、エルフ女と戦うことになるかもしれない。いや、腹の立つ四人組とも一戦交える可能性もある。

 三つ巴はさすがにしんどいぞ。ヴェロニカにまとめて吹っ飛ばしてもらうことも今はできん。

「・・・なあ」

「・・・なんだい?」

 エルフと黒髪女が今にもバトルを始めそうになっている現場を少し離れて、イケおじを手招きして呼び寄せ、

「提案なんだけど・・・お互い、このままここでにらみ合ってもしんどいだけだろ?適当に理由付けて切り上げないか?」

「・・・そうだね。そうしよう」

 イケおじもしんどかったみたいだな・・・そりゃそうか。

「悪いね、俺も冷静でいられたらよかったんだろうが」

「いや、ウチの連中もやりすぎたな。調子に乗ったらこれだからね」

 前からこういう傾向はあったらしいな。だったら上手くコントロールしてくれ。いや、できなかったからこういうことになってるのか。

「じゃ・・・そういうことで」

「ああ」

 イケおじから離れて、仲裁に来て困り果てたスタッフの肩を叩き、

「ちょいちょい、部屋の準備できた?」

「え?あ?ああ、できましたが・・・」

「だったら、案内してもらっていいかい?俺たちがこのままここに残ると、別の争いを生みかねない。さっさと退散するよ」

「あ、ああ・・・分かりました。ご案内します」

 スタッフを先行させて、ヴェロニカとマーベルさんにジェスチャーを送って部屋へ行くように指示。

 気付いた二人は、荷物をまとめてスタッフの後を追っていった。

「じゃ」

 イケおじには最低限の挨拶をしておいて、俺も離脱。

「あんたみたいな雑魚に負ける気しないけどお!!」

「テメェはお呼びじゃねぇんだよ。すっこんでろ、ちんくしゃ女」

「ああぁ!?誰がちんくしゃだってえ!?」

 ・・・気にしてるのか?

 いや、最早どうでもいい。さっさと退散!

「・・・どうにかなったか・・・」

 さすがに騒ぎになりすぎた。協会スタッフも飛んできたみたいで、宿屋のロビーがぐっちゃぐちゃになっていた。

 まあ、上手くまけたからいいものの・・・

「あれ・・・面倒事にならないよなぁ?」

 ならなきゃいいなぁ・・・願わずにはいられないな。

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