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ファンタジーな世界ってこんな感じなんですか? ー起こることは現実的で心が折れそうですー  作者: ナツオ


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 マーベルさんとの約束まで残り二日のところまできた。


 指名手配されている写真が全くイケていないことが分かってからは、外に出ることに対する抵抗がかなり減った。

 なにせ、人相が違い過ぎて、引っ掛かるわけがないんだ。警備隊に引っ掛かることもほとんどないし、引っ掛かってもスルーされる。

 抵抗があるとすれば、外に出るのが面倒とかそのくらい。


「外に出ようよぉ!」


 などとヴェロニカが言うものの、ボルドウィンにそれらしい人物はいないのでは・・・と分かった段階で、俺の中で一区切りついていたりする。

 調査のために外に出るわけではないにしても、あまり目的もなくぶらぶらするのも面倒は面倒。

 その辺りを散歩するだけならまだいいが、ヴェロニカは行ったことがないところに行きたがる。

 道中、色んな露店が目に留まると、物欲が刺激されて欲しい物が出てくるのも困る。


 宿屋に一日中いるのも無意味な時間を過ごすことになる・・・

 ということで、外に出たわけだが・・・


「どこに行く?」

「どこに行こうなぁ・・・」

 行く当てのない外出・・・

 まるで、親戚が家に来るからあなた外に出てたら?って感じで家から追い出された感じ。

 あんなの、行く当てなんかない。放り出されたら本当に困るやつだよなぁ。

 かと言って、家に残って肩身の狭い思いをするのもなぁ・・・っていう。

 実際、俺がそんな目に遭ったことはないけど、動画でそういう内容の物を見て、なんとなくなるほどなぁなんて思った。ただそれだけ。

「そういえば、ボルドウィンのお城付近って行ったことがないよね」

「・・・そういえばそうだな」

 

 ヴェロニカに指摘されるまで思ったことがなかったが、ボルドウィンのお城に行ったことがなかった。


 道具を揃えたり、居住区に行ってみたり、廃工場で生活したりと、そんな余裕がなかった。

 そもそも、見に行ってみようっていう考えすらなかったわ。

「なんだ?お城に興味あるのか?」

「うーん、興味があるっていうのもあるけれど」

「・・・けど?」

「観光地は回っておかないとね!」

 こいつ・・・もう観光モードに切り替えてやがる。

 本来、ヴェロニカのための旅なわけだし、そういうのは二の次だと思っていたんだが、どうやらそれは俺だけなのかもしれない。

「でもまあ・・・行ってみるかぁ」

 という俺ももうゆるゆるモードだったりする。

 案外似た者同士なのか、それとも緊張感がないだけなのか?

 たぶん、後者だ・・・

「お城ってキリの世界だと珍しいもの?」

「うーん・・・そうだなぁ」

 そんなことを尋ねられたことがないが、

「珍しいかもしれないな」

 地球でお城と言うと、一般的にヨーロッパの辺りを思い浮かべるんじゃないだろうか。

 元々、某有名アニメのお姫様が住むようなお城っていうのは、ヨーロッパのイメージが強いはず。はっきり分からないまでも、大体が日本人じゃないから当然とも言える。

 インドの有名観光地のそれの場合、お城じゃなく宮殿だろう。

 日本のお城はヨーロッパのそれと違って基本的な設計というか、思想が違うだろうから、全ての物が違う。

 ヨーロッパの現存している城もそこそこ多いだろうし、日本も修理や補修を繰り返して現存に力を注いではいるだろうが、一般的かと尋ねられたらそうでもないんじゃなかろうか・・・というのが俺の意見。

 お城好きからすれば珍しいものじゃないかもしれないが、世間一般の認識だと珍しいだろう。

「見た目はあんな感じ?」

 ボルドウィン城の近くまでやってきた。

 まだ距離は残っているが、大きい城はすでに見えている。

「・・・まあ、似ている城はあるかもしれん」


 どういう思想の設計かは分からないが、ボルドウィン城は堅牢なイメージだ。


 某夢のテーマパークのお城はアートのようなイメージだが、こっちはがっちりしたイメージ。

 攻め込まれてもビクともしなさそうなくらいしっかり作られているように見える。それこそ、ちょっとやそっとくらいの兵力では攻め落とせなさそうなくらい。

 どちらかというと、デザイン性よりも機能性を重視した造りなんだろう。

 石造りの城壁は、来る者を拒む堅牢な盾・・・と言ったところか。

 それでもかっこいいと思えるのは、設計者が機能を優先しつつも、野暮ったく見えないように考えた結果なのかもしれない。

「こりゃあ、観光地にもなるわ」

 堅牢で重厚な造りの城と、それを守るように建てられた門と外壁。

 パッと見、レベルは相当高い。

 地球でこの城があるなら、観光地の一つとして挙がってもおかしくはないだろう。

「王族は住んでるのか?それとも大統領とか?」

「ボルドウィン王が住んでるよ。今も現役で王座に就かれてるね」

 現役で使われている城だったのか。

 地球でも使われてないことはないだろうが、現役で使われている城となると、一気に数が減るんじゃないだろうか。

 まあ、こっちは異世界だし、そういう文化だからな・・・地球とは一緒にできん。

「ちょっとぐるりと回ってみようか」

「いいねぇ!」

 城に入れるかどうかは定かじゃないが、周りを一周するくらいはできるだろう。皇居周りだってランニングできるんだし。

「それなりに整備はされてるようだな」

 城を守る外壁の元まで歩いてきたから、とりあえず道沿いに歩いてみる。

 さすがに城ってだけあって、手入れはされているらしい。草は多少生えているみたいだが、大きな枝や倒木なんかは無さそうだし。

 どのくらいまで手入れしているのかは分からないが、それなりに時間と人員を掛けなきゃ無理なレベルだ。

「・・・こっちの世界にも税金はあるのか?」

 大体、国を動かすのは国民の血税というのがお決まりだが。

「国によって様々だろうけれど、ボルドウィンもそれなりに税金はあるよ」

「例えば?」

「住民税とか、資産税とか、色々ね」

 そういう点も地球、もしくは日本に近いらしい。

 それぞれにどれくらいの税率が掛かっているのか分からないが、国一つを動かすものなわけだし、それなりなんだろう。

「わたしはそんなに払った覚えはないけれどね」

 そりゃあ、森に住んでりゃ住民税も掛からないだろうし、固定資産税もクリアされるだろう。

 はっきり言って、誰よりも野営らしい野営をしているのはヴェロニカだし。

「さすがにお城には入れないかなぁ」

「どうだろうなぁ・・・」

 いくら観光地って言っても、現役で使われている城に入れるもんなんだろうか?

 皇居はツアーみたいなのがあって、ある程度のところまでは入れるらしい。ヨーロッパのお城は入れるが、すでに使われていないことが多いはずだし。

「入れるなら入ってみたくはないかい?」

「そうやって言われると入ってみたいと言いたくなるな」

 人生百年時代。お城に入れる経験なんかそう多くはない。

 入れるなら入ってみたいよなぁ。興味が無くてもさ。

「入る方法ないかなぁ?」

 ・・・無理矢理入ろうとしてないか?

 俺がそういう風に聞こえてるだけ?

「・・・門番か何かがいれば確かめられるだろうけど、無理なモンは無理だろうよ・・・」

 興味だけなら別にいいが、ヴェロニカの場合は別の何かがありそうで怖いよなぁ。

 とりあえず、一回りして門に戻ってみるか。

 さすがに城門の前に一人や二人、見張りはいるだろ。

 いたなら尋ねてみて、入れるならそのまま入って、ダメならそのまま帰るだけだ。

「入れたらいいなぁ」

「なあ、一応聞いとくけど、何のために入るんだ?」

 確認は入れとかないと。

「大半は興味だけれど」

「・・・おう。けれど?」

「お城の関係者に家族がいないか確かめてみたくて」

 まあ、そんなことだろうとは思ったが。

 お城の関係者となると、王族関係者を筆頭に、大臣だとか、士官だとか、兵士だとか、色々いるだろう。その中にいる可能性はゼロじゃあないにしても、ほとんど無いと俺は思う。


 上の立場であればあるほど、森に捨てるっていうリスクは高すぎる。


 首都からコトンの外れまで相当離れちゃいるものの、道中、それなりに人に見られるものだ。

 特にベズンやコトンも小さい街。見慣れない人間が子供を連れて移動しているなら、嫌でも目に留まる。馬車の幌付き荷台に乗っているのならまだしも、それですら目につく。

 下の下の士官とかならまだしも、王族ならそれなりに顔も知られているだろうし、下手なことをすれば自分の首を絞めることになる。

 仮に王族なら政治生命にダメージを負うことに繋がってくる。ダメージというより、致命傷になり得る。

 そう考えると、俺だったらそうはしない。もっと別の方法を考える。

 ・・・どうしてもやらなきゃいけない理由があるなら、やるだろうが・・・

「まあ、確かめてすっきりしたいよな」

「そうそう!」

 もう残すは二日のみ。装備を受け取ったらその足でボルドウィンを出る。

 可能性はなくもないにしても、ボルドウィンに戻ってくることは恐らくない。

 ここでやれることは最低限やっておかないと後悔する。

 大して調査なんてしてないし、大なり小なり俺は後悔しそうだが・・・

「・・・ん?」

 城門まで戻ると、見慣れた人物がいた。


「では、またのお取引をお待ちしております」


 マーベルさんだ。

 そこそこ歳を食った・・・初老というのか、それくらいの歳の、黒いローブを羽織った男性といる。

 だが、すぐに別れてしまった。

「おや、キリヤさんにフェリーチェさん」

 向こうも俺たちに気付いた。

 相変わらずの大きな荷物を背負ってこっちにやってきた。

「キリヤさんたちもこちらに何か御用でしたか?」

「いや、俺たちは特に。この辺りを散策してなかったんで、今日は散歩がてら来てみただけです」

 ある程度はその通りの話をしておいて、

「マーベルさんはここに何の用で?」

「私は商売です」

 マーベルさんは懐から手帳を取り出して、

「ボルドウィン政府とは商売をさせていただいておりましてね」

「ほお」

「主に保存食なんですが」

「保存食か・・・」

 長期保存が可能な食品。キャンプだけじゃなく、ロードバイクなんかでも使われていて、そっちでは携行しやすい食品・・・携行食なんて呼ばれたりもする。

 例えば、こっちでも見つけたナッツバーとか、某薬品メーカーが出しているようなビスケット系の栄養補助食、ゼリーなんかもこれに該当する。

 腹いっぱいになることはないが、必要な栄養を補給できる。しかも、持ち運びがしやすい。地球だとスポーツとかおやつ代わりに食べられることが多いが、いつ食べられるか分からない長旅にも向いている。これが携行食の強みと言える。

「ボルドウィンは近々、モンスター討伐を大々的に行うようでしてね。必要な備品を準備している最中というわけです」

「大規模のモンスター討伐・・・?」

 なんか、あまり良い感じのイベントじゃなさそうだな・・・

「ワクワク!!」

 赤ん坊のほうはいつでも行けるぞ!って感じになっちゃってまあ・・・

 俺たちは行かないからね?

「それってどういう目的で実施するんです?なんか被害が大きいとか?」

 国のやることを教えられるわけがないだろうが、一応探りを入れてみるか。

「私も詳しいことは分からないのですが」

 教えてくれるんかい。

「ここのところ、ボルドウィン界隈・・・特に北側に強いモンスターが出ているようなんです」

「おお~!面白そうだねぇ!」

 こいつ・・・やっぱり戦闘民族か?

「普段はそんなにいるもんじゃない・・・っていう風に聞こえるんですけど」

「おっしゃるとおりです。ここ数日くらいでしょうか。肉食系モンスターが多く見かけられるようになったのは・・・」

 ここ数日・・・?

「大手もそうですが、私のような個人の商人にもお声が掛かるくらい、政府も慌ただしく動いている状態のようですね」

 初めてボルドウィンで道具を探した時、色んな物が無くなっている状態だった。

 まさかこれの影響か?

 個人の商人・・・しかも露店のほうまで手を伸ばして道具やら食品を買い集めないといけないくらい?

 どんだけ大規模で動こうとしてるんだ?


 寧ろ・・・それくらいで動かないとヤバいヤツが相手ってことか?


 いかん。嫌な未来しか見えない。

「ワクワクが止まらないねぇ!」

 こいつ・・・気合入れたら髪が逆立って色が変わったりとかしないだろうな?

 いざとなったらできそうで本当に怖い。

「・・・しかし」

 もう一点気になることがある。


 ここ数日でこの現象が起こっているってことだ。


 俺たちがボルドウィンに来たタイミングとある程度一致している。

 詳しい日数が不明だってのが何とも言えないところだが、奇妙な印象を持ちやすい。

 偶然かもしれないが、それにしてもタイミングが合いすぎる。

「・・・キリヤさん?」

 俺の考えすぎならいいが・・・

「ああ、いえ、すみません」

 今は考えても仕方がないか。そもそも、俺たちが来たタイミングでモンスターが動きだすなんか、想像すらできない。

 俺たちもそうだが、相手も自然の物。野生だ。

 大災害で住処を追われて・・・とかは想像できるが、それ以外は分からん。

 そういうことがあった、と頭の片隅に置いておくくらいがちょうどいいだろう。

「ところで、この王城って俺たちでも入れたりします?」

 本来の目的に戻って、

「入りたいのですか?何の目的で?」

「興味本位ですね」

 王城に勤めている人間にヴェロニカの親がいるかも・・・なんて話はしない。

 マーベルさんには田舎町の若い夫婦が娘を置いて蒸発したってことにしてあるわけだし、そんな話をしたら辻褄が合わなくなる。

「うーん、難しいですねぇ」

 やっぱりね。難しいよね。

「普段はある程度のところまでなら公開していますが、今はモンスター討伐で忙しく、閉鎖しているようなんです」

 大規模の対策を前に、観光案内なんかしてる場合じゃないもんな。

「残念だなぁ」

 何かヒントでもあればと思ったが、こればっかりは仕方がないな。

「ですが」

 マーベルさんが右手の人差し指をぴんと立てて、

「私と一緒なら入れますよ」

「おお!」

「んんん?」

「私も政府と商売をしている都合で、中に入ることがありますしね」

 そりゃそうか。さっきまで中にいたんだもんな。そりゃあ、出入りはできるよな。

「ですが、簡単にお連れするわけにはいかないので、助手という形でなら可能でしょう」

 助手ならいそうだし、理由としては最適解かもしれん。

「一つ問題があるとするなら」

「なら?」

「先ほど取引を終えたのですが、すぐにまた入るとなると、それなりに理由が必要になる・・・と言ったところでしょうか」

 そこかぁ。

 また商売で入るっていうことになるわけだし、理由は必要だよなぁ。少なくとも、売る物の一つや二つは用意しておかないと不自然だ。

「今最も必要な物資は武器ですが、私は武器は扱わないと決めていますし、保存食は先ほど済ませてしまいましたし・・・」

 売れる物が無い、か。

「だったら、薬品関係は?」

 一応、提案はしてみるか・・・

「ほう」

「モンスター討伐なら、大なり小なり怪我はしますよね。薬品も必要物資の一つのはず」

 キャンプでも最低限の医薬品や絆創膏・・・つまり、ファーストエイドキットは準備しておく。人によって内容は様々だが、緊急時のための備えはしておくもの。

 ゲームでもそうだろう。体力回復の傷薬とかポーションとか、そういうものはある程度揃えて進行する。

 ラヴィリアでもある程度の常識は共通している。薬品は必要なはずだ。

「・・・一応、やるだけやってみましょうか」

 素直に事は進まないらしく、

「・・・何か問題でも?」

「ボルドウィンはヒーラーをある程度揃えていますので、直接薬品を扱う機会があるかどうか・・・」


 ヒーラーってか!


「そういえば、ヒーラーっていうジョブもあったねぇ」

 なるほど、そういうのもあるんだな・・・

 ヒーラーと言えば、回復専門職。傷を癒し、毒や麻痺といった状態異常を消し去り、力尽きた仲間を蘇生する。パーティに必要不可欠な存在とも言える存在だ。

 自分が選ぶことはない・・・っていうより、目の前の現実がきつ過ぎて、確認できていなかった。

 そりゃあ、ヒーラーがいれば薬品は要らんよなぁ・・・

「最低限の備蓄はあるはずですし、そこを狙うのはなかなか難しいかもしれません」

「で、す、よ、ねぇ」

 最低限の備蓄っていうのは、ヒーラーの回復が追い付かなかったり、体力を温存するために使う分とか、そういう程度だろうか。

 薬品系は難しいか。

 だったら他に何がある?

「・・・まあ、やるだけやってみましょうか」

「・・・え?」

 まさかのワンチャンいってみる感じ?

「備蓄があるかどうかは私も把握しきっていません。保存食のオーダーを受けただけですので。もしかするとチャンスはあるかもしれませんしね」

 この女の人・・・出来るな。やっぱ。

「ただし」

 マーベルさんはにっこり笑って、

「ちょいと手間が掛かります。少しだけ、依頼料をいただきたいですね」


 ・・・出来過ぎだな、こりゃあ・・・


 足元見やがって・・・と思うが、本来の自分の商売を終えた後に無理を言ってる状態だ。

「商売上手だねぇ、マーベルさん」

 上手すぎるな。

 商魂がたくましいというか何というか。なにわの商人ってこんな感じなのかもしれん。

 まあ、なにわの商人タイプに出会ったことが無いから分からんけど。

「・・・これくらいでどうです?」

 財布から五千フォドルを出してみると、

「うーん、もう少し」

「む。ううん」

 こっちも無限に金が湧き出てくるわけじゃないんだぞ・・・

 少なくとも、これからも旅を続けないといけないわけだし、お金はこっちも必要なんだよ・・・

「・・・これでどうです?これ以上は難しいかな」

 追加で千フォドル。合わせて六千フォドルをマーベルさんに渡した。

「ふむ、まあ、いいでしょう」

 マーベルさんは六千フォドルを財布にしまい、

「行きましょうか」

「またお金が出ちゃったねぇ」

 全くだよ・・・


 *


「すみません、個人で行商を営んでいるマーベル・ローランドですが、備品を管理されている方とお話をさせていただきたく」

 マーベルさんと一緒に城の敷地に入った。

 中は思いの外広かった。

 外観と同じようにしっかりとした石造りで、石畳もきれいに敷き詰めている。

 植込みも要所要所に植えられていて、手入れも行き届いている。管理もしっかりしていそうだ。

「結構人も多いねぇ」

 モンスター討伐の件があるからだろうか、行き交う人間は多いように思える。

 甲冑を身に着けているヤツがいたり、ローブを羽織っているヤツがいたり、軽装で弓を持ったヤツがいたりと、結構ジョブの幅は広そうだ。

 簡単に建てられたテントの中に、大きな木箱を保管してある。

「ありゃあ武器が入ってるのか」

 兵士が蓋をこじ開けて中から剣を取り出していた。

 取り出した数は十本。一箱に十本で、それが二十箱。合計二百本か。

 単純に剣士を二百人動員する・・・そう考えれば相当な数だと思うが、他にも木箱があって、それには槍なり杖なり、色々入ってるんだろう。

 北の現場は相当荒れているのかもしれないな。

「何か気になる点はあるか?」

「う~ん・・・」

 ヴェロニカはきょろきょろ見渡すが、

「今は特にないかなぁ」


 ちょっと前にあった、夢の話・・・


 あれが本当なら、どこかで何かしらのやり取りがあったことになるが、如何せん真っ暗な世界でのやり取り・・・ボルドウィンかどうかすら定かじゃない。

 気になる点があるとかないとか・・・そういうレベルですらないかもしれん。

 だが、ちょっとでも気になる点があれば、そこから何か拓ける可能性はある。

 そのために、わざわざ六千フォドル払って無理言って入ったんだ。

「おや、少ないのですか?であれば、私が卸すことも可能ですが・・・」

 少し離れたところで、マーベルさんの商談は続いている。

 ほんの少しだけでもいい。少しでも長く仕事してくれ。こっちはこっちの仕事をする。

「お城の中も見たいかなぁ」

「・・・だよなぁ」

 仮にお母さんだとしておくが、ヴェロニカに対して泣くほど謝っていた・・・

 そんなことを、公衆の面前でするわけがない。どこかの部屋だと想像するのは簡単。

 となれば、城の中に入りたいところではあるが、さすがにそこまで踏み込めないだろう。

「何かいい方法はないかねぇ」

 そんなに簡単に入れるわきゃないんだが・・・

「おーい、この箱を倉庫に持って行ってくれ!」

「了解です」

 とある兵士同士のやり取りが目に入った。

 何の物資かは分からないが、城内に持って行くらしい。

「ったく、人手が足りんなぁ」


 都合のいい話だが、やってみるか。


「忙しいなら、俺が中に持っていきましょうか?」

 持ちかけてみると、

「あ・・・いや、商人を中に入れるのはいかんよ」

 とまあ、こうなる。

 それは俺も承知済み。

「ちょっとでも早く終わらせたいでしょ?俺も商人の端くれですし、機密は守りますよ」

 あんたたちが守ろうとする内容なんか、俺にとっちゃあどうでもいい話。

 知りたいのは中の雰囲気だけ。入れりゃこっちの勝ちだ。

「んぐぐ・・・」

「その箱を持って行きゃいいんでしょ?楽勝よ」

「それはそうだが・・・」

 もう一押しかな?

「早く終わらせて、一杯飲みましょうぜ、旦那」

「そ・・・そうか?」

 よし、キタァ!

「じゃあ、これを城内の倉庫に持って行ってくれないか。そこの扉を入ってすぐに右に曲がって、そのままずっと真っ直ぐでいい」

「あいよ」

 ヴェロニカを抱っこ紐代わりのロープで固定しておんぶしてやり、木箱を受け取った。

 入ってすぐ右、ひたすら真っ直ぐ。単純な通路だ。

「頼んだぞ!余計なところに行くなよ!」

「分かってますって」

 そういうのをフラグを立てるとか言うんだよ。

 俺たちは木箱を持って城に入った。

「案外チョロいな、ここの兵士」

「よっぽど疲れてるんだねぇ」

 普通、一杯飲もうぜで行かせはしないだろうよ。

 俺たちだからこの中の機密事項なんかどうでもいいけど、敵対国家の連中だったら大変なことになるぞ。

 忙しいからか、正常な判断ができていないと思われる。

 俺にとっちゃあどうでもいいことだし、ありがたい話だが。

「すぐに右に曲がってだな」

 とりあえず、自分から買って出たことくらいはやっておかないとな。

 ということで、入ってすぐ右の通路へ。

「分かりやすい道で助かるねぇ」

 いくつも通路があるもんだと思っていたが、入った先がすでに壁で、左右どちらかしか行けない道だった。方向音痴でも分かるレベルで助かる。

「で、どうだ?何か引っ掛かるところはあるか?」

 倉庫に行くまでの間くらいしか調べられないが、

「・・・なんか違う気がするなぁ」

「・・・例えば?」

「うーん、言葉にするのが難しいんだけど、ここじゃない気がする」

 ヴェロニカも考えているようで、

「質感・・・匂い・・・温度?なんか色々」

「・・・雰囲気か」

 色んな言葉があるけども、挙がった三つを踏まえて考えるなら、雰囲気が適当なんじゃないかと思う。

「ここは固い感じがする。匂いも石っぽいし、冷たい。夢で見た世界とは違う気がするなぁ」

 最早、ヴェロニカの感覚が頼り。

 俺がどうこう言えるもんじゃないし、言う言葉も見当たらない。

「・・・そうか。なら、しょうがないな」

 そういうこと・・・ということだ。

「さっさと用事を片付けて出るか」

 雰囲気でしか分からないが、ここに何も無いと分かったのなら、さっさと引き上げるのがいいだろう。

 というか、マーベルさんに黙って来たわけだし、心配される前に合流しないと。

「ああ、ここか」

 突き当りまで行くと、扉の付いた部屋にたどり着いた。

 開けてみると、

「なんだ?君は・・・行商?」

 さっき遣いに出された兵士がいた。

「ああ、忙しいから中に持って行ってくれってお願いされまして。これ、お願いします」

 妥当な説明をして木箱を手渡し、引き上げる。

「何にも無いかぁ」

「無いこた無い。何も無かったってのが収穫だ」

 すること全てに意味があることなんて無い。意味の無いことだってたくさんある。

 どこの誰かも分からない子の親を見つけ出す・・・そんな雲をつかむようなことを、すぐに解決なんかできるわけがない。そもそも、一生を掛けても解決できないレベルの問題だ。

 現代の地球なら、SNSを使えば繋がる可能性はある。もしかしたら、だが。

 そういう技術が無さそうなこのラヴィリアで、集められる情報は自分の足で稼ぐしかない。

 途方もない時間が掛かる。ヴェロニカにはそれなりに自覚してもらわないといけないかもな。

「ああ、いらっしゃった!どうして城に入っているんです!探したじゃないですか!」

 商売の話は終わって、探していたらしい。

「すみません。上手いこと言って中に入らせてもらったんですよ」

「そんな簡単に入らせてくれるわけないじゃないですか!」

「まあまあ、その辺はねぇ」

 案外、入れまっせ。

「全く・・・」

 他にも何か言いたそうな顔をしているが、

「とにかく、商売は終わりましたし、このまま居続けるのは難しいですよ」

「なら、出ましょうか」

 こっちもこれ以上は用事無いし、さっきの兵士たちが余計なことを言ってトラブルになる前にとんずらしますか。

「ご協力、ありがとうございました」

「いえいえ、では、二日後に」

 城の敷地から出た俺たちは、マーベルさんと別れた。

「残り二日間はどうするんだい?」

「今日みたいに街をぶらぶらしてみるか。そこで何か見つかればそれでいいし、無ければ無いでしょうがない。後は長旅に備えて携行食を買っておこう」


 もうすぐ、本格的な旅が始まる。

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