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「あれか・・・」
指定ポイントまでドッシュを走らせること一時間くらい。
大勢が集まっている場所が見えた。
たくさんの騎獣と荷車。それらに積まれた大量の物資。
戦闘職、非戦闘職関わらず行き交う連中。
所々に揚げられたガーベラさんの家紋が入れられた赤い旗。
間違いなくここがガーベラ陣営のキャンプ地だ。
ここでオニキスと待ち合わせをしていて、ヴェロニカたちとの合流地点にもしていた。
ここを合流地点にしたのは他にも理由があるんだが、今はまあいいだろう。
「止まれ!」
槍を持った兵士に止められた。
「どこの陣営の者だ?」
「あんたらの総大将に協力してるモンだよ。ほら」
オニキスから腕章をもらっていた。
所謂身分証みたいなもんだ。
大勢の人間が参加しているから、どこの誰だか分からなくなる。パッと見で分かりやすいのが腕章だろう。
あまり認知度の低い遊びではあるけど、サバイバルゲームなんかでもチーム分けで使われるし、こういうのも異世界であっても共通認識なのかもな。
「おお、確かに」
すんなり通してくれる、と。
これってあくまでも表面的なモンだから、中身までは分からないと思うんだけど、そこまでは考えてないのか・・・?
まあ、それは一旦いいだろう。
「オニキスはどこだい?」
こっちはこっちの仕事をしないとな。
「オニキス様は北西に向かったが・・・」
あの男、様付けされてるのか・・・
その辺に違和感はないが、やっぱお偉いさんなんだな・・・
いや、それはどうでもいい。
あの男、俺をほったらかしにしておいて先行してるのか。
当てもなくバードアイで探すのも苦労するんだけどなぁ。
「あなたがキリヤ様ですか?」
奥から黒い装束を着用している人がやってきた。
頭巾をかぶっているから性別が微妙に分からない。
「あんたは?」
すらっとしているし、線も細め、声色も中性っぽい。そういう性質の男も女もいそうだし、判断が難しい。
「オニキス様にキリヤ様の案内と、騎獣の保護を命じられている者です」
エルフであることは間違いない。耳が尖ってる。
腕章も赤を着用しているからガーベラさん側の人間だろう。もしかするとオニキス直轄の部下なのかもしれないな。
「あー、なるほどな」
なるほど・・・この人を案内人として残してるから先行したのか。
もうちょい何か言ってくれてもいいと思うんだけどなぁ。
「ま、了解だ。早速行くか」
「はい、こちらです」
この人も隠密か何かか・・・?
特に紹介もないから分からんな。
「参りましょう」
奥から騎獣を連れて戻ってきた。
ドードとは別の種類の騎獣だ。ドードがダチョウとトカゲを合わせたような見た目をしているのに対して、こっちは鹿っぽい見た目をしている。
日本にいるのとちょっと違うのは、角が上に向かって伸びてるんじゃなくて、下に垂れるように伸びているところか。
こっちの土地はこういう騎獣が多いのか?
「よし、行くか!」
「はい」
互いの騎獣に乗った俺たちはキャンプ地を飛び出した。
「そちらの騎獣、よく走りますね」
遣いの人の鹿も軽快に走ってる。走り方は鹿にそっくりだ。
ドッシュはダチョウに体型が近いから、軽快っていうよりもどっしり走ってるイメージか。こっちのほうが安定感はありそうだが、鹿のほうはどうなんだろう?
「こっちじゃあドッシュは使ってないのか?」
「シルフィ界隈では見かけない種類です。ボルドウィン界隈では当たり前なのでしょうか?」
「育てるのが難しいって話で、業者も四苦八苦してるって話だぞ?」
シルフィ特有の種類か。それなら納得だ。
その土地に合った生物がいるのは当たり前だし、それを使うのもまた道理。
まあ、ドッシュはシルフィの環境に対して困っているような様子も見せてないし、あまり関係ない可能性もあるが、そうなってくるとお互いの生物がお互いの生活区域にいないって話で落ち着きそうだ。
それはまあいいだろう。問題は、
「オニキスは結構先に行ってるのか?」
とにかく合流を急がないといけないってところだ。
「いえ、そこまで差は開いていないのではないかと。思ったよりもあなたが現れるのが早かった印象ですし」
「なら、追いつけるか」
そこまで急ぐ必要があるかどうかが微妙なラインだが、いつでも倒せる状態の獲物をかっさらいに行くんだ。
連中も油断してる可能性はある。事を起こすなら早いほうがいいはずだ。
「もう少し先でオニキス様がいらっしゃるはずです」
ドッシュで走って更に三十分くらい。
例のガノダウラスがいる場所まで、歩いて一時間圏内ってところか・・・?
気付かれたら話にならないし、遠くてもこっちが消耗するだけ。こういう塩梅は難しいよなぁ。
「この辺りで降りて、歩いて合流地点を目指してください。ドッシュをお預かりします」
ここからは歩きか・・・しんどいな。
「連れて戻ってくれるのか?」
こんなところで放っておくわけにもいかない。購入していたならまだしも、レンタルだし、何かあったら弁償だもんなぁ。買っておけばよかったかなぁ。
「いえ、自分はこの辺りで待機する手はずになっています」
「・・・なるほど。離脱の足か」
「おっしゃるとおりです」
ガノダウラスを討伐、回収が終わったらトンズラをかますってシナリオだ。
連中もバカじゃないだろう。強奪されたら奪い返しに来るはず。
俺たちは追手から逃げなきゃいけない。その足は当然必要。
ドッシュや鹿型を使って、可能な限り高速で離脱して、首都に戻って報告できるようにしておかないとやる意味がない。
この人はその役割ってことだな。
「この辺りから歩きでお願いします」
「ん」
ドッシュを止めて、飛び降りる。
「少ししたら戻る。あの人と待っててくんな」
「ギャ!」
こいつ、言葉が分かるようになってきてるのか?リアクションが的確なんだけど。
それはまあ・・・一旦置いとくか。
「じゃ、こいつを頼む」
「かしこまりました。ご武運を」
とりあえず行くか。
バードアイでオニキスを探して、
「あそこか」
見つけた。
歩いて十分くらいの、木が密集してるところだ。
程良く茂ってるから身を隠すのにちょうどいい。
「来たか」
ちょっとランニングする程度で接近して、
「待たせたな」
木の陰に隠れる。
「すぐにでも出るが、いけるか?」
「早速すぎるだろ」
「時間が惜しいって言ったろ?」
「ま、確かに」
ちょいとピリついてるな・・・
重要な作戦だってのは間違いないからな。当然と言えば当然だが、この人も緊張とかするんだなぁ。
「体力的には問題ない。どうやって進む?」
「説明する」
ガノダウラス強奪作戦・・・とでも言えばいいのか?
早速始めますか。