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 さて、赤ん坊の取引に応じたのだが・・・


 正直、見通しが悪すぎて怖い。

 一つだけ見えるものがあるとすれば、それはたぶん、きっと、闇というヤツだ・・・


 酷いことにならないように祈る・・・そしてそういう状況にならないように持っていかないといけない。


 ・・・やること、多いなぁ。


「それで、えーと、ヴェロニカさん」

「うむ!何だね?えーと・・・ごめんなさい。名前を聞いていなかったね」

「お、おう・・・」

 そういえばそうだった。

 ヴェロニカは話の流れで名乗っていたけど、こっちはそういう隙がなかった。

「高見 桐也っていうんだ」

「タカ、ミ、キリ、ヤ?珍しい名前だね」

 そりゃあまあ、ここは異世界ってやつなわけで。

 日本人的には普通な感じなんだよ、これ。欧米人だって、順番が逆なだけで苗字も名前もある。

 そういえば、こっちはどうなんだろう。

 いや、とりあえずそれは一旦除けておこう。今しなきゃいけない話はこれじゃあない。

「それじゃあ、キリって呼んでもいいかな?」

「え?いきなりあだ名?いや、それは好きにしてくれ」

 ツッコミどころがあるから多少言ってしまう。だけど、それじゃあ話が進まないんだ。

「それじゃあキリ。君は質問があったんだよね?それを聞こうか」

「尋ねたいことはいくつかあるんだけど、まずはヴェロニカが何者なのか知りたい」

 基本的な話として、目の前の赤ん坊が何者なのか。そこからだろう。

「それはなかなか難しい質問だね」

「・・・は?」

「その質問に関しては、すぐに完璧な答えを教えることができない。だから、満足はしないだろうけれど、今可能なところまで答えるよ」

 なんだろう。遠回しに答えたくないのか?

 そこを今疑っても仕方がないんだけど、若干引っ掛かる感じがある。

「まずはわたし、ヴェロニカという存在のことを話さないといけないかな。わたしはね、見た目は赤ちゃんなんだけど、実際は十八歳になっている美少女さ」

 ・・・うん、引っ掛かることを二つ言った。

「十八歳?」

 とりあえず、一番違和感のあるほうから解決しよう。

「あれ?美少女のところはスルー!?」

 なんだろう、このノリ。実はここ、日本なのか?

 実は俺、今ドッキリか何か仕掛けられてる?何かの番組?

「まあ・・・いいでしょう。そう、信じられないだろうけれど、実は十八歳なんだよね」

 見た目はどう見ても赤ん坊。生まれてすぐっていう感じではないけども、それでも一歳くらいだ。

「・・・こっちの世界の人間は十八歳くらいまでそういう風貌なのかな?」

「さすがにそれはないよ」

 そういう世界もあるだろうけど、ここはそうではないらしい。

 では一体なぜ、ヴェロニカはそういう風貌なんだろうか?

「そこがわたしもよく分かっていない部分なんだよ。この点ですでに完璧に答えられないってわけ」

 別に完璧を求めてはいないけど、なるほど。そういう理由があって引っ掛かるわけか。

「実は十八歳の自称美少女っていうことは分かった。理由もよく分からない、と。なら次の質問。ちょっとした好奇心なんだけど、どうやって喋ってる?」

 たぶん、見た感じは生後半年くらいってところか?

 それくらいの子が喋ることはできないはず。

 何かで知ったことだが、赤ちゃんが喋るようになるためには色々な要素があるらしい。

 相手の言葉を音声と聞く力。

 音声を言葉として聞き取る力。

 その言葉や音声の意味が分かること。

 自分の脳に蓄積されていく言葉や音声を見つけ出す力。

 蓄積されていく言葉を使って考える力。

 ・・・などなど。他にも色々あった気がするが、とにかく必要なのは、大人が発する言葉を音声として認識して蓄積していくこと。要は経験というわけだ。

 そういう意味では、ヴェロニカはほとんどの条件を達成していると言える。

 ただ、人間の言葉を聞いたことがあるのかが分からない。それがなければ、人語を喋ることはできないはずなんだが・・・

 まあ、理論的は話はともかくとして、出会った当初から彼女の口は動いていなかった。常識的な知識では理解しきれない何かが作用していなければおかしい。

「それはわたしが魔法を使って意思疎通を行っているからだよ」

「魔法?」

 おっと、ここで異世界感を出してきたか。

「君にも分かるかな?テレパシーっていう力だよ」

 魔法がこの世界では常識的な力なのだろうか。

 俺の認識が合っているかの問題もあるかもしれないけど、そもそもテレパシーって魔法なのか?

「確かに今のわたしは喋ることはできないけれど、テレパシーを使って他人と意思疎通を図っているんだ。例えば」

 突然、空から鳥のような生き物が降りてきた。

 パッと見、猛禽類のような感じがする。鷹か何かか?

 それにしても、角のような物が見える。この世界特有の動物なんだろうか。

「この鳥はホクスという力のある生き物なんだけど、この子にもわたしがテレパシーで語りかけているんだ」

 人だけじゃなく、他の生き物にも作用しているようだ。

 自分が使うかどうかは話は別として、かなり便利な力なんじゃないか?

 まあ、俺には使いどころが見えないんだけども。

「わたしは何故か人としての成長がおかしい。ずっとこの姿のままなんだ。だから、町に行って必要な物が買えない。それどころか、自分のおしめを洗うことすらできない。ギリギリ脱ぐとかはできるけど」

 幼稚園児でさえ、自分で靴下をはけない子がいるくらいだ。赤ん坊だと何もできないだろう。

「だからこうして、この森の動物たちに助けてもらっている。幸い、みんな親切だったから助かってるよ」

 その鳥は一体何をしてくれるのだろうか。

 おしめを洗うと言っていたけど、それは何の動物が担当するんだろうか。

 いかん。知れば知るほど謎が深まる。

「とりあえず、テレパシーで意思疎通を図っているってことは了解だ。他にも色々聞きたいことはあるんだけど、一番気になるのは俺に何をしてほしいのかってことだ」

 先ほど、自分の頼みを聞いてくれと言われた。

 仮にここで生きていかなければいけないというのであれば、最低限誰かからこの世界の常識や稼ぐ手段とか、その他もろもろを知らなければいけない。

 頼れる人もいないし、話に乗るしかなかったので仕方がないのではあるが。

 その頼みの内容が本当に気になる!

「せめて死なないようなやつで頼めるとありがたいんだけど。っていうか、こっちでもまた死ぬような思いをしたくはないんだが」

 軽自動車にはねられて死ぬ。その直前にどういうわけか助かったんだけど、そういう思いは二度としたくない。

「ああ、別に特別難しいわけではないと思うんだ。わたしを色んなところに連れていってほしいんだよ」

「・・・ほお」

 思ったよりライトな話だ。

「ここから出たいってこと?」

「ちょっと意味合いが違うかな?出たいとかではなく、出ていかないといけないが近い」

 確かに多少違うけど、その目的そのものの意味が分からない。

「わたしはこの森に捨てられていたんだ」

 おっと。いきなり重い話に入ったぞ。

「どういう理由でこうなっているか分からない。親が誰で、どうしてここに捨てられなければいけなかったのか、分からない。だから、それを探したいんだ」

 物事には確かに理由はある。

 だけど、親が子供を捨てる理由なんか、どんな内容であっても許されることじゃあない。

 それがどういう思いで駆り立てるのかは分からないけど、ヴェロニカなりに知りたいんだろう。

 もっとも、今の段階ではろくな未来は見えないが・・・

「わたしにできることは限られる。わたしは知りたい。だから、助けてほしい」

 ヴェロニカなりの葛藤があっただろう。

 目元に涙がたまってきている。我慢しているのは分かる。

「まあ、一度は了承した話だしな」

 こっちも生きなければいけないわけで。

「手伝うよ」

 何より、赤ん坊を放ってどこか行くっていうのも、人としてどうかと思うしなぁ。

 というか、放っておけない気が強い。

 頭で考えるとか、倫理的な観点とか、そういうことではなく、例えば心がそう感じてるとか、そういう風な感じで。

 ヴェロニカには、そういう雰囲気がある。

「じゃあ、明日から動き出そう。今日はもう日が暮れてきてしまった」

 いつの間にか、夕焼け空になっていた。

 というか、時間の経過など気にしていなかった。それくらい余裕がなかったんだろう。

「明日からよろしく、キリ」

「ああ、こっちこそよろしく。ヴェロニカ」


 ・・・とりあえず、酷いことにはならなさそう。

 少なくとも今の段階では。


 それにしても、気になることがちらほら。


 そもそも、ヴェロニカの話は本当なのか?

 仮に本当だとして、ヴェロニカにも親がいるわけで、その親は何で彼女を捨てたのか?

 捨てるにしても、何故この森だったのか?


 ヴェロニカ本人の謎も解決しきれていない。


 中身が本当に十八歳だとして、何で赤ん坊で成長が止まっているのか?

 なんで生まれた時から知識があって魔法が使えたのか?


 それはまあ、これから先の旅で分かるんだろう。


 ヴェロニカ本人は悪い人物ではなさそうだ。

 しばらくは様子見というか、彼女に付き合ってみよう。

 ・・・そうしないと生きられないという現実はとりあえず置いておいて。

 

 こうして、俺とヴェロニカの不思議な関係が始まったのだった。

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