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「うっしゃあ!!早速行こうぜ!!」
「チョトマテチョトマテ」
狩猟祭の火ぶたが切って落とされた。
飛び出していきそうなジェシカをとりあえず抑えて、
「何でだよ!」
「ちょいと用事ができた」
「はぁ!?」
ここまで気合が入ってるとは・・・よっぽどマーガレットが嫌い・・・いや、こいつは単純に的を殴りたいだけか。
こいつは政治とかそんなもんどうでもいいよなぁ。知ってる気がする。
「焦って飛び出そうとしても、広場からなかなか出られない」
ジェシカと同じようなタイプの連中が、我先にと広場から飛び出していっている。
だが、六方向にある出入口で渋滞が起こっていた。
通路はそこまで広くないし、数百人規模の連中が通るのも限界がある。
今から走ったところで、結局その渋滞に掴まるだけだ。だったら用事も済ませつつ、他の連中の様子も見ておくのも悪くない。
「みんなは騎獣に乗って待機していてくれ」
「お前はどうするんだよ?」
「ちょっと呼ばれたから行ってくる。すぐ戻る」
現場を離れて、オニキスとの待ち合わせ場所に向かう。
「ちょいとごめんよ」
狩猟に向かう連中をかき分けて広場を出た。
マップと照らし合わせてみたが、どうやら少し離れたところの裏路地らしい。
そこまで遠くないから、オニキスも狩猟祭に合わせて場所を選んだみたいだな。
「待ってたぞ」
指定場所にオニキスが待機していた。
「悪いね。で、何をするんだ?」
「話が早くて助かる」
「ウチにはやる気があり過ぎて鼻血が噴き出そうなヤツがいるからな。早めに出してやらにゃあならんのよ」
そのやる気をもっと別のほうに割いてくれたらいいんだが・・・
いや、昔と比べたらだいぶマシか。まだ話を聞くようになったし。
「じゃあ早速説明する。狩猟エリアが分かる地図はあるか?」
「ああ」
マップポーチを開くと、
「この辺りで問題がある連中がいてな」
オニキスが北西の森の辺りを指差した。
「問題のある連中・・・?」
「ああ、ここを制圧したい」
ってことは対人関係か?
ってか、制圧って言った?
「おいおい、俺はあくまでもモンスター専門だぞ?いや、別に専門でもないけど」
どっちかっていうと、そういうのはやめたい方向性でいきたいんだが。
「話は最後まで聞け」
「ホント勘弁してくださいよォ旦那。俺まで巻き込むの」
「何のキャラだ、それは」
こほん、と小さく咳払いをしたオニキスが、
「ここに大型モンスターを捕縛している連中がいるんだ」
「・・・は?」
モンスターを捕縛している・・・?
「え?なに?ドユコト?」
「今言ったとおり、大型モンスターを捕縛して待機している連中がいるんだ。相当弱らせたガノダウラスでな」
「チョトマテチョトマテ・・・もうそんな段階まで状況が進んでるのか?」
狩猟祭はさっき始まったばっかだぞ?まだ始まって十数分くらいだろ。
そんな短時間でガノダウラスを痛めつけることができるのか?
俺らだって大概時間掛かったんだぞ?
「よく考えろ。いくら何でも不可能だ。スタート開始直後はな」
どう考えたって十数分でガノダウラスを倒せない。
倒すどころか、生息域に行くまでに時間が掛かる。
ってことはだぞ・・・?
「まさかとは思うけど、事前に準備してるってのかい?」
オニキスは指をピシッと鳴らして、
「ご名答」
おいおい、マジかよ・・・
そんなんアリか?
「狩猟期間中に倒したヤツだけがポイントになるんだろ?」
「だから、あとちょっとで倒せるギリギリのところまで削って捕縛しているんだ」
・・・そういうことか。
事前にガノダウラスを見つけて交戦して、くたばる一歩手前まで削って捕縛する。
捕縛したら、当日に倒して報告すればポイントになる。
「しょうもないクズ手使いやがって・・・」
事前に動いていることに議論は必要だろうが、事実上倒してはいないわけだから、ルール的にも問題はない・・・とも言える。
それアリなら俺らもそうしてるっつーのに・・・いや、ちょい無理があったか。
相手にもよるけど、捕縛方法に限界がある。それに準備もそれなりに必要だしな・・・
それはそれとして、しょうもない手であることは間違いない。
「どこの連中だよ、そんなしょうもないことしてんのは」
「想像も容易いだろう?」
「・・・そういうこともすんのかい」
マーガレット一派か・・・
女王自身が指示しているのか、それとも他の連中がしているのかは知らないが、よっぽど王座にしがみつきたいらしいな。
正々堂々取り組む、国で指折りの大規模行事で不正に近いことをしているんだ。女王自身の指示なら、相当みっともない。
そんなみっともない真似するより、ダメならダメだったでサッと引いたほうが美しいと思うのは俺だけなのかね・・・?
もしくはマーガレットの支持者の差し金か?
貴族とか大臣とか・・・考えたくはないが、リオーネの実家っていう線もある。
自分たちの地位のためか、金のためか・・・何にせよ、国の未来を左右するレベルの行事で、不正に近い動きをすることを何とも思わないのか?
まあ、今はそんなことを論じる暇はないけど、何ともスッキリしない話だ。
「で、俺にそんな話を聞かせてどうするんだ?」
問題はそこだ。俺に何をさせようと?
「そういう手を使ってると知れば、邪魔したくもなるだろう?」
「・・・なるほど」
オニキスの提案は分かった。
連中が捕縛しているガノダウラスを俺たちが潰して、ポイントをかっさらう。
ガノダウラスでどんだけ高いポイントを得られるかは分からないが、大型モンスターなわけだし、相当期待できる。
これをかっさらうことができれば、結構デカい。
ただ、
「連中もそう簡単にやらせちゃくれないだろ?」
どんな連中が仕掛けているかは分からないが、それなりに頭を使ってしでかしていることだ。俺たちみたいに横から奪うことも想定しているはず。
それに対する対策も考えられていそうだが・・・
「もちろんそうだろうが、やれたら大きい。見逃してやるつもりもないしな」
どっちかっていうと、達成できた時に得られるポイントよりも、不正に対する報復のほうが大きそうだな、こりゃあ・・・
まあ、気持ちは分からんでもないし、連中の鼻を明かしてやりたいところもある。
「オッケー、乗った」
上手くいくかどうかは分からないが、上手くいった時の見返りはデカいし、連中の足並みを崩すこともできるかもしれない。
乗っておいてもいいだろう。
「よし、作戦を立てよう」