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ボルドウィンで寝泊まりをするようになって、割と神経を使ってきた。
誰が味方か敵か・・・とか、そういう問題じゃないけども、誰を信用できるのかとかを考えると、ゆっくり休めなかった。
特にアパート爆破の一件は効いている。
どこにいても神経を尖らせざるを得なかった。
でも、危険感知のおかげ、少しは楽になった。
敵意が持っているヤツが分かるっていうのは、この状況に置いてはかなり便利だ。
気を抜いていても、そういう意思とか視線を検知したら作動する。それまではどれだけぼーっとしてても問題ない。
フレアバレットみたいに攻撃するのに時間が掛かるわけでもない、常時作動のアクティブスキルっていうのもいい面がある。
どうやら、オン、オフも切り替えができて、パスポートで操作をすれば選択ができるらしい。これも地味に嬉しい。
さっさと取得しておけばよかった。使えるものは使うってのは重要だな。
「ん・・・朝、か・・・」
少し明るくなってきて気付いて目が覚めた。
廃工場だって言っても、残っていた木箱を組み合わせた簡易コットだったり、寝袋だったり、時間を気にしない辺りはキャンプに共通しているところだろう。
その辺りにストレスは感じていないが。
「・・・あん?」
感じちゃいないが、何かがおかしい。
「キリぃぃぃ・・・」
ヴェロニカの声もおかしい。
テレパシーで聞こえる感じはいつもどおりだが、生の声は泣いているように聞こえる。
「どうし・・・って、ちょお!?」
ヴェロニカが泣きながらもぞもぞしているから気付いた。
おもらしされてるぅ!!
「おまっ、どうした!」
違和感はこれか!
急いで寝袋のボタンを外して外に出た。
「おおおおお・・・盛大にやりましたなぁ」
上着がもうべちゃべちゃだ。
濡れ感からして、そんなに時間は経ってないと思う。俺が目が覚めるよりちょっと前とか、タッチの差くらいかな?
「ごめんよぉぉぉぉ」
「おお・・・」
―――最近、ヴェロニカと一緒に寝袋で寝るようにしている。
理由はいくつかあるんだが、大きな理由としては、ヴェロニカの体力の温存だ。
エアシェードは快適な温度に自分の周りの温度を調整できるが、一晩中使うのは相当疲れるらしい。
体力も無限じゃないし、装備も整ったわけだし、無理をしてスキルでやり過ごす必要はない。
それに、単純にぬくい。これに尽きる。
人肌がどうこうとかよく言うが、バカにはできん。最終的に暖を取るのはこういう方法になる。それくらい温かいし、温かくなるスピードが速いし、何よりも簡単だ。
そこにいやらしい意味も気持ちも全く無い。
提案した時、さすがのヴェロニカも了承するのに時間が掛かったが、
「まあ、すでに裸を見られているわけだし、今更かぁ」
などと納得して、楽に暖を取れると割と満足そうに眠っていた。
この対策がこういう形で牙を剥くとは・・・俺が浅はかだったか?
それはそれとして、気になることがある。
「しかし、珍しいなぁ。いつもなら教えてくれるだろうに」
いつもなら、自分から尿意があれば教えてくれる。この旅を始めてからずっとそうだった。まあ、間に合わないこともあったが。
最近はそういう面と上手く付き合ってきたから、事前に済ませたりして回避できていたけども、今日に限っては間に合わなかったのか、それとも別の原因があるのか。
大抵、間に合わないほうなんだろうけども。
「ごめんねぇぇぇ・・・」
泣いて謝っているので怒ることもできず・・・
いや、最初から怒ることなんてないけども。だって、赤ん坊なんてそんなもんだろう。
唯一違うのは、ヴェロニカの意思で色々教えてくれることくらい。
被弾するのは初めてじゃない・・・ってのもあるだろうが、
「・・・やっちまったもんは仕方がないだろ」
顔をぐちゃぐちゃにして泣いている子を怒るほど、俺は鬼じゃないんでねぇ・・・
「そういう時だってあるさ。生きてりゃ」
そういえば、こんな風に泣くのは初めて見る気がする。
というか、本気で泣くのが初めてか?
本物の赤ん坊みたいに、泣くことでしか異常を伝えられないわけじゃないし、テレパシーで大人と一緒のやり取りができるわけだから、その必要性がない・・・っていう一面はあるかな。
「とりあえず、体と寝袋と服を洗おう」
ヴェロニカを寝袋から出して、
「まず、ヴェロニカはお湯を作ってくれ。俺は水道で寝袋をざっくり洗ってくる」
「分かった」
ヴェロニカは早速アクアで水を生成して、フレアで温めに掛かる。
俺は一旦下に下りて上着を脱いで、洗面台に寝袋と脱いだ上着を置いて蛇口を捻り、水を掛けていく。
本来、羽毛に水を掛けるのは良くないんだが・・・こればっかりは仕方がない。
洗って、エアとフレアのコンボを使って乾かせばある程度はどうにかなるだろう。
それに、こういう時のための備品もある。
「できたよー」
「おう、ちょっと待ってろ」
ざっくりと揉み洗いをしてから、水を掛け続ける。
これでしばらく水洗し続ければ汚れは落ちるだろう。油汚れとかじゃないし、いけるってことで。
こっちはしばらく放置。
上に戻って、
「桶とカップの二分割にするから、先にカップに注いでくれ」
「はーい」
カップに注ぐのはミルク用。
空中に浮いているお湯を器用にヴェロニカ用のカップに注いでいる。
それが終わったらヴェロニカを抱え上げて、浮いているお湯を連れてもう一度下へ。
「残りはこっちな」
俺がこっち、と指定したのは木でできた桶だ。
「それはお風呂だね」
「そうそう」
潜伏生活を初めてすぐに工場内を物色して、桶を見つけた。
状態も悪くなかったから、きれいに洗えばヴェロニカ用の風呂にできるってことで、そういう用途で使っている。
ラヴィリアでの使い方は知らないが、こういう物はどういう使い方をしようと構わんのだ。
使えればそれでいい。
「よし、オッケー」
残りのお湯を桶に溜められた。
「ちょっと飲むには熱いかな?」
桶のお湯の温度を確認して、
「先に風呂にしよう」
桶の側に準備しておいた白い個体を準備して、
「複製!」
その個体を増やした。
「複製を覚えたんだね」
「まあな」
俺が増やしたのは石鹸だ。
複製は消耗品とかを増やせる便利スキル。
手を洗う、顔を洗う、髪を洗う、体を洗う、皿を洗う・・・結構、石鹸を使う場面は多い。
一つや二つくらいでは、すぐに無くなってしまう。俺は多少我慢できるとしても、ヴェロニカは清潔にしておかないといけないから、そっちをサボれない。
他にも使い道があって複製を習得したが、消耗品は本当に必要だから、何よりも優先順位が高かったのはここだったというわけだ。
「よし、服を脱いでお湯に浸かろうな」
一旦ヴェロニカの背中をこっちに向けて、服を脱がせる。
向かい合わせで脱がせないのは・・・最低限のエチケットということにしておいてほしい。
ただでさえ異常なプレイをしているような感じになってるんだ。ちょっとでも道を逸らしておかないと俺がおかしくなる。
「熱くはないか?」
お湯に真っ裸のヴェロニカの足だけを先に浸けさせ、
「大丈夫!」
「よし、じゃあ体と頭を洗おう」
桶に入れさせて、お湯を頭から少しずつ掛けてやる。
「気持ちいいねぇ」
「それは何より」
おしっこでしか汚れてないし、そこまでガッツリ洗わなくてもいけそうだ。
「ついでに頭も洗ってやるか」
複製で増やした石鹸を少し溶かして、両手で泡立ててからヴェロニカの頭を洗い始める。
「おおお、気持ちいいねぇ!」
ヴェロニカの髪の毛は、赤ん坊らしくほどほどに生えている感じ。
どうやら、少ない子もいるし、多い子は産まれた時からふさふさってこともあるらしいが、ヴェロニカは少なくも多くもない・・・気がする。
俺にそんな基準が分かるか!
自分の子供でもあるまいし、そんなにまじまじ観察することもないし、そんなに数も見てないから分からんわ。
「・・・それにしても」
ふと思ったが、髪の毛の量が増えている気がする。
こうやって洗うとそう思えるんだろうか・・・?
「・・・もう少しお湯を作ってもらっても?」
「お安い御用だよ」
毛量の話はさて置き。
追加のお湯を作ってもらいながら、今度は着古した上着に石鹸をこすり付けて泡立てる。
「今度は体洗うぞ」
「・・・毎度のことながら、この時は言葉にできない感情がふつふつと込みあがってくるね」
「言うな。毎度のことだから言うな」
俺だって言うに言えない感情を抱いてお前の体を洗ってるんだ。
もう言いたくないけど、異常なんだよ。こういうことをするのが、だ。
「両手挙げて」
「ほい」
気を取り直す・・・取り直すのか?
言葉の選択が微妙だが、気持ちを切り替えていくぞ。でなきゃやってられん。
「お湯できたよ」
「おう、ちょっと待って、な」
全体的に洗えたから、一旦ヴェロニカを桶から出して洗面台へ。
「つめたっ」
さすがに石造りの洗面台は冷たいわなぁ。
「もう一回お湯に入れてやるから我慢しとくれ」
石鹸が溶けたお湯を一旦捨てて、ヴェロニカをもう一度桶の中に入れてやり、
「洗い流すぞ」
空中で静止しているお湯を、別の小さな桶ですくって、ヴェロニカに頭から掛けてやる。
全体的に泡を洗い落として、桶に溜まったお湯をもう一回捨てて、残りのお湯を溜めてヴェロニカを入れた。
「おー、あったかいぃ」
これじゃあ温泉に浸かるおばあちゃんじゃないか?
「それはよぅござんした」
まあ、それはそれでいいけどさ。
こんな生活をしていると思うけど、風呂って結構偉大だよなぁ。
ただでさえ落ち着かない廃工場での生活。昼夜逆転とまではいかなくても、生活リズムは崩しがちだし、飯も外食に頼りきりで、栄養バランスもへったくれもない。
そんな中で唯一落ち着けるのは風呂くらいだろう。
汗も流せるし、お湯のありがたみが分かる。これが温泉だったらもっと良かったんだろうが、それは贅沢を言いすぎか。
「キリは?」
「俺は頭と顔と上半身を洗えればいいかな」
お湯はもう無い。水道の水をそのままいく。
「えっ、作るよ!ちょっと待って」
「大丈夫だ。余計な力を使うな」
複製を使う時に実感したんだが、一度使うたびにメンタルを削られる。
ゲームで言うところの、マジックポイントってやつなんだろうか。
魔法を使うなら魔力とか、エネルギー的な言葉で表現されているもんだが、どうやらメンタルとか気力とかがそれに該当するらしい。あくまでも俺はそう感じているだけで、イメージはそうだって感じだが。
そんなにガッツリ疲れるわけじゃないにしても、スキルを使うなら考えて使わなきゃダメだなと思わされた。
危険感知とかくれんぼは常時発揮だから気力を持っていかれることは無いっぽいが、複製はそれなりに計画して使わないとな・・・
いざって時に何もスキルを使えないのはさすがにマズい。
「寒いでしょ?」
とりあえず、頭と顔から洗っていく。
「これくらい慣れたモンよ」
石鹸で洗うだけでもありがたい。
それにまあ、キャンプに出掛けたらお湯が無いような場所も当然あるわけで、水で頭を洗ったりするのも慣れている。
そりゃあ冷たいことは冷たいが、極寒の世界でやるわけじゃないし、大したことじゃない。
「ヴェロニカの気力も無限じゃないし、いつ使うか分からないんだから、温存しておけよ」
複製でそれなりにメンタルを使うことが分かった。
ヴェロニカの場合、フレアとかエアシェードを使うと、それを維持する力も必要になる。
放出する力を維持するってのもそれに応じたメンタルが必要だってことはよく分かった。
無駄にエネルギーを消費してしまうのは、先のことを考えれば良くはない。省エネできるところはしておくに限る。
「わたしは大丈夫なんだけどなぁ」
「ふいぃぃぃ」
頭を顔を洗って、一旦タオルで拭く。
「冷たい水の方が気持ちがシャキッとなるから、良い面もあるんだよ」
冬場は地獄だが、気持ちを引き締めたい時は冷たい水が良い一面もある。
「上はどうするんだい?」
「上だけだし、洗面台で上手く洗うわ」
シャワーがあれば話が早いんだが、残念ながらここにそういう設備は無かった。
今更有る場所を探し求めて歩き回るのも面倒だし、それこそリスクを上げる。
上手くやれるうちは凌いでいく。
「そこまで頑張らなくてもいいと思うけどなぁ」
水で洗えるところは洗って、タオルで拭いたら俺の方は終わり。
タオルは一旦洗って、しっかり水気を絞ってからヴェロニカが浸かっているお湯へくぐらせる。
「よし、そろそろ上がるぞ」
風邪を引くのも洒落にならん。
シンプルに困るのもあるが、対応が分からないからより困る。
ヴェロニカを桶から出して、すぐに頭と体を拭いてやる。
「今日はピンクがいい」
「はいはい」
しっかり水気を拭いたら、街の洋服店で手に入れた服を着せて終わり!
朝っぱらから重労働・・・いや、寝袋と上着がまだあった。
「・・・まずは飯にするか」
俺も予備の上着を着て、ヴェロニカと一緒に二階へ。
カップに溜めたお湯が温かいうちに、ヴェロニカのミルクを作って飲ませたい。
「キリは?」
木箱にヴェロニカを座らせて、フラミルクの蓋を開けて適量をお湯に投入して溶かす。
「俺は非常食を買ってきてるからそれを食べる。まずはヴェロニカだ」
街にいちいち出ていくのが面倒・・・ってのもあるが、廃工場周辺の調査をするために、その場で済ませられる食べ物を買ってきていた。
簡単に言うところの非常食で、日本とかで言うところのプロテインバーとかチョコバーに近い。
こっちの場合、色んな木の実をざっくりすり潰して固めてあるだけの物だが、木の実は栄養価が高いし、こっちでもそういう認識があると見える。
毎食これってのも腹が減ると思うが、二日、三日くらいならこれでやり過ごせる。
個人的な一番の問題は味だったりする。
「毎度のことながらごめんねぇ」
「毎度のことだから気にするな」
*
「ごちそうさまぁ」
「相変わらず飲んだなぁ。気持ちいいくらいに」
ミルクタイムも終わって、ようやく落ち着いたところだ。
夕方までは動けないから、しばらくは待機。
俺もナッツバーを食べたら、寝袋とシャツを本格的に洗って干す作業が待っている。
他にもやりたいこともあるから、さっさとやっておきたいところだが・・・
「そういえば、今日はどうして間に合わなかったんだ?」
別に怒るとか、傷をえぐるとかをやりたいわけじゃない。
珍しいから尋ねてみたかっただけだ。
「う~ん・・・これといった原因は思い浮かばないなぁ」
ヴェロニカ曰く、赤ん坊の体は我慢が利かない。
そりゃあまあそうだろうが、ヴェロニカはもよおす場合は教えてくれるし、間に合わないことはあっても俺自身が回避することができるようになってきた。
そう思えば、こうなることが珍しいと思うのも仕方がないように思う。
それに、ヴェロニカ本人が異常な存在であることもある。
存在がおかしいから、何かしら謎があると思うのも自然の流れじゃないだろうか。
「あー、でも」
「でも?」
「夢を見たよ」
そういえば、ヴェロニカから夢の話を聞いたことがない。
「・・・夢って、どんな?」
そりゃあ、わざわざ昨日はどんな夢を見た?とかの話はしない。
しないが、こういう風な切り出しで語られるくらいだ。本人にとっても珍しいことなんだろう。
「うーん・・・はっきりとした状況は覚えてないけれど」
「けど?」
人は夢を毎晩見ているが、起きる頃には忘れている・・・という説があるらしい。
俺も強烈な内容だった夢くらいは覚えているが、大抵は見たことは見たけど内容は分からないってくらいのもの。
覚えてなくても仕方がないが、
「誰かがわたしに謝ってたんだよねぇ」
ヴェロニカは割としっかり覚えていた。
「謝る?何を?」
「分からない。分からないけれど・・・」
ヴェロニカは少し黙って、
「とても悲しそうな声だったと思う」
悲しそうな声で謝っていた・・・
となれば、なんとなく想像がつくのは、
「それ、お母さんとかじゃないのか?」
真っ先に考えられるのは、ヴェロニカの母親だろう。
何せ、理由がどうであれ、森に捨てているわけだ。
謝る理由も妥当だろう。
今の段階で母親だと断定はできないが、俺のイメージだと父親は泣くことはないし、兄弟も同じようなものだ。親戚も無くもないだろうが、泣くよりも先に非難するように思える。
あくまでも俺のイメージってだけだから、他の人がどう思うかは知らない。
ただ、全く手掛かりが無い現状、一番の有力情報であることは間違いない。
「お母さん・・・なのかなぁ」
「声の感じは?男か?女か?」
それによって変わってくるんだが、
「女の人だったと思う」
ということは、大枠のターゲットは半分に絞られた。
「お母さんかどうかは分からないけれど」
女性だと絞ることはできても、関係性はまだ絞り切れない。
身内だとは思うんだが・・・
「悲しい雰囲気だったけれど、優しそうな雰囲気もあったかなぁ」
そうなってくると、大抵母親なんだろうが・・・
「ふぅん・・・」
だとすれば、やっぱり森に捨てる理由が気になる。
今の話が本当だと仮定して考えれば、捨てたくはないが、捨てざるを得ない理由があるはずだ。
いや・・・捨てるんじゃなく、もっと言い方が違う何かなんじゃないだろうか?
どうも、俺にはそう思えて仕方がない。
「・・・他には何か覚えてないか?周りの雰囲気・・・例えば建物とか、部屋の雰囲気とか」
一旦、人物のことは置いておこう。
他にも情報が有れば欲しいところだ。それによって探すポイントが分かる。
「ごめんねぇ、そこまでは分からないんだ。真っ暗だったと思うし・・・」
真っ暗だった・・・ってことは、夜中とか、明かりの無い部屋とか?
情報としてポイントの一つになり得るが、ぼんやりしすぎて決め手に欠ける。
「まあ、謝ることじゃないかな」
「そうかもしれないけれど、手掛かりかもしれないからさ」
本人も気にはしていたらしい。
「気にし過ぎないこった。所詮、夢は夢だ」
それが正夢ならそれでいいし、それこそ手掛かりになるわけだが、夢の大半は非現実的な内容ばかりのはず。
中にはリアルな話はあるだろう。例えば有名人と会ったり遊んだりするとか。
でも、そういう内容より、空を飛んだり、モンスターに追いかけられたり、迷宮に迷い込んで延々と歩くような、非現実的なほうが多いと思う。
結構リアルな夢だとは思うが、所詮夢の話・・・
正夢であることのほうが確率が低いし、それだってどこまで本当か分からない。
本当であれば助かるが、それを鵜吞みにしない・・・占いとかでいうところの、当たるも八卦当たらぬも八卦ってやつがちょうどいい。
まあ、大抵気にしないほうが多数派だろうが、結構リアルな話なのが気になる。
話に聞く限り、割と現実味がある内容だったしな・・・
「仮に今の話が本当だったとして、一つ分かることがあるな」
ヴェロニカも黙ってしまった。気にしているんだろう。
声を掛けてやれることがあるとするなら、
「その謝ってる人がお母さんだったとしたら、ヴェロニカのことを嫌いで手放したんじゃないってことだよ」
本当に嫌いなら、謝ることはしない。
捨てることに対しても罪悪感もないだろう。
「そうかなぁ・・・」
「悲しそうに謝ってたんだろ?だったら、たぶんそうだよ」
たぶん、としか言えないところが辛いところだが、
「・・・俺がいた世界だとな、子供に酷いことをする親は珍しくないんだ」
ニュースで見たくらいの情報量だが、ある程度はヴェロニカと共通していることもある。
「例えば・・・そうだな。言うことを聞かないからってご飯をあげなかったり、物置に閉じ込めたり、暴力を振るったりする奴もいる」
「え?そうなの!?」
頷いて返してやりながら、
「家に置き去りにしたまま遊びに出かけたりする奴もいる。大体、そういう連中に共通しているのは、子供を死なせたり、深い傷を負わせたりしてることだな」
栄養失調で死なせたり、怪我が原因で死なせたり、真夏で空調の利いていない部屋とか車に残して熱中症で死なせたり、再婚相手の暴力だとか。
他にも色々あるが、ニュースの情報だと子供を軽視し過ぎているケースが大半だ。
鬱陶しいとか言うことを聞かないとか、俺は体験したことがないから分からないが、あることはあるだろう。相手は小さい子供なわけだし、聞き分けのいい子ばかりじゃない。全部が思い通りにいくわけでもない。
そういう親は自分の子にどういう気持ちで接しているんだろうか?
自分の子に愛情は無いんだろうか?
俺の感覚だと、ヴェロニカのお母さんかもしれない人は、最低でも愛情はあった。そうせざるを得ない理由があった・・・そう思える。
いや、そうであってくれっていう願いが強いかもしれない。
「だからまあ・・・慰めにしかならないけど、お母さんはヴェロニカのことを考えてたと思おう。そのほうが気持ちも楽だろ」
夢が本当じゃなかったら、考えてもどうしようもない話だし。
本当なら、そこに希望を持ったほうが前向きになれる。
気の持ち様ってところが辛いところだが、こればっかりは仕方がない。
「・・・そうだね」
「な」
ヴェロニカは泣いていた。
おねしょした時はわんわん泣いていたのに、今は声を殺している。
「調査、がんばろうな」
「・・・うん」
*
泣いて疲れたらしく、ヴェロニカは眠ってしまった。
穏やかな寝顔のように見える。
俺が掘ってしまったことで辛くなってしまったんだろうが、上手く折り合いをつけてくれたらしい。正直、助かった。
「しっかし・・・」
ヴェロニカが見た夢・・・あれは本当の内容なんだろうか?
慰めている時にも思ったが、夢は夢。本当であることのほうが確率が低い。
そこを信じて探すのも無理がある。
ただ、妙にリアルな感じの話だった・・・
仮に本当だったとしたら、謝っていた人物が母親だったとしたら、結構闇が深いんじゃないだろうか?
今気にしても仕方がないのも確かだが、気になるのも事実。
「・・・とりあえず、やることをやらないとな」
ヴェロニカに予備のシャツを掛けてやり、ナッツバーを食べながら、汚れた寝袋とシャツを洗いに下りる。
「これを片付けて干したら、マーベルさんに会いに行かないとな」
用事ができた。
ボルドウィンでの調査も当然するが、それももうやってもやらなくてもいいレベル。
これからこの街を出た後のことを考えないといけない。
夕方まではゆっくりするわけだし、考えをまとめておかないとな。




