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「お疲れ様した。奥へお進みください。寛げるスペースを用意しています」
グリーンコアトルを討伐した俺たちは、ガーベラ陣営の拠点に戻った。
オニキスの部下で、ドッシュを預かってくれた人が出迎えてくれて、奥に通された。
赤い布のタープで屋根を作って、その下に敷かれた豪華なラグ。
蝋燭ランタンを五つ、タープ設営で張ったロープと地面に置いて照明としている。
ちょっとした豪華なデイキャン、もしくはグランピング施設の一画みたいな感じだ。
俺が自分の道具で設営した空間より、おもてなし感は出ている。
・・・こんなところ、こんな状況下でおもてなしは必要ないような気もするが、まあ、悪い気はしない。
とりあえずゆっくりさせてもらおう。
「とりあえず、と」
装備を外して靴を脱いで、ラグに上がらせてもらう。
「ふう」
腰を下ろして一息つくと、緊張感がドッと抜けていった。
こうなったらコーヒーの一杯くらいは欲しい。今から焚火でもして準備するか?
「キリヤ殿、一杯いかがですか?」
ドッシュを預かってくれた部下の人がティーセットを持ってきた。
「おっ、いいねえ」
「準備致します」
トレーをラグに卸して、ポットの飲み物をカップに注ぐ。
「これってお茶かい?」
「はい」
コーヒーだと思い込んでいたが、それにしてはやけに色が薄いなと思った。
「とても良い茶葉が手に入ったもので、持参させていただいたのです」
「ほう」
この人の趣味だったのか。
ある程度自由に装備品とか所持品を決められるようだな。この人もオニキスと一緒で、一種の組織の人間なわけだし、ある程度決まっているもんだと思っていたから、意外と言えば意外だが・・・
「どうぞ」
「ありがとう」
カップを受け取った。
「おっ・・・」
香りが違う。
ふわっと香る爽やかな花・・・日本で手に入るお茶のそれとはちょっと違う。
「・・・うまっ」
花のお茶ってことはジャスミン茶とかがそれっぽいかもしれないが、味は違う。
なんというか、日本茶とかウーロン茶とかじゃなく、ハーブティーがそれっぽいか。
味わいもクセがないし、香りも爽やか系。万人受けしそうなお茶なんじゃないか?
「お口に合うようでよかったです」
「こいつは何ていうお茶なんだ?」
「こちらはベイリ茶とチコの花の花弁を混ぜたブレンドティーです」
ベイリ茶ってのがベースのお茶か。それに花びらを混ぜたブレンドティー・・・
こっちのお茶もなかなかやりますな!
「待たせたな」
オニキスがやってきた。
「別に待ってたわけじゃないけどな」
「そう言うなよ」
「はっはっは。んで?」
「本命はこっちか?」
オニキスの後を追ってやってきたのは、
「お疲れ様」
リオーネだ。
「結局、こっちに来てよかったのか?」
マーガレット陣営もガーベラ陣営と同じようにキャンプ地を設けていて、ここから離れたところに設置しているらしい。
本来ならリオーネもそっちに帰るほうがいいわけだが、
「いいのよ」
リオーネも靴を脱いでラグに上がって、
「あんな姑息な手段を使って政権を取ろうなんていう人に力を貸すなんて馬鹿らしいでしょ」
ガーベラ陣営に戻るまでに情報を共有した。
リオーネは討伐寸前のガノダウラスを準備していたことを知らなかったらしく、その汚いやり口に嫌気が差した。
その結果、マーガレット陣営からガーベラ陣営に鞍替えした・・・ということになる。
そりゃあまあ、立場が一緒だった場合、俺だってバカバカしいと思う。
ガーベラ陣営について戦うかどうかってのは一旦置いておくとして、そんな連中と付き合う気なんか起きない。
そうなったら戦線離脱・・・ってのが妥当な選択肢だろう。俺だってそうする。
離脱するだけじゃなく、こっちについてくれるってのはありがたい話だ。
まあ、元々ガーベラさんが参加要請していたこともあるし、そういう意味では参加のハードルは低いだろうが、リオーネの立場からすると複雑だってことは変わりない。
それでも、うちに参加してくれるってのは助かる。できる人間は一人でも多いほうがいいし、戦力は喉から手が出るほど欲しい。
それに、
「そういえば、随分と火力が上がったなぁ」
グリーンコアトルに止めを刺したあの一発・・・かなりの火力だったはずだ。
「二人がだいぶダメージを与えてくれていたでしょう?」
「そりゃあまあ、そうだろうが」
「魔力もそれなりに溜めてたし、たまたま上手くいっただけよ」
俺の攻撃は大したもんじゃなかったが、オニキスはかなりのダメージを与えていた。それに加えてマイコ―たちが加えたダメージもある。
それなりの攻撃を加えていたのは間違いないが、しっかりしたダメージを与えられたのもまた事実。
謙遜することじゃあないけどなぁ。
「まあ、何はともあれだ」
オニキスはラグに上がらず立ったまま、
「当初の目的は達成できた。豪華なおまけも付いている。今日はこのままゆったりしてくれ」
ガノダウラスの討伐と強奪。
乱入してきたグリーンコアトルの討伐。
事実上、大型モンスターを二頭討伐できたことになるわけだし、狩猟祭の成果としてはかなり大きい。
体力も削れているし、日も落ちてきている。これ以上の活動は慣れた人間じゃないと難しいし、命取りになりかねない。
ここは体力の回復を優先するほうがいいだろう。
「オニキスはどうするんだ?もう一働きしにいきそうな感じだけど」
「連中の動向が気になる。少しだけ偵察に出る」
やっぱり警戒しておくに越したことはないか。
連中はガノダウラスで大きくポイントを取りに行く予定だったわけだが、かっさらわれた今、別の獲物を準備する必要がある。
だが、大型モンスターを狩るってのはなかなか難しい。
幸い、人員だけは揃っているわけだし、人海戦術を展開すれば芽は出るかもしれないが、グリーンコアトルで総崩れになっていたところを見ると、投入できる人員もそう多くはないだろう。
タダ働きで儲けようって腹の連中に、挽回してやろうって奮い立つような気骨のあるヤツなんていないはず・・・
それでもまだ可能性があるとするなら、
「うちの実家とか、他の家の人たちなら動くかもしれないけどね・・・」
そう、ベネット家のような貴族たちが動く可能性はある。
俺も懸念したのはそこだ。
貴族たちは女王に気に入られたい。待遇が変わることを考慮するからだ。
大きな手土産を準備できれば、それだけ待遇は良くなる。
大型モンスターを一頭でも準備できれば、狩猟祭も有利になる。女王の座をキープできたなら、褒美も出てくる。そうなれば家も安泰になる。
何が何でも狩猟したいと思うだろう。多少の無茶は覚悟の上で、だ。
「まあ、何をしようと連中の自由だ。俺たちが付き合う必要はない」
夜中に狩りに出ようがどうしようが、行くヤツの勝手。夜中の狩猟なんて危険度が上がるだけだし、日中に動いていたなら集中力も下がるからパフォーマンスも悪くなるはず。良い結果は出にくいと思う。
他所は他所、うちはうち。これがベストな考え方だろう。
「だが、どんなモンスターを狩るのかどうかくらいは把握しておきたいだろう?」
「そりゃまあ、そうだな」
大なり小なり狩猟祭に影響はあるはず。
連中が夜中に狩猟に出て、仮に大型モンスターを狩った場合、いくらかは追いつかれてしまう。何を狩るかどうかだけでも把握しておきたい。
「それじゃあ、俺は出る。あっちの対応は任せるぞ」
オニキスが指差すほうに、
「キリさんのほうが早かったか~」
「あら、リオーネさん」
「あっ、テメェ!!」
「何でこっちにいるんだ?」
見慣れた連中が見える。
なるほど、あっちの対応ってのはリオーネのことだけじゃなく、今日の作戦のことも共有しておけってことかい。
「なんだか、いつもの日常って感じね」
「・・・まあ、そうかもな」
うるさいヤツを宥めるのも日常ってのはいただけないけどなぁ・・・




