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 メリコ滞在、三日目。


 俺たちは朝一に合流して、出ていた屋台で朝食を取っている。


「あの宿だっけ?」

「そのはずです」

 屋台は宿屋の近くでいくつか出ていて、俺たちはとある宿屋が見えやすいところを選んでいた。


 今日は、ボーマンが教えてくれた二人組を調査する。


 職業不明の男と、魔術師の可能性が高い女・・・

 メリコに定住していないことと、怪しい風貌。

 この二点だけでボーマンたち協会のスタッフはピックアップして、俺たちはそれに乗っかっているわけだが。

 俺は無しだと思ったものの、マーベルさんが言ったことも確かにそうかもって節があって。

 確かめずに捨て置くのは簡単だが、そのワンチャンで何かが分かることもある。

 例え、今にも切れそうなくらい細い糸だとしても、手繰って引き寄せないことには始まらない。

「あ。あの二人かな?」

 宿屋から男女が出てきた。

「・・・そのようですね」

 マーベルさんは、受付嬢から例の二人の似顔絵を受け取っていた。

 俺も見せてもらったが、なかなか上手い。

 受付嬢全員にそういう技術があるのか、もしくは担当した人にあったのかは知らないが、割とありがたいスキルだ。

「確かに怪しいっちゃあ、怪しいけど、なぁ・・・」

 黒っぽい薄汚れた服とひげ面。

 フードを深くかぶって、顔を見せないようにしている女。

 大体、物語だと怪しいって思ってくれってくらいの見た目なんだよなぁ。

「わたし個人の気持ちなのだけれど」

「おう」

「あれらがわたしの親だと思いたくはないねぇ」

 まあ、そうなるよなぁ・・・

 イケてる両親なら文句はないし、普通でも結構なんだが、ああいう怪しい親ってのは勘弁願いたい。そりゃ俺だってそうだ。

「問題はどうやって確かめるか、だな・・・」


 あの二人がどうかは置いておくとして、問題は確認方法。


 突撃していって親かどうか尋ねても、警戒されて終わり。いや、終わってくれりゃいいけど、攻撃されるかもしれないし、それだけは避けた方がいい。

 となれば、どう接触するかが問題になってくるな・・・

「・・・ん?」

 なんだ?

 急に危険感知が黄色信号を点滅させた。

「どうしたんだい?」

「誰かが俺たちを警戒してる」

「誰か分かりますか?」

 点滅は二つ。

 ちょっと離れちゃいるが、たぶん目視できる距離。

 たぶん、

「あの二人だな」

 俺たちが調べようとしていた二人・・・数と位置からして、あの二人に間違いない。

「む」

 目が合ったかもしれない。

 例の二人は俺たちとは逆方向に去っていった。

「・・・何故私たちに敵意を?」

「問題はそこだな」

 そこが分からない。

 ここに来るまでに世話になった行商たちや、ボーマンたち協会スタッフなら分かる。少なからず接触しているし、行商たちに関しちゃ、道中で危険な立ち回りに付き合わせたから、不信感を持たれても仕方がない。

 ただ、例の二人は初対面のはず。いきなり不信感を持たれることはないはず。

「・・・何か知ってるな?」

 知っているから、危機感を抱く。


 あの二人・・・俺たちを知ってるな。


 どういう理由かは知らないが、調査する必要が出てきたってわけだな。

「なら、調べようか」

 ヴェロニカに頷いて返し、

「方法を考えなきゃな」

 調べるのはいいとして、問題はその方法だ。

 少なくとも、俺は間違いなくアウト。直接接触することができない。

 となれば、ヴェロニカ頼りになるが・・・

「・・・私に一つ、考えがあります」

 マーベルさんが小さく挙手してきて、

「・・・あのぉ。まだ俺たちと一緒にいるんですか?」

「何を尋ねてくるかと思えば」

 クスクスと笑って、

「当たり前じゃないですか」

 何の迷いもない回答・・・

 思わず頭を抱えてしまう。

「ふうぅぅぅぅぅぅぅ・・・」

「まあまあ、一旦マーベルさんの案を聞こうよ」

 協力するかどうかは別として、ってことか。

「私が商人として接触して、商売の最中に色々探ってみます」

 あの。ドヤ顔してますけど、想定内ですよ・・・

「でも大丈夫?わたしたちと一緒にいるから、仲間ってバレてるかもしれないよ?」

「可能性は否定できません。その辺りは接触してからの反応次第で決めます」

 ヴェロニカさん、仲間って思ってます?

 世話になったこともあるからいいんだけどさ・・・ちょっと複雑。

「多少、勝算はあるんです」

「例えば?」

「メリコに到着して、今日で三日目です。一昨日、昨日とほとんど町にいませんでした。ヴェロニカさんとキリヤさんが標的だとしたら最初から知っていて当然でしょうが、私は想定外。旅の同行者、もしくは屋台で一緒になった女くらいにしか思わないでしょう」

 なるほど。確かに。

 マーベルさんが言うことも一理あるかも。

 俺たちが町に出て活動していた時間なんて、合わせて半日・・・いや、もっと少ないだろう。

 そんな中で、俺とヴェロニカ以外の存在を知るキッカケなんか、ほとんどないはず。

「最初から知られているって可能性もあるけど」

 そうなら最初から詰みだが、

「それはもう、賭けですね」

 変なところで肝が据わってる・・・

「お二人の側にいるからには、何かしら役に立たないといけませんしね」

「・・・そこまでして一緒に来ます?」

 自分の身が危険になるかもしれないのに?

「一度気になったら、追究したくなるではないですか?少なくとも私はそうです」

 マーベルさんは席を立ち、

「商売ができそうな場所を確保してきます。お二人は私が見える位置・・・キリヤさんの危険感知が有効な位置がいいでしょう。そこにいてもらえれば」

「・・・分かった」

 理由は何となく分かった。

 少なくとも嘘はなさそうだし、ここまで一緒に来た縁もある。

「大体、どの辺りになります?」

 今回もマーベルさんに乗っかるとしよう。

「商売人が集まるのは各町への出発口と、市場です。市場のほうが色んな商人が集まりやすいですから、私が物資を補給するのであれば、市場に向かいます」

「じゃあ、俺たちも後追いで市場へ」

「危険感知は常に作動させておいてくださいね。向かう途中であの二人に見つかるかもしれませんし、有事の際はご自身を優先してもらわなければ」

「そうだね。キリ」

「今も付けてる。大丈夫だ」

「では、後ほど」

 マーベルさんが先に屋台を出た。

 例の二人が向かった方へ歩いていく。

「・・・うっし。もう少ししたら俺たちも向かうか」

 協力してもらうからには、成果を出さないとやる意味がないし、やりますか。

「キリ。気付いたことがあるのだけれど」

「・・・おう、どうした」

「あの人、お代を置いていってないね」

「・・・あ」


 ・・・やられた。

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