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「どういうことだ・・・一体何が起きた!?」
今まで俺たちの近くにいたガノダウラスが忽然と姿を消した。
恐竜を押さえていた幾つものバインドも、急に対象がいなくなったから勢いよく地面を叩いた。
ここにいる誰もが目を疑うような状況・・・
いきなりモンスターがいなくなる・・・まるで手品みたいに。
「貴様・・・一体何をした!!」
現場監督を含めた、周りの連中も武器を抜く。
「驚いたろ?」
俺も若干驚きはしたが、
「あそこ見てみ」
奥を指差すと、マーガレット陣営全員の視線がそっちに集中する。
そこに何があるのか?
変哲もない風景だ。これまで走り回ってきて、ガノダウラスがメチャクチャにした森林がそこにあるだけ。
だが、その風景の一部にノイズが走る。
まるでモニターがそこにあるかのような。
ノイズが少しずつ無くなっていく。
そこに、
「さすがだな、キリヤ。イイ仕事をしてくれた」
そこにナイフとパスポートを手にした男がいる。
オニキスだ。
「バカな・・・ウィンチェスターだと!?」
さすがの現場監督も驚きを隠せないらしい。
「どこにいやがった!?」
「さっきからずっと居たろう?」
「居た、なぁ・・・」
オニキスはここにいた。
いつからかは分からない。
恐らく、俺が大立ち回りを演じている隙にガノダウラスに接近していたんだろう。
「ふぅ。気を張っていたから疲れたぞ」
「それだけで済む話か?」
この男は誰にも知られずに大勢の人間の中を掻い潜り、ガノダウラスに接近。
そして、
「これ一本で仕留めるのも難しいんだぞ?」
ナイフで仕留めた・・・ということらしい。
「どうやってそんなことを・・・!」
「それはまあ、企業秘密ってやつだ」
スキルの力だってことは明白だ。
さっきの風景に同化するような能力・・・人間離れし過ぎている。いや、人間離れどころか、人間じゃない力だ。
問題はどのスキルを使えばそういうことができるのかってところだが、それは今解決することじゃない。
『あの男、スキルを上手く使いこなせているのである』
「・・・ああ」
オニキスがいることに気付いた理由は二つ。
一つ目はガノダウラスのリアクション。
始めは抑えつけられているから、もがいているもんだと思っていた。
だが、次第にリアクションが強くなっていっていた。もがいてもそういう風に声を出すこともあるだろうが、そういう場合は気合を入れて力を振り絞って出るほうだろう。
最終的には痛々しい印象だった。そりゃあ、ナイフを突き入れられちゃあそういう風になるのが当然だろうし、妥当だとも言える。
二つ目はバードアイでの目視。
途中、おかしいと思ってガノダウラスの周囲を確認したら、オニキスの姿が見えた。
それで来てくれていたし、作戦を実行しているってことも分かったわけだが、バードアイを解除した途端見えなくなった。
それに関してはオニキスの何らかのスキルの影響なんだが、バードアイはそれすら超えて見ることができるらしい。
バードアイで目視するまで、オニキスの存在に気付かなかった。
本当にスキルを上手く使いこなしている。
恐らく、この場にいる誰よりも。
『小僧もそうなってほしいものだがな』
うるせぇよ。余計な時にだけ喋ってくるんじゃないよ。
「とまあ、そういうわけだ」
オニキスはパスポートを装備のポーチに収納して、
「こいつは俺の成果としてもらっていく」
あとはガノダウラス討伐を報告すればミッションクリア。
大量のポイントと、強力な実績を打ち立てられる。
「ふざけるな!!」
とまあ、認めないヤツってのは当然出てくるわけで・・・
「我々が大量の人員を投入して討伐寸前までこぎ着けた獲物だぞ!!貴様ごときにくれてやる道理などないわ!!」
「くれてやるもなにも、最終的に討伐したのは俺だぞ?」
九割以上のダメージをマーガレット陣営が与えて、残ったほんの少しのダメージをオニキスがかっさらう・・・そりゃあ、面白くはないわなぁ。
辺りに散らばった矢の量も尋常じゃない。弓兵も相当数を投入している。
周りには傷ついて倒れている戦士系ジョブの連中もいるし、杖を持った魔術師系の連中もいる。体力と魔力が尽きた証拠だ。
俺を追っかけ回していた連中は警戒のために残していた戦力・・・もしくは体力と魔力が戻って動き回れるようになった戦力かのどっちかだろう。
それをたった一人にかっさらわれて、面白いと思うやつはそういない。
「キリヤ、それは違うぞ」
オニキスはナイフを持った左手で小さく指を振って、
「お前と二人だ。俺一人でやったわけじゃない」
「・・・そうかい」
そう言ってくれると苦労した甲斐があったって思える。
「黙れ!!貴様ら、生きて帰れると思うなよ!!」
マーガレット陣営の連中が、俺たちを包囲しに掛かる・・・!
「生きて帰るだろう?成果を報告せにゃあならん」
「させるか!!」
「するさ。お前らのルールを無視した行動も見過ごせん。全て持ち帰って報告する」
オニキスの立場上、恐らくこいつらを報告して締め上げなきゃならないだろう。
連中は俺たちを行かせるつもりはない。
こりゃあ、全面戦争だな・・・
「二対複数じゃ分が悪すぎるだろ・・・」
正面から戦ったらまず負ける。連中のほうが明らかに数は多いし、体力勝負になったら普通に負ける。
オニキスに数を無視できるくらいの必殺技でもありゃあいいんだが、
「分が悪いのは確かだな」
・・・ということらしいから、一人で一斉に複数のビームをぶっ放せるようなスキルはない、と。
俺もここに来るまでに結構動かされたから、体力に不安がないわけじゃあない。
『単純に逃げるだけになるか。不本意だが』
不本意だろうが何だろうが、命あっての物種ってやつだ。くたばったって何も得られない。
『む・・・待て』
アポロが何かに気付いた・・・?
『どうした?』
『・・・早く離脱したほうが良いだろう』
俺もずーっとそう思ってんだけど、なかなか周りが許してくれなくてねぇ。
さっきからバカな連中の殺気を浴びてイイ気分じゃあないしな。
『そういうことではない。目を使え』
バードアイ・・・?
一触即発のこの状況で周辺を確認したとて・・・
「・・・なんじゃあ、ありゃあ・・・」
ズンッ!!
「なっ、何だ!?」
連中も気付くくらい、しっかりした揺れ・・・
まるでガノダウラスが歩いているような・・・
「・・・おお、まさかこいつまで出てくるとはな・・・」
オニキスも驚くその存在。
「カアアアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!」
緑の翼を持つ、ドデカいモンスター・・・!!!




