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「・・・マジか」
「お前さんなら余裕だろ?」
「・・・うーん」
「頼むぞ。俺は先行する」
オニキスが静かに立ち上がって、先に進んでいった。
木と木の間をすり抜けていく。ありゃあ、まるで蛇だな。
「・・・まあ、やりますかね」
今回の相方はもう先に進んでるし、今更引くに引けないところまで足を突っ込んでしまってる。
無茶な作戦でもやらなきゃならんってところがキツイところだが、とりあえずやるだけやってみますかね。
『小僧』
「・・・アイオロスか」
精神世界以来だな。
それにしても、
「小僧とは酷くないか?」
『貴様など小僧で十分だ』
「・・・まあ、別にいいけど」
呼び方が気に入らないけど、大して何も思うことはないな。
元々、そんなに仲良くはないから、心底どうでもいいのかもしれない。
「で、何の用だ?」
『話の流れは把握している。敵対組織が捕獲しているガノダウラスをこちらで討伐し、強奪するのだな?」
「よく知ってるねぇ」
『俺は確かに大型モンスターを狩れと言ったが、このようなやり方での討伐は論外だ。自らの力で狩らねば意味はない』
「・・・まあ、そりゃそうだろうなぁ」
想定内の話ではある。
アイオロスは俺の力を見定めようとしている。
ある意味、自分の力で討伐するより、誰かがあと一歩のところまで弱らせた個体を強奪するほうがハードルが高いように思えるけど、神様連中には関係のない話・・・
俺の実力を見極めるなら、真っ向から立ち向かわないと意味がないってことだ。
『少年』
今度はアポロか・・・
頭の中に二人いるみたいな感じ・・・こっちのほうが思うところはあるけどなぁ。
『世話になっている政治家に肩入れするのも良いが、本来の目的を忘れるな』
「ああ、分かってる」
目的の達成条件にはならなくても、自分自身のスキルアップのためにやる。
これから挑む強奪作戦はそこが目的なわけだし、自分がやらなきゃいけないことの一つや二つ、忘れちゃいない。
「さあ、気を取り直して」
出鼻をくじかれる・・・ってまではいかないにしても、やることやりに行きますか!
俺も茂みから出て、ガノダウラスを目指す。
まずはシンプルに接近する。
攻撃を当てないと獲物を回収する権利を得られない以上、攻撃を当てる必要がある。
狩人なら弓を使って物理攻撃を入れられるが、俺は弓すら持っていないし、使った試しもない。一応、風と水魔法を使えば遠距離攻撃をすることはできるが、威力が微妙だろうし、俺自身も自信があるわけじゃない。
とにかく、今は鞭が届くくらいまで接近しないといけない。
となりゃあ、安全に接近する手段が必要になる。
安全に侵入するのに必要な物が一つある。
「・・・いた」
進んでいくとうろうろしている兵士が見えた。
念のためバードアイで周辺を確認してみると、もう二人いた。
これは三人一組で周辺警戒をしてる途中ってところだな。
こいつらを使わせてもらおう。
見つかるような道を選んで、
「あっ、そこのお前!」
見事みつかる、と。
まあ、予定どおりだけども。
「あー、ようやっと誰か見つけたわ」
ここで重要なのは何も知らないを装うこと。
「あんたら、マーガレット陣営かい?」
「あ?ああ、おう」
「ちょうどよかった。寝坊して合流に遅れちまってね」
なんていう適当な話をしておく。
「あ、おお・・・そうか」
嘘っぽい話だが、ワンチャン信じてくれればそれでいい。
最悪戦うことも想定してはいるが、
「お?誰だ、そいつ?」
三人が揃った。
「うちの陣営についてるやつらしくてよ」
「寝坊か」
「まあね」
俺は割と真面目にやってるけどな。
「なら腕章ももらってないんじゃねぇの?」
そう、それだ!
こっち側の人間だってことを証明できる腕章が欲しい。
それさえあれば大体のヤツを誤魔化せる。
「一応、予備があるからこれを持ってくか?」
うち一人が装備のポーチから白い腕章を出した。
「ああ、助かる」
「ほらよ」
それを受け取って左腕に通した。
これで第一目標クリア・・・
こいつら、怪しむってことを知らなくて助かるわ。
俺だったら怪しむけど。
「この辺で狩ってるのかい?」
世間話を装った情報収集でもしておくか。
「・・・お前、本当にマーガレット側か?」
・・・おや?